イマドキの独立第三者委員会(その3)
サッポロHDは、事前警告型買収防衛ルールの改訂版を次回定時総会(3月29日)に提案するとリリースしております。(2月15日付けリリース)最も大きな修正点は、これまでの防衛ルールでは独立委員会(いわゆる独立第三者委員会)が発動の可否など、対応に関する重要な意見を述べた場合には、これを取締役会は最大限尊重したうえで決定する、とされておりました。しかしながら、この改訂版によりますと、来る3月29日の定時株主総会におきまして、社外取締役を一人追加したうえで(つまり社外取締役は合計3名)、本対応方針に係る重要な判断を決定する取締役会決議を行う場合には、出席社外取締役のうち、3分の2以上の可決を要するもの、とされるようであります。つまり防衛策発動を是とする場合も、非とする場合にも、社外取締役の3分の2以上の同意を要することになるわけでして、サッポロHD社の説明によれば「これまで以上に防衛策の透明性を高めたもの」とのこと。(ただし、リリースによれば、すでに大量取得報告書を受領している件については、現行の防衛策ルールが適用される、との附則があるようです。また、これまでどおり、独立委員会の勧告を最大限尊重して決議する、との点も変更はないようです。)
もちろん、こういった防衛策改訂版は、そもそも社外取締役がおそらく3名以上程度は存在しなければ、成り立たない(といいますかリスクが大きい)ように思いますが、いっぽうで社外取締役の存在を、単なる社外の有識者の意見を経営に採り入れる、というだけの意味ではなく、一般株主の代弁者として位置づけているとするならば、3名(社外取締役、社外監査役、有識者)で構成される独立第三者委員会の存在価値はどこにあるのでしょうか?これまでよりも、ずいぶんと独立委員会の位置づけが後退しているようにも思えるのでありますが。アクティビストファンドからの突然の大量買付行為に備えて、当該ファンドが濫用的買収者であるかどうか、といった点だけを独立委員会が判断するのであればまだしも、先日の意見書にもありますように、アクティビストファンドか競業他社かにかかわらず、支配権移転が株主共同利益の向上に資するものかどうか、といった点を判断するのであれば、社外取締役の判断尊重の姿勢だけで十分であると考えられるのでありますが、いかがでしょうか。
また、サッポロHD社の「新経営構想」のなかでは、2008年から2009年へ向けての構想としては以下のとおり記述されております。
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ファンドや競業他社から買収を仕掛けられたときには、現経営陣として、これに賛同するかどうか、もしくは反対を表明して代替案を提示するか、ということを判断するために、買収防衛ルールをもって熟慮期間を設ける意味があるとは思うのでありますが、さて、自社が戦略的に他社を買収していく場面において、こういった防衛ルールの存在は足枷にならないのでしょうか?競争力を向上させるためには、どこの企業も戦略的にスピードを上げてM&Aを活用することも検討しているところではないかと思うのですが、他社の支配権を取得する際には、株主共同利益に資するかどうかを慎重に判断したり、他社側にも慎重な熟慮期間を設定したりする必要はないのでしょうか。(もちろん、友好的か敵対的かの違いはあるでしょうけど、必要な情報が揃った時点からでも最大90日間程度は熟慮期間がありますし)もちろん、友好的買収の場合には情報の偏在化もありませんし、他社を買収する場合には、「自社の支配権のあり方に関する基本方針」とは無関係だともいえそうでありますが、最終的には友好的買収であっても、交渉当初は敵対的な買収交渉、ということもありえるわけでして、そのような場合に自社への買収には厳格なルールを用意しながら、他社買収は事前警告型買収防衛ルールがない場合には、力づくで交渉する、ということにはどうも「公正な第三者」たる独立委員会の委員には納得できないようにも思われます。
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コメント
法律技術論に過度に依存するようなことでなく、実態面・本質面を議論できるような建てつけでなければ、社外取締役であろうとも、特別委であろうとも、その実態面の存在価値は同じであろうというのが感想です。
そういう意味では、「日常から」経営幹部に接している特別委・社外取締役の方は普段から、「これについてどう考えているのか」、「世間・アナリスト等の専門家ではこういう意見が多いが、検討したことがないのか。どちらが企業価値が向上するのか」、「彼らの米国での手法はどうなんだ。実際価値を毀損したのか」、「本当にこの赤字事業が回復するのか」、「この経営計画の見通しの前提条件は何だ、妥当性があるのか」「なぜ彼らのこの要求を拒否したのか?受け入れたほうが企業価値が向上する評価を得られないのか?」などの議論が出来ていれば、もっと「大規模買付行為者」に対し、しっかりした実質面の議論が出来るのだろうと感じます。
単に「これどう思いますか?」、「ダメでしょう」だと法的にあっていても茶番劇にしか見えません。検討過程を詳しく説明する義務があります。
個人的には実質論がしっかりしていれば、どちらでもいい、言い換えれば、社外取締役にしても責任限定であれば大して変わりはないし、結局法律技術論の問題にしてほしくないなという印象を持ちます。
それにしても、ライツ・プランの言う「大規模買付行為」というのは友好的な買収者でも同様のルールに従う必要性があるのでしょうか?サッポロの場合だと「株主に決めてもらうために、ディールを慎重に進める目的」 がこのプランの主旨であるとすれば、ホワイトナイトにも閉鎖的な情報で、限りなくコミットメントしたような添付書類を提出させるようなことになるのでしょうか? さらに投資ファンドは友好的買収者になりえないような今回の特別委のご意見も疑問を感じます。
Toshiさんおっしゃる、買収側もさることながら本来の防衛側においても足かせを感じました。
いずれにせよ、なんだか難しい理屈を並び立てて、構造を複雑化し、都合よく解釈が出来る現行システムは法的にはいざ知らず、実質面においてワークしていないという限界を感じます。
また、ワークしない実質面と法律のミゾを埋めるのは、やはり株主が議決権に目覚めることが特効薬でしょう。日本の機関投資家さんが鍵を握っていますね。
投稿: katsu | 2008年2月19日 (火) 00時37分
少し補足を
決してスティールの味方とかそういう視点で申し上げているのではなく、今後益々独立委員会というものに対する投資家の視線が厳しくなる(その時期が繰り上がった)という点、専守防衛のみの発想であるという点、経営者たちの都合でどうにでも転ぶM&A制度という点を言いたかったのです(あるときは不利な価格で取引を強行)。
投稿: katsu | 2008年2月19日 (火) 02時00分
katsuさん、コメントありがとうございます。
ご意見、たいへん勉強になります。たしかに専守防衛のみの発想と思いますし、ホワイトナイトを探すときに、株主への説明に苦慮しないだろうか、といった点も懸念されるところだと思います。しかし、普通の企業であれば、社外取締役を3名も導入することは困難だと思いますし、今後もこの独立委員会での判断というのは、一般的には多用されることになるんでしょうね。
今年、買収防衛策を自主的に廃止する企業は増えるのではないでしょうかね?(もちろん新たに導入する企業も増えるでしょうけど)その企業の経営戦略によって、導入したり、廃止したり、いろいろあっていいのではないかと思うのですが。管理費もばかにならないでしょうし。株式持合いや長期保有株主作りなど、他の政策もありうることでしょうし。
投稿: toshi | 2008年2月19日 (火) 14時54分
少し書きすぎました。
なんとなく「ないよりはまし」といった動機で導入を検討される企業もいらっしゃるのでライツプランの限界は広くいきわたっていると感じています。
スティールパートナーズが二言目にはROE8%以下の経営者はだらしがないような評価を企業年金連合会の言葉を借りて連発(ノーリツ・アデランス)しているので、彼らもサッポロ以外は本来のアクティビスト路線に切り替えつつあるのかなあと感じます。個人的には買収以上にアクティビストのほうが経営者に厄介だろうと推察したりします。株価下がっていますし。
投稿: katsu | 2008年2月20日 (水) 00時26分