« イマドキの独立第三者委員会(その3) | トップページ | 「公正ナル会計慣行」と長銀事件(その6) »

2008年2月19日 (火)

会計不正事件と「あぐりあぽん」

京都のある会計士さんから、「おもしろそうですよ」とお勧めいただきましたので、近畿公認会計士協同組合主催の公認会計士さん向けのセミナーに参加してまいりました。第一部は共同通信社の種村記者(「監査難民」の著者でいらっしゃる方)と、会計士さんとの「会計不正事件と法改正」をテーマとした座談会、第二部は大証の執行役員の方の「金融商品取引法と大阪証券取引所の対応」なる講演で構成されておりまして、どちらかといいますと第二部の聴講が主たる目的だったのですが、第一部もけっこう興味深いものでありました。(会計士協会のセミナーではなく、会計士協同組合のセミナーとして開催された意味が少しだけわかったような・・・・・(^^;  )

誰が何を語っていたか・・・といったご報告は、関係者の方々のご迷惑になりますので、とりあえず、どんな内容のお話に私が関心を抱いたか・・・という点だけを記述いたしますと、①会計士の保証業務と「あぐりあぽん」(Agreed upon procedures)、②日米メディアの監査制度に関する知識の差、③日米「上場廃止」に関する意識の差、④監査法人のインセンティブの「ねじれ」と監査役制度、⑤公認会計士法改正と課徴金制度、⑥会計士とゲートキーパー(通報制度)、⑦会計士協会と金融庁の関係、⑧会計士と「監査現場離れ」の問題、⑨米国PCAOBと日本のPCAAOB(公認会計士・監査審査会)との権限やスタッフの差などなど・・・、ほかにもいろんな話題で盛り上がっておりましたが、上記の話題は会計士さんの立場から、どのように考えられているのか、とても参考になりました。もちろん、保証業務と「合意された手続き」の関係は、いま会計士さん方のブログでもっともホットな(といいますか熱い)話題と関連したものであります。(弁護士としても、財務DDをあまりご存知なければ、保証業務以外の会計士さんの業務というものはあまり認識されていないのではないか、と思います。)

このたびのアイ・シー・エフの事件は、被疑事実や被疑者供述の内容が未だ不明でありますので、なんとも申し上げることはできませんが、会計士さん方のリスクに関わる問題としては、このたびの事件と離れて、一度きちんと「犯罪関与リスク」なるものを、法律専門家との会合などによって理解されたほうがいいのではないかなぁ・・・といった印象を(本日のセミナーに参加して)強くいたしました。「ここまで監督官庁に監視されて、まっとうに業務をこなしているにもかかわらず、なんで逮捕リスクにさらされるねん?」といった強い憤りを覚える会計士さん方もいらっしゃるとは思いますが、昨今の監査法人を取り巻く環境を考えますと、今後も同様のリスクにさらされる可能性は増えることはあっても、減ることはないように感じます。

たとえばひとつの例ではありますが、日興コーディアル不正会計事件の際、検察ご出身の方が委員長でありました社外独立調査委員会の調査手法は「仮説を立てて、その仮説が合理的に正しいかどうかを、仮説を基礎付ける事実をひとつひとつ、検証して積み上げる手法」というものでありました。あのときは、会計基準の適用の可否(ベルシステム24なる上場企業を支援するSPCに、果たしてVC条項が適用されるか否か)といった点では、議論が堂々巡りになってしまって、そこから仮説を基礎付けることは困難とされ、いわゆる「取引日時を遡らせる」という事実を決定的な裏づけ事実として活用されたように記憶しております。そこで、もし会計士の方が逮捕リスクを負う、という事態が考えられるとするならば、会計基準や監査基準の解釈などに関わる問題ではなく、もっと積極的に犯行に関わることを示す「基礎事実」のところで検証がなされる傾向が強いのではなかろうか、と思われます。このあたりは法律家のほうが詳しい分野かもしれませんし、事実分析の手法が法律家と会計士では異なることもありえますので、ある程度の相互理解が必要なのかもしれません。「粉飾決算被疑事件」の積み上げ方につきまして、むしろ経済事件の捜査にそれほど詳しくない「ヤメ検」の先生などと、勉強の機会を設けるようなことも、有意義ではないでしょうか。そこでは単に「経営者と距離を置くこと」がリスク回避ではない・・・といったことも認識できる場になるかもしれません。

|

« イマドキの独立第三者委員会(その3) | トップページ | 「公正ナル会計慣行」と長銀事件(その6) »

コメント

先生ご指摘の「会計基準や監査基準の解釈などに関わる問題ではなく、もっと積極的に犯行に関わることを示す「基礎事実」のところで検証がなされる傾向が強いのではなかろうか、と思われます」というところこそ、
これからの会計士の方々が自分を守るためにも、必須なテーマであると思います。これに絞ってセミナーを開催していただくかか、研究した論文などが勉強させていただきたいと切望しております。

先日より、会計士関連の訴訟に関する書籍が多いことから、それらを読みながら、「積極的に犯行に関わることを示す「基礎事実」のところで検証」がいったいどういう風に検察のほうでなされているのかについて考えているのですが、いまいちはかどらないので・・・。

この問題のニーズは大きいと思いますが。

投稿: 30代の会計大学院生 | 2008年2月19日 (火) 22時14分

>会計大学院生さん

コメントありがとうございます。私も真剣に、会計士さん方のリスクマネジメントのひとつとして、捜査そのものというよりも、「刑事事件の立件」とはどのような組み立てのうえに成り立つのか、といった裁判の仕組み自体を学ばれるのがよろしいのではないかと考えております。
有名な「特捜検察vs公認会計士」を拝読いたしましたが、著者は、検察どころか、自身の味方である弁護人の闘い方にも理解が不足しているようにお見受けいたしました。こういったところからみて、法曹と会計士さんとの、フランクな勉強会はとても効果があるように考えております。

しかし、例のCFEの事件については、まったくと言っていいほど追加ニュースが流れてきませんね。さすが府警4課ですね。

投稿: toshi | 2008年2月21日 (木) 02時22分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 会計不正事件と「あぐりあぽん」:

« イマドキの独立第三者委員会(その3) | トップページ | 「公正ナル会計慣行」と長銀事件(その6) »