監査役の役割と監査行動
日本監査役協会主催の研修セミナーにて、関西支部2回、中部支部1回の講師を務めさせていただきました。本日名古屋での最終のセミナーも終了いたしましたが、関西、中部合わせて延べ750社ほどの監査役の方々に聴講いただき、また遠方より多数ご参集いただきましたこと、厚く御礼申し上げます。(しかし東京本部では2000社を超えるらしいですね。)今回は「金融商品取引法上の内部統制報告制度と監査役制度」といった、まさに金商法と会社法の「狭間」の問題だけに、かなり私見も入りましたが、自社でのご議論、ご活用の端緒になれば幸いであります。
さて、今回のセミナー講演にあたり、昨年改正されました「監査役監査基準」(日本監査役協会)の全体像を的確に捉えておきたいと思いまして、長年日本監査役協会で常任理事をされておられた鈴木進一先生の「監査役の役割と監査行動」(商事法務)を拝読いたしました。監査役の理想像を追い求めるのではなく、基本に「現実の監査役の姿」を据えて、この金商法と会社法が交錯する時代の監査役の行動指針を提案するものとして、読み応えのある一冊であります。会社法(および規則)の条文の引用等はほとんどございませんが、監査役の皆様方が、監査役監査基準の指針を基本として、どのように行動すべきか、たいへん参考になるものと思います。
この本の「監査役監査基準の逐条解説」のなかで、会社法および会社法規則への、とても興味深い問題提起(といいますか、ご感想)がございまして、会社法施行規則124条(社外役員を設けた株式会社の特則)が、現実の取締役会と監査役との関係にどのような影響を及ぼすか・・・といったあたりへの言及がとても新鮮であります。(ちなみに現在「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」が2月29日までパブコメ手続実施中であり、この124条も改正条文に含まれておりますが、今回のお話の点につきましては変更はございません)ご承知のとおり、社外役員を選任している株式会社(公開会社)の場合、事業報告の内容として、①社外役員の取締役会への出席状況、②取締役会での発言状況、③当該社外役員の意見によって会社の事業方針及び事業その他の事項に係る決定が変更された場合にはその内容(ただし重要でないものは除く)、④取締役の法令違反行為が発生した場合において、その予防のために行った行為や発生後の対応(の概要)などを記述する必要があるとされております。おそらくこういった規程の趣旨は、社外役員の活動内容を事業報告に記述することで、会社としての株主への説明責任を果たし、また間接的であるにせよ、社外役員の積極的な職務行動を促す意図があるものと理解しておりますが、この本の著者でいらっしゃる鈴木先生はこういった事項の開示について疑問を呈しておられるようであります。(なお、条文のうえでは「社外役員」とありますが、ここでは「社外監査役」に絞ってのお話であります)
1 社外監査役の取締役会への出席状況・・・・・会社と委任関係にあることとの関係でいかがなものか。社外監査役の発言状況・・・・・取締役会議事録の閲覧要件との関係で均衡を失するのではないか
私も同感であります。社外監査役の活動成績は「取締役会の出席状況」「発言状況」でははかれないものと思います。(もちろん取締役会への出席や意見陳述は会社法383条1項により法律上の義務とされているので、それをカウントする、発言を公表するというやり方もどうなんだろうか・・・とは思うのでありますが)たとえ取締役会に出席していなくても、重要な経営会議に出席していれば、監査役会を通じて監査役の意見形成に関与することは可能ですし、独任制としての監査活動にも影響はないものと思われますので、出席や発言の多少によって「委任の趣旨」に反するような事態にはならないと思われます。また、取締役会で発言することがなくても、経営会議や常務会で発言することで、そもそも取締役会への議案の上程が撤回されたり、修正案が上程される場合も頻繁にあるわけですから、取締役会での発言状況はなんら(期待するほどは)参考にはならないものと思料いたします。
2 予防のために行った行為や発生後の対応として行った行為の問題は、社外監査役の役割と捉えるよりも、まず執行役員(発生後の対応はとりわけ代表取締役)の問題として捉えるべきではないか
会社法上「執行役員」の位置付けが明確ではないので、執行役員の問題とすべきかどうかはわかりませんが、社外監査役が実際に「行動する」ということは、常勤監査役を飛び越えることにほかなりませんので、現実問題としては想定しにくいのではないかと思われます。たしかに「監査役会」の行動とは別に、社外監査役の行動というものの法的には期待されるところがあるかとは思いますが、そのような特別の機会が生じた場合には、おそらく「事業報告」を待つまでもなく、総会等において「個別の監査報告」のなかで説明されるところではないでしょうか。このあたりが現実論ではないかと。
3 取締役会での社外監査役の意見により、会社の事業方針その他の点で決議内容が変更されることはありえることだが、実際にそのようなことを開示するとなると、取締役が恥をかくような印象を持つことになるのではないか
もしこの規程を厳格に捉えて開示する、ということになりますと、ご指摘のとおりかと思われます。ただ、私見ではありますが、こういったことにならないよう、社外監査役が重要な決議内容に修正を与えるほどの意見を持っているのであれば、まず監査役会において協議をしたうえで、監査役会もしくは常勤監査役の意見として取締役会に提言することになるでしょうし、そもそも「決議変更」とはならないように、形の上では取締役会で意見形成がなされたうえで決議が行われた・・・とするのが、「大人の社外監査役」の姿ではないかな・・・・と思う次第であります。社外監査役が本気で決議修正を求める、という事態といいますのは、「あえて取締役に恥をかいてもらう」決意をもって臨むときだけである、と考えておりますが、いかがでしょうか。(以上のほか、まだまだ鈴木先生の傾聴に値するご意見が満載でありますが、とりあえずこのあたりで)
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