イマドキの独立第三者委員会(その2)
(2月6日午前 追記あります)
新聞等でも報道されておりますとおり、SPJSF(スティールパートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド 以下「SP」といいます)が昨年2月15日に買収提案を行っていた案件につきまして、サッポロHDの特別委員会の意見書が2月4日、サッポロHDの取締役会に提出されたようであります。( 「当社株券等の大規模買付行為への対応方針」に基づく特別委員会からの意見書受領について)ちなみに、この手続は「当社株券等の大規模買付行為への対応方針」に則ったものであります。
この特別委員会の意見書の内容につきましては、いろいろとご議論のあるところでしょうし、そもそも特別委員会がどの程度、防衛策の適法性に影響を及ぼすものであるかは未知数の部分が多いわけでありますが、先のルールによりますと、サッポロHDは取締役会としての対応を決定するにあたり「特別委員会の勧告を最大限尊重したうえで」判断することとなっております。「勧告」というからには、①防衛策を発動すべきである、②防衛策は発動すべきではない、③発動の是非については委員会としては結論が出なかったので、勧告は控える、の3つしか結論はないと考えられます。しかしながら、今回の意見書を読みますと、「(SPによる支配権取得は)株主共同利益を著しく毀損するおそれは大きい」といった意見のみであり、いわゆる「勧告」はどこにも見当たりません。これはなぜなんでしょうか?
以前イマドキの独立第三者委員会(1)でも記載しましたが、私が独立委員を務める会社の委員会(もちろん平時の委員会)が開催された折、独立委員会は「勧告」を行うにあたっては、防衛策が発動された場合の買付株主や既存株主の損害がどの程度か(つまり取締役会は発動にあたって金銭的補償行為を行うのかどうか)、あらかじめ知っておかないと、発動のインパクトがわからないために自分たちの損害賠償リスクが把握できないのではないか、といった議論がありました。独立委員会の活動が法的に意味がある、と考えるのであれば、それは逆に株主等からの損害賠償リスクも背負うということを意味するように思われます。こういったところで思い悩みますと、このサッポロHDの特別委員会のように、勧告はしないけど意見だけは表明するから、あとは取締役会で判断してください・・・と言いたくなるのも理解できそうであります。ただ、私はそもそも独立第三者委員会の正当性は(株主より1年の有効期限を付加されている)事前警告型防衛ルールにしか依拠していない存在でありますので(もちろん、裁判規範という視点からでの判断であり、機関投資家等による株主評価という視点では存在意義はあるものと考えております)、その権限は謙抑的に行使されるべきであり、粛々とルールに則ってその職責をまっとうすべきと考えております。したがって、濫用目的かどうかを判断せよ、というルールであればそのルールのとおり、また「勧告せよ」とあれば明確に勧告を行うのが独立第三者委員会の職務だと認識しております。
委員の方々は、やはり特別委員会がひょっとして背負わなければならないリスクに思いをはせて、「勧告」なる言葉を差し控えられたのでしょうか。でも、そうなりますと、取締役会としては「最大限尊重すべき」前提がなくなってしまうようにも思えますが・・・・・
(PS)こちらのニュースにおける特別委員会の委員長さんの記者会見内容によりますと、「防衛策発動要件については正当性は具備しているが、相当性は防衛策の中身次第だ」といった趣旨の発言をされておられるようです。なるほど、まだ取締役会特別委員会のほうでは、どういった防衛策となるのかは(判明していないので)わからない、ということかもしれませんね。つまり、現段階ではまだ「勧告」はできない、といった判断ではないかと思うのでありますが。(追記;このあたりの記述にはご異論のある方もいらっしゃるようですので、コメント欄をご覧ください)
(2月6日午前;追記)taka-mojitoさん、辰のお年ごさん、katsuさん、コメントありがとうございます。批判されるかもしれませんが、できるだけ冷静かつ客観的な続編をアップしたいと思います。(ただ、このドリームチームの委員会のおひとりは、私が所属している某団体のボスですよね・・・・汗。まぁ、個人的な意見ということでご容赦いただきたく。。 )
また、katsuさんと英国弁護士(英国系事務所の日本の弁護士)のtaka-mojitoさんが、私のエントリーとは比べ物にならないほど(こういうのを無料で読めるのがブログのいいところ 笑)秀逸な関連のエントリーをリリースされておりますので、TBからご覧いただければと。実は私も、この意見書を読みながら、カブドットコム証券の独立委員会意見書を思い起こしておりました。磯崎さんが委員だから・・・というわけではまったくありませんが、(委員会としては賛同も反対の意思も表明しない、でしたっけ?)あれはかなりおもしろかった記憶があります。(時間がなくて、記憶だけに頼った意見です。)
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コメント
あれ?ロイターの記事を読みますと、勧告かどうかわかりませんが、正当性部分についてはGOサインを与えたようにしか思えないですが。
特別委員会の武藤春光氏(弁護士)は会見で、正当性という点では、買収防衛策発動の条件が整った、と述べた。今後、サッポロHDの取締役会が、買収防衛策を発動するかどうかについて判断することになる。
http://money.www.infoseek.co.jp/MnJbn/jbntext/?id=04reutersJAPAN301477&qt=%25A5%25B5%25A5%25C3%25A5%25DD%25A5%25ED%25A5%25DB%25A1%25BC%25A5%25EB%25A5%25C7%25A5%25A3%25A5%25F3%25A5%25B0%25A5%25B9
武藤先生、まるで裁判官であるかのような記者会見と推察されます。
投稿: katsu | 2008年2月 6日 (水) 03時13分
山口先生
まったくご指摘のとおり、何を考えているのか、という痛烈な批判が私の周囲で多くこの委員会の報告には向けられています。個人的にも、結論先にありきでロジックを欠く意見だな、と思っています。高名な元裁判官の方や某会社法の専門弁護士だけでなく、某コーポレートガバナンスの大家がメンバーに名を連ねているだけに、非常に残念です。ドリームチームとはいわないまでも、期待が高かっただけに、読んでガッカリです。
やはり「企業価値棄損のおそれ」という抽象的な可能性だけをもって、問題を片付けようとするところに最大の問題があるのではないでしょうか。まさか、委員の方々の中に、会社とビジネス上の強い関係がある方が含まれていたりしないでしょうねえ。ここまで結論を急ぐ報告を目にすると、いらぬ勘ぐりをしたくなってしまいます。
そもそも、株主意思の確認においても、事前警告型について十分な法的根拠がない会社ですから、これからどのように対応するか、しっかりと見極めていきたいと思います。また先生のブログでもぜひ取り上げてください。
個人的にも、再度日本が20年時代を遡ることが繰り返されることがないように、それだけを願っています。こういったことが将来にどういう意味をもつか、感情的な見方でなく、マクロの視点(年金問題にもつながる問題がここにあることの認識や、市場のプレッシャーもなく経営が不効率でも居座れる現状への危機意識)がまさに求められるのですが、この委員の方々には個人的には大変失望しました。意見ですので、個人の自由ですが、影響は大きいと思われます。
2月5日の日経の記事で言及されたある行政庁トップの方の発言と通じるものがあるように思われます。まだまだ日本は証券市場を活かしきれるだけの土壌を欠くようです。閉鎖的でも結構です、でもその行く末をしっかりと考える頭がなければ、終わりです。残念なかぎりです。
投稿: 辰のお年ご | 2008年2月 6日 (水) 03時17分
特別委員会の回答ぶりは、(濫用目的については判断を回避しましたが)2008年1月8日付の取締役会からの諮問内容に一応即したものになっているようには思います。確かに、「勧告」というと防衛策発動の有無というところまで踏み込むべきではないかという気がするわけですが、今回の特別委員会はそこまで踏み込むことを諮問されていないのだと理解していました。ロイターあたりに出た武藤先生の取材記事なんかでは実質的に発動勧告されているようにも聞こえますけど・・・。
投稿: taka-mojito | 2008年2月 6日 (水) 03時27分
katsuさん、辰のお年ごさん、taka-mojitoさん、コメントありがとうございます。ここ数日、いろんなところでこのエントリーが話題になりましたが、何人かの上場企業経営者の方のホンネの意見をお聞きする機会に恵まれましたので、また続編(その3)を書きます。敵対的買収防衛策のお話は、大杉先生のブログでも採り上げていらっしゃるように、ひとつの転機を迎えたのではないかと感じております。
投稿: toshi | 2008年2月 8日 (金) 12時12分