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2008年3月31日 (月)

会計不正(会社の「常識」・監査人の「論理」)

Kaikeihusei_2 日曜日の日経新聞社説では「企業は内部統制の充実で信頼を高めよ」とあり、先週は内部統制に関する特集記事なども連載されまして、いよいよ施行時期突入の気運も高まってきました。先週のエントリーでも申し上げましたが、現場では「決算・財務報告プロセス」をどのように(監査人ウケするように)構築すべきか、またどのように有効性評価すべきか、という点が大きな問題になろうかと思いますが、監査役を含む役員の皆様方には、「不正会計リスクを低減させるべき統制環境とは何か」いま一度お考えいただきたく、とりわけ内部統制報告制度の責任者(担当取締役や担当部長さんなど)の方にぜひともお読みいただきたいのが「会計不正~会社の「常識」 監査人の「論理」~)」であります。(浜田 康著 日本経済新聞出版社2400円税別) 2002年に出版されました浜田先生の前著「不正を許さない監査」は、2005年9月に、このブログでご紹介いたしましたが、内部統制報告制度施行に向けての、浜田先生の本著の提言はまことに貴重であります。とりわけ後半の第6章「統制環境をどのように考えるべきか」、第7章「不正を許さないシステム」、第8章「監査人は会計不正にどう対応すべきか」あたりは、著者ご自身の長年にわたる監査経験から、経営者評価とはどうあるべきか、また内部統制監査はいかにあるべきか、その具体的なヒントを事例や指針にそって卓越した試論をもって展開されており、きわめて参考価値は高いものであります。またJ-SOX関連以外にも、先日、当ブログにて第一審判決をご紹介しましたアソシエント・テクノロジー社の会計不正につきましても、第1章のメディアリンクス事件の解説内容を読む中で、どこに問題があるのか、ということも理解が進んだような次第であります。(カネボウ事件やIXI社の事例などで、なんとなくわかったつもりでいた「架空循環取引」や「スルー取引」でありますが、この本を拝読しまして、やっと本筋が理解できました。)かように第1章から8章まで、どこから読んでも興味深い内容ばかりでありまして、前著「不正を許さない監査」同様、手元の本はすでに青線や赤線、囲い込みや付箋などでいっぱいになっております。

ただ浜田先生が本書で述べられているなかに、「会計に対する無知、無理解」というテーマとして、以下の記述に若干ひっかかるものがございます。(以下、若干の引用をお許しください)

会計というものは、極端にいえば、単なる約束事にすぎません。・・・(中略)会計というものは、企業等が行う経済活動を、業績把握とか、財政状態の把握とかの目的に沿って測るモノサシですが、経済活動自体が様々な見方を許容している以上、モノサシも「本来正しい」ものはないのです。・・・(中略)コンセンサスですから、有力反対説もあれば少数説もあります。しかし一度決まったら、全員がそれにしたがうのが約束事のたいへん大事なところです。このように会計基準というものは理論的にみえて結構妥協の産物のようなところもあり、また強引なところもあります。・・・(P81~P82)

会計学も社会科学であり、すみよい社会生活の実現を目的として生まれたものである以上は、「絶対正しいもの」を探求する必要はなく、妥協の産物であることについては異論はありませんし、またいったん基準が決まった以上は関係者がこれに従う必要があることも認められるところと思います。しかしながら、会計基準は単なる自主ルールではなく、立派な法規範(もしくは法規範に準ずるもの)であります。金商法と会社法では、若干制度趣旨は異なりますが、会計基準は一般に公正妥当と認められる企業会計慣行のひとつであるとされております。(会社法431条)つまり、会計基準の内容は「一般に公正妥当と認められる」ものであることが求められているわけですから、企業会計基準委員会の皆様方の多数説によって決められた内容が、つねに公正であるかどうかは吟味されるべきであります。法規範の一種である以上、当然に「法の支配」のルールに従うわけでありまして、多数説が常に正しいわけでなく、なにが「公正」であるかは、最終的には裁判所が決定する(もしくは決定しうる)ことになるはずであります。会計コンバージェンスの問題も、いくら会計基準の国際化を余儀なくされるとしましても、最終的には「公正かどうか」が吟味されることとなります。したがいまして、内容がどうであるにせよ、いったん決まったことは従わなければならない、というのはあくまでも「会計基準の内容が公正であること」といった留保付きであります。たとえば、どのような事例にどのような会計基準が適用されるか、といった問題も「公正」の中身を検討すべきでしょうし、また予定されている会計基準が「唯一のもの」かどうかを決するのも「公正」の内容次第ということになろうかと思われます。(おそらく、今後は会計士さんの法的責任論の発展とともに、この会計基準の法規範性に関する議論も進展していくものと予想しております。)本書後半部分におきまして、日本コッパーズ事件の原審判決、控訴審判決に言及されており、「これまで会計士の方が抱いているコッパーズ事件判決への認識は甘すぎるのではないか」として、浜田先生も公認会計士の方々へ警鐘を鳴らしている場面もございますが、会計士(監査法人)さん方の自己防衛の見地からも、もっとこのあたりは深く考察する必要があるものと考えております。

いずれにしましても、内部統制報告制度にご関心のある方は、第6章だけでもお読みになることをお勧めいたします。私自身も含めて、すべてをすぐに消化しきれないとは思いますが、4月1日以降じっくりと統制環境を整備し、整備状況を確認するための参考書として活用できればいいのではないでしょうか。なお、本書でも「不正のトライアングルの限界」として、「あとだしジャンケン的評価」に関する苦言のようなことが記載されております。「リスク評価にまつわるあとだしジャンケン的評価」はコンプライアンスの永遠の課題なのかもしれません。

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2008年3月29日 (土)

株主総会対策のトレンド-敵対的買収防衛策と委任状争奪-

昨日(3月28日)、サッポロホールティングスの定時株主総会におきまして、買収防衛策を継続する旨の会社側提案が可決(ただし3分の2の賛成票を得るには至らず)されたとのことであります。今年も新たにライツプランを導入する予定の上場企業も多いようでして、勧告型、定款変更型を問わず、株主総会に諮ることを予定しているところが大半のようですので、今年の株主総会対応のトレンドとしてはタイトルのとおり「買収防衛策の導入(継続)」と「委任状争奪戦」のようであります。ブルドック最高裁決定、モリテックス東京地裁判決など、参考となる司法判断も出ておりますので、これらの話題に関心が集まるのも当然かもしれませんね。

さて、すでに書店ではこの時期の恒例であります「総会対策本」がずらりと並んでおりますが、毎年購入しております「株主総会徹底対策」(鳥飼、菊池著)は別として、このトレンドを学ぶにあたって最も刺激的な2冊を拝読いたしました。

32042926 1冊目は「株主が勝つ 株主に勝つ」。(江頭憲治郎教授、日比谷パーク法律事務所 商事法務 2000円税別)なお副題として「プロキシファイトと総会運営」と記載されております。この本は「はしがき」にありますように、日比谷パーク法律事務所開設10周年を記念して行われた江頭憲治郎東大名誉教授の基調講演とシンポジウムをベースとして出版されたものであります。日比谷パークの著名な先生方の渾身の論文も掲載されており、読み応えのある一冊であります。しかしなんといいましても、会社法実務に多大な影響を与えていらっしゃる先生の「ブルドック最高裁判決が日本の買収防衛策に与えるインパクト」なる基調講演録と参考資料「法の支配」145号に寄稿された「事前の防衛策-発動時の問題-」におけるご意見は、いま最も注目されているところではないでしょうか。江頭教授の事前警告型買収防衛策に関するご意見は、「株式会社法」の第二版のほうでも少しだけ述べられておりますが、この基調講演のお話によって、かなり理解できたような気がいたします。江頭教授のご意見へのコメントではございませんが、一つとても感銘を受けましたのは(あたりまえのことと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが)、

ブルドック事件の最高裁決定については、批判を含めていろいろ意見があるわけですが、判例を読む場合にまず最初にやるべきことは、裁判所は何を判示したか、具体的に申しますと、どういう事実について何を判断し、何を判断しなかったのか、ということを客観的に認識することであり、判決を批判・評価するとすれば、それを終えてからということになろうかと思います。

なる「前置き」のお話であります。(ここだけ引用、ご容赦ください)あたりまえのように思えますが、実はとても重要なことであります。民事裁判でも、一方当事者が自分に有利な過去の判例を引用する場合がございますが、ここのところがしっかりできていないと裁判官を説得することは困難であります。江頭教授は、先の基調講演におきまして、まずこの作業をされ、そのうえでご意見を述べておられますので、内容につきましては賛否両論あるとは思いますが非常に説得的であり、勉強になるところです。(なお、このあたりはモリテックス東京地裁判決の解説を商事法務に出されたN弁護士の論稿を拝読したときにも痛感したところであります)

Saizensennisimura 2冊目は「敵対的買収の最前線」(西村高等法務研究所叢書 商事法務 1400円税別)。副題として「アクティビスト・ファンド対応を中心として」とあります。こちらも落合誠一教授を中心に、ご存知西村あさひ法律事務所の著名弁護士の方々の基調講演とシンポジウムの記録を中心としたものでありまして、なんと(!)敵対的買収と委任状争奪戦の「最前線」を語るにおいて、ブルドック最高裁決定やモリテックス東京地裁判決が世に出る前の講演録をそのまま公開するという「堂々たる」自信作であります。(なお、ブルドック最高裁決定につきましては、注記として参考文献等にすこしだけ触れておられます。)落合教授が買収防衛策と「公正」に関するお話をされており、そのなかで多数派株主と少数株主の関係について言及されておられますが、そもそも上場企業といっても50%近くを同族で保有しているような場合と、ブルドックソースのように、スティール以外は3%以下の保有株主であるような場合とでは「多数の賛同を得た」という意味も変わってくるのではないか・・・といった問題なども非常に新鮮であります。また、委任状勧誘ルールや会社側の勧誘に絡む法的問題点を紹介しているN弁護士(元ふぉーりん・あとにーの47thさん)の講演録は、それ自体が今後のブログの検討課題として使わせていただけそうなものばかりであります。

どちらも一気に読める程度のソフトカバーですので、年度末のお忙しい時期とは存じますが、平成20年度のトレンドを探るという意味ではオススメですので、また読了された方のご意見、ご感想などお待ちしております。

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2008年3月28日 (金)

スルガコーポ調査報告書にみる反社対応の困難性

Photo 堺の裁判所の桜が5分咲きでしたので、弁論終了後、思わず撮影しました。この週末あたりは、大阪近辺の桜の名所はどこも花見客で大賑わいになりそうですね。

さて、「弁護士法嫌い」さんや、行方先生がご自身のブログでも紹介されていらっしゃるとおり、金融庁のHPにて「反社会的勢力による被害の防止」に係る監督指針のパブリックコメントの結果が出ております。本日は、この金融機関における反社会的勢力排除の仕組みとも深く関連するスルガコーポレーションの件(示談受託企業の弁護士法違反事件)についてのエントリーであります。立退交渉で弁護士法違反に問われた関係者らが、24日公判請求された件におきまして、スルガコーポレーション株式会社(東証二部)より一昨日(25日)、同社外部調査委員会作成に係る「調査報告書(中間報告)」が公表されております。企業不祥事にからむ外部調査委員会報告書をいろいろと読んできましたが、この報告書、まだ中間報告ではありますが、非常に価値の高いものであります。ひさしぶりにドキドキしながら最後まで拝読させていただきました。報告書の構成も巧みで、かつ文章がわかりやすい。これまで研究させていただいた報告書のなかでも、日興コーデ不正会計事件、関西テレビ取材捏造事件、三洋電機不正会計事件とならび、各企業において十分検討されるべき報告書であります。とりわけ、企業と反社会的勢力とがどのように癒着し、これを排除することがどれほど困難であるかを認識することができますし、また反社会的勢力との関係というものが、ある日突然、どこの企業にでも同様の事態が発生しうるリスクであることが、ご理解できるのではないでしょうか。とりわけ、この外部調査委員の方々が認定した事実が真実であるとしますと、これまで新聞等で報道されているところの事実はかなり歪曲(誇張)されており、何気ない日常の業務において、反社会的勢力と関係を有するリスクが潜んでいることに気づかされます。

1 弁護士による立退交渉の4分の1の時間で明渡完了!

スルガコーポも、以前は立退交渉に弁護士を活用していたのでありますが、あまりにも示談交渉に時間を要するため、融資を受けた資金の返済が滞り、資金繰りが悪化したとのこと。(なお、これはスルガコーポの「不動産専有卸業」なるビジネスモデルとも関係するわけですが)スルガコーポ社は、弁護士が示談交渉するのではとてもビジネスとしてはやっていけない、ということでT社、K社に依頼をすることになりますが、これが弁護士による交渉時間と比較して、約4分の1程度の時間で明渡を完了させることとなり、利用価値がとても高いわけであります。(まず、これには驚きました。)

しかしこの事件、今後の不動産事業にかなり大きな影響が出るのではないでしょうか?とくに以前村上ファンド関連のエントリーのなかでとりあげましたが、大阪は梅田ヤードをJRと阪神阪急グループが競って開発していくところですが、こういった事業はすべて弁護士が(すくなくとも)管理監督しながら進めていくことになるのでしょうね。もちろん弁護士が出てくれば、テナント側も弁護士を依頼するケースが増えるわけでして、訴訟案件に持ち込まれることも増えるのは間違いなさそうですし、テナントビルが一気に明け渡し完了物件になることも期待できないでしょうから、開発資金をどう調達すべきか、いろいろと難問が出てくるんじゃないでしょうか。このあたりがいわゆる「弁護士法リスク」と言われるところかもしれません。

2 スルガコーポが後戻りできる場面があったのでは?

平成15年頃といえば、すでに経団連行動規範も公表されていた時期ですし、建設業界とはいえ、スルガコーポは上場企業だったわけですから、コンプライアンス違反(反社会的勢力との関係継続)は企業にとっての命取りになることは十分承知していたはずであります。そこで、この報告書をお読みになって検討すべき点は、いくつかの時点において「後戻りするための黄金の橋」がかかっていたことにお気づきになるはずであります。もしあなたが、会社の命運を賭けた不動産ソリューション事業をひとりで抱え込んでいたこのT元取締役の立場であれば、この黄金の橋のたもとで後戻りすることができたかどうか?とりわけ比較的初期の段階で、K社の代表者が地上げで逮捕されたことがある、という事実を(テナントからの情報提供で)知ることになるわけですが、それでもK社に任せるに至った心境はどのようなものだったのか?また、この元取締役に毅然とした態度をとった法務部の社員が登場しますが、なぜこの法務担当社員は元取締役に対して毅然とした態度がとれたのか?もしお時間がありましたら、貴社におかれましても、総務部、法務部等でご議論されてはいかがでしょうか。

なお、反社会的勢力の関係ではございませんが、内部管理体制に問題ありとして、東証および大証において特別注意市場銘柄に指定されてしまいました真柄建設社の社外調査委員会報告、社内調査委員会報告(中間報告)などと比較しながら検討いたしますと、「統制環境」の重要性がかなり理解できるのではないかと思います。

3 弁護士が気づかない「弁護士法違反」

最近、弁護士の間でも「弁護士法違反」リスクが話題になっております。たとえば私が所属しております「IPO企業統治システム研究会」には他業種の方も在籍されており、支援企業への報酬請求の方法を間違えますと、弁護士以外の者が法律事務を「業として」行ったとされるリスクを抱えることになりますので細心の注意が必要であります。また、最近話題になっております「事業承継支援」につきましても、株式の集約作業、会社の代理、オーナーの代理、番頭さんの代理、後継候補者の代理など、だれの支援をするか特定しておかなければ「利益相反」として懲戒されるリスクを負うことになります。しかし弁護士は(目先のお金に目がくらむのかもしれませんが・・・)こういったリスクに意外と「無頓着」であります。スルガコーポの調査報告書に登場する「J弁護士」も、果たしてT社、K社の「地上げに伴う犯罪行為」リスクだけでなく、そもそも弁護士が関与しないところでT社らが示談行為を行うリスクに気づかなかったのでしょうか?非常に残念ですし、またここにT元取締役が後戻りできなかった大きな要因があるような気がしてなりません。

4 調査報告書(中間報告)へのわずかな疑問(単なる私見ですが)

Cimg0421_320 スルガコーポ社は、地上げを委託していたT社の提案どおりに、テナントビルの所有権がT社に変わったことを仮装するための虚偽の不動産売買契約書を作成するわけでありますが、この点について外部調査委員会は「スルガコーポ社として、コンプライアンス上の問題行為だが、これ自体が犯罪行為に該当するわけではない」と結論付けております。はたして本当に「犯罪行為」にはならないのでしょうか?たしかに今回は、弁護士法違反が問題となっている事案であり、地上げ行為にからむ脅迫行為などは立件の対象とはされていない模様であります。しかし、詐欺罪(共謀共同正犯)の構成要件には該当しないのでしょうか。テナント側からすれば、上場企業であるスルガコーポが立退き交渉しているのか、それとも怖そうな企業が所有者として立退き交渉しているのか、という点は立退料の金額だけでなく、そもそも「立ち退くかどうか」という意思を決定するにあたって重要な影響を与える事情であると考えられます。その重要な事情をごまかすこと(つまり虚偽の不動産売買契約書を作成すること)にスルガコーポ社の役員が関与している以上は、かなり問題ではないかと思われます。また、詐欺罪の要件である「被害」は、被害者の全体財産の損失が認められる必要はなく、たとえ相当な立退料をもらっていても「借家権」そのものの処分行為(財産上の利益の損失)が「損害」とされるのが通説判例でありますので、事実上の告訴(もしくは被害届)が提出された場合には、一応の問題になるのではないでしょうか。(ただし、これはあくまでも私個人の意見にすぎません)

もう一点、この調査報告書を読んでおりまして、すっきりしないのがT元取締役以外の役員の方々が、いつからT社、K社が「反社会的勢力」であると認識したのか、という点であります。平成19年6月以降という点が強調されているのでありますが、それまでも実質的には取引銀行から「融資をとめる」という強制手段によって他力で反社会的勢力との断絶を要求されているわけですから、その時点において監査役を含む役員の方々が、「知らなかった」というためには、もうすこし説得的な理由付けがなければ、どうもすっきりしないのではないだろうか、と思った次第であります。(なおスルガコーポ社のHPに、25日付けにて、 「反社会的勢力への毅然とした対応に関する基本原則について」なる文書が公開されております。ご参考まで)

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2008年3月25日 (火)

決算・財務報告プロセスは「統制重視」か「検証重視」か?

(一部訂正がございます 3月27日未明)

週刊経営財務3月17日号におきまして、「内部統制報告制度の焦点(内部統制構築における監査人の対応について)」なるM教授の研究報告が掲載されております。このなかで内部統制構築担当者に対するインタビュー調査報告結果(監査法人の対応に関する調査)が集計されておりますが、依然として、内部統制担当者の方々の監査法人への不信感が根強いことがうかがわれる結果となっております。私の感想としましては、内部統制報告制度に関する通訳不在のまま(最近は金融庁が一生懸命、通訳に徹しようとされているようにも思われますが)、施行期に突入せざるをえないわけでして、この現実を直視した場合、企業側担当者としましても、整備運用状況に「重要な欠陥」を出すことなく、また有効とする経営者評価に適正意見を求めうるようなシステムをいかに構築すべきか、その基本的な対策を検討する時期にきているものと思います。(なお、以下に述べるところはまったくの私見であります。)

財務諸表監査に伴う内部統制監査審査については「プロ中のプロ」である監査人も、インダイレクト・レポーティングを前提とした「内部統制報告制度における内部統制監査」にあたっては「初心者」であります。(かくいう私も「初心者」どころか、「素人」であります)これは経営者評価の基準にしたがって整備運用の有効性を評価する経営者と同じレベルであります。職業会計士さんには「監査の経験」という武器がありますが、かたや経営者には「社内の仕組みに精通している」という武器がありますので、まさに対等であります。また、アサーションに対するリスク評価やキー・コントロールの絞り方、サンプルテストによる統制評価手法などの知識は監査人に分があるとしましても、代替統制や補充統制など、リスクを合理的な範囲に抑え込む手法についての知識は経営者のほうに分があるはずです。理想的なのは、内部統制報告制度が金融商品取引法における企業開示制度のひとつとして制定された趣旨に立ち返り、監査人監査、経営者評価の利点、欠点を認識しながら、シナジー効果(なるべく効率的に、財務報告の信頼性を確保できるシステムを構築すること)を生むことであり、それが最も費用対効果のうえでも望ましい姿であると考えます。

※財務諸表監査にともなう「内部統制監査」なる用語はおかしい、とのご指摘を受けましたので、内部統制審査という用語に変更いたしました

しかしながら、「プロセスの開示」として、財務報告の信頼性に疑問を持たざるをえない上場企業もまた、存在することは否定できない事実でありまして(これは私の経験からの感想です)、監査人がどういったところでレッドカードを出しやすいのか・・・というところを探ることも意味があるのかもしれません。ということで、結局のところ、全社的内部統制、とりわけ「統制環境」こそ重要なポイントであることは理解しつつも、現実の「有効性」判断にもっとも影響を及ぼすプロセスは、やはり決算・財務報告プロセスではないでしょうかね? (私はどうもそんな気がします)個別財務諸表にしても、連結財務諸表にしても、それらが作成される過程がスムーズであれば、そもそも全社的な統制環境が良好であると推認することができる場合も多いように思われますし、またなんといいましても、監査人にとっての「あとだしジャンケン」的評価が可能なのは、この決算・財務報告プロセスをおいて他にはないと思うのであります。(誤謬やミスを発見したうえで、内部統制システムの不備を指摘するのが、おそらくもっとも監査人方にとっては説得的でありましょうし、企業側としても反論できる余地が少ないように思われます。財務報告における虚偽記載のリスクを評価する、といいつつ、実際には「危険探知主義」ではなくて「結果主義」でリスク評価されてしまうわけであります)

会計処理におけるミスや誤謬が判明した段階で、さかのぼって「決算・財務報告プロセスには不備がある」とされることはとてもおそろしい気がします。しかしこれがおそらく現実なんですよね。このような「あとだしジャンケン」リスクが存在するために、金融庁Q&Aの第11問におきましても、その回答例としては「特に決算・財務報告プロセスに係る内部統制については、かりに不備があったとした場合、当該期において適切な決算、財務報告プロセスが確保されるためには、早期に是正されることがのぞましい。・・・・前年度の運用状況や四半期決算の作業等を通じ、むしろ、年度の早い時期に評価を実施することが効率的、効果的である」とされているのでありまして、企業側にとっては最大の防御のポイントになってくるのではないでしょうか。

さてそうなりますと、決算・財務報告プロセスにおいては、その統制活動(たとえば会計処理方針に関するマニュアルの整備、連結グループにおけるパッケージ作成のための研修など)を重視すべきか、検証活動(子会社の財務報告内容の再検証、再鑑など)を重視すべきか、という問題への回答としては、後者、つまり「検証活動」に重点を置くことにならざるをえないのではないかと思われます。もちろん理想論としましては、リスクを低減することが目的である以上は、統制活動を重視して、経理マニュアルを充実させ、自社内において能力の高い経理担当者、内部監査人を養成することでありますが、この決算・財務報告プロセスにおける内部統制の評価について「結果主義」が求められる以上は、特定の担当者に大きな負担が生じるかもしれませんが、こうならざるをえないような気がします。

※ココログは3月25日午後3時より翌26日午前11時まで、メンテナンスを行います。コメントの入力もできなくなりますので、ご留意ください。

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2008年3月24日 (月)

情報開示ルールの強化と株主によるガバナンス

3月23日(日曜日)の日経新聞3面に「東証『第三者割当』透明化へ 既存株主保護へ情報開示強化」なる見出しの記事が掲載されております。(ちなみにWEB版のニュース)証券取引所(金融商品取引所)が、上場企業による株式や新株予約権の不適切な第三者割当増資を防止するための新たなルールを策定することで、既存株主保護を図り、市場活性化を促すことが目的のようであります。昨年も当ブログで採り上げましたが、オートバックスセブン社が「払込完了」と開示した直後に中止を発表したり、NOVA社が内容の不明確な第三者割当てを公表するなどの事例がありましたので、とりわけ発行済株式総数と比較して大規模な第三者割当による増資が行われる場合の情報開示ルールを策定することに、取引所が積極的な姿勢をとることについては私個人の意見としましては、大いに歓迎すべきことであると考えます。

WEBニュースには詳しくは掲載されておりませんが、第三者割当増資によって過半数の株式を握る投資家に詳細な取得理由の説明を求めたり、一定割合以上の新株の発行には株主総会決議を求めたりすることを、東証の企業行動規範に盛り込み、違反企業には(先日、ご紹介しました)「違約金制度」による違約金を課す・・・というものですから、(新聞で報じられているところが事実であるとすれば)会社法上の公開企業に認められている資金調達手段を一部制限する形になるようであります。

ところで、昨年6月25日には、東証の要請事項として「MSCBの発行及び開示ならびに第三者割当増資等の開示に関する要請」文書が公表され、第三者割当による増資を行う場合の開示事項の特定や、開示にむけてわかりやすい説明を行うことが要請されておりましたが、これはあくまでも要請にすぎないわけであります。また、投資家への注意喚起を促すための「公表」にしても、上記のとおり構想されております「上場企業への違約金賦課」にしましても、それらは(買収防衛策のあり方について、企業行動規範で定められているのと同様に)上場企業と証券取引所との上場管理契約上の義務履行の問題を通じて、証券取引所主導による企業統治を実現する一事例と理解されます。

しかしながら、第三者割当による増資について、株主総会の決議を必要としたり、詳細な開示ルールを企業行動規範に盛り込むこととなりますと、上場企業による当該ルール違反については、単なる取引所によるペナルティを通り越して、株主から会社法828条等による新株発行の無効の訴えの原因要件にも該当する可能性が出てくることとなり、「証券取引所によるガバナンス」にとどまらず、「株主によるガバナンス」の実現可能性を高めることになるのではないでしょうか。「新株発行の無効の訴え」は、募集株式の発行等に法的瑕疵がある場合に提起されるものでありますが、ご承知のとおり、募集株式の発行等の無効事由は法定されておらず、解釈に委ねられておりますので、証券取引所ルールが「法的瑕疵」と評価され、かつ株主による差止請求権(会社法201条)行使の機会を確保できないほどの重要な開示違反と認められるようなケースにおきましては、第三者割当の手続が完了した後(公開会社においては募集株式発行の効力発生後6ヶ月以内ですが)でも、その効力が覆る可能性は否定できないように思われます。これまでは、取引所から注意を受けたり、公表されることによって「ちょっといかがわしい会社ではないの?」といったレピュテーショナルリスクを受容するだけで済んでいた会社にとりましても、「あいまいな情報開示」によって募集株式の発行が無効とされるリスクが生じることになりますと、そもそも資金調達する側も慎重になりますし、エクイティファイナンスの実務にも相当程度の影響が出てくるのではないかと推測しております。

このあたりの問題は①「開示がわかりにくい場合には、開示があったといえるか」(開示することの実質的な意味)という問題や、②そもそも証券取引所の行動規範が「法的規範」といえるかどうか、③「開示に関する瑕疵については、もし法の要求する手続違反の事実があったとしても、会社側において実質的な瑕疵が存在しないことを反論すれば瑕疵が治癒されるか」といった問題、そして④株主保護といっても、希釈化にともなう経済的価値だけを保護するのか、支配権の価値についても保護するのかといった問題等にもつながりそうですので、また別の機会に閲覧されていらっしゃる皆様方のご意見などを頂戴しながら検討してみたいと思っております。

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2008年3月21日 (金)

管理人オススメのブログ五選(会計、法務系)

ある常連の方から教えていただきましたが、3月14日に開示情報を出した上場企業のなかに、株主総会開催期日までの間に2週間空けずに一般株主への招集通知を発信したところがありますね。(会社法299条1項ご参照 江頭教授の「株式会社法」でも、通知の発信日と株主総会当日までの間に2週間という意味である、とあります)株主の権利侵害でありまして、これは簡単に治癒できない瑕疵ではないでしょうか。。。それとも、そんな細かい違法手続など「どうでもいいこと」なんでしょうか。(あいさつ、ここまで)

(22日追記)↑でご紹介した上場企業でありますが、21日の深夜に「訂正報告書」が出ております。やはり修正されましたね(^^; これならなんとか理由がつきそうです。。

こういったマニアックな話題から始まり、「地方弁護士の場末のブログ」をキャッチフレーズに、ドリコム時代を含め、ここまで3年ほどブログを書き続けておりますが、昨年末にはおかげさまで「アルファブロガー2007」なる称号を頂戴し、そしてこの春からは著名な某ニュースサイトにてダイレクトに当ブログのエントリーがお読みいただける、とのことで(ホンマかいな?)、もはや冗談でも「場末のブログ」とも言えない状況になってきたみたいです。まぁ、毎度のことながら、これも他人様に読んでいただけるうちが華(はな)だと思いますので、本業との兼ね合いで少しキツイ状況ではございますが、なんとかこのまま4年目に突入することにいたします。(^^;コンゴトモヨロシク・・・

さてさて、私のブログにお越しの皆様方にも参考になるのではないかと思いまして、本日は5つほど新規にお気に入りブログをご紹介いたします。(すでにご承知の方がいらっしゃいましたらごめんなさい・・・)

ひとつめは清水康成さん(公認会計士)の「起業アソシエ別館」であります。これはなかなかレベル高そうです。私もIPO研究会にて、実際に支援業務を行っておりますので、いろいろと参考にさせていただいております。「ぎりぎりの会計処理と変則スキーム」あたりのエントリーはかなり「私好み」です。

ふたつめはkajiさんの「アサッテの会計士BLOG」であります。以前からメールで、いろいろと会計上の問題点などを議論させていただいている某公認会計士さんのブログでして、内部統制関連含め、企業会計関連のエントリーについて今後期待できるブログであります。まだ開設されたばかりのようでありますが、「ゆっくり、まったり」続けていただけますよう、お願いいたします。

これからは同業者の方のブログでありますが、3つめは「弁護士川村哲二 覚え書き」です。川村弁護士は、知的財産権、独禁法等経済法に詳しい方ですが、ブログの内容は決してむずかしいものではなく、一般事業者向けにわかりやすく情報を提供され、またご自身の意見を述べておられます。私はだいたい独禁法や消費者保護法関連のニュースはここで仕入れております。

4つめは、MITさん(でいいのかな?)の「PLACE IN THE SUN(LLM留学/ローファーム備忘録)」のブログです。47thさん、neon98さん以来、私はこういった流れのブログがけっこう好きです。おそらく日本に帰ってくると「殺人的な忙しさ」が待っているにちがいないわけで、それまでのヒトトキをブログで綴るところに「わび、さび」を感じます。

そして最後は・・・・・どうも気になるブログであります。(以前、少しだけご紹介しましたが)

活字フェチ弁護士の臨床的視点

こういった文体はけっこう好きなんですよね。更新が待ち遠しいです。。。実際、どのような方なのかは存じ上げませんが。。。

ということで、断りもなくご紹介しているブログもございますが、RSS登録してチェックしておきたいブログをご紹介いたしました。

PS

別の常連の方より、「公認会計士補」というものはなく、「会計士補」に修正したほうがよろしいのではないですか、と教えていただきましたので、さっそく修正いたしました。(管理人からのお知らせ、ご参照)こういった間違いはそのまま放置しておりますと、とても恥ずかしいので、どんどんご指摘ください。

PS2

と書いているうちに、あかつき財務戦略研究所さん より、株主優待引当金を計上している企業一覧という、おもしろいTBをいただきました。(時節柄、会計士さんのブログは、EDINETのXBRL対応化に関する話題がやはり多いですね)そういえば、最近ずいぶんとこのポイント引当金や株主優待引当金の理論化が進んできたのではないでしょうか?

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2008年3月19日 (水)

東証の制裁金1000万円制度導入へ

大証(大阪証券取引所)も「警告」制度によって動き出したようでありますが、東証(東京証券取引所)は上場規則に違反した企業に対して1000万円の制裁金を課す制度を近々導入する方針を固めたそうであります。(日経ニュースはこちら)昨年3月にも、読売新聞の報道では東証が(証券会社に対してではなく)上場企業に対して「過怠金」を課す制度を導入する方針であり、2008年の実現を目指す、とありましたので、日興コーディアル不正会計事件における東証の対応に批判が集まって以来、ずっと上場企業に対する「注意」と「上場廃止」の中間に位置する制裁制度については検討を重ねていたものと思料されます。(しかし上場企業の規模にかかわらず、なぜ一律1000万円なんでしょうね?)

日経ニュースを読みますと、上場企業と取引所は上場契約を締結しているので、上場規則違反が認められる場合には、上場企業側にはいわゆる債務不履行があったものとして、その「損害賠償金」として1000万円を請求する、ことのようであります。(このあたり、規則違反=過怠金、という一般的な認識とは少し異なるようであります。)この場合、取引所にとって何が損害かといいますと、取引所が一般投資家のために維持しようとしている市場の健全性を害されたこと、または市場の信用を毀損されたことだと思われます。(一律1000万円・・・ということですから、規模の大小にかかわらず、上場企業による信用毀損の程度は同じ、とみるのでしょうね)また、一律1000万円ということですから、これは契約当事者間における「損害賠償額の予定」があったとする法的構成ですね。(なお、違約罰と損害賠償額の予定とは法律上異なる、といった議論がありますが、本件ではどちらも同じ意味と考えていいと思います)なるほど、こういった民事制裁金という性質のものであれば、懸案だった刑事罰や課徴金との調整に頭を悩ますこともなく、同時徴収も法的には可能になりそうであります。

ただ「損害賠償額の予定」として一律1000万円を課す、という構成ですと、若干問題も生じるように思われます。ひとつは、いくら当事者双方が損害賠償額を合意したとしても、支払義務が発生するのは上場企業側に債務不履行が認められる場合ですから、単に「規則違反」の事実だけでなく、そこに上場企業の故意過失(帰責性)が認められる必要があります。たとえば上場企業に通常要求される程度の内部統制システムとか開示統制システムをきちんと整備していた場合、たとえ規則違反事実が発生しても、それは「内部統制の限界事例」であって、規則違反は防ぎようがなかったといった事態が生じる場合は債務不履行が認められないケースが考えられます。また、もうひとつは、条文上は当事者が賠償額の予定を定めた場合には、裁判所はこれを増減することはできない、(民法420条1項)とされておりますが、判例上はその予定された賠償額が著しく高額であり、これを当事者に守らせることが公序良俗に反するような場合には全部(もしくは一部)無効とみなされます。この1000万円という金額が、市場の健全性を毀損されたことへの賠償金額として妥当かどうかはわかりませんが、こういった点について争われることも考えられるところであります。(したがいまして、これがもっと高額ですと、かなり問題ではないかと思われます)

規則違反の要件をどのように詳細に定めたとしても、取引所の処分はかなりあいまいな部分で勝負せざるをえないのが現実だと思いますし、1000万円程度の制裁金であれば、わざわざ弁護士をたててまで、必死になって闘う企業も出てくる可能性は薄いかもしれません。(そういった配慮があっての一律1000万円かと。。)また、そもそも取引所がムズカシイ判断に立たされることがないよう、実際の運用は、課徴金賦課処分などが先行するように工夫されるのかもしれません。とりあえず規則違反に対して、企業が従順に制裁金を支払ってくれる実績を多く残すことが重要な目標になってくるのではないでしょうか。

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2008年3月18日 (火)

粉飾決算に関与した取締役の責任(アソシエント・テクノロジー社損害賠償事件一審判決)

たぶん本日(3月17日)だと思いますが、3月3日に判決がでておりましたアソシエント・テクノロジー株式会社の粉飾決算事件(虚偽記載の決算書類を信用して株式を購入した株主らが、株価低落にともなう損害賠償を取締役らに求めた事件)の大分地裁での判決全文がリリースされました。(判決の概要を紹介している産経WEBニュースはこちら です)アソシエント社は大分県の会社として初めてマザーズ上場を果たしたソフトウエア受託開発業者でありましたが、その後粉飾決算をきっかけに上場廃止となった会社であります。なお、粉飾決算の疑惑があることを公表したのは、平成16年10月でありますが、実際に粉飾を行っていた期間は平成14年8月以降のことですから、平成15年6月の上場前からの粉飾ということになります。

(アソシエント社の会計処理が)粉飾決算であることの認定方法として、スルー取引の存在を前提としているのか、それとも元々が架空取引だったのか(不正会計公表直後の社外調査委員会は、スルー取引である、としていますが、本判決は、スルー取引性を否定して、そもそも架空取引である、と評価しております)、本件株主らに発生した損害は「間接損害」かそれとも「直接損害」か、かりに直接損害であるとすると、アソシエント社の当時の代表者はいかなる法的根拠によって株主に対して責任を負担するのか、ほかの不正会計に関与した取締役の責任を認める法的根拠はどうか、さらに会社自身の不法行為責任はどのような法的構成によって認められるのか、などなど、企業会計、会社法上の責任論にとって非常に興味深い論点が含まれております。また、証券取引法24条の4を根拠とする法的責任はなぜ追及されなかったのか、適正意見を出した監査人や、会社法上の監査役はどうして被告として選定されなかったのか、など、その周辺領域にわたる問題点も検討の価値がありそうです。

本判決の評釈につきましては、また著名な商法学者の先生方の論稿に期待するとしまして、すこしだけ感想めいたことを述べますと、まず企業不祥事発覚直後の社外調査委員会の調査能力の限界であります。会計士と弁護士による社外調査委員会が設立され、粉飾決算の有無等について検討されたようでありますが(残念ながら、現時点ではこの報告書はWEB上では閲覧できないようです)、「架空取引」と認定することによって、問題取引先にも重大な影響を与える可能性が高かったためか、遠慮がちに事実認定を行い、原則は合法的なスルー取引ではないか・・・と推測されております。裁判所は、詳細な証拠に基づいて明確に「架空取引であった」と認定しておりますので、有事において限られた時間と限られた証拠をもって行われる「社外調査委員会の事実認定作業のむずかしさ」を物語るところであります。また、「虚偽表示リスク」でありますが、前渡金項目は原則として資産購入代金に充当するか、あるいは費用として計上することで精算されることになりますが、結果的に支出目的が不明確なままで回収できないような場合も生じますし、これがソフト開発という収益認識の時期が不明確な業種であればなおさら粉飾については誘惑的であり、不正会計のリスクが高まるわけであります。ましてや本件では収益費用管理帖や偽装の証憑まで作成されていたということで、これを経営トップが主導的に行っていたことで、監査法人さんも容易には発見できなかったのかもしれません。(現在はこういったソフトウエア開発委託に係る収益発生の時期等、会計基準によって明確になってきたのでしょうかね?専門ではないのでわかりませんが)

また、アソシエント社が上場した後に(つまり平成15年6月以降)に、CFOとして取締役に就任したF氏については、前渡金の計上金額の大きさと費用としての消しこみとのバランスの悪さを指摘し(つまり意図的な利益かさ上げに気づき)、これに早期に対処するよう代表者に忠告していた事実は認定されているものの、結論的にはこれを阻止できなかったことについて取締役の第三者責任が肯定され(つまり株主らの損害発生について故意、重過失が認められる)とされており、連帯責任を余儀なくされております。自ら主導的な立場でない取締役や、監査のなかで粉飾決算を発見した監査役は、経営トップによる暴走は確実に差し止めるか、もしくは(どうしても粉飾の訂正、もしくは拡大の防止について経営陣と意見が合わない場合には)その時点で退任して「関与」を否定する以外には※、責任を免れる方法はなさそうであります。(なお、本件判決につきましては、未だ確定していないものと思われますので、今後また福岡高裁にて控訴審判決が出される可能性もありますので、要注意であります)

※下線部につき「無法者」さんより、ご質問をいただいておりますので、修正をいたしました。

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2008年3月17日 (月)

反社会勢力対策の企業実務的進化(その2)

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久しぶりに、京都の北野天満宮に行き、満開の梅を見物してきました。ご覧のとおり、白や桃色の梅の花が見事に咲きほこっておりまして、実に美しい。梅の名所に見物に来た人たちと、国立大学の発表もほぼ終わり、合格御礼参りにやってきた学生達とで、神社内はものすごい人であふれかえっておりましたが、日差しが温かく、たいへん気持ちのいい一日でありました。

読売新聞関西版の15日ニュースによりますと、大阪証券取引所は既に大証に上場している企業について、反社会的勢力が上場企業の経営に関与している疑いが生じた場合には、上場の是非を再審査したうえ、一定の場合には上場廃止とすることができる新たな制度を今年5月より導入する方針を固めた、とされております。(上場企業を再審査・・大証5月にも導入)これまでは「リスク管理」としての「反社会的勢力を排除する仕組み」を上場企業に要求し、この仕組みが不十分な場合にペナルティを課す、というものだったと思いますが、これを一歩進めて、単なる「リスク管理」を求めるのではなく、有事の兆候を大証自ら入手したうえで「再審査」を行うというものでありまして、市場の健全性確保のための自主ルールのあり方について、大きな転換点に差し掛かったのではないかと思われます。

上場企業のどのような発生事実をもって「反社会的勢力が経営に関与している疑いがある」とみるかは、今後の上場ルールの策定内容にもよるところでありますが、そもそも反社会的勢力が市場で活動する最終目的は「上場企業の経営への関与」にあるものと考えられますので、企業としてはこれまでどおり、いかに排除の仕組みを構築するか、という点を、具体的に検討することが最善策であります。たとえばIPO時における(反社会的勢力排除に関する)上場審査のポイントとしましては、①役員、株主、取引先、特別利害関係者が反社会的勢力とかかわりがないことの調査、②投資ファンドの出資者、会社債権者等の調査、③取引先管理規程、取引先選定基準などの整備と運用状況、④信用会社、反社会的勢力排除コンサル会社、その他情報収集システムの利用基準の確立などが中心となりますので、やはり経営に重大な影響を与えかねない株主、役員、会社債権者、特別利害関係人などの人的情報と、その後の具体的な当該上場企業の開示情報などをもとに認定していくことが考えられるところであります。

さて、「経営に関与している」企業を市場から排除することは、一般投資家保護の見地からも妥当なものであると思われます。ただ、たとえ「経営関与」に至らなくても、反社会的勢力との「つながり」が認定されること自体が一般的には「企業不祥事」と考えられるところでありますので、反社勢力によって経営に関与されるリスクというだけでなく、反社会的勢力と関係があるとの風評が広がるレピュテーショナルリスクについても検討課題となります。基本的な考え方につきましては、すでに「反社会勢力対策の企業実務的進化(1)」において検討したところでありますが、もう少し具体的に検討してみますと、ひとつは犯罪収益移転防止法の運用に関連する企業、つまり大きなお金の流れに関与する企業(このたびのスルガコーポやメガバンクのように、会社内部で数十億、数百億が右から左へ流れるような企業)の場合、ふたつめは、経営状況が悪化している新興企業のように、経営トップの個性や独裁色が強く、ガバナンスが機能していない企業の場合、そして3つめは現場におけるクレーム処理が日常化しており、現場と反社会的勢力との接触が不可欠な企業の場合など、すくなくともいくつかの企業の特長により、その仕組み作りの重点は変わってくるものだと思います。また、最近の傾向として、反社会的勢力と企業との癒着に関する情報というものは、一般の情報伝達ルートによっては経営陣にまで上ってこないケースがあり、また先日のスルガコーポの事例のように、せっかく錚々たるメンバーが社外役員に就任しているにもかかわらず、経営陣のなかでも情報が偏在化しているようなケースも見られるので、内部通報制度を活用することも考えられるところであります。上司にはそのまま言えない社員、反社会的勢力と接触している経営陣に近いところで働く社員の自浄作用に期待することになりますが、反社勢力排除のためにもヘルプラインが機能することが周知されることが、そもそも経営陣や現場における癒着に対する抑止的効果をもつのではないかと思われます。(以下、その3につづく)

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2008年3月14日 (金)

投資家の暮らしへ(ホワイトデー東京地裁決定)

いよいよ、3月14日は日本のM&A、とりわけ「企業価値と司法判断」にとって大きな影響を及ぼす決定が東京地裁で出ますね。ここのところ、当ブログのテーマもずいぶんと広がってしまいましたので、フォローできずじまいであり、到底コメントできるような立場にはありませんが、政策形成機能の効いた裁判所の判断を期待しております。(しかし2年以上にわたる当事者および代理人の皆様の情熱には頭が下がります。申立人、相手方どちらにとって素敵なホワイトデーになるのでしょうか。)

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2008年3月13日 (木)

買収防衛策を撤廃することの是非

すでに新聞報道されているとおり、私が独立委員会の委員をしております日本オプティカル社は、平成18年より2年間継続しておりました事前警告型買収防衛策(ライツ・プラン)を廃止すること(正確には、3月の株主総会において継続に関する議案を上程しないこと)を決議いたしました。おそらく300社を超える買収防衛策を導入する上場企業のなかでは、平時に廃止決定(非継続決定)するのは初めてではないでしょうか。(きちんと調べたわけではございませんが。なお、廃止に至った理由につきましては、3月10日付の開示情報のとおりであります。→買収防衛策「事前警告型ライツプラン」の非継続に関するお知らせ)(注-ニッセン社のほうが先に非継続を公表しているようですので、はじめてではないようであります 4月21日追記)

決議に至る意思形成過程につきまして、ここで詳細を述べることは控えますが、リリースのとおり、独立委員会としても継続、非継続に関する意見をそれぞれ申し上げ、法務アドバイザー事務所の意見なども参考にして、最終的には日本オプ社の取締役会で判断したような次第であります。「イマドキの独立第三者委員会」シリーズのエントリーにも書きましたように、独立委員会はけっこうマジメに「この会社の企業価値を守ること」の意味を勉強してきましたし、ブルドックソースの最高裁決定が出されたときにも、急遽委員会を招集して、法務アドバイザーの法律事務所も交えて有事の対応策(あくまでも手続のみであります)なども検討しておりました。

事前警告型の買収防衛策の有効性につきましては、ご専門の先生方の見解なども拝聴し、私自身も認めるところであります。うまく活用できれば企業価値を毀損するような非効率な支配権移転を排除できることを否定するものでもございません。しかしながら、以前からもこのブログで申し上げているとおり、買収防衛策の導入(および継続)にあたっては、その二面性については十分な配慮が必要だと(現在でも)考えております。ひとつは、もちろん裁判で勝てる「建て付け」をどうするか、というものでありますが、もうひとつは、株主、一般投資家、ステークホルダーからみて、防衛策を導入していることがどう映るか・・・という開示(説明責任)に関する点であります。

本日の日経ヴェリタスの記事「買収防衛策への冷たい視線」、昨日の日経朝刊「経済教室」におけるU教授のご意見、また先週3月6日の同じく日経「経済教室」のT代表(全国社外取締役ネットワーク)のご意見、そして旬刊商事法務3月5日号「買収防衛策導入の業績情報効果」などを拝見しますと、買収防衛策の見直しが求められたり、過渡的なものであると評価されたり、また防衛策導入が企業パフォーマンスに及ぼす経済的影響度が検証されたりしております。こういった最近の傾向からみても、先の二面性につきましては、バランスよく配慮する必要があると思いますし、企業のおかれた経営環境や経営方針からみれば、「いったん導入はしたものの、その後の経営環境が変わったので廃止した」という選択も経営判断としては十分ありえるのではないか、と考えております。もちろん、今年の株主総会で新たに導入する上場企業もあるでしょうし、その効用は認めるところではありますが、すべての企業にとって、等しく導入の必要性が認められるわけではなく、業界全体の経営環境や、当該企業の成長過程の度合い、将来の収益見込みに及ぼす不確定要素の有無、その他株主構成や資本政策、従業員が防衛策導入をどうみているか、などを十分検討のうえで、導入(継続)の是非を検討するべきではないか、と私個人としては思う次第であります。

※なお、上記エントリーは個別企業の業績予想や新たな重要事実を含むものではなく、あくまでも過去の決定事実に対する管理人の個人的意見を開示したにすぎません。したがいまして、個別企業発行に係る金融商品への投資判断にあたりましては自己責任でお願いいたします。

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2008年3月12日 (水)

株主層の変動と株主総会

法律時報2008年3月号に仮屋教授(一橋大学)の「株主層の変動と株主総会(アクティビズム対応への視座)」なる論稿が掲載されておりまして、興味深く拝読させていただきました。教授は機関投資家のアクティビズムと投資ファンドのアクティビズムをきちんと分けて、その行動パターンと企業の対応方針を検討されておられるのでありますが、スティールパートナーズに代表されるような投資ファンドのアクティビズムへの検証と企業の対応に関する記述が最もおもしろい内容であります。

そもそも投資ファンドは、エクイティスワップ取引(日本では賭博罪にあたる、と理解されていましたが、1999年より店頭デリバティブ取引の一種として認められております)などにより、リスクヘッジをしながら相当大きな株数を保有する場合があるわけで、そうなりますと議決権は保持しているけれども、それに見合うだけの経済的利益を有していない場合とか、むしろ株価が下がることによって大きな経済的利益を獲得する場合もある、とのこと。(教授は2004年の米国における事例を紹介されています)このような経済的利益に見合わない議決権株式を、投資ファンドが行使する(空議決権行使)ことになりますと、投資ファンドと、その他の株主との間において明らかな利益相反関係が生じる可能性がありますし、そもそも従来の会社法は、どの株主も企業価値の向上を望んでいるという単純な仮定を基礎として議決権の配分を考えてきたわけでありますが、そのシンプルな仮定を基礎とすることができなくなってくる、というものであります。

私は(毎度の言い訳でありますが)M&Aに詳しい弁護士でもありませんので、単なる感想でありますが、株主間の利益相反が現実化するような場面であれば、たとえばこのたびのサッポロHDに対するスティールの提案変更(66%取得→33%取得へ)につきまして、スティールの側が首尾よく33%を取得した場合、たとえそこで買い進めることなく、踏みとどまっていたとしても、そこでは「株主共同利益」という概念を想定できない事態というものも、あり得るように思うのですが、どうなんでしょうか。もちろん理論上では経営権を保有する目的ではありませんので、自らの経営計画などを示す必要はなく、また権限分配法理とも無関係であると思われますが、金融工学を駆使して、空議決権行使を行う可能性があるファンド、ということでしたら、企業価値の向上ということからすれば、あまりにも大きな障碍になるのではないか、という疑問が生じます。だからといって、事前警告型の買収防衛策が容認される、とみるのは論理の飛躍があるかもしれませんが、やはり買収防衛策が「株主共同利益の確保」を目的とするものである以上、「株主共同利益」を概念しえない状況を現出させてしまう前になんらかの手を打つことの当否についても検討されていいのではないでしょうか。また、このあたりは詳しい方にもご教示いただきたいところであります。

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2008年3月11日 (火)

「内部統制報告制度に関する11の誤解」金融庁公表(速報版)

本日、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)施行直前にあたり、金融庁より内部統制報告制度に関する11の誤解が公表されております。

基本的に、これまでの金融庁の見解や、企業会計審議会内部統制部会の方々の個人的な見解と変更はございませんが、「この時期に」改めて金融庁の見解が述べられることについては、「メリハリのある内部統制報告制度」、「費用対効果を考えた内部統制システムの構築」を再確認する意味があろうかと思料いたします。

なお、11の誤解のうち、4番目の誤解についてはご注目いただきたいと思います。(私も2月の講演会でも何度も申し上げたところであります。)中小の上場企業向けの指針が「実施基準」には不足しているものと感じておりますが、「中小企業の実態を踏まえた簡素な仕組み」について、再確認されております。(総合解説内部統制報告制度 117ページ参照)「代替統制」につきましても、その代替しうることの合理性評価の要点は講演で述べさせていただいたとおりですし、(実施基準でも記載されているにもかかわらず、あまり議論の対象となっていなかった)企業外部専門家のモニタリングを利用することにつきましても触れられております。ぜひぜひ、中小の上場企業の担当者の方にとりましては、費用対効果を目指した内部統制報告制度の導入につき、この4月からじっくり検討していただければ・・・と思います。

また、9番目の誤解(プロジェクトチーム等がないと問題か?)につきましては、私の講演ではとりあげておりませんでしたが、「既設部署の活用」や「企業外部専門家の利用」など、これも中小の上場企業にとってはありがたい記述がなされております。私の感覚からしますと、4番目にしても9番目の誤解にしても、「外部専門家を利用すること」については往々「短時間で社内のシステムがわかるはずがない」と批判される向きもございますが、そもそも外部専門家を活用する「勇気」を持っている企業の場合、ガバナンス構築については精力的なところが多いわけでして、外部専門化を活用すること自体、「統制環境」が良好と評価してもいいのではないかと考えております。(すべて・・・とは申しませんが、私のこれまでの経験からの実感であります。とりいそぎ、執務中ですので速報版ということで失礼いたします)

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内部通報制度の運用はむずかしい・・・

読売新聞ニュースによりますと、一昨年の4月に内部通報制度の窓口業務に従事されていた弁護士の方が、会社側に匿名で連絡をしなければならなかったところを、実名で連絡をしてしまったことで、所属弁護士会の綱紀委員会より「懲戒相当」の決議を受けたようであります。以下、報道内容の要旨のみ。(ちなみに、3月10日読売夕刊には、トップ記事として掲載されております)

 第2東京弁護士会綱紀委員会は、トヨタ自動車販売店グループの「社内通報窓口」を担当する男性弁護士を、4日付で「懲戒相当」と議決した。相当とする理由は、内部告発者の実名を会社側に伝えたことが、弁護士の職務上の秘密保持義務に反し、弁護士の品位を失う非行にあたる、というものである。今後、同弁護士会懲戒委員会が処分するかどうかを審査することになるが、社内不正を告発した従業員に対する会社の不利益な処分を禁じた「公益通報者保護法」施行から4月で2年になるが、告発者の保護を巡って弁護士の責任が問われるのは異例のことである。

 このトヨタ社の男性社員は2006年4月5日、同社グループが弁護士事務所に設置していた内部通報窓口に電話し、同弁護士に名前と所属部署を告げて架空販売・車庫飛ばし事件を告発したところ、その翌日、会社から自宅待機を命じられた。通報窓口は原則、弁護士が実名で通報を受け付け、会社側には匿名で通知することになっていたが、この社員については会社側に実名を伝えていた。社員は同弁護士会に懲戒請求を申し立てた。綱紀委員会は「(社員が)実名通知を承諾していたとは言えない」とし、職務上知り得た秘密の保持を義務付けた弁護士法23条違反にあたると判断した。

 「告発者が希望しない限り、会社側に実名を通知することはあり得ない」と、同弁護士は話している。

2006年10月10日に大阪トヨタの社員4名が中古車架空販売によって大阪府警に逮捕されておりましたが、その4ヶ月ほど前である6月3日の読売、朝日の各新聞において、この「自宅待機命令」にまつわるトヨタ自動車販売グループのヘルプラインの問題点が報じられておりましたので、おそらく、このときの事件に関わる内部告発の件だと思われます。なお、大きく採り上げられたのは2006年9月の こちらの記事であります。また、記事では「公益通報者保護法」を紹介しておりますが、内部通報制度(ヘルプライン、ホットラインと呼称されるもの)と公益通報者保護法制やセクハラ相談窓口などとは似ているところもありますが、別個の制度でありますので、その相違点もまた理解しておく必要があります。

報道内容を読むかぎり、T社社員は実名を会社に通知されることを承諾しておらず、いっぽうの窓口弁護士側は、会社に通知したことは認めるが、それはT社社員の承諾があったからである、ということのようでして、「告発者の承諾の有無」が争点のようであります。そもそも、ヘルプライン(内部通報制度)の窓口を外部に設置すること自体、告発者の職務上の地位の安全を最優先に考えてのことですから、告発者が特定されないよう、会社側に告発事実を伝えるのが原則であります。そのうえで告発者が特定できる事項につきましては、事実認定のためにどうしても不可欠な場合などに限り、告発者の明確な意思を確認したうえで、規約上で限定された者に対してのみ通知することになるわけですから、おそらく内部通報規約上の手続に則って告発者の意思を確認することが不十分だった可能性が残ります。しかし、こういった事態が発生しますと、せっかくの外部窓口も「安全地帯ではない」ということで、内部通報制度の実効性、信頼性が失われてしまうことを危惧いたします。とりわけ、今回のT社社員の告発内容からしますと、(私の経験からして)年に1回あるかないかの、かなりキワドイ告発事実でありますので、(現実には、その後組織ぐるみでの犯行であったことが判明し、逮捕者まで出したわけですから)その取扱いには細心の注意が必要ではなかったかと推測されます。

さて、内部通報制度の運用にあたっては、ご承知の方もいらっしゃると思いますが、いろいろとムズカシイ問題も出てきます。たとえば上記の事例におきまして、内部通報により、社内の犯罪行為が発覚し、その事実確定作業もほぼ終了した段階で、告発人から「やっぱり、自分の立場が悪くなるのが嫌なので、告発を取り下げたい」と申出があった場合、会社としてはどうしたらいいのでしょうか?また、犯罪行為とまでは明白にいいがたい、たとえばセクハラ事例などにより、社内規則違反が発覚した場合に、告発人からの取り下げがあった場合はどうでしょうか?また、社員による告発事実が、重要な取引先も関与しているような違法行為の場合はどのように対応したらよいのでしょうか?(自社の事実確定作業だけをもって、共謀事実全体を公表してもだいじょうぶでしょうか?それともなんらかの連携が必要でしょうか?)実際に、内部通報窓口業務をやっておりますと、いろいろな難問にぶつかるわけでありまして、弁護士としては「自らの行動が、ひょっとして懲戒事例にあたるのではないか・・・・?」と常に自問自答しながら隠密裏に判断していかなければならないことが多い業務であります。

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2008年3月10日 (月)

スルガコーポ事件にみる弁護士法違反リスク

東証二部のスルガ・コーポレーション社が大阪の建設会社に「地上げ」依頼(示談行為の委託)を行っていたことにつきまして、すでにいろいろなブログでも感想が述べられておりますが、このスルガコーポ社の依頼先企業による「弁護士法違反事件」につきまして、tetuさんより、またご質問をいただきました。

(スルガ・コーポレーション取引先の事件概要から)先生はこんな企業の社外の監査役に入られたら、どう対応されるのでしょうか。建前ではなく、本音のところで教えていただきたいと思うのです。そもそものビジネススキームとして違法なところ、あるいは違法性の高いところはたくさんあるように見受けられるからです。そして一生懸命コンプライアンスに邁進している正直者とそうでないところの差が気になるのです。規制緩和を声高に叫んで一儲けした人たちを見ると、単なる権力闘争だったと思うからです。

一連の報道をみたかぎり、スルガコーポ社が取引先フロント企業を活用して収益を上げていたことに非難が集中しているようでありますが、この事件では問題をふたつに整理したほうがよろしいのではないでしょうか。ひとつは当然のことながら上場企業が反社会的勢力(いわゆるフロント企業)と接点をもっていた点でありますが、もうひとつは(相手が反社会的勢力かどうかにかかわらず)依頼先企業による弁護士法違反行為を助長していた点であります。この後者の点につきましては、このたびの事件で「ドキ!」っとされていらっしゃる企業様もいらっしゃるのではないかと思います。仲介業者さんのような立場の方々に、立ち退き交渉を依頼されている企業もひょっとしたら他にもあるかもしれません(私の経験上)。また、ズバリ「弁護士法違反」とまではいえなくても律事務を委任して、手数料らしきものを払っている」ような「グレーゾーン」の行動というものは、不動産業以外の世界でも散見されるところだと思います。今回、私的に当該事件で一番注目しておりますのは、こういった「弁護士法違反リスク」のようなものが、このたびの摘発によって、また新たな企業リスクとして浮かび上がってくるのではないか、と思われる点であります。「法律事務」に該当するかどうか、「単なる使者」ではなく、委任による代理人に該当するかどうか、その委任事務によって「報酬もしくは手数料」を受け取っていると評価されるかどうか、など、仔細に検討してみますと、弁護士の数が少ない日本の企業社会にはけっこう「グレーゾーン」が多いのが実態であります。このたび、警察がフロント企業の「反社会性」「組織的収益性」に正面から光を当てて摘発したのであれば別でありますが、少なくとも表向きは、フロント企業の反社会性を捉えて摘発したものではなく、どこにでもありそうな「弁護士法違反」に着目して摘発したわけですので、今後の当該事件の展開次第では、一般企業のコンプライアンス経営にも影響を与えそうな、とてもナーバスな問題点を含んでいるように感じております。

さて、「もし私がこのスルガコーポ社の監査役だったらどうするか」といったご質問へのお答えでありますが、検討するにあたりまして、私がどの時点において社外監査役であるか、によって場合分けをしなければならないと思います。昨年6月、つまり取引先金融機関によって、「あそこはフロント企業だから取引は避けたほうがいいですよ。」と指摘される時点より以前に監査役に就任した場合と、金融機関から指摘を受けました平成19年6月以降に就任した場合とで分けて考えるべきだと思います。これまでの新聞報道によれば、スルガコーポ社は社長自身が(担当役員に「だいじょうぶか?」と聞きながらも)「架空売買契約書」に決裁印を押捺していたことが判明しておりますので、おそらく役員会を構成するメンバーの方々も、フロント企業に対する「地上げ行為」の依頼の事実は知っていたのではないでしょうか。ただ、「反社会性の認識時点」につきましては、まだ確定したものではありませんので、ここで平成19年6月以前に「知っていた」というのは、取引先が反社会的勢力ということ知っていたことではなく、すくなくとも委託先において弁護士法違反のグレーな行為が行われることと、架空の売買契約のでっちあげに自ら組織的に関与することを知っていたこと、という意味であります。

そこで、まず私が平成19年6月以前に社外監査役として就任している場合でありますが、反社会的勢力かどうかは別として、上場企業が、弁護士法違反の疑いのある行動を(委託先が)行うことについて容認をすること、しかも賃借人を「仮想売買」によって騙して退去を求めることについては、絶対に許容できるものではありません。したがいまして、監査役の立場としましては、私が知っていたらかならず阻止する行動に出るでしょうし、それでも経営判断で経営トップが敢行するのであれば、私が監査役であれば辞任すると思います。たしかに報じられているところによりますと、このフロント企業に地上げを依頼する直前のスルガコーポ社の経営状況は急激に悪化していたようでありまして、フロント企業への交渉委託は「藁をもすがるつもり」で決断されたようでありますが、「弁護士法違反行為(72条問題)」に対する昨今の司法制度の厳格な対応や、マネロンに関する摘発強化の環境などを考慮するならば、あまりにも経営成績の挽回を狙うには不正リスクが大きすぎます。

いっぽう、取引先が反社会的勢力であることを経営トップが知ってしまった(とされる)昨年6月以降に社外監査役に就任した場合は、どうでしょうか。まず、企業コンプライアンスの見地からみて、将来にわたって、契約関係を解消するための努力はするのは当然だと思われます。しかし、反社会的勢力との取引があったこと(および現在もあること)を、自らすすんで公表することはなかなかできないかもしれません。このたび、事件が報道されて以来、スルガコーポ社の株式がストップ安で推移していることから明らかなとおり、企業と反社会的勢力との癒着構造というものは、市場から最も忌み嫌われるところであり、これを公表することで会社が背負うブランドの毀損については、そのリスクの大きさを経営者として測ることが困難だからであります。将来的に反社会的勢力との関係を断絶すれば過去の癒着問題は法的に問題ないのではないか、そのために平成19年6月以降、元警察庁生活安全局長の方や、さいたま地検の元検事正だった方を役員に迎え入れ、安全に関係解消を図ろうと考えていたのではなかろうか、とも考えられます。したがいまして、テナントとは比較的高額な立退料によって示談が成立している以上は、すでに弁護士法違反を助長してしまった事実につきましては、そのまま隠匿しておけば済むのではないか、と(監査役としても)考えるかもしれません。また、わざわざ株価が急落しそうな事実を、自ら公表することが、株主から委任を受けて監査役に就任した者として妥当な対応かどうかは悩むこともあるかもしれません。

しかしながら、あのダスキン高裁判決が「過去の違法事実を公表しない」とする取締役、監査役の決断に下した判断(法的責任)を前提とした場合、たとえ自ら違法行為に手を染めたものではないとしても、委託先の違法行為を助長したことや、反社会的勢力を利用したことについて、公表しないとする行動が法的に容認されるものでしょうか?もしスルガコーポ社の上場企業としての持続的経営が、社会的に要請されるのであれば、たとえその時点で公表に踏み切ったとしても再建できる可能性は残っているはずであり、これを隠匿して、後で実態が暴露されるときの社会的信用の失墜に比較すれば正しい選択ではないかと私は考えます。ましてや、反社会的勢力との接点がある、ということは、単に将来的に関係解消をはかろうとしても、その癒着は簡単には解決しない問題でありまして、断絶のための「公表行為」に至らなければ完全な解消を図ることはできないのが現実ではないでしょうか。とりわけ本件では、反社会的勢力に狙われた上場企業というよりも、反社会的勢力の力を積極的に活用したわけでありますので、単に将来的に関係を解消しよう、との意図だけで、本当に解消できるはずはないわけでして、そこには「公表の覚悟」がなければ、本当の排除はありえないと思います。本件はすでに昨年の11月の時点では、すでに警察による内偵が行われていたそうでありますが、100を超えるテナントの明け渡しをこのフロント企業に委託していた以上、反社会的勢力とのつながりだけでなく、弁護士法違反によるリスクが顕在化する可能性は高いはずだと思いますし、反社会的勢力との癒着の問題を含めて、発覚の確率は高いものだったと思われます。そのような重大なリスクに思い至らなかったのであれば、かなり問題ではないかと思います。

まぁ、そもそも社外監査役に就任する時点で、「あやしい」と思えば就任することはないわけでありますが、やはり「グレーな行為を知ってしまった」場合を想定しますと、自分の身の処し方を含め、おおいに悩むところではないかと思われます。しかし、一般企業におきましても、たとえば相手方代理人弁護士から突然「警告書」が届いた場合など、まず最初に税理士さんや会計士さんに対処方法を相談したりするケースもあるのではないでしょうか?どこからが「法律事務」に該当するのか、微妙だとは思いますが、今後、一般の企業に発生する「弁護士法違反行為」リスクにつきましては、一度きちんと問題点をまとめておいたほうがよろしいのではないかと思います。弁護士法72条違反の事実を発生せしめてしまうことは、企業自身の違法行為を構成するものではないとしましても、発覚時に大きな社会的信用の毀損にもつながる可能性があり、今後の要注意リスクのひとつであります。

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2008年3月 6日 (木)

赤福の好業績にひそむ「落とし穴」

赤福問題を連日採り上げたときに、コメントをいただだきました方より、本日メールを頂戴いたしました(どうも、ありがとうございます)。メールの内容は以下のとおりであります。

先生のブログで一度だけコメントさせていただいた△△△です。
赤福のその後談ということで、お聞き流しいただく程度の内容ですが、ご報告させていただきます。
ご存知かもしれませんが、3月3日より名古屋駅の駅売店等でも、赤福の販売が再開されました(それまでは、名古屋では百貨店の直営店で2個入りのみ限定販売)。
KIOSKでは、1日に3回入荷があるそうなのですが、いずれも1時間程度で売り切れてしまうという人気振りだそうです。私も本日夕刻行ってきましたが、30-40人が行列をなしており、KIOSKも専用レジを設けて、レジ以外に5名程度の社員が行列の整理を行っていました。
いずれ熱気もおさまるでしょうが、営業面は問題なさそうです。
どんな不祥事をおこそうとも、代替品のない強力な老舗ブランドに対するお客さんの支持には根強いものがあるということですね。

私もこのたびの赤福騒動後におけるニュースなどをみておりまして、「いったい、あの騒ぎはなんだったんだろうか」と思うほどの好業績にビックリしております。品質偽装といいましても、やはり「健康被害」を出していなかったわけでありまして、「消費者のほうを向いて商売をしていなかったことへの反省と再発防止への真剣な対応」が顧客に大きな安心感を抱かせたのではないかと思っております。

では△△△さんのおっしゃるように、「代替品のない強力な老舗ブランドに対するお客さんの支持」があれば、(すくなくとも健康被害がないかぎりは)不祥事が発生しても安泰かといいますと、それは少し結論を待った方がよろしいのではないか、と考えております。これは私のリスク管理に関する考え方からでありますが、「一度不祥事を起こして、大きくマスコミに採り上げられた企業は、今後相当の時間が経過するまでは、些細な不祥事であってもまた大きく採り上げられるリスクを抱えている」からであります。昨年、あまりにも悲しい事故を発生させてしまった大阪のエキスポランドでありますが、事後から1ヶ月も経過しないうちに営業を再開させたところ、ふたたびジェットコースターが運転途中で停止する、ということがありました。入園者数が回復していた矢先の(どこの遊園地でも発生しかねない)事故でありました。このとき、車両故障の報告を大阪府に届けておけばよかったのでありますが、これを届けていなかったために、車両故障を起こしたことよりも、報告をしなかったことがマスコミに大きくとりあげられ、結局「無期営業停止」となりました。(「この程度の事故であれば、とくに届ける必要はないと判断した」という役員の方のリリースが印象的でありました。なお昨日、営業再開のめどが立たないために、40人を解雇することになったのはニュースのとおりであります)おそらく、これが他の遊園地であれば、報告を必要としなかったケースであったとは思いますが、あれほどの事故を発生させてしまった遊園地だからこそ、「以前とは異なる対応」をしなければ、「不祥事体質がなんら変わっていない」と評価されることになります。いったん社会の耳目を集めるような不祥事が発生した企業にとって、どんなに社会的評価が回復し、また株価が回復したとしましても、同業他社と比較して、ふたたび不祥事によって信用が低下するリスクについては不利な立場にあることは否めないところではないでしょうか。

たしかに赤福社の場合、品質偽装問題についての再犯防止策がきっちりと履行されていたとしましても、たとえば労働問題や個々の社員の不法行為に関する問題など、普段であれば、大きなニュースソースにはならないために、あまり採り上げるほどの価値のない事件でありましても、これが赤福社で発生した、ということであれば「まだまだ不祥事体質が残っている」とされ、品質偽装以外の不祥事による社会的評価毀損リスクが発生しやすくなっていることは留意すべき点であると思います。さらに、大きな不祥事が発生していなければ、特に問題視もされず、内部告発もされないような出来事さえ、「あの赤福がまた」といった関心の高さから、内部告発によって表ざたになってしまうリスクも高いものと考えられます。いったん不祥事企業としてのレッテルを貼られてしまった企業の場合、他の企業であれば全く問題にされないような不祥事であっても、それが大きく採り上げられてしまうリスクというものは、代替競争品が存在しないような老舗企業でありましてもそれほど短期間には低減しないものでありまして、そこに「不祥事企業にひそむ落とし穴」があることを、十分認識しておく必要があると思います。

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2008年3月 5日 (水)

金融商品取引法改正と企業コンプライアンスへの影響度

金融商品取引法等の一部を改正する法律案の概要が金融庁HPにアップされておりますが、3月4日、政府はこの改正案を閣議決定した、とのことであります(日経ニュースはこちら)銀証分離の見直し、ファイアーウォール規制の見直し、利益相反管理体制の構築など、多様で質の高い金融サービスの提供のための制度作りについても大森氏の著書を愛読している私的には非常に関心がありますが、当ブログのこれまでの注目点としては、やはり課徴金制度の見直し(公正・透明で信頼性のある市場の構築)に関する内容であります。現行の課徴金の金額水準を引き上げ、対象範囲を拡大し、さらに加算制度、減算制度を導入することとなりましたので、基本的に「利益はきだし(不当な利得を返還させる)制度」から「実質的な罰則制度」へと転換することとなります。(そもそも加算制度を導入する以前に、現行の課徴金の金額算定基準が変更されるわけですから、加算制度を論じるまでもなく、課徴金はペナルティになったと言っていいのでしょうね)

HPにアップされております「概要」を読みますと、「課徴金の減算制度」に関する解説にて「コンプライアンス体制の構築の促進、再発防止の観点から、当局の調査前に以下の違反行為を報告した場合には課徴金を半額に減算(する)」とありまして、対象となる違反行為は自己株売買によるインサイダー取引、発行開示書類・継続開示書類の虚偽表示、大量保有報告書の不提出とされております。再発防止の観点からの減算・・・というのはすぐに理解できるのでありますが、こういった対象違反行為を自主申告することと、コンプライアンス体制とはどのように結びつくものなのか、少し明確ではないものと思います。たとえばこのたび法定化される四半期報告書に「重要な事項」において虚偽記載があった場合、その虚偽記載について企業側に故意、過失が認められなくても「ペナルティとしての」課徴金が課せられる事態が想定されるわけでありますが、そのあたりから考えてみますと、おそらく①重要な事項において虚偽の記載とならないよう社内の「開示統制システム」を構築することと、②うっかり虚偽記載が発生した場合でも、その虚偽記載を速やかに発見できるような内部統制システムの構築、③そして企業自身が虚偽報告を発見した場合には、これを隠蔽することなく速やかに公表する体制を具備すること等が、コンプライアンス体制として要求されることになるものと思われます。自己株売買におけるインサイダー取引についても、ほぼ同様のことが言えるのではないでしょうか。(なお、「調査前か否か」というのは、そもそも企業側において申告前に認識することは可能なのでしょうか?)

すこし疑問に思いますのは、重要な事項に関する「うっかり虚偽記載」(金商法172条の2)のようなものは、多くの企業で発生する可能性があると思いますし、とりわけ四半期報告制度への適用(同条第2項)が開始されますと、なおさらのことではないかと予想されるところであります。もし証券取引等監視委員会に対して「うっかり虚偽記載」をしてしまった上場企業が、大量に申告を行った場合には、証取委はすべて調査のうえ(減算してでも)課徴金を課すことになるのでしょうか?これまでは、こういった減算制度というものがなかったために、かならず証券取引等監視委員会による調査が先行しているものでありまして、(その調査能力を理由として)狙いをさだめた企業のみが対象となっていたからこそ、委員会の能力に見合った結果を残してこられたものだと考えられます。しかしながら、企業コンプライアンスと減算制度(自主申告)とを結びつけて考えますと、企業側からみて、課徴金の対象となる「重要事項の虚偽記載」かどうかが不明(グレー)であったとしても、とりあえず申告しておこうということになり、証券取引等監視委員会の調査能力を超える事態になってしまう、ということは心配しなくてもいいのでしょうかね?私の理解がまちがっていなければ、この改正案を読みましても、これまでどおり、課徴金の賦課処分は行政裁量の余地がないものであり、賦課すべき違反行為を見つけた場合には、かならず処分を下さなければならないことになりそうであります。(加算制度に関する解説を読みましても、行政裁量の余地がないように思えます)ということは、申告された事案については、手を抜くことなく、いずれも厳格な調査活動を要することになり、本来、ピンポイントで狙いをしぼっていた事件への調査などに支障を来たすようなことにはならないのでしょうか?

いずれにしましても、この金融行政の場面で、これまで以上に課徴金制度が多用され、その実効性が高まりますと、その後に控えているであろう、消費者行政庁(新設)における被害者救済制度として導入される課徴金制度への期待も高まることになるでしょうし、司法制度から離れたところでの企業コンプライアンスのあり方に、ますます注目が集まるようになるのではないかと危惧しております。

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2008年3月 4日 (火)

なかなか続報が出てこないICF事件

昨日のエントリーには3名の方々よりコメントをいただき、またメールも頂戴いたしまして、どうもありがとうございました。(たいへん参考になりましたです。)またきちんとお返事を書かせていただきますが、私が思っていた以上(といっては失礼でありますが)に、内部監査に携わっておられる方はポジティブに活躍をされているんですね。ただ、財務報告につきまして、内部統制報告書と同時に経営者は確認書を提出されるわけですから、現場の意気込みが経営者に伝わっていることが必須の条件だと思います。どうか経営者の認識と、内部監査人のご活躍が分断されることなく、運用されることを期待しております。(なにか問題が発生したときに、「内部監査人任せで、私は知らなかった」という言い訳は、もはや通用しないと言われておりますので)

さて、本日はとくにムズカシイお話ではございませんが、例のアイ・シー・エフの事件について、関係者逮捕以降の報道がまったくなされておりませんので、少しばかり気になっております。(ブログなどでもほとんど採り上げられておりませんね。)先週、元NHKの記者だった方からお聞きしたのでありますが、もともと大阪府警四課(暴対)の事件というのは、記者さんにとっても情報がなかなか入手しにくいところのようでありますが、そのような理由とは別に、マネロン(マネーロンダリング)が絡んだ事件ということで、ひょっとすると報道管制(報道機関による自主規制)が敷かれている可能性があるのではないか、とのことでありました。ただ、そういった場合には、週刊誌系の記者さん方がスクープとして採り上げることがあるとのことですので、もうそろそろ何らかのニュースが流れてもいい頃ではないかなぁと思ったりしております。

また、梁山泊グループに株の買占めをされ、毅然とした態度でこれを排除したビーマップ社の社長から、対応についての相談を受けた方のお話を聞く機会がございましたが、このビーマップ社の杉浦氏は「なかなか立派な対応だった」そうであります。かなり勇気のいる決断だったかとは思いますが、やはり反社会的勢力を排除する企業姿勢も、経営トップの対応が一番重要であることを認識した次第です。ただ、お話を聞いておりますと、「反社会的勢力の排除」と口で言うのは容易でありますが、実際に「反社会勢力」であるかどうか、認識し、証明することは困難が伴うようですね。実際にも、文部科学省認可団体である「日本○○家庭文化協会」なども、反社会的勢力が実質上は掌握していたようでありますし、現在も、たくさんの公益団体等を利用して、さまざまな企業から情報を入手している反社会的組織も多い、とうことでありますので、不審なアンケート回答依頼等につきましては要注意と思われます。

(PS)会計士さんの不祥事といえば、なにやら30代の会計士さんが、インサイダー取引によって課徴金納付命令の勧告を受ける方針などと報道されておりました。新日本監査法人さんの代表者の方々が謝罪をしておりましたが、あれは監査法人さんが謝罪をしなければいけないのでしょうかね?監査法人さんに期待されている品質管理は、監査の独立性や監査リスクに関連するものであって(たとえば粉飾への関与とか、重大な虚偽表示を見逃してしまったとか)、会計士さんの職業人としての倫理教育まで監査法人さんの責任とされているものなのでしょうか?そもそも公認会計士さん方の職業人としての倫理教育に関する責任は、監督官庁である金融庁や公認会計士協会にあるのであって、むしろそれらの方々が謝罪をする立場ではないのでしょうか?(外部の者ですので、事情をよく存じ上げないままでの感想でありますが)「インサイダー取引禁止」などという問題は、たとえ公認会計士さん方が、重要事実にアクセスできる立場にあるとしましても、監査人としての品質管理以前の問題であり、いわば一般的な犯罪行為に手を染めてはいけない、という人間教育と同じレベルの問題ではないかと思ってしまうのですが。

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2008年3月 3日 (月)

インダイレクト・レポーティングを採用するJ-SOX上の悩ましい課題

最近、何名かの方に同じ質問を受けたのでありますが、金融商品取引法上の内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)がインダイレクト・レポーティングを採用しているがゆえに、運用テストにあたっていろいろな問題にぶつかっている担当者の方もいらっしゃるようであります。私自身も一緒に考えておりますが、明解な答えはまだみつかっておりません。

経営者は一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準にしたがって、自社の財務報告に関する内部統制の有効性を評価し、これを報告するわけでありますが、内部統制監査人(いわゆる監査法人)はこの報告内容が適正であるかどうか、一般に公正妥当と認められる内部統制監査の基準にしたがって監査をすることになります。そして、外部監査人が経営者評価報告を適正と表明するかどうかは、原則として経営者自身による評価根拠と、評価の過程を斟酌して判断するものであり、みずから評価根拠を入手ものではないとされております。(インダイレクト・レポーティング)しかしながら、実際のところ、全社的内部統制の有効性にせよ、業務プロセス、決算財務報告プロセスにせよ、経営者が直接評価することもできないわけで、そこで実際には内部監査人や経理部等の評価自体が経営者評価の根拠となるわけであります。外部監査人(監査法人)による監査にしても、ダイレクトレポーティングが採用されていないわけですから、評価根拠としては、内部監査人による評価や監査役による評価に依拠する場面も多くなるものと思料いたします。

さて、そうなりますと、内部統制報告制度にとりましては、期中における監査法人、監査役、内部監査人等の連携協調は非常に重要な役割を担うことになりますが、社内におけるモニタリング機能をどこまで及ぼすべきか、という現実の問題が生じることになりそうであります。たとえば、人事部の人事評価に関する記録は内部監査人(経営者直結)が閲覧しなければならないのか、監査役による取締役会や取締役の評価調書(監査役会議事録等)は内部監査人に閲覧させなければならないのか、内部通報制度の具体的な事件記録は閲覧の対象となるのか、コンプライアンス委員会やリスクマネジメント委員会のように社外委員が多数含まれている議事録の内容も閲覧の対象になるのか等、様々な場面が想定されます。これらにつきまして、たとえば高度の守秘義務を負う監査法人さんにおいて、直接閲覧することであれば(つまりダイレクトレポーティング)、それほど大きな問題は生じないものと思いますが、社内の内部監査室や監査役が閲覧して、全社的内部統制の有効性評価の参考とするのであれば、おそらく社内で抵抗される方々もいらっしゃるのではないでしょうか。たしかに、実施基準によりますと、Ⅰ内部統制の基本的枠組み4の(4)におきまして「内部監査人がその業務を遂行するには、内部監査の対象となる組織内の他の部署からの制約を受けることなく、客観性を維持できる状況になければならない」とされておりまして、いかなる内部文書も(内部監査人の独立的な立場上)自由に閲覧できるような状況が期待されているのかもしれませんが、現実問題としましては、内部監査人は経営者直轄の組織に属することからみて、各部署における意思形成過程に萎縮的効果を与えてしまう恐れがあるのも事実であります。(そもそも、財務諸表監査に伴う内部統制監査として、監査法人さんが評価対象とする範囲ものであれば、ダイレクトレポーティングの対象と考えることもできそうでありますが、さきほど挙げた問題点は、そういった対象となるものでもありませんので、新たに施行される内部統制報告制度における評価項目のみに関連するものだと思われます。)たとえば、以下に掲げるような評価項目は、内部監査人(といいますか、評価する人)が、その評価にあたって、各部署の保存記録等を閲覧すべきではないか、と思われる根拠となる項目であります。(ご参考まで)

(参考1)財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例

(統制環境)

・経営者は、問題があっても指摘しにくい等の組織構造や慣行があると認められる事実が存在する場合に、適切な改善を図っているか

・経営者は、信頼性のある財務報告の作成を支えるのに必要な能力を識別し、所要の能力を有する人材を確保・配置しているか

(情報と伝達)

・内部通報の仕組みなど、通常の報告経路から独立した伝達経路が利用できるように設定されているか

たしかに、全社的内部統制に関する42の評価項目は、重要な判断指針ではありますが、すべての上場企業でチェックリストのように利用する必要はなく、むしろ各企業においてどの項目を重視してチェックすべきか、合理的な説明がつくのであれば、項目に軽重をつけてもいいと思いますし、省略できる評価項目もあってかまわないのではないでしょうか。全社的内部統制の有効性評価のための42項目の活用につきましても「メリハリ」の問題でありまして、重大なリスクが存在する可能性があれば文書の閲覧も必要でしょうし、そうでなければ、委員会メンバーや監査役等へのヒアリングだけでもチェック可能ではないかと考えております。人事評価調書にせよ、内部通報処理報告書にせよ、文書化(記録および保存)することは当然だと思われますが、その内容まで精査しなければ全社的内部統制の有効性が評価しえないような場合以外にまで、内容の検討が必要性はないものと考えております。また、内容検討の必要性がある場合でも、たとえば評価を外部に委託したり、コンプライアンス委員会に評価を委ねるなど、代替手段も考えられるのではないかと思います。

ただ、リスクマネジメント委員会やコンプライアンス委員会の議事録等につきましては、全社的内部統制の有効性を評価する根拠という理由以外にも、業務プロセスの評価範囲を決定したり、評価方法の簡素化を検討するための根拠理由が示される場合もありそうですし、また財務報告に係る内部統制システムの改善をはかるためのヒントも記載されている可能性もありますので、すくなくとも内部監査人は閲覧のうえ内容を精査する必要性があるかもしれません。以上、いろいろと検討してきましたが、まだこのあたりは私も検討中のところでありまして、また有益なご意見ございましたら、よろしくお願いいたします。

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