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2008年3月 5日 (水)

金融商品取引法改正と企業コンプライアンスへの影響度

金融商品取引法等の一部を改正する法律案の概要が金融庁HPにアップされておりますが、3月4日、政府はこの改正案を閣議決定した、とのことであります(日経ニュースはこちら)銀証分離の見直し、ファイアーウォール規制の見直し、利益相反管理体制の構築など、多様で質の高い金融サービスの提供のための制度作りについても大森氏の著書を愛読している私的には非常に関心がありますが、当ブログのこれまでの注目点としては、やはり課徴金制度の見直し(公正・透明で信頼性のある市場の構築)に関する内容であります。現行の課徴金の金額水準を引き上げ、対象範囲を拡大し、さらに加算制度、減算制度を導入することとなりましたので、基本的に「利益はきだし(不当な利得を返還させる)制度」から「実質的な罰則制度」へと転換することとなります。(そもそも加算制度を導入する以前に、現行の課徴金の金額算定基準が変更されるわけですから、加算制度を論じるまでもなく、課徴金はペナルティになったと言っていいのでしょうね)

HPにアップされております「概要」を読みますと、「課徴金の減算制度」に関する解説にて「コンプライアンス体制の構築の促進、再発防止の観点から、当局の調査前に以下の違反行為を報告した場合には課徴金を半額に減算(する)」とありまして、対象となる違反行為は自己株売買によるインサイダー取引、発行開示書類・継続開示書類の虚偽表示、大量保有報告書の不提出とされております。再発防止の観点からの減算・・・というのはすぐに理解できるのでありますが、こういった対象違反行為を自主申告することと、コンプライアンス体制とはどのように結びつくものなのか、少し明確ではないものと思います。たとえばこのたび法定化される四半期報告書に「重要な事項」において虚偽記載があった場合、その虚偽記載について企業側に故意、過失が認められなくても「ペナルティとしての」課徴金が課せられる事態が想定されるわけでありますが、そのあたりから考えてみますと、おそらく①重要な事項において虚偽の記載とならないよう社内の「開示統制システム」を構築することと、②うっかり虚偽記載が発生した場合でも、その虚偽記載を速やかに発見できるような内部統制システムの構築、③そして企業自身が虚偽報告を発見した場合には、これを隠蔽することなく速やかに公表する体制を具備すること等が、コンプライアンス体制として要求されることになるものと思われます。自己株売買におけるインサイダー取引についても、ほぼ同様のことが言えるのではないでしょうか。(なお、「調査前か否か」というのは、そもそも企業側において申告前に認識することは可能なのでしょうか?)

すこし疑問に思いますのは、重要な事項に関する「うっかり虚偽記載」(金商法172条の2)のようなものは、多くの企業で発生する可能性があると思いますし、とりわけ四半期報告制度への適用(同条第2項)が開始されますと、なおさらのことではないかと予想されるところであります。もし証券取引等監視委員会に対して「うっかり虚偽記載」をしてしまった上場企業が、大量に申告を行った場合には、証取委はすべて調査のうえ(減算してでも)課徴金を課すことになるのでしょうか?これまでは、こういった減算制度というものがなかったために、かならず証券取引等監視委員会による調査が先行しているものでありまして、(その調査能力を理由として)狙いをさだめた企業のみが対象となっていたからこそ、委員会の能力に見合った結果を残してこられたものだと考えられます。しかしながら、企業コンプライアンスと減算制度(自主申告)とを結びつけて考えますと、企業側からみて、課徴金の対象となる「重要事項の虚偽記載」かどうかが不明(グレー)であったとしても、とりあえず申告しておこうということになり、証券取引等監視委員会の調査能力を超える事態になってしまう、ということは心配しなくてもいいのでしょうかね?私の理解がまちがっていなければ、この改正案を読みましても、これまでどおり、課徴金の賦課処分は行政裁量の余地がないものであり、賦課すべき違反行為を見つけた場合には、かならず処分を下さなければならないことになりそうであります。(加算制度に関する解説を読みましても、行政裁量の余地がないように思えます)ということは、申告された事案については、手を抜くことなく、いずれも厳格な調査活動を要することになり、本来、ピンポイントで狙いをしぼっていた事件への調査などに支障を来たすようなことにはならないのでしょうか?

いずれにしましても、この金融行政の場面で、これまで以上に課徴金制度が多用され、その実効性が高まりますと、その後に控えているであろう、消費者行政庁(新設)における被害者救済制度として導入される課徴金制度への期待も高まることになるでしょうし、司法制度から離れたところでの企業コンプライアンスのあり方に、ますます注目が集まるようになるのではないかと危惧しております。

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