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2008年3月24日 (月)

情報開示ルールの強化と株主によるガバナンス

3月23日(日曜日)の日経新聞3面に「東証『第三者割当』透明化へ 既存株主保護へ情報開示強化」なる見出しの記事が掲載されております。(ちなみにWEB版のニュース)証券取引所(金融商品取引所)が、上場企業による株式や新株予約権の不適切な第三者割当増資を防止するための新たなルールを策定することで、既存株主保護を図り、市場活性化を促すことが目的のようであります。昨年も当ブログで採り上げましたが、オートバックスセブン社が「払込完了」と開示した直後に中止を発表したり、NOVA社が内容の不明確な第三者割当てを公表するなどの事例がありましたので、とりわけ発行済株式総数と比較して大規模な第三者割当による増資が行われる場合の情報開示ルールを策定することに、取引所が積極的な姿勢をとることについては私個人の意見としましては、大いに歓迎すべきことであると考えます。

WEBニュースには詳しくは掲載されておりませんが、第三者割当増資によって過半数の株式を握る投資家に詳細な取得理由の説明を求めたり、一定割合以上の新株の発行には株主総会決議を求めたりすることを、東証の企業行動規範に盛り込み、違反企業には(先日、ご紹介しました)「違約金制度」による違約金を課す・・・というものですから、(新聞で報じられているところが事実であるとすれば)会社法上の公開企業に認められている資金調達手段を一部制限する形になるようであります。

ところで、昨年6月25日には、東証の要請事項として「MSCBの発行及び開示ならびに第三者割当増資等の開示に関する要請」文書が公表され、第三者割当による増資を行う場合の開示事項の特定や、開示にむけてわかりやすい説明を行うことが要請されておりましたが、これはあくまでも要請にすぎないわけであります。また、投資家への注意喚起を促すための「公表」にしても、上記のとおり構想されております「上場企業への違約金賦課」にしましても、それらは(買収防衛策のあり方について、企業行動規範で定められているのと同様に)上場企業と証券取引所との上場管理契約上の義務履行の問題を通じて、証券取引所主導による企業統治を実現する一事例と理解されます。

しかしながら、第三者割当による増資について、株主総会の決議を必要としたり、詳細な開示ルールを企業行動規範に盛り込むこととなりますと、上場企業による当該ルール違反については、単なる取引所によるペナルティを通り越して、株主から会社法828条等による新株発行の無効の訴えの原因要件にも該当する可能性が出てくることとなり、「証券取引所によるガバナンス」にとどまらず、「株主によるガバナンス」の実現可能性を高めることになるのではないでしょうか。「新株発行の無効の訴え」は、募集株式の発行等に法的瑕疵がある場合に提起されるものでありますが、ご承知のとおり、募集株式の発行等の無効事由は法定されておらず、解釈に委ねられておりますので、証券取引所ルールが「法的瑕疵」と評価され、かつ株主による差止請求権(会社法201条)行使の機会を確保できないほどの重要な開示違反と認められるようなケースにおきましては、第三者割当の手続が完了した後(公開会社においては募集株式発行の効力発生後6ヶ月以内ですが)でも、その効力が覆る可能性は否定できないように思われます。これまでは、取引所から注意を受けたり、公表されることによって「ちょっといかがわしい会社ではないの?」といったレピュテーショナルリスクを受容するだけで済んでいた会社にとりましても、「あいまいな情報開示」によって募集株式の発行が無効とされるリスクが生じることになりますと、そもそも資金調達する側も慎重になりますし、エクイティファイナンスの実務にも相当程度の影響が出てくるのではないかと推測しております。

このあたりの問題は①「開示がわかりにくい場合には、開示があったといえるか」(開示することの実質的な意味)という問題や、②そもそも証券取引所の行動規範が「法的規範」といえるかどうか、③「開示に関する瑕疵については、もし法の要求する手続違反の事実があったとしても、会社側において実質的な瑕疵が存在しないことを反論すれば瑕疵が治癒されるか」といった問題、そして④株主保護といっても、希釈化にともなう経済的価値だけを保護するのか、支配権の価値についても保護するのかといった問題等にもつながりそうですので、また別の機会に閲覧されていらっしゃる皆様方のご意見などを頂戴しながら検討してみたいと思っております。

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コメント

toshiさん、こんにちは。

そもそも証券取引所の行動規範が「法的規範」といえるのか、という問題については私も疑問でした。
新株発行が無効となるリスクを負う発行者側のエクイティファイアンスの実務への影響もあるかもしれませんが、そこで影響が出てしまう会社というのはディスクロージャー上、もしくは、既存株主保護の観点から問題がある会社と思われますので、「いかがわしい」と思われるような会社を放置することによる既存株主側の不利益の方を保護すべきではないかと思います。よって、私も取引所がこういう姿勢を見せたことについては歓迎すべきことだと思っています。

投稿: ligaya | 2008年3月24日 (月) 14時39分

こんにちは
私も基本的に、「上場企業による株式や新株予約権の不適切な第三者割当増資を防止」に賛成です。

開示内容については、議論ありそうですね。

オートバックスの例はやや意外でしたが、通常資本市場を通した「いかがわしい」資金調達は、間接金融の与信がなくなったケースが多いと思われますので、「機動的な資金調達」の選択肢の確保と「既存株主のダイリューション防止」は少し相反する感じがしますね。

「正々堂々と資金調達が出来ないケース」 はやはり何がしかの、一時停止によるチェックが望ましいと思います。

しかし、あまりにも株主のガバナンスを強調しすぎると、持合に拍車をかけそうなので、取締役の善管注意義務の強化になるような規制が欲しいな。(これは取引所では難しいかな。罰金1000万円程度でしょうか)

究極論で恐縮ですが、常日頃から日本の機関投資家も厳しく説明責任を要求していくことで企業のガバナンスを変えていければ、「わかりにくい開示」も淘汰されるのでしょう。そういった方向性に持っていく規制をかけて欲しいものです。

株主の合意が取れればいい、というより、自ら「大人の判断」 ができるようなしくみづくりがいいなあと最近思います。

投稿: katsu | 2008年3月24日 (月) 22時46分

ちょっとだけお邪魔します。
東証規則によるルール化について、賛否両論あると思いますが、法による規制と自主規制機関(東証規則を含む)の規則によるいわゆる「ソフトロー」による規制(手当?)のいずれが適切か、合目的な観点での議論はできないものでしょうか。法とソフトローの役割分担・補完関係の視点で、ルールが形成されることのメリットもあるのではないか、と考えています。

投稿: 辰のお年ご | 2008年3月25日 (火) 01時19分

すみません、2度目の書き込みです。
先ほどブルームバーグを覗くと、JPモルガンがベアースターンズを1株2ドルから10ドルに引き上げに合意した、との記事がありました。

さらにこのエントリーにタイムリーなことに、ベアー社はJPモルガンに対し、新株を付与し、結果、JPモルガンが39.5%の議決権を得る決議まで実施したそうです。ベアー社の役員陣は当然M&Aに賛同しているため、彼らの持分3%がこれに加わるため、42.5%の株主はこのディールに賛成したことになりました。ブルームバーグでは、「これで本件は決定的 Sealing the Deal」と報じています。

NYTによるとデラウエア州の会社法は40%までの増資は取締役会限りで決議可能だといわれているので、株主承認はいらないといっています。日経新聞ではNYSEは20%超える割り当て増資は同承認が必要といっているので、あれ? と思いましたが、現実です。

ちょっとあちらの法律はわかりませんが、非常に微妙な論点もありますね。日本の法律(特にM&A関連)は米国に倣っているケースが多そうですが、米国のように取締役責任がしっかりしている国の例外事項と、取締役の責任が白い目で見られる日本で、米国を参考にするのは少し限界あるなと感じます。

投稿: katsu | 2008年3月25日 (火) 01時23分

取引所の自主ルールに法規範性があるかどうか・・・といったあたりはもう2年以上前に、はじめて「辰のお年ご」さんと意見交換したときのテーマではなかったでしょうか?(ずいぶんなつかしいです)
証券取引法が金商法に変わったことや、自主規制組織の法定化なども考えますと、あのとき以上に、現在は法規範としての正当性は認められてもいいのではないでしょうかね。(私見の変更でありますが)
いずれにせよ、法律と自主ルールとの使い分けは、きわめて重要な論点だと認識しておりますし、そこに府令やガイドライン、証券業協会ルールなどとの関係も含めますと、いろんな規制手法が考えられるところだと思います。

katsuさん、いつも情報ありがとうございます。2ドルから10ドルへ引き上げたことについては驚きましたが、その背景事情があるのですね。取締役責任論をもってガバナンスを語るというのは、ある学者さんがおっしゃっているところですね。「モノ言う株主」という視点からすると、いろいろと弊害もあるかもしれませんが、いざ司法制度の活用度、という視点からしますと、まだまだ株主は蚊帳の外だという認識です。そういった意味で、もうすこし一般株主にとって使いやすい司法制度については今後も検討してみたいと思っています。

投稿: toshi | 2008年3月25日 (火) 03時00分

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