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2008年3月 6日 (木)

赤福の好業績にひそむ「落とし穴」

赤福問題を連日採り上げたときに、コメントをいただだきました方より、本日メールを頂戴いたしました(どうも、ありがとうございます)。メールの内容は以下のとおりであります。

先生のブログで一度だけコメントさせていただいた△△△です。
赤福のその後談ということで、お聞き流しいただく程度の内容ですが、ご報告させていただきます。
ご存知かもしれませんが、3月3日より名古屋駅の駅売店等でも、赤福の販売が再開されました(それまでは、名古屋では百貨店の直営店で2個入りのみ限定販売)。
KIOSKでは、1日に3回入荷があるそうなのですが、いずれも1時間程度で売り切れてしまうという人気振りだそうです。私も本日夕刻行ってきましたが、30-40人が行列をなしており、KIOSKも専用レジを設けて、レジ以外に5名程度の社員が行列の整理を行っていました。
いずれ熱気もおさまるでしょうが、営業面は問題なさそうです。
どんな不祥事をおこそうとも、代替品のない強力な老舗ブランドに対するお客さんの支持には根強いものがあるということですね。

私もこのたびの赤福騒動後におけるニュースなどをみておりまして、「いったい、あの騒ぎはなんだったんだろうか」と思うほどの好業績にビックリしております。品質偽装といいましても、やはり「健康被害」を出していなかったわけでありまして、「消費者のほうを向いて商売をしていなかったことへの反省と再発防止への真剣な対応」が顧客に大きな安心感を抱かせたのではないかと思っております。

では△△△さんのおっしゃるように、「代替品のない強力な老舗ブランドに対するお客さんの支持」があれば、(すくなくとも健康被害がないかぎりは)不祥事が発生しても安泰かといいますと、それは少し結論を待った方がよろしいのではないか、と考えております。これは私のリスク管理に関する考え方からでありますが、「一度不祥事を起こして、大きくマスコミに採り上げられた企業は、今後相当の時間が経過するまでは、些細な不祥事であってもまた大きく採り上げられるリスクを抱えている」からであります。昨年、あまりにも悲しい事故を発生させてしまった大阪のエキスポランドでありますが、事後から1ヶ月も経過しないうちに営業を再開させたところ、ふたたびジェットコースターが運転途中で停止する、ということがありました。入園者数が回復していた矢先の(どこの遊園地でも発生しかねない)事故でありました。このとき、車両故障の報告を大阪府に届けておけばよかったのでありますが、これを届けていなかったために、車両故障を起こしたことよりも、報告をしなかったことがマスコミに大きくとりあげられ、結局「無期営業停止」となりました。(「この程度の事故であれば、とくに届ける必要はないと判断した」という役員の方のリリースが印象的でありました。なお昨日、営業再開のめどが立たないために、40人を解雇することになったのはニュースのとおりであります)おそらく、これが他の遊園地であれば、報告を必要としなかったケースであったとは思いますが、あれほどの事故を発生させてしまった遊園地だからこそ、「以前とは異なる対応」をしなければ、「不祥事体質がなんら変わっていない」と評価されることになります。いったん社会の耳目を集めるような不祥事が発生した企業にとって、どんなに社会的評価が回復し、また株価が回復したとしましても、同業他社と比較して、ふたたび不祥事によって信用が低下するリスクについては不利な立場にあることは否めないところではないでしょうか。

たしかに赤福社の場合、品質偽装問題についての再犯防止策がきっちりと履行されていたとしましても、たとえば労働問題や個々の社員の不法行為に関する問題など、普段であれば、大きなニュースソースにはならないために、あまり採り上げるほどの価値のない事件でありましても、これが赤福社で発生した、ということであれば「まだまだ不祥事体質が残っている」とされ、品質偽装以外の不祥事による社会的評価毀損リスクが発生しやすくなっていることは留意すべき点であると思います。さらに、大きな不祥事が発生していなければ、特に問題視もされず、内部告発もされないような出来事さえ、「あの赤福がまた」といった関心の高さから、内部告発によって表ざたになってしまうリスクも高いものと考えられます。いったん不祥事企業としてのレッテルを貼られてしまった企業の場合、他の企業であれば全く問題にされないような不祥事であっても、それが大きく採り上げられてしまうリスクというものは、代替競争品が存在しないような老舗企業でありましてもそれほど短期間には低減しないものでありまして、そこに「不祥事企業にひそむ落とし穴」があることを、十分認識しておく必要があると思います。

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コメント

おおせのとおり、例として雪印という会社がありましたね。

投稿: katsu | 2008年3月 7日 (金) 01時14分

katsuさん、こんばんは。
親会社→子会社のパターンだったと思いますが、グループ企業というのも、こういった不祥事が発覚すると、他の企業が不利な立場に立たされるんじゃないでしょうか。
例は悪いかもしれませんが、たとえ資本関係になくても、「船場吉兆」さんも、ほかの吉兆さんに大きな借りを残してしまったと思います。

投稿: toshi | 2008年3月 7日 (金) 01時52分

はじめて投稿させていただきます。
現在、会社のコンプライアンス担当をしているものですが、社内のコンプライアンス啓蒙
活動の一環として、法律等に関して、普段気付かない点や知っておいて欲しい点を弁護士
さんのブログを拝見してネタを集め、社内にワード上で周知をしたいと考えているのです
が、著作権法上やはり問題ありますでしょうか(これは各ブログ主に確認をとるべきこと
でしょうか)。もちろん、引用元:○○さんのブログ、という文を最後につけるのですが、
著作権法上定められているような、引用が従で、自分で作成する文が主となるとは限らな
いので(専門用語を括弧書きで説明するとか、大切だと思う文に色をつける、文字を大き
くする、前後にちょっとだけ文章を付け加える等体裁を変えるぐらいで。。)。コンプライア
ンス担当が法違反を堂々と犯しては何の示しもつかないと思い、投稿させていただきました。

投稿: HUSH | 2008年3月 7日 (金) 11時08分

裁判員制度への県弁の動きやら61期の就職難問題でご無沙汰しました。
炎上もなく落ち着かれたようで何よりです。また、お邪魔虫をさせてください。
赤福ケースは実害がなかったことや固定ファンがいたことから、バランスの秤にかければ、こういう反応は予想できました。騒ぎの大きさから考えるとどうして? という疑問も出てくるでしょうが、瓦版的世論の浮気度指数はかなりなものです。いい加減といえばこんないい加減な話もないでしょうが、こんなものです。ただ、先生が指摘されるように、2度目は倍加した風が吹きますので、浮かれたら足元からすくわれます。白い恋人も好調のようですが、これも説明がつきます。決してコンサルの成功事例ではありません。心理学的にアプローチすれば想像できたケースだと思います。
別件です。
そちらではあまり騒がれていないかもしれませんが、都内1等地の地上げ事件がありました。東証2部上場の不動産会社「スルガコーポレーション」が大阪の不動産会社に地上げを依頼、資金が暴力団に流れた疑いがもたれています。問題はここからです。会社のHPをご覧になれば分かりますが、時期ははっきりしませんが、同社には専務・CCOとして元警察庁生活安全局長が、また社外取締役として元埼玉地検検事正が新たに就任されています。従業員140人ほどのようですが社内にはコンプライアンス委員会も設置され、法務室も作られています。非常勤監査役には刑事にも強い著名な弁護士が就かれています。
CCOの方は暴力団対策をされてきた方です。
HPでわざわざ記載されているぐらいですから、これを読んだ人は普通「立派な会社なんだ」と思うでしょう。事件化したあと代表取締役会長・社長は「反社会的勢力と手を切れなかった」として社長を辞任し、代表権のない会長に退くと発表しました。
スルガさんだけを言うのは筋違いだと思いますし、後ろにいた本丸にしても何も知らなかったとは社会常識的に思わないでしょう。モンモン姿で物件内を歩き回ったり、怒鳴り声を上げたりしたわけですから、どういう地上げで上げられた物件かは公知の事実です。不動産バブルが進行する中で、以前と似た地上げの構図があちこちに見られました。
で、コンプライアンスとは一体なんでしょう。倫理的なものはさておいて、最低の法遵守すらできません。いや、する気なんて端からないのだと思わざるを得ません。スルガ社はこれからしようと考えていたのかもしれませんが、世間はなかなかそうは受け止めてくれないでしょう。
実は同社の資本には外国資本が大量にはいっていますから、ストップ安が続いていますので、外圧が掛かる可能性があると思います。IR情報を読んでもHPなどを見ても、「騙された」と思うはずだからです。
先生はこんな企業の社外の監査役に入られたら、どう対応されるのでしょうか。建前ではなく、本音のところで教えていただきたいと思うのです。そもそものビジネススキームとして違法なところ、あるいは違法性の高いところはたくさんあるように見受けられるからです。そして一生懸命コンプライアンスに邁進している正直者とそうでないところの差が気になるのです。規制緩和を声高に叫んで一儲けした人たちを見ると、単なる権力闘争だったと思うからです。

投稿: tetu | 2008年3月 8日 (土) 00時23分

HUSHさん、はじめまして。
ブログでの発言内容につきましては、私の場合は自由に引用いただいてもけっこうかと思います。ただし、コメント部分につきましては、その方の著作権の問題が発生しますので、ご注意ください。
また、私の文章の要旨引用でありますが、誤解のないような形でおまとめいただくのであれば結構です。
また社内でご議論いただき、いろいろな反論や意見をアップいただけますと幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2008年3月10日 (月) 03時07分

■コメント引用について
HUSHさん はじめまして。
山口先生の場合は実名を出されていますので、著作権はあると思いますが、私やほかのかたがたのようにペンネームで投稿している人は、実名で書くことを避けたいのでペンネームにしているわけで、観念的な著作権はあるかも知れませんが、社内の閉ざされたインフラの中で引用されることについては、コンプライアンス上の問題はほとんどないと考えてよいと思っています。

私のコメントなどは、わざわざ承諾するにも値しないと思いますが、それでもgoogleで検索すると、DMORIのコメントがいくつかのブログですでに引用・紹介されていたりしました。

投稿: DMORI | 2008年3月10日 (月) 21時56分

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