反社会勢力対策の企業実務的進化(その2)
久しぶりに、京都の北野天満宮に行き、満開の梅を見物してきました。ご覧のとおり、白や桃色の梅の花が見事に咲きほこっておりまして、実に美しい。梅の名所に見物に来た人たちと、国立大学の発表もほぼ終わり、合格御礼参りにやってきた学生達とで、神社内はものすごい人であふれかえっておりましたが、日差しが温かく、たいへん気持ちのいい一日でありました。
読売新聞関西版の15日ニュースによりますと、大阪証券取引所は既に大証に上場している企業について、反社会的勢力が上場企業の経営に関与している疑いが生じた場合には、上場の是非を再審査したうえ、一定の場合には上場廃止とすることができる新たな制度を今年5月より導入する方針を固めた、とされております。(上場企業を再審査・・大証5月にも導入)これまでは「リスク管理」としての「反社会的勢力を排除する仕組み」を上場企業に要求し、この仕組みが不十分な場合にペナルティを課す、というものだったと思いますが、これを一歩進めて、単なる「リスク管理」を求めるのではなく、有事の兆候を大証自ら入手したうえで「再審査」を行うというものでありまして、市場の健全性確保のための自主ルールのあり方について、大きな転換点に差し掛かったのではないかと思われます。
上場企業のどのような発生事実をもって「反社会的勢力が経営に関与している疑いがある」とみるかは、今後の上場ルールの策定内容にもよるところでありますが、そもそも反社会的勢力が市場で活動する最終目的は「上場企業の経営への関与」にあるものと考えられますので、企業としてはこれまでどおり、いかに排除の仕組みを構築するか、という点を、具体的に検討することが最善策であります。たとえばIPO時における(反社会的勢力排除に関する)上場審査のポイントとしましては、①役員、株主、取引先、特別利害関係者が反社会的勢力とかかわりがないことの調査、②投資ファンドの出資者、会社債権者等の調査、③取引先管理規程、取引先選定基準などの整備と運用状況、④信用会社、反社会的勢力排除コンサル会社、その他情報収集システムの利用基準の確立などが中心となりますので、やはり経営に重大な影響を与えかねない株主、役員、会社債権者、特別利害関係人などの人的情報と、その後の具体的な当該上場企業の開示情報などをもとに認定していくことが考えられるところであります。
さて、「経営に関与している」企業を市場から排除することは、一般投資家保護の見地からも妥当なものであると思われます。ただ、たとえ「経営関与」に至らなくても、反社会的勢力との「つながり」が認定されること自体が一般的には「企業不祥事」と考えられるところでありますので、反社勢力によって経営に関与されるリスクというだけでなく、反社会的勢力と関係があるとの風評が広がるレピュテーショナルリスクについても検討課題となります。基本的な考え方につきましては、すでに「反社会勢力対策の企業実務的進化(1)」において検討したところでありますが、もう少し具体的に検討してみますと、ひとつは犯罪収益移転防止法の運用に関連する企業、つまり大きなお金の流れに関与する企業(このたびのスルガコーポやメガバンクのように、会社内部で数十億、数百億が右から左へ流れるような企業)の場合、ふたつめは、経営状況が悪化している新興企業のように、経営トップの個性や独裁色が強く、ガバナンスが機能していない企業の場合、そして3つめは現場におけるクレーム処理が日常化しており、現場と反社会的勢力との接触が不可欠な企業の場合など、すくなくともいくつかの企業の特長により、その仕組み作りの重点は変わってくるものだと思います。また、最近の傾向として、反社会的勢力と企業との癒着に関する情報というものは、一般の情報伝達ルートによっては経営陣にまで上ってこないケースがあり、また先日のスルガコーポの事例のように、せっかく錚々たるメンバーが社外役員に就任しているにもかかわらず、経営陣のなかでも情報が偏在化しているようなケースも見られるので、内部通報制度を活用することも考えられるところであります。上司にはそのまま言えない社員、反社会的勢力と接触している経営陣に近いところで働く社員の自浄作用に期待することになりますが、反社勢力排除のためにもヘルプラインが機能することが周知されることが、そもそも経営陣や現場における癒着に対する抑止的効果をもつのではないかと思われます。(以下、その3につづく)
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コメント
2007年12月19日に金融庁から銀行向けの反社会勢力関係の監督指針のパブコメが出ていますが、非常な違和感を感じております。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=2&CLASSNAME=Pcm1080&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000032439
反社会勢力を「②反社会的勢力のとらえ方:暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」としていますが、そういうのは警察がちゃんと取り締まるべきものであるのに、警察は動かずに、反社会勢力の被害に遭うのは被害防止策が出来ていない銀行の責任だから業務改善命令の対象にする、という監督指針はどうかと思います。
しかも被害防止策というのが、(1)警察OBを総務部に雇う、(2)暴力追放センターを使う、といういずれも警察OBの再就職目当てというのが何とも。もう10年以上前の話ですが、前勤めていた銀行で、融資先が企業舎弟かどうか、表から警察に聞いても公務員の守秘義務を盾に答えてくれず、袖の下を持って警察に聞くと教えてくれるというのがありましたが、暴力団追放に本気なら、タダで教えるべきものだと思います。
投稿: 弁護士法嫌い | 2008年3月18日 (火) 00時35分
toshiさん、こんばんは。
先日(17日)の日経産業新聞の「社長100人アンケート」(実際には134人が回答)によると、「問26 …貴社では不祥事を防ぐためにどのような施策を打っていますか」との質問に対する回答(複数回答)の中で最も多かった回答が「内部通報制度を設けている」というものでした。しかも、その回答者は全体の「94.8%」!
回答者のほとんどが東証一部上場企業の社長さんだと思われますが、それにしても高い割合なので驚きました。
ただ、なんとなくの感覚ですが、これらの会社においても内部通報制度が社員による自浄作用が働くほどに機能している会社は相当少ないのではないかなぁ、と思います。経営者が反社会的勢力と接触している場合でも同様に、社員による自浄作用が効くのかなぁと。。。
なお、上述のアンケートに対する回答で、2番目に多かった回答は「法令順守やCSRを目的とした勉強会や研修を開いている。」(92.5%)でした。こちらは即効性が高そうに思います。
投稿: ligaya | 2008年3月18日 (火) 02時29分
>弁護士法嫌いさん
こんばんは。
マネロンの関係で、金融機関と反社会勢力との癒着については、ことのほか厳しいようですね。警察白書によると構成員の数よりも準構成員の数が初めて上回ったそうですので、いわゆる「外縁」があいまいになったのが事実のようです。警察が動くとなりますと、この「外縁のあいまいさ」が問題になってしまいますので、あいまいさから来るリスクは銀行に負ってもらおう、というのがホンネのところではないかと思っております。
後段のところは、いままさに問題になっているところですね。警察情報がなかなか入手できなくなった、とぼやいておられる方もいらっしゃいますし。しかし、なかなかタダで教えてくれませんね。
>ligayaさん
おひさしぶりです。情報どうもありがとうございます。
反社問題と内部通報制度のカラミで申し上げますと、直属上司に報告をするとなると責任問題が発生する可能性がありますので、意外に機能するのではないか、と思います。また、社員の孤立がどうしてもこの問題にはつきまといますので、「ひとりで悩まないで」というシグナルの役目もあります。しかし、使い方についてはご指摘のとおり工夫が必要かと。
投稿: toshi | 2008年3月18日 (火) 02時50分
悲観論者ではないつもりです。もちろん排斥すべきだと考えます。が、反社会的勢力の話は極めて難易度の高いことだと思います。『正式社員』ばかりでなく、杯をもらっていない『派遣』や『契約社員』などを表に出すようになっており、なかなか見えにくくなっています。さらに、その下の本当の予備軍もおり、境界は限りなく不明瞭になっています。マネロンにしても、日本の戦略ではありません。米国の指示がなければ、果たして日本に社会的合意を得られる立法事実があったかどうか疑問です。本当に社会的に反社会的勢力を排斥する合意が形成されているか、という点を抜きにしてこの問題を処理をしようとしても、アリバイにしかなりません。
大証の規制策は、あれだけ指摘されてきたのに何をいまさら、という感じですが、保身のための一時凌ぎでないことを祈るだけです。以前から組長の株取引が自由に(名義人は違うかもしれませんが)行われているのが不思議でした。社会的に存在を否定するなら、活動も制限されなければなりません。それはそれ、これはこれ、というのは偽善でしょう。
ただ、スルガのように外国人投資家が多くなると、外圧がかかると思いますので、そこからしかこの反社会的勢力の問題は動かないと考えています。結局、活用した企業、トップが明らかな損になる仕組みを十重二十重に作るしかないと思います。これまでは全く成功していませんが。
投稿: tetu | 2008年3月18日 (火) 08時56分
>tetuさん、コメントありがとうございます。
「杯をもらえない契約社員や派遣社員」ですか・・・なるほど。
実は昨日、上場企業の総務部の社員方に対する反社会的勢力排除対応セミナーに参加させていただいたのですが、出席されている半数以上の方が、昨年6月の政府指針を知らなかったのです。これには驚きました。総務の方々はいろいろとお仕事がありますので、反社会的勢力対応のことばかり気にしておられないのはわかりますが、どこまで企業が本気であるかは疑問を感じました。
社会的合意というものは、まだあまりないように感じます。
ということで、またtetuさんの問題意識をもって(その3)を性懲りもなくエントリーします。
投稿: toshi | 2008年3月18日 (火) 12時11分
ブログ本文の記事と関連がありませんが、北野天満宮の梅林画像きれいですね。天神様には20年近くお参りしておりませんので懐かしく感じました。
投稿: 隅田 | 2008年3月18日 (火) 12時38分
こんにちは。
>あいまいさから来るリスクは銀行に負ってもらおう
やっぱり問題は、警察のこういう態度だと思うんですよね。警察でも反社会勢力かどうか分からないような人に対して、何で銀行が反社会勢力かどうか判断できるでしょうか。「自分が出来ないことを他人に押し付ける」ということをしだしたら、その組織はおしまいだと思います。絶対防衛できない拠点を「死守せよ」と命令した旧日本軍のように。
会社のコンプライアンスも似たような所があると思います。結局、下に下に責任を押し付けていって、末端では、押し付けられた責任と現実のギャップに絶望する。押し付けた上の人たちは、責任逃れが出来たと安心する。「自分が出来ないことを下に押し付ける」という巨大なピラミッドを形成しているだけに見えます。(全ての会社がそうとは言えませんが。)
投稿: 弁護士法嫌い | 2008年3月19日 (水) 01時02分
>隅田さん
はじめまして。写真をほめていただいてうれしいです。(実は携帯で撮影したものなんです)
「梅苑」は600円の入場料を払うのですが、入場しなくても、天満宮のいたるところで咲きほこっていましたので、それで十分でした。
今後は桜見物の写真をアップしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
>弁護士法嫌いさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
(その3)でアップしたい点について、先にご意見をいただいたようです。tetuさんもおっしゃるように、反社会勢力排除の対応はかなり企業コンプライアンスのなかでもムズカシイものですが、なんとか諦めずにもうすこし具体的な施策について検討してみたいと考えています。JR東日本の社員が紛失資料によって恐喝されていた、という報道がありましたが、あれなんかも(反社会的勢力とはいえませんが)やはり社員の孤立からくる問題ではないかと思います。
投稿: toshi | 2008年3月20日 (木) 01時53分
金融庁の「反社会的勢力による被害の防止」に係る監督指針のパブリックコメントの結果が出ていますね。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?ANKEN_TYPE=3&CLASSNAME=Pcm1020&KID=225007042&OBJCD=&GROUP=&cmbKENSU=10&rdoSEARCH1=0&txtKeyword=&rdoSEARCH2=0&rdoSEARCH3=0&rdoSEARCH4=0&cmbYERST=&txtMonST=&txtDayST=&cmbYERED=&txtMonED=&txtDayED=&chkFUSHO=0000000014&hdnParentsCLS=Pc1020&hdnBsSort=&hdnKsSort=0&hdnDispST=1
コメント14, 30, 32, 49, 67あたりが、面白いところです。
コメント30なんか、「反社会勢力とは一切の関係を持たず」という監督指針の意味が、「反社会的勢力を不当に利する」ものでなければ取引をして良いということだそうです。「反社会勢力を正当に利する」取引ならしても良いことになりますが、どうなのでしょう。民間銀行が意を決して、ヤクザの預金を謝絶した場合、ヤクザが金融庁にクレームを入れると、金融庁から「預金は反社会勢力を不当に利するものではないので、預金を受け入れるべきだ」と、ハシゴを外されそうで、怖いです。
投稿: 弁護士法嫌い | 2008年3月28日 (金) 00時55分