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2008年3月31日 (月)

会計不正(会社の「常識」・監査人の「論理」)

Kaikeihusei_2 日曜日の日経新聞社説では「企業は内部統制の充実で信頼を高めよ」とあり、先週は内部統制に関する特集記事なども連載されまして、いよいよ施行時期突入の気運も高まってきました。先週のエントリーでも申し上げましたが、現場では「決算・財務報告プロセス」をどのように(監査人ウケするように)構築すべきか、またどのように有効性評価すべきか、という点が大きな問題になろうかと思いますが、監査役を含む役員の皆様方には、「不正会計リスクを低減させるべき統制環境とは何か」いま一度お考えいただきたく、とりわけ内部統制報告制度の責任者(担当取締役や担当部長さんなど)の方にぜひともお読みいただきたいのが「会計不正~会社の「常識」 監査人の「論理」~)」であります。(浜田 康著 日本経済新聞出版社2400円税別) 2002年に出版されました浜田先生の前著「不正を許さない監査」は、2005年9月に、このブログでご紹介いたしましたが、内部統制報告制度施行に向けての、浜田先生の本著の提言はまことに貴重であります。とりわけ後半の第6章「統制環境をどのように考えるべきか」、第7章「不正を許さないシステム」、第8章「監査人は会計不正にどう対応すべきか」あたりは、著者ご自身の長年にわたる監査経験から、経営者評価とはどうあるべきか、また内部統制監査はいかにあるべきか、その具体的なヒントを事例や指針にそって卓越した試論をもって展開されており、きわめて参考価値は高いものであります。またJ-SOX関連以外にも、先日、当ブログにて第一審判決をご紹介しましたアソシエント・テクノロジー社の会計不正につきましても、第1章のメディアリンクス事件の解説内容を読む中で、どこに問題があるのか、ということも理解が進んだような次第であります。(カネボウ事件やIXI社の事例などで、なんとなくわかったつもりでいた「架空循環取引」や「スルー取引」でありますが、この本を拝読しまして、やっと本筋が理解できました。)かように第1章から8章まで、どこから読んでも興味深い内容ばかりでありまして、前著「不正を許さない監査」同様、手元の本はすでに青線や赤線、囲い込みや付箋などでいっぱいになっております。

ただ浜田先生が本書で述べられているなかに、「会計に対する無知、無理解」というテーマとして、以下の記述に若干ひっかかるものがございます。(以下、若干の引用をお許しください)

会計というものは、極端にいえば、単なる約束事にすぎません。・・・(中略)会計というものは、企業等が行う経済活動を、業績把握とか、財政状態の把握とかの目的に沿って測るモノサシですが、経済活動自体が様々な見方を許容している以上、モノサシも「本来正しい」ものはないのです。・・・(中略)コンセンサスですから、有力反対説もあれば少数説もあります。しかし一度決まったら、全員がそれにしたがうのが約束事のたいへん大事なところです。このように会計基準というものは理論的にみえて結構妥協の産物のようなところもあり、また強引なところもあります。・・・(P81~P82)

会計学も社会科学であり、すみよい社会生活の実現を目的として生まれたものである以上は、「絶対正しいもの」を探求する必要はなく、妥協の産物であることについては異論はありませんし、またいったん基準が決まった以上は関係者がこれに従う必要があることも認められるところと思います。しかしながら、会計基準は単なる自主ルールではなく、立派な法規範(もしくは法規範に準ずるもの)であります。金商法と会社法では、若干制度趣旨は異なりますが、会計基準は一般に公正妥当と認められる企業会計慣行のひとつであるとされております。(会社法431条)つまり、会計基準の内容は「一般に公正妥当と認められる」ものであることが求められているわけですから、企業会計基準委員会の皆様方の多数説によって決められた内容が、つねに公正であるかどうかは吟味されるべきであります。法規範の一種である以上、当然に「法の支配」のルールに従うわけでありまして、多数説が常に正しいわけでなく、なにが「公正」であるかは、最終的には裁判所が決定する(もしくは決定しうる)ことになるはずであります。会計コンバージェンスの問題も、いくら会計基準の国際化を余儀なくされるとしましても、最終的には「公正かどうか」が吟味されることとなります。したがいまして、内容がどうであるにせよ、いったん決まったことは従わなければならない、というのはあくまでも「会計基準の内容が公正であること」といった留保付きであります。たとえば、どのような事例にどのような会計基準が適用されるか、といった問題も「公正」の中身を検討すべきでしょうし、また予定されている会計基準が「唯一のもの」かどうかを決するのも「公正」の内容次第ということになろうかと思われます。(おそらく、今後は会計士さんの法的責任論の発展とともに、この会計基準の法規範性に関する議論も進展していくものと予想しております。)本書後半部分におきまして、日本コッパーズ事件の原審判決、控訴審判決に言及されており、「これまで会計士の方が抱いているコッパーズ事件判決への認識は甘すぎるのではないか」として、浜田先生も公認会計士の方々へ警鐘を鳴らしている場面もございますが、会計士(監査法人)さん方の自己防衛の見地からも、もっとこのあたりは深く考察する必要があるものと考えております。

いずれにしましても、内部統制報告制度にご関心のある方は、第6章だけでもお読みになることをお勧めいたします。私自身も含めて、すべてをすぐに消化しきれないとは思いますが、4月1日以降じっくりと統制環境を整備し、整備状況を確認するための参考書として活用できればいいのではないでしょうか。なお、本書でも「不正のトライアングルの限界」として、「あとだしジャンケン的評価」に関する苦言のようなことが記載されております。「リスク評価にまつわるあとだしジャンケン的評価」はコンプライアンスの永遠の課題なのかもしれません。

3月 31, 2008 本のご紹介 |

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コメント

はじめまして。いつも勉強させてもらっています。
私もさっそく購入し、読み進めていますが、第4章もかなり内部統制報告制度に関連する記述がみられます。そのなかで、会計士の不正への対応強化という項目があります。ここは会計士の不正発見義務を前提とした記述のように読めるのですが、ここまで言い切ってしまっていいものかどうか、と疑問に思います。tosi先生はどのようにお考えになりますか?

投稿: 梅木 | 2008年3月31日 (月) 17時02分

4月になりまして、改正公認会計士法も施行されるところですが、この会計士さんの不正発見義務についても難問ですよね。どこまでの「不正」を発見すべきか、という問題もありますし。この梅木さんの疑問を少しばかり敷衍して新たにエントリーにしてみましたので、またご意見がございましたらコメントよろしくお願いします。

投稿: toshi | 2008年4月 1日 (火) 01時32分

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