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2008年4月30日 (水)

上場制度整備プログラム2007の履行状況雑感

昨年4月24日に東京証券取引所より「上場制度総合整備プログラム2007」が公表されましたが、その履行(予定)状況につきまして、問題点を整理する目的で一覧表にしてみました。(履行状況といいながら、マスコミで「検討中」として報道されているものも含んでいることにご注意ください。)また、私自身の記憶に頼りながら作成したものにすぎませんので、他の整備プログラム実施事項として、すでに履行済みのものがあるかもしれませんので、漏れがありましたらゴメンナサイです。なお、表の右側にA、B、Cと記しておりますのは、A;上場企業の行為自体を東証自主ルールによって規制しているもの、B;東証が原則的な行動指針を示し、その指針に反する企業行動については企業の合理的な説明を求めるもの、C;開示によって投資家の判断に評価を委ねることで、間接的に企業行動に影響を及ぼすもの、として区分しております。

Seibipuro_2 第三者割当増資の開示強化につきましては、すでに以前のエントリーでも述べましたが、開示による投資家への注意喚起では市場の健全性が維持できず、具体的な行動規範として株主総会決議などを必要とすることになるのでしょうか。第三者割当増資による現存株主の利益確保(少数株主保護)については、制度に関する国際比較が必要でしょうし、また第三者割当を規制することで、エクイティファイナンスの機会が失われる点については議決権制限株式(配当優先株式)の上場制度を充実させることによってカバーする予定なのかもしれません。

また先日、親子上場に関する規制方針に関する報道がありましたが、これも親子上場(子会社の上場)をすべて禁止してしまう、という方向には進まないと思われますので、「望ましいものではない」という東証の基本原則を表明したうえで、もし上場する(上場を維持する)のであれば、子会社上場を維持するための合理的な理由を説明させる、という方向で詰めることになるようであります。会社法施行規則においても、公開会社が総会集中日に株主総会を開催する場合には、その理由を述べさせるなど(ただし特に理由があるときに限りますが)、こういった手法による規制というのはときどきみかけますね。

法律家として興味深いのは、やはり「不服申立制度」ですね。先日のニュースにもありましたが、特設注意市場銘柄として指定されるケースや、制裁金を課される場合などにも不服申立の対象になる、というものであり、また申立によって東証による処分の効力が一時停止される、というものであれば、けっこう利用されるのではないでしょうか。また、この表には記載しておりませんが、「公認会計士との連携強化」ということで、監査人交代時における開示の充実も実現したところであります。

上記以外にも、マザーズ上場企業について、一定期間経過後に成長が見込まれない場合に退出を促す方策とか、すでに上場している会社の内部管理体制の確認方法に関する整理を行うこととか、実際に検討されているのかどうか、進捗状況を失念しているところもございますので、詳しい方いらっしゃいましたらご教示いただけますと幸いです。また、本件は取引所と発行企業との関係だけを採り上げましたが、取引参加者(金融商品取引業者)との過怠金引き上げに関する話題や、公開会社法に関する話題なども、こういった整備内容と関連するところであり、個別の論点については追ってまたエントリーで検討してみたいと思っております。

4月 30, 2008 証券業界の自主規制ルール | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月25日 (金)

メール機能が復旧しました(お知らせ)

ここ2日ほど、メール転送の不具合にて、正式なメールアドレスが利用できない(閲覧できない)状態が続いておりましたが、さきほど、toshi@lawyers.jp のメールアドレスが使用できるようになりました(作動確認済み)ので、それまでの「お知らせエントリー」を削除いたしました。ただし、この2日ほど、toshi@lawyers.jp へメールをいただいた方につきましては、内容が閲覧できないままになってしまいました。たいへん申し訳ございません。

とりいそぎ、お知らせのみ。

4月 25, 2008 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年4月24日 (木)

野村證券インサイダー取引:法人責任を否定するのはまずいのでは?

ふたつ前のエントリーにおきまして、買収防衛策導入時に株主として是非聞いておきたいことをアップしておりますが、ズバリの回答が出そうな裁判(仮処分命令申立事件)が始まりそうですね。(4月23日付け原弘産リリース「日本ハウズイング株式会社の株主名簿閲覧謄写仮処分命令申立事件について」)少し長いですが、仮処分命令申立書がズバリそのまま掲載されております。事前警告型の買収防衛策の適法性を裁判所がどのように考えているか、この仮処分の判断過程において少しだけでも垣間見えてくるんじゃないかと期待をしております。私は月曜日のエントリーで書きましたとおり、この裁判の債権者側のご主張とほぼ同意見でありますので、事前警告型のライツプランが「勝てる防衛策」であるためには、すくなくとも同業他社によるTOBが前提となるケースでは、競争関係にあることを理由とした株主名簿の閲覧拒否は「すべきではない」ではなく「できない」と考えるのでありますが、さて債務者側はどのような反論をして、また裁判所はどのように判断するのでしょうか。今後の展開が非常に注目されるところであります。(ごあいさつ、ここまで)

(さて、ここからは野村證券インサイダー事件の続きでありますが)昨日のエントリーでは「社員のインサイダー取引を防止するのは内部統制の限界ではないか」といった趣旨のことを書きましたが、今朝の日経新聞(4月23日)を読みますと、野村インサイダー事件にあたり金融庁が「法人の責任」に関する調査を開始しており、行政処分に発展する可能性もある、とされております。これに対して野村側は「あくまでも個人の責任」と公表しておられるようで、メロさんがコメントされているとおり、行政処分を受けることをなんとか回避される意図があるのかもしれませんね。いずれにしましても、今回の事件が元社員によって社内調査も奏功しないほどに巧妙な手法によってなされたものであり、果たして野村證券においてこれを阻止できなかった法人としての責任の有無に関心が集まっているようであります。

しかし、昨日のエントリーで述べましたとおり、野村證券におけるこのたびのインサイダー問題が内部統制の限界事例であり、法人としての責任を問えないとなりましても、私は元社員らの刑事事件だけでは済まないように思います。とくに企業情報が集まるところで「会社としては止めることができない」情報漏えいが発生するわけですから、そうなりますと情報を受領した本人によるインサイダー取引問題だけでなく、利益相反関係にある相手方企業や関連企業にも情報が「筒抜け」になる可能性がありますよね。そのような事態が現実化すると、インサイダーどころの話ではなく、顧客企業に対して大きな損害を与えることになるわけでして、結局のところもし、今回の事件が元社員らによる「個人的な行為」で済んでしまった場合、「付随業務」として投資銀行業務などを行う証券会社全体の「利益相反取引の禁止」というガバナンスと内部管理体制構築の問題に発展するのではないでしょうか?少なくともシステムの構築によって大きなリスクを回避できるのであれば、できるだけのことをやって顧客の信頼回復に努める必要が出てくることになるのではないかと。

約2年ほど前に「阪神・阪急統合とコーポレートガバナンス」なるエントリーで、当時阪神電鉄のM&Aアドバイザーを務めていた大和證券SMBCが、阪急電鉄側のTOBにおける公開買付代理人を兼任されていたことについて疑問を呈しておりましたが、ある方よりメールにて「証券会社はそれほど利益相反ということについて関心はない」とのご意見を頂戴しておりました。しかし2006年10月には、日経BIZの佐山先生のコラムにて「認識うすいM&Aにおける利益相反問題」なるご意見を拝読し、やはり証券業界における利益相反問題については、一応検討されるべき課題なのだと認識したような次第であります。このたびのような情報漏えいを証券会社が自律的作用によって防止しえないものであるならば、利益相反問題については企業の信用を一気に落としてしまうような重大なリスクを抱えることになるわけでして、そこまで事件が発展してしまいますと、おそらく証券会社の仲介機能以外の営業利益に大きな影響が出るのではないでしょうか。

ということで、証券会社の今後の営業のことをかんがみますと、このたびのインサイダー事件につきましては、組織的ミスを認めたうえで、今後の内部統制システムの改善策を提案すること(および行政処分を甘受すること)で信用回復をはかっていくことがベストの対応ではなかろうかと思われますが、いかがでしょうか。

4月 24, 2008 野村證券インサイダー事件と内部統制 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2008年4月23日 (水)

野村證券インサイダー事件と内部統制の限界

本業のほうでかなり忙しくしているために、まともなエントリーを書く時間がなくて、申し訳ございません。(タイトルから期待されるほどの内容はございません(笑)が、とりあえず導入部分としてお読みください。)テレビをつけますと、山口県の母子殺害事件の高裁判決のニュースと並んで、野村證券社員らによるインサイダー刑事事件のニュースが深夜まで続いておりますね。最初このインサイダーのニュースに触れたときに、「また金融庁から内部管理体制の改善報告書の提出を求められると思うけど、これって内部管理体制をどう改善したらいいのだろう?どう変えてみても社員のインサイダーはなくならないのでは?」と感じましたが、野村證券の新しい社長さんも同様の見解のようであります。(インサイダー:「チェック限界あった」野村證券社長謝罪会見

この社長さんのおっしゃることは正論ではないかと思います。一般の上場企業の場合でしたら、社員教育と情報管理体制を改善することによってインサイダーリスクはかなり低減できると思いますが、NHKさんとか、公認会計士さんとか、企業情報印刷会社さん、そして証券会社さんなどは、どう考えても、企業情報に触れる社員の数を減らすことはできないわけでして、結局のところ、社員の倫理観とか、厳罰による威嚇などによって統制するしか方法がないのでは、と考えてしまいます。この記事にありますように、いくら地場受け、地場出しを禁止してみたところで、社員が第三者の口座を利用してインサイダー取引を行った場合には、証券会社としても管理は困難だと思われます。ましてや、投資銀行部門と本業である仲介機能部門や審査部門は利益相反防止のために、厳格な情報隔離体制が敷かれていると思われますが、そのような情報隔離体制のなかで、どうやって「社内におけるインサイダー防止体制」が構築できるのか、私にはイメージがあまり湧いてこないのであります。

ただ、平成9年ころの金融システム改革によって、証券会社は市場仲介も市場プレイヤーも自由にできるようになったわけですから、当然のことのように「付随業務」たるM&A助言業務のなかでインサイダーリスクは増えているはずですし、「なんでもできるようになった証券会社だからこそ」インサイダー取引には厳しい対応が必要だと思いますし、また実際に今回のような事件が発覚した場合には、あの「損失補てん騒動」同様、市場全体への影響はきわめて大きいものがあります。さらに発行企業のインサイダー取引を防止する役目があるにもかかわらずやってしまったところに非難が集まるのかもしれません。本件における「統制上の要点」がどこにあるのか、私にはまだよくわかりませんが、やはり内部統制の限界に近い問題として、社内規則の厳格化と刑事責任の厳罰化によって対処せざるをえないような気がいたします。(情報がもうすこしよく把握できましたら、また続編を書いてみたいと思っておりますので、本日は速報版ということで)

4月 23, 2008 野村證券インサイダー事件と内部統制 | | コメント (5) | トラックバック (2)

2008年4月21日 (月)

買収防衛策導入(継続)時に株主として是非聞いておきたいこと

金曜日(4月18日)、大阪弁護士会におきまして「平成20年度株主総会対策」なる弁護士向けの研修がございました。著名な先生が講師をされるということもあり、さっそく受講してまいりました。総会運営から、今年の議案予想、対決型株主総会対策など、手際よく解説されて、とても参考になります。

研修のなかで、やはり買収防衛策導入に関する総会対策ということにも触れておられまして、ブルドックソース事件を中心として、いわゆる「負けない防衛策」の導入についての解説がなされました。「時間をかせぐ防衛策」「濫用的買収者を近づけない防衛策」ということでしたらそれほどの疑問も湧いてこないのでありますが、「負けない防衛策」ということを前面に出しますと、やはり株主側からそれなりの質問も飛び出してくるのではないかと思います。以下、事前警告型の買収防衛策を継続する、もしくは新規に導入するための議案(導入議案もしくは定款変更議案)が上程された場合に、ぜひとも株主の立場から経営者の方にお聞きしたい点をふたつほど。

1 敵対的買収者が25%の取得を目指すこと、それ以上は買い進まないことを宣言している場合、買収防衛策は発動するのか?(つまり株主総会で発動の是非を決議するのか?)

これは「想定悶答(その2)」でも問題にしていたところでありますが、そもそも買収防衛策が株主共同利益の保護を目的とするのであれば、それは経営支配権が濫用的買収者に移転するような場合に、これを阻止することによって初めて「株主共同利益」が確保されるということに間違いないと思います。ということは、たとえTOBによって20%以上の株式取得を目指す希望者であっても、25%までしか買い進みません、と誓約している人に対してなぜ経営支配権取得後の経営計画まで表明させる必要があるのでしょうか。まさにサッポロHDやTBSが議論していた問題であります。すでに「有事」に至っている企業ではなく、平時に防衛策を導入(継続)する予定の企業だからこそ、冷静な経営者の方々のご回答をぜひお聞きしたいところであります。

このあたりのひとつの回答は、株主総会において行使される議決権は実際のところ、全議決権の70%程度となるケースもあり、そうなりますと(たとえ25%を上限とする株式保有であったとしましても)実際の総会を基準に考えますと35%を超える議決権割合を握る可能性があるわけですね。そうであれば、やはり大量買付希望者は重要な案件における会社側提案を拒絶できるだけの力を持つことになるわけでして、やはりこれを「経営権の取得」と捉えることもあながち誤りとはいえないのではないか・・・と。こういったところが回答になるのではないでしょうか。(いろいろとご批判はあろうかとは思いますが、まぁ最大公約数的な回答・・・程度にお考えいただければ、と)

2 大量買付希望者は株主総会で委任状勧誘の機会は保障されるのか?

実は2006年8月7日の当ブログのエントリー(王子製紙による北越の株主名簿閲覧請求)でも問題にしていたのでありますが、同業他社(海外を含む)が敵対的買収者として大量買付を希望している場合、最近の傾向である株主総会発動型スキームでしたら、最終判断は総会における株主の判断によって発動の可否を決するというものであります。事前に取締役会は買付希望者の経営計画などを表明させたり、資金的裏づけ等の調査をしたりするわけでありますが、本当に経営計画などによって「どっちの経営が当会社の企業価値を向上させることができるか」を真剣に問うのが目的であれば、委任状勧誘行為によって直接株主と対話する機会は大量買付希望者側にも確保される必要があると思われます。

ところが、王子製紙、北越製紙のときにも問題になりましたし、最近の委任状争奪事例でもよく問題にされるように、現会社法の規定によりますと、同業他社から株主名簿の閲覧請求がなされた場合は、対象会社は開示することを拒絶できることになっております。(会社法125条3項3号)つまり、この法理によると、買収対象会社は、大量買付希望者に対して、防衛策発動の可否を決する株主総会を前にして、その株主名簿の閲覧要求を拒絶することができることになりそうであります。しかし、これはやはりフェアーではないように私は思いますし、総会前に株主との対話の機会を確保することがなければ、「負けない防衛策」を目指して導入する以上は不安定なスキームといわれてしまうのではないでしょうか。

そもそも、相手方の義務なきことに応じさせるような「事前ルール」に一定の合理性があるのであれば(夢真・日本技術開発東京地裁判決参照)、そのルールに従った相手のために、対象会社の権利(株主名簿閲覧拒絶権)が制限されることにも一定の合理性があるのではないでしょうか。いくら議決権の要件を厳格にしてみたところで、同業他社による株主への企業価値向上の説明機会が確保されなければ、本当に特別決議による総会意思が実現されたといえるのかはかなり疑問があり、結論としても事前警告型買収防衛策の適法性を担保できないのではないか、と考えております。買収防衛策導入(継続)に関する議案審理におきまして、こういった質問に対して経営者側がどのように回答したのか、そのあたりの回答集を作成することで、「指針」に近いような取扱いも可能になるかもしれませんし、「平時の会社だからこそ」ぜひお聞きしてみたい回答であります。「ギャングを近づけない防衛策」「時間かせぎの防衛策」ということであれば、このあたりは曖昧なままでも良いと思うのですが、「負けない防衛策」ということであれば、ぜひとも、このあたりの不明瞭さを吹き飛ばしてしまうほどの論旨明解な理論をもって、こういった疑問に回答いただきたいと思うのであります。

4月 21, 2008 敵対的買収への対応「勉強会」 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2008年4月19日 (土)

大手監査法人に粉飾決算事例で初の賠償命令

(4月19日午後 追記、訂正があります)

来週月曜日(4月21日)は、いよいよ長銀違法配当刑事裁判の最高裁弁論期日であり、以前から当ブログにおきましても刑事、民事とも注目しているところでありますが、その直前の金曜日にたいへん注目すべき判決が大阪地裁で出たようです。日本を代表する監査法人さんが、大証二部に上場していたナナボシ社の監査において「適正意見」を出していたことで、ナナボシ社の管財人に対する監査法人の損害賠償責任を認めるビックリ判決であります。(朝日ニュース「監査法人トーマツに賠償命令、粉飾見抜けず損害認定」 なお日経ニュースはこちらです。)任意監査においては、平成3年3月19日東京地裁の「日本コッパーズ事件」(判例時報1381号116頁以下)が監査法人さんの(粉飾決算を見抜けなかったことによる)損害賠償責任を認めておりますが、一般の上場企業における監査(会社法による監査、金融商品取引法による監査、いわゆる法定監査です。)において、監査法人の監査上の過失を認め、損害賠償責任が認められるのはおそらく初めてのことであります。(なお、日本コッパーズ事件につきましては、控訴審では監査法人側が逆転勝訴しております)原告であるT先生(管財人)は、関西では倒産、金融法務ではたいへん著名かつ優秀な弁護士ですし、どのあたりに力点を置いて主張立証を構成されたのか、判決全文が入手できましたら検討してみたいと思っております。ともかく会計士業界におきましては、今後の大きな話題になることは間違いないでしょうね。なお本件のナナボシの粉飾決算につきましては、被告監査法人はすでに平成18年3月30日、金融庁(長官)より、懲戒処分を受けております。処分内容と事案の概要は以下のとおりでありますが、金融庁による処分が先行し、また懲戒対象の事案の全てについて裁判所が「債務不履行」を認めたわけではないことにご留意ください。

処分内容  戒告 

処分理由 

ナナボシの平成10年3月期から平成13年3月期有価証券報告書に重大な虚偽があったにもかかわらず、関与社員が相当の注意を怠ったことにより、重大な虚偽のないものとして証明した。

事案の概要

ナナボシは下請けのX社と通謀して架空の水利組合等による灌漑工事を仮装。ナナボシからX社に支払われた外注費を架空の水利組合等の名義を用いるなどして、ナナボシに対する完成工事代金として還流させ架空売上を計上し、虚偽のある財務書類を作成した。本財務書類に関し、当該公認会計士3名の行った証券取引法に基づく監査証明については、以下の問題点が認められた。

1 完成工事代金のうち一部が未収入金となっているにもかかわらず、ナナボシが補助金交付事業と説明した工事について、補助金交付事業であることを十分に確認しておらず、また、相手先の財務内容や延滞理由などを十分に確認していない。

2 工事現場視察にあたり、現場の工事状況と書類上の工事内容との整合性を十分に確認していない。

3 X社からの外注費請求書に明細が記載されていない等の問題があったにもかかわらず、外注工事の内容等につき十分な確認手続を行っていない。

この平成18年の懲戒処分事案と、日経新聞朝刊(4月19日)の記事内容とを見比べますと、日経記事では「(裁判官は)監査法人は財務上に不自然な兆候があった場合、原因解明する追加の監査手続をすべきで、怠れば責任を免れない、工事代金の入金がなかった点については工事の実在性などに懸念を抱き、追加の監査手続をすべきであった、とした」とありますので、この懲戒事案概要に掲示されている1ないし3が「不自然な兆候」といえるのでしょうか。ただ、4期にわたって、上記のような不自然な点が認められたのか、それとも最終の1期にかぎって認められたのか判然としておりませんが、当初は入金の確認等がなされたことを確認しており、それで監査人としても注意義務を尽くしたものであるが、借方の完成工事未収入金や貸方の工事未払金の一部が恒常的に残っていたりすることから、次第に監査人としては懐疑心を強めていく必要があった、ということではないかと推測いたします。(このあたりはぜひ判決内容で確認したい点であります)先日、当ブログでもご紹介しました「会計不正」(浜田康 著)の第五章では「監査人はなぜ会計不正を見逃すのか」(159P~212P)といったテーマで、有能な会計監査人とそうとはいえない(?)監査人とを分けて、不正会計を見逃すまでの原因究明とこれへの対応策などが詳細に分析されており、参考になるところであります。

まだ報道内容からしか事実は把握できませんが、本判決では過失相殺が認められ8:2(過失割合=会社8:監査法人2)として、損害額の一部(1700万円)のみ支払義務を認めているようであります。この8:2というのは、平成3年の日本コッパーズ事件の地裁判決も同様だったかと記憶しております。粉飾決算においては、経営者の故意過失や従業員の故意過失、そして監査人による監査が絡んでおりますところ、経営者や従業員の地位と法人としての会社とは法律上は別個の存在であるために理屈のうえでは過失相殺はないともいえそうでありますが、裁判所は「会社ぐるみによる粉飾」といった実態を重視して過失割合をそのまま過失相殺の対象としているようであります。(ただし、このあたりの議論が進展するかどうかは、まだ控訴審の結果をみてみないとわかりませんし、管財人の方が原告でありますので高裁で和解・・・ということも考えられます)また、このような「会社側の過失」といった内容が、賠償の金額を決定付けるとするならば、監査法人側は裁判において提出すべき抗弁としての「経営者の過失」「従業員の過失」をどのように基礎付けるか、という視点が監査実務にも影響することが予想されますので、今後の内部統制監査のあり方にも十分影響が出ることとなります。日本コッパーズ高裁判決や、山一證券事件などにおいては、監査人の責任が否定されてはいるものの、問題当時の「一般に公正妥当と認められる監査の基準」を参照しながら、監査計画の段階から、リスクアプローチの合理性や、内部統制の状況をどのように監査法人が把握していたか・・・といった点にも裁判所の注目が集まり出してきておりましたので、内部統制報告制度が施行されるに至った今日、こういった監査法人さんの民事責任を問う裁判の検討は欠かせないところになってきたものと思います。(中央青山の責任が問われたRCC→足利銀行の件はたしか和解的解決で終わったんでしたよね?)また、監査法人さんを被告とする民事事件の場合、高度の守秘義務を負う監査法人さんの手元にある証憑関係資料にどのように原告側がアクセスできたのか、その開示のあり方についても興味あるところであります。(注----本件事案は原告が倒産会社の管財人であるため、被告監査法人の手元にある資料と同一のものがすでに原告の手元に存在しているケースかもしれません。このあたりは、すこし注意をしておく必要がございます)

注)足利銀行事件につきましては、地裁判例が出ておりますね。正確なところは、追って確認次第またフォローいたします。失礼いたしました。(4月20日追記)

三田工業、フットワークエクスプレス、カネボウ、キャッツ、ライブドアと、会計士さん個人の逮捕劇から始まる粉飾決算刑事事件については、たいへん売れ筋のノンフィクションの本も出版されておりますし、自然と注目は集まるところではありますが、監査法人自身の民事賠償責任が問われる粉飾決算民事事件につきましても、このような賠償責任を認めるような判決が出ますと、今後は内部統制監査と絡めて注目が集まるものと推測いたします。また、民事事件の影響は、内部統制の評価を行ったり、法定監査を受ける立場にある上場企業にも大きな波紋を呼ぶことになると思われます。(ということで監査法人側も、控訴審で安易に和解することはできないかもしれませんね)

(追補)

日経新聞の朝刊では、上場企業における法定監査契約の性質についての裁判所の見解が記載されており、「監査契約には経営陣の不正をただす目的も当然含まれており、財務諸表が正確か、虚偽かを監査するのが監査法人の責務」であると述べられているようです。いわゆる積極的な不正発見義務を認めたものか、不正発見時の是正義務を認めたものかは、この内容では判然としませんが、4期のうちの最終の1期についてのみ監査法人の債務不履行を認めたことは、企業固有のリスクがどこにあったのか、それまでの監査人と企業経営陣との監査業務をもとに、監査要点は十分把握できたのではないか、等リスクアプローチの手続を適正に行うことが重要である、と考えているのではないかと想像されます。

先にご紹介しました浜田先生の「会計不正」にも、日本コッパーズ事件に関する印象などが書かれておりますが、そのなかで「監査手続、監査要点、実査、実在性などの用語は、監査の世界にいる公認会計士等は当然知っていますが、その世界に関係のない一般の人々にはほとんど理解できない言葉だと思います。そのような専門用語が判決文に何度も出てきたことに、監査業界の人間は驚きました。・・・(中略)・・・部外者である裁判官が専門用語を駆使して監査人の責任を追及しようとしたのです」と記されております。それからすでに17年が経過しており、財務報告に係る内部統制報告制度においては「経営者による有効性評価」を行う時代となり、もはや監査要点、実在性などの言葉は監査人と経営者との共有言語になりつつあるわけでして、もはや裁判官も部外者とは言えない時代であります。本件は、会社法上の内部統制の司法判断への影響だけでなく、金商法上の内部統制報告制度が司法判断に及ぼす影響についても無視できないことを改めて考えさせられる事案であります。

4月 19, 2008 監査法人の法的責任論(粉飾決算) | | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年4月18日 (金)

同友会の買収防衛策指針の策定とTOBルール(その2)

東証一部のイーアクセス社が「買収防衛策の流れに一石」を投じる、とのことで、これまで導入していた買収防衛策(ライツプラン)の廃止(継続しないこと)を取締役会で決議されたそうであります。(過度の買収防衛策の流れに一石)日本オプティカル社、ニッセン社に続いて非継続とするのは3社目ではないでしょうか。(追記 おおすぎ先生のブログで知りましたが、信託型のプランだったそうです。ねんのため)ニッセン社と同様、イーアクセス社も社外取締役制度を充実させており、中長期的な企業価値向上に関する株主との対話の姿勢を打ち出そうとされていると思われます。(副次的な効果ではありますが、資本政策によって安定株主を確保することも検討されているのかもしれません)なお、5月初めには、ニッセン社の社外取締役の方から、買収防衛策非継続を決定された経緯について、直接お会いして(守秘義務に反しないかぎりで)伺う予定になっております。何度も申し上げておりますが、私自身は「買収防衛策」の有効性を否定するものではなく、ただ別の買収防衛効果策も含めて、自身の会社の重要なリスク管理のひとつとして、検討すべき課題であると思っております。(ちなみに、証研レポート4月号の奥村宏氏の「株主とは誰のことか」なども、なかなか興味ある内容で、参考になります)

さて、先日の「同友会の買収防衛策指針の策定とTOBルール」につきましては、go2cさんからもトラックバックをいただき、またコメントとは別に何名かの有識者の方々よりメールを頂戴いたしました。賛否両論でありますが、皆様方からのメールの内容につきまして、差しさわりのない範囲でご紹介させていただきますと、第一次案については、経営者支配寄りのもっと過激なものであったが修正された、メンバー構成が経営者サイド、買収者支援サイドなどいろいろであったため、まとまらず調整が一苦労であった、相当以前から「何か発表しなければ」という雰囲気はあったが、なんとか無事発表できてホッとしている、経営者サイドの方々は、誰もが「自分が一番この企業の価値を向上させることができる」ということを信じて疑わず、これは保身などという安っぽい意識とは全く別の意識である(笑)、といったところだそうであります。(本当に差し障りのない話ですいません、あまり具体的な話ですと、メールをいただいた方々にご迷惑がかかりますので・・・(^^;) )

4月 18, 2008 企業価値と司法判断 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年4月16日 (水)

「行政処分リスク」は両刃の剣か?

関西では「チャペクリ」(チャペル・クリスマス)とか「チャペココ」(チャペル・ココナッツ)としてお馴染みの超大手ファッションホテル運営企業と、その経営者の方が風営法違反で書類送検された、という報道があり、私もたいへん驚きました。規制条例の合憲性が争われたケースがあるものの、風営法違反ということで立件を目指そうとする対応はおそらく初めてではないでしょうか。(たとえば毎日ニュース)ニュースによっては「偽装ラブホテル」なる用語で紹介されておりますが、あまり聞きなれない言葉であります。別の毎日新聞ニュースによります