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2008年4月16日 (水)

「行政処分リスク」は両刃の剣か?

関西では「チャペクリ」(チャペル・クリスマス)とか「チャペココ」(チャペル・ココナッツ)としてお馴染みの超大手ファッションホテル運営企業と、その経営者の方が風営法違反で書類送検された、という報道があり、私もたいへん驚きました。規制条例の合憲性が争われたケースがあるものの、風営法違反ということで立件を目指そうとする対応はおそらく初めてではないでしょうか。(たとえば毎日ニュース)ニュースによっては「偽装ラブホテル」なる用語で紹介されておりますが、あまり聞きなれない言葉であります。別の毎日新聞ニュースによりますと、今年に入ってから市民団体によって警察庁などへの取締要望があったようですので、これが契機となったものと推測されます。業界大手への「見せしめ」的取締とか、再三の要請を無視されたことへの対応、といったことも原因しているのかもしれません。しかし、風営法違反というのは、風営法の許可を得ずして「ラブホテル」を営業していた、ということですが、運営会社としてはこの「ラブホテル」に該当しなければいいわけでして、問題となっているチャペル・スイートについても一応は事前に行政の「旅館業」の許可は取得しているわけであります。そもそも行政は、このチャペル・スイートの外観や中身を審査して「ビジネスホテル」として許可したわけでありますので、警察が「ラブホテル」と認定したことと、事前の行政の「ビジネスホテル」と認定したこととは矛盾しないのでしょうか?今回警察が「ラブホテル」と認定した決め手は①駐車場進入口に目隠しがある、②部屋のなかでアダルトグッズを売っている、③部屋の値段表の看板が玄関前に置かれている、④宿泊者名簿が備え置かれていない、といったあたりのようであります。つまり、行政が旅館業の許可をおろした後の、ホテル側の対応のよろしくない点だけを捉えていますので、あえて行政の事前許可との矛盾が生じないような配慮があったのではないでしょうか。だとすれば、ホテル側としましては、先の決め手となった点に留意しながら、ちょっとした改装をして反省してみせれば、それでビジネスホテルであることの「お墨付き」がもらえるわけでして、なんとも要望(地域からのラブホテル締め出し、営業停止)を出した市民団体の意図とはまったく正反対の結果が生じてしまう可能性があります。日本全国に数え切れないほど存在する「偽装ラブホテル」のオーナーの方々も、「なんだぁ、警察が動いてもこの程度かぁ・・・」とホッと胸をなでおろしているのではないでしょうか。ただ、誰も「行政処分はないだろう」と考えていたところで、市民運動を契機として行政処分が動き出す・・・というのも、企業にとっては大きなリスクであり、いわゆる行政処分リスクの特色の一端であります。なお、最近は普通のビジネスホテルやシティホテルでも「デイユース」(お昼の2名さま時間利用)をやっていますし、ツインの宿泊でも代表者のサインだけでいけますし(ラブホテルで車のカギを預けるほうがよっぽど個人特定としてはましだと思いますが)、ビジネスホテルの外観で、中はラブホテルというのも出現しておりますので、ますます境界は曖昧になってきていると思います。

さて、もうひとつの話題のホテルといえば新高輪プリンスホテルでありますが、こちらは旅館業法違反(正当な理由なく客を宿泊させなかったこと)で港区から行政処分を受けるのは必至と考えられておりましたところ、始末書を提出したことで「口頭注意」で終わってしまいそうであります。行政処分というのは過去の行為に対するペナルティではございませんので、なんともその裁量の具合がよくわからず、処分を受ける可能性のあるリスクというものは計り知れないところがございます。しかしながら、このプリンスホテルの件のように、始末書を上手に提出することで明らかな旅館業法違反の事実が認められても、すでに行政目的は達成できたとして、重大な処分は課されずに済むことがあるというわけであります。ひとつ予測を間違えますと、行政処分が刑事処分に発展することとなりますが、裏をかえせば、やり方次第では何もなかったかのように処分の対象からはずれてしまうという、この「両刃の剣」たる性質は、企業コンプライアンスの観点からは十分弁えて(わきまえて)おいたほうがよさそうであります。何度か当ブログでもとりあげましたが、改正された金商法上の課徴金制度(行政処分)によって、取締の歴史をつくっておいて、後から刑事罰(ただし証券取引等監視委員会は、あまり刑事罰に持ち込んで検察庁と共同作業をすることがお好きでないようですが)でピンポイントで締め付ける、という手法にも要注意であります。このままでは、「世の中の気分次第で」行政処分が出たり、出なかったりする風潮が高まるばかりであり、市民にとっても企業にとっても「よろしくない」事後規制社会が到来するのではないでしょうか。私が税務、独禁法以外の分野で行政と闘える有能な弁護士を待望する所以であります。

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