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2008年4月 1日 (火)

企業不祥事と「統制環境」評価(その1)

いよいよ4月となりまして、このブログではやっぱり本日施行の内部統制報告制度ネタを考えてみました。(といいましても、とくに驚くような内容ではございませんが・・・)

丸山満彦会計士のブログ(まるちゃんの情報セキュリティきまぐれ日記)におきまして、「財務報告に係る統制環境だけを抜き出して評価できるか?」というエントリーが盛り上がっておりまして、やりとりを興味深く拝見しておりますが、たしかに内部統制報告制度における評価方法としてはむずかしい問題を含んでいるものと思います。たとえば、「・商品が一定の品質基準を満たしていないため、販売できない可能性が非常に高いという事実が分かったが減損しないとか、・工場跡地から有害物質が発見されその除去に多額の費用がかかることがわかったが、その事実を開示しない」場合など、といった事例があげられておりますが、そもそもそういった不祥事は財務報告に係る内部統制上の統制環境とは無関係な業務プロセス上で発生するものであり、評価対象には該当しないのではないか、という疑問が生じます。(「重要性」の観点から、評価範囲からはずれてしまうことも多いと思われます)

そもそも不祥事を発生させる企業体質全般を、内部統制報告制度における経営者評価の対象と捉えることは、「経営者による評価」は可能であったとしても、監査人による「内部統制監査」の対象とできるのかどうか、素朴な疑問が生じるところであります。そこで、品質偽装を見逃すような経営者は、財務報告に係る粉飾についても見逃すだろう・・・という推定が働くようにも思いますが、現実にその推定から「統制環境に重要な欠陥あり」と判断(評価もしくは監査)するところまではなかなか届かないケースも多いかもしれません。(判断に相当な勇気がいるようにも思います)しかし一方において、架空循環取引のリスクや粉飾リスクなどの不正会計リスクと、食品偽装や環境汚染などの不祥事リスクを切り分けて前者のみを考慮しながら「統制環境」を評価することは、少し技巧的すぎるようでなんかおかしい気もします。(これまた現実的でないようですね)

ところで、この4月から「棚卸資産の評価に関する会計基準」が施行されて、いわゆる「低価法」が強制適用されることになるそうですが、そこでは収益性が低下しているものにつきましては、棚卸資産の金額を評価減しなければならないとされています。つまり、上場企業の場合、棚卸資産の収益性については、会社も監査人も注視しなければいけなくなった、ということですよね。そこで、このあたりは会計制度にくわしい方に教えていただきたいのですが、たとえば品質偽装の問題とか、販売目的で保有している土地の土壌汚染を隠蔽して販売(もしくは保持)する問題などの場合、企業としては棚卸資産に明らかな収益低減要素が含まれているわけですから、これはまさに財務報告に係る内部統制と関連する問題と捉えることはできないでしょうかね?もしこういった点で「財務報告に係る内部統制」と企業不祥事との接点が見出せるのであれば、不祥事体質自体を「統制環境」の評価要素として含めることの説明が容易になるように思うのでありますが、いかがでしょうか。

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コメント

toshi先生、こんばんは。
ついに、内部統制報告制度が施行されましたね。
個人的には、案の定見切り発車的な状況にありまして、エイプリルフールだったら、気分的にもう少し楽なのになぁという思いがいたします(笑)

全社的な内部統制については、「どんな全社的な統制も、財務報告に影響を与える可能性があるものだ」と割り切っておいて、実施基準でしめされた例示から離れすぎないようにまずは評価するのが結局余計な労力をかけないことになるのかな、と思いますがいかがでしょうか。(より財務報告目的に光が当たっていそう、という点ではなかなか考えられていると感じます)そこで、何か問題があれば、財務報告に具体的などのようなリスクを及ぼしているのか、という観点から業務プロセスを十分評価することが最終的に効率のよい経営者評価と、監査判断に悩むことが少ない効率的な監査実務になるように思います。

この点で、全社的な内部統制の評価だけをもって「重要な欠陥」と判断することは、ほとんどあり得ないと私は考えています。そのような状況では、業務遂行以前に監査契約の解除を真剣に検討しなければならないのではないかと思います。。。。

私は全社的な内部統制を評価・監査対象とすることの一番の意義は「社内に存在する様々な情報の風通しを良くして、財務報告へ反映させるべき事象を漏れなく反映させるための基礎を構築すること」にあると考えます。

たとえば、例であがっている、

・商品が一定の品質基準を満たしていないため、販売できない可能性が非常に高いという事実が分かったが減損しない

という事象ですが、現実の会社における最大の問題は「一定の品質基準を満たしていない」ことを知る人間と、「減損」する人間が異なるということにあります。これを適切に財務報告に反映するには、例えばですが、

・品質基準を満たしていないという事実をより上位に伝える「情報と伝達」
・財務報告の意識が高い経営者・監査役が「これは会計の問題になるのではないか」と思う「統制環境」と「モニタリング」
・リスク管理部門が、経営者の指示を受けてこの事象が会社の財務報告へ影響を与える程度やリスクを具体的に検討する「リスク評価」
・その結果を受けて経営者が「減損に関する内部統制を強化しよう」と決断する「リスクへの対応」
・経理部門へ問題の事象および内部統制・会計上の対応策の指示をだす「情報と伝達」

とかなり横断的に基本的要素が適切に機能しなければ、真に適切な財務報告をすることは不可能であることが想像できます。

この話は一般的な組織上の仕組みの話でもありますから、全社的な内部統制の評価を「組織の土壌を評価するもの」と考えたときには、財務報告目的にフォーカスすることにはそれなりに意義があると思いますが、内部統制の4つの目的を真剣に分類する「作業」はあまり生産的ではないように思います。会計士として監査判断をしっかりしたいがために、自分の土俵に持ち込むという意味で、全社的な内部統制を財務報告目的に限定すべく細分したい衝動に私も何度か駆られましたが、結局「業務プロセス」まで落ちていってしまうジレンマに陥った経験があります。

また、この例はどちらかというと「不祥事リスク」に分類されるのではないかと思いますが、財務報告に影響がないとは言えない、という例の一つでもあると思います。

少し前に「耐震偽装」が話題になりましたが、これも「不祥事リスク」に該当するものと思います。そして、問題となったホテルを所有している企業は、その期に相当額を減損処理している事例があります。減損処理しなければやはり財務報告の虚偽記載に該当したものと思われます。このように社外の事象は、重要なものはマスコミという巨大な「情報と伝達」機能を利用できるため、通常内部統制はそれほど問題にならず、財務報告にも適正に反映されるとおもいます(会計処理している本人が直接メディアから情報を入手しているでしょう)が、「社内」の問題について適切な財務報告へつなげることができるかどうかという点については、全社的な内部統制が重要な意義を持ってくるのではないでしょうか。

棚卸資産の評価に関する会計基準の話題がでましたが、この基準は低価法の強制に関する基準ですので、基本的には全棚卸資産の「正味売却価額」を把握することが会計処理のキーポイントになるかと思います。

内部統制上のポイントとしては、「会計処理」するのは経理部門ですが、通常「売却価額」に関するデータを持っているのは、会計基準の知識を持っている経理部門ではなく販売部門であり、「棚卸資産」の物理的なコントロールを行っているのは倉庫部門であるということです。業態によって影響の程度は大きく異なると思いますが、この会計基準の導入によって、販売部門及び倉庫部門の内部統制に何ら変更が生じないような状況では、業務プロセスに問題がありますし、その前提として全社的な内部統制にも問題があるといえるかもしれません。最終的には、会計処理も誤ったものになるかもしれません。

蛇足ですが、「異常性のある棚卸資産」は従来から必要に応じて減価を会計上認識することが求められていますから、「品質偽装」「土壌汚染」といった類のものは、従来から会計処理の必要性を検討すべきものかと思います。

投稿: tom | 2008年4月 1日 (火) 22時38分

山口先生、お疲れ様です。

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「・商品が一定の品質基準を満たしていないため、販売できない可能性が非常に高いという事実が分かったが減損しないとか、・工場跡地から有害物質が発見されその除去に多額の費用がかかることがわかったが、その事実を開示しない」場合など、といった事例があげられておりますが、そもそもそういった不祥事は財務報告に係る内部統制上の統制環境とは無関係な業務プロセス上で発生するものであり、評価対象には該当しないのではないか、という疑問が生じます。(「重要性」の観点から、評価範囲からはずれてしまうことも多いと思われます)
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 ここであげた事例というのは、一般的には業務プロセスというよりも決算・財務報告プロセスで行われる場合が多いように思います。例示のような事実を経理部長等が、社長からの指示や社長の立場を慮って隠しているような企業体質であれば、やはり統制環境に不備があるように思います。例示のような不備で影響額が多額で、発生可能性が高いのであれば重要な欠陥になると思いますが、いかがでしょうかね。。。


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そもそも不祥事を発生させる企業体質全般を、内部統制報告制度における経営者評価の対象と捉えることは、「経営者による評価」は可能であったとしても、監査人による「内部統制監査」の対象とできるのかどうか、素朴な疑問が生じるところであります。
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 統制環境という観点からは、経営者の姿勢が重要ですからね。。。それを監査できないというのであれば、制度が破綻しているようにも思いますがどうでしょうかね。。。

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しかし一方において、架空循環取引のリスクや粉飾リスクなどの不正会計リスクと、食品偽装や環境汚染などの不祥事リスクを切り分けて前者のみを考慮しながら「統制環境」を評価することは、少し技巧的すぎるようでなんかおかしい気もします。(これまた現実的でないようですね)
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技巧的に過ぎると思いますね。。。評価する場合は、財務報告の信頼性だけでよいですと、質問表には書かれているかもしれませんが・・・

投稿: 丸山満彦 | 2008年4月 1日 (火) 23時21分

tomさん、丸山先生、詳細なご教示感謝いたします。(たしかに「耐震偽装」なども想起できますね>tomさん)さすが会計専門職の方にプロの知見を見せつけられたようで、汗顔の至りです。(棚卸資産の評価に関する基準を採り上げたのはすこし的外れだったかもしれませんね・・・(^^;)とりわけ会計基準の適用に関する実務的感覚を知りたかったので、たいへん勉強になります。

経営者が堂々と「うちの内部統制には重要な欠陥がある」と言い切れるような運用がなされたら、監査人も堂々と切り込めるような気がするのですが(著名な弁護士の方々には、けっこう、こういった運用でなければだめだ!とおっしゃいますよね)現場で担当者の方々と話をしているかぎりでは、どうもそうはならないようですし、監査人の方々の意気込みといいますか、実務感覚のようなところに関心があります。頭に想定している上場企業の規模なんかにもよるかもしれませんが。

ぜひ、コメント部分も閲覧されていらっしゃる方に参考にしていただきたいと思います。

投稿: toshi | 2008年4月 2日 (水) 02時22分

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