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2008年4月15日 (火)

同友会の買収防衛策指針の策定とTOBルール

経済同友会が買収防衛策などの法整備について提言をおこなったそうであります。(経済同友会企業・経済法制委員会作成に係る「健全なM&Aを促す法改正を」 )

毎度申し上げることですが、私はM&Aに詳しいものでもなく、あくまでも「素人的感覚」での意見でありますが、TOBルールの改正案のなかに、経営支配目的がある買収者に対し、①企業価値の持続的向上に資する経営改善策の提示を義務付ける、②経営改善策の実行に必要な期間中の株式保有を義務付ける、③買収にかかる資金源の開示を厳格化する、など、大量取得目的を有する株主への義務について提言されておりまして、このあたりがとてもビックリいたしました。

TOBルールは原則として、金融商品取引法の制度趣旨である「投資家保護」を目的とする制度ですから、開示による規制を中心としたものであり、買付希望者の行動に対する法的義務を課す制度ではないと思っておりました。たしかに「全部買付義務」というTOB時における実体的な義務は規定されておりますが、これはTOBの成功によって少数株主が切羽詰った状況に追い込まれてしまうことから、少数株主を解放するためのものであり、金商法の制度趣旨とも合致するものだと理解しております。しかし、経営改善策を提示させたり、株式保有を義務付けるのは、「少数株主保護」でもなく、むしろそういった改善策を提示しなかったり、株主保有をするつもりがないことにつきましては、そういった株主への説明に熱心ではない買取希望者のTOBに一般株主が応募しなければすむことであって、わざわざ実体的な行為義務を課す必要もないと考えておりました。

いままで金融商品取引法は、支配権のあり方を決定する規制として用いられてきたことはないと思いますし、敵対的買収、友好的買収いずれにしてもTOBは無色中立の立場でなければならないはずであります。そういった買収がありうることは念頭に置かれているとしましても、投資家保護のためには基本的には開示規制で対応すべきであり、そこに少数株主保護など、喫緊の課題が存在する場合のみ、実体的規制をかける・・・というのが私の理解なのですが、この同友会の提言内容まで「株主保護」と一括りにしてしまいますと、本来の金商法の制度趣旨と合致するのかどうか、少し疑問を抱いてしまいました。最近は委任状勧誘規則のあり方なども、会社法と金商法の狭間の問題として議論されておりますし、このあたりはけっこう気になるところであります。「株主保護」は理解できますが、「株主過保護」は健全な市場による価格形成の実現にはマイナスに働くのではないかと。やっぱり「公開会社法」的な特別組織法を作ったほうが理論的にはスッキリするような感じがしますが、いかがでしょうか。

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コメント

島国根性ここに極まれり、ですな。
まあ、あんな人物が経産省の次官をやっているクニですから
さもありなんなんでしょうけど。
社会全体のこのどうしようもない内向き傾向は、
本当に上は官僚・財界から下はネット・ウヨまで骨の髄まで浸透しきって
いますなあ。「さらに失い続ける数十年」…
いうまでもなくアメリカンスタンダードが正しいなどというつもりは
全くないですが。

経済同友会所属の企業はさっさと資本市場から退場しなはれ、ですわ。

「健全な企業買収」と「悪質な企業買収」を言う前に
「健全な経営者」と「悪質な経営者」を区別して、株主(将来株主も
含む)にとって悪質な経営者を排除しなければなりませんわな(笑)。

投稿: 機野 | 2008年4月15日 (火) 09時49分

最初の案はもっと過激だったけど、これでもだいぶましになった。
委員の顔ぶれをみても、かなりいい線ですよ。
toshi先生のご指摘はもっともな意見です。ただ、時期的にどうしてもこういった指針を出したかったのです。いろんな意見があってもいいとは思いますが。

投稿: 幸福の価額 | 2008年4月15日 (火) 15時15分

企業によって差はあると思いますが
今まで中期計画らしきものを出した事のない会社の株式をTOBする場合に、買収者だからって出させるって言うのは(提言では自らも開示して説明すると記載ありますが)虫が良すぎますねえ。

経営者の都合だけいいようにルールをこねくり回してるって印象ありありですね。
そんなに株主が大事なんだったら普段から大事にしてよってどうしても思いますね。

けどなぜ美辞聖句で定性的に良いとか悪いとか平気で提言できるのか、同友会自身の見識も疑います。だれが決めるんでしょうか、良いとか悪いとか。

経営改善計画とやらも
結婚するのに

今後10年間の予想年収を答えろ
子供は何人作るのか
家は買うのか、マンションか戸建てか、ローンはどうする
絶対離婚しないんだな
電化製品や家具はどれぐらいの値段のものを買うのだ

って聞かれて、敵対的ならいざ知らず(のどから手が出るほど欲しいから敵対的でもTOBする)、友好的(特に救済的M&Aや大が小を飲み込むなど)な場合、めんどくさいって思わないですかね。
だったら止めますって言われるかも。

実務知らん人が作ったとしか思えない。TOBを逃れるための株主ごまかしスキームとか出来ちゃいそう。

みんながみんなスティールさんじゃないんですよね。

会社法の上位概念というか公開会社法導入への気運を帰って盛り上げちゃいますね。提言意図と結果が裏目に出る提言。

投稿: katsu | 2008年4月15日 (火) 23時56分

しがない無名の街弁より。ホー氏、リヒ氏及びムラ氏に贈ることば。
「当ファンドは、金融商品取引法第40条の2第1項の定めに従い、お客様にとって最良の取引の条件で執行するための方針、および方法を定めたこの最良執行方針を大切に致します。執行に当たっては、保有資産に係る発行体のステークホルダーの皆様の利益にも十分配慮しつつ、発行体の経営陣を長期的にサポートすることにより、発行体の全体としての株主価値を高め、もって保有資産の長期的価値の向上に寄与することを真剣に考慮いたします。」この国では、収益を上げることは、悪事でありますし、日本語は諸国の出資主の皆様からするとガラパゴス語のようなものですから、日本語版の最良執行方針がこのようなcoreなのかvalueなのかoppoなのかさっぱりわかんないような意味不明なものであったとしてもまあいいではありませんか。ガラ国におけるコンプライアンスの世界におきましては、40条の2は遵守されるべき法令とはみなされておらないようですので、慄然とされるようなものの言い方は回避して頂くのが賢策と思われます。


以上全て悪い冗談ですございますので真に受けないようご注意下さいませませ。

投稿: 通りすがりのものですが。 | 2008年4月16日 (水) 07時17分

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toshiさんのブログ でも紹介されていましたが 健全なMAを促す法改正を(経済同友会 企業・経済法制委員会 2008年4月14日) なんかこのタイミングで妙なことを言っているな、という感じではあります。経済産業省の北畑事務次官とのコラボかな、と思わせます。 提言の細かい内容はさておき、冒頭のスタンスがいちばん引っ掛かりました。 1.企業の存在意義と企業買収 企業は、法律的観点からは「株主のもの」であることは言うまでもないが、また同時に「財・サービスの生産・提供にとどま... [続きを読む]

受信: 2008年4月17日 (木) 21時59分

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