« 株主総会想定悶答(お気楽に) | トップページ | 会計基準の国際化に対する監査役実務対応 »

2008年4月 6日 (日)

企業不祥事と「統制環境」評価(その2-食品Gメンの闘い)

(日曜、若干の追記あります)

4月5日(土曜)夜、NHKで「にっぽんの現場-食品表示Gメンの闘い」なるドキュメント番組がございまして、農林水産省の食品表示Gメンの方々(規格監視室)のお仕事が、実際にあった産地偽装事件の調査活動のなかで紹介されておりました。(とてもおもしろかったです)つい先日の東海澱粉株式会社の産地偽装事件について、どのような端緒によってGメンが調査を開始し、不祥事企業が行う記者会見までのわずかの期間に「組織的関与」であることをなんとか認めさせようと尽力するところまでの取材内容は詳細であり、なかなか勉強になりました。以下備忘録を兼ねて、若干ご紹介いたします。

農水省内の「食品表示Gメン」は現在9名ですが全国(おそらく農政事務所)には約2000名の食品Gメンが配置されており、このNHKの取材期間(3ヶ月間)でも約1000件の情報が寄せられた、とのことであります。ただ、そのうち実際に農水省で調査のうえ不正が発見できたのはわずか5件ということで、このあたりに任意調査としてのGメンの職務に大きな限界を感じられるようです。また、たとえ実際の調査によって「品質偽装」を暴くことができたとしましても、会社側担当者より「それは営業所が営業成績を上げたいがためにやったことで、本部では知らなかった」と言われてしまうと、それ以上の追及がなかなか困難であるのが現実のようであります

※ そういえば4月1日付けで「食品偽装特別Gメン」が20名、東京、大阪ほか地方農政事務所に配属された、というニュースがありましたが、この「特別Gメン」と、テレビで放映されていた農水省規格監視室の9名のGメンの方々との関係はどうなるのでしょうかね?(よくわかりませんでした)

さらに、品質偽装を暴くうえで、伝票と物流という、まさに財務報告の信頼性確保のための内部統制に関連する業務プロセスに重点的な調査が行われること、そのほか科学的な調査方法として産地ごとの商品のDNAデータをすでに蓄積しており、このデータによって食品産地偽装にはかなり対応できることなどが番組中で解説されておりました。もちろん調査の端緒は内部告発によるものが多いようですが、最近は他社と共謀して食品偽装を行っていた企業自身からの申告も多いようでして、このNHKの取材中にも、大阪の比較的大手の水産事業者自身より原産地偽装に関する自主申告がなされていたようであります。(偽装を隠匿していた・・・といった報道により、企業が被るダメージの大きさが認識されつつあるようです)こういった調査活動をみておりまして、やはり財務報告に係る内部統制を構築(整備、運用)するなかで、原産地偽装などの不正については、現場におけるセルフテストや内部監査人によるチェックの過程で容易に判明しうるものであり、「これは現場担当者が成績を上げるためにやったこと」なる言い訳はどうも通用しないのではないか・・・と思いました。もし、伝票を少しチェックすれば明らかに(取引業者と通謀して)原産地偽装をしているのではないかと認識できる程度でありますので、もし「知らなかった」なる言い訳が許されるのであれば、今度は内部統制のほうに重大な問題がある、と評価されざるをえないようでありました。(もちろん上場企業の場合・・でありますが)

最近の傾向としまして、原産地偽装による販売の場合、不正競争防止法違反の要件にも該当する場合が多いと思われますので、(このNHKの番組でも報じられておりましたが)東海澱粉社の場合も警察による捜査が開始されているようであります。この番組のなかで、少し残念だったのが、この東海澱粉社の原産地偽装の事実がどのような端緒をもって調査が開始されたのか番組のなかでは不明なままでしたし、(社内の社員によるものか、通謀していた取引先業者によるものなのか、それ以外の第三者によるものなのか)また、調査後、組織ぐるみでの犯行を会社側が否定していながら、記者会見の5時間前になって一転して担当取締役が原産地偽装の事実を認める発言をするようになった原因はどこにあったのか、という点についても触れずじまいでありました。ひょっとすると、告発した人と会社との番組には出てこなかったような深い事情があったのかもしれません。

なお、NHKの取材対象となってしまった東海澱粉社でありますが、農水省から立入調査に基づく追加情報が開示されたにもかかわらず、自社HPにおいては、この追加情報には触れないままに再発防止策を公表しておりますが、ちょっと信じられない対応であります。(組織的関与があったのか、なかったのか、についても触れられておりませんし、これはあまりにも不誠実な対応ではないでしょうか。)こういった対応がなされたうえで、どんなに立派な再発防止策を公表しても、不祥事体質が変更されないものとおもわれても仕方ないように思いました。かなり大きな会社ですし、ぜひとも情報開示のあり方を改善していただきたいと思います。

|

« 株主総会想定悶答(お気楽に) | トップページ | 会計基準の国際化に対する監査役実務対応 »

コメント

こんにちは、丸山満彦です。私も番組見ました。。。任意調査の限界の中で苦労している様子はよくわかりましたが、伝票を確認するなどかなりつっこんだところまで確認できているのだなぁ・・・と思いました。
 産地偽装を組織的に行い、いったんは組織的な関与を否定しつつも、最後はやっぱり組織的関与を認めたような会社の場合、財務報告に係る内部統制の評価において統制環境は有効に機能しているといえるのか・・・なんてことをやっぱり考えてしまいますよね。。。
 何人かの会計士の人とこのような話題をしたところ、「ダメっていうんじゃないの」という意見が大勢でしたね。。。
 

投稿: 丸山満彦 | 2008年4月 7日 (月) 00時36分

丸山先生、こんばんは。「統制環境」に関する著書を出しておられるので、やはりご覧になってたんですね。
私よく「あとだしジャンケン評価」なるフレーズを最近使っておりますが、そういった視点からすると農水省から改善報告の提出命令を受けたから「統制環境」に問題あり・・・といった評価も普通はありそうですね。しかし、昨日の番組をみていて、「全社的統制」が有効とはいえない、との評価を下すのは、あの調査期間である1週間の会社側の対応を時系列でみていて「統制環境に問題あり」といえそうに思いました。結果と言う「平面図」だけでなく、結果に至る過程という「時間軸」もとらえながら「統制環境」や「情報と伝達」などの重要な構成要素を検討することも重要な場合がありそうですね。
しかし統制環境に問題あり、と会計士さん方は堂々と会社に言えそうですか?もしそうなら本当におもしろい制度(経営者自身が前向きになれそうな・・・という意味ですが)になりますよね。

投稿: toshi | 2008年4月 7日 (月) 01時22分

山口先生、深夜に失礼します。

食品表示Gメンについては、今にはじまったものではありません。平成14年8月22日の産経新聞に掲載されていますが、当時大きな問題になっていた日本ハム産地偽装事件の直後にも農水省で食品表示Gメンを設立することが話題になっていました。そのときは9000人にも及ぶ農水省の余剰人員をうまく活用する方法として、むしろ世論の批判をかわす目的でGメン育成が考案されたものです。いまも2000人ほどのGメンがいますが、これは地方農政事務所に配属されているのは、むしろ余剰人員問題を解消するためです。
今後、いろんな省庁でGメン構想がありますが、どれも「企業不祥事問題」という名目のもとで各省庁の余剰人員対策が体よく敢行される、というわけです。

投稿: t.ueda | 2008年4月 7日 (月) 01時38分

少しメディアコンサルタントのお手伝いをしていますが、その僅かな体験の中で、やはり感ずるのは「負の情報」の自主開示への抵抗感です。建前はかなり前向きなのですが、シビアなシュミレーションになってくると、腰が引けてきます。「負の情報」を開示する当事者のプレッシャーは大きく、よほどの倫理感を持ち合わせていないと、決断は大変なことだと思います。
「コンプライアンスの本質は…」と評論家的に言うのは易いのですが、責任をとらないことが偉くなることの一つの条件ですから、社長から言い出すなんてなかなか無いでしょう。
ですから、「統制環境ダメ」の烙印は、開示のモチベーションにつながると思うので、監査人が勇気を持って出してほしいものです。結局損得ですから、言い逃れをして得られることと正直者が得られることの利害得失が目に見えるのが大事です。
同時にこの制度は責任者の責任の重さをはっきりさせることですから、そこだけ《日本型》の馴れ合いを持ち込むと制度矛盾を起こすと思います。厳格に責任者を追及した実例が必要です。天国は地獄と背中合わせなわけですから。

投稿: tetu | 2008年4月 7日 (月) 22時24分

UEDAさん、こんばんは。
Gメン構想にはいろいろなご意見もあろうかと思いますが、(あまり深くはお話できませんが)私の近いところでも、このGメンの活躍によって不祥事発覚に至った事例が最近ありました。番組では遺伝子情報の登録制度をやっていましたし、商品識別情報の集積などもGメンが行うようです。こういった「とても手間隙のかかる仕事」はある程度の人員が必要でしょうし、今後のますますGメンの活躍する場面は増えてくるように思います。あと行政手続の適法性がどこで担保されるのか・・・ということについて議論される必要がありそうです。

tetuさん、こんばんは。いつもコメントありがとうございます。
3月25日付けで農水省の食品安全行動規範がリリースされておりますが、各業種別に基本的な内部統制構築のモデルも掲載されているようです。これが十分とはいえませんが、「統制環境」作りのために参考にされるかもしれません。いずれにしても、経営者自身がそういった構築に関与することが最も重要だと思っています。

投稿: toshi | 2008年4月 8日 (火) 23時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 企業不祥事と「統制環境」評価(その2-食品Gメンの闘い):

« 株主総会想定悶答(お気楽に) | トップページ | 会計基準の国際化に対する監査役実務対応 »