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2008年4月23日 (水)

野村證券インサイダー事件と内部統制の限界

本業のほうでかなり忙しくしているために、まともなエントリーを書く時間がなくて、申し訳ございません。(タイトルから期待されるほどの内容はございません(笑)が、とりあえず導入部分としてお読みください。)テレビをつけますと、山口県の母子殺害事件の高裁判決のニュースと並んで、野村證券社員らによるインサイダー刑事事件のニュースが深夜まで続いておりますね。最初このインサイダーのニュースに触れたときに、「また金融庁から内部管理体制の改善報告書の提出を求められると思うけど、これって内部管理体制をどう改善したらいいのだろう?どう変えてみても社員のインサイダーはなくならないのでは?」と感じましたが、野村證券の新しい社長さんも同様の見解のようであります。(インサイダー:「チェック限界あった」野村證券社長謝罪会見

この社長さんのおっしゃることは正論ではないかと思います。一般の上場企業の場合でしたら、社員教育と情報管理体制を改善することによってインサイダーリスクはかなり低減できると思いますが、NHKさんとか、公認会計士さんとか、企業情報印刷会社さん、そして証券会社さんなどは、どう考えても、企業情報に触れる社員の数を減らすことはできないわけでして、結局のところ、社員の倫理観とか、厳罰による威嚇などによって統制するしか方法がないのでは、と考えてしまいます。この記事にありますように、いくら地場受け、地場出しを禁止してみたところで、社員が第三者の口座を利用してインサイダー取引を行った場合には、証券会社としても管理は困難だと思われます。ましてや、投資銀行部門と本業である仲介機能部門や審査部門は利益相反防止のために、厳格な情報隔離体制が敷かれていると思われますが、そのような情報隔離体制のなかで、どうやって「社内におけるインサイダー防止体制」が構築できるのか、私にはイメージがあまり湧いてこないのであります。

ただ、平成9年ころの金融システム改革によって、証券会社は市場仲介も市場プレイヤーも自由にできるようになったわけですから、当然のことのように「付随業務」たるM&A助言業務のなかでインサイダーリスクは増えているはずですし、「なんでもできるようになった証券会社だからこそ」インサイダー取引には厳しい対応が必要だと思いますし、また実際に今回のような事件が発覚した場合には、あの「損失補てん騒動」同様、市場全体への影響はきわめて大きいものがあります。さらに発行企業のインサイダー取引を防止する役目があるにもかかわらずやってしまったところに非難が集まるのかもしれません。本件における「統制上の要点」がどこにあるのか、私にはまだよくわかりませんが、やはり内部統制の限界に近い問題として、社内規則の厳格化と刑事責任の厳罰化によって対処せざるをえないような気がいたします。(情報がもうすこしよく把握できましたら、また続編を書いてみたいと思っておりますので、本日は速報版ということで)

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コメント

個別の事案へのコメントとしてではなく、一般論ですが、こういう情報を取り扱う会社の場合、当然こういう事件が発生することは企業にとってもちろん重大事案になってしまうため、情報管理体制の整備だけではなく、各社員への徹底は不可欠といえます。毎年各社員から確認書を徴求くらいはあって当然ですし、定期的な研修も必要ですが、それでも完全には防止しきれないのは確かです。おそらく当局による社内体制の厳しいチェックがあり、場合によっては業務改善命令にまで至ることもあるかもしれません。我が国を代表する企業でもこういう事例は起きてしまうこと、その中で当局によるチェックでどの程度の行為が企業側に必要とされるか、そういう観点で冷静に動向を見守りたいところです。

投稿: 辰のお年ご | 2008年4月23日 (水) 09時04分

初めてコメントさせて頂きます。

インサイダー取引は、金融商品取引法第6章にありますので、その対象者は「何人も」とされていますがその内の会社関係者等、公開買付等関係者、それらであったもの及び情報受領者です。今回の事件の逮捕者はこれらに該当します。
一方、金融商品取引取引業者(=証券会社)及びその役職員には、より厳しい規制が掛けられています。
社員がインサイダー取引を行ったら、それはつまり、防止のための内部管理が不十分だということで(業府令第123条)行政処分を打たれます。野村としては、「従業員の株取引は厳格に管理していたし、誓約書も徴求している。従って証券会社の法令等遵守に関する内部管理体制には落ち度はない。」と主張しているようです。即ち、従業員個人の故意、悪意によるインサイダー取引は、コンプライアンスリスク管理体制を構築していても防ぎようがなかったという論法で、会社としての業府令違反はなし、したがって行政処分もなしという落とし所を探っているのではないでしょうか。
しかし、一点ひっかかるのは逮捕者が全員中国人だということです。「新人の育成期間で、契約書作成などにあたっていた。」とのことですが、どうなんでしょう。
一般の新卒採用者には当然にして、コンプライアンス研修を行い、インサイダー取引の禁止、違反した場合の重い罰則(罰金、懲役、課徴金納付、財産の没収、追徴)を教え込みます。加えて重要事実の伝達については禁止規定、罰則規定は存在しないものの、伝達を受けた情報をもとにして、情報受領者が有価証券の取引等を行うことが予測されていながら伝達すれば、伝達者はインサイダー取引の共犯者、幇助者となる恐れがあること、さらに重要事実を上場会社等の役職員が(ましてや企業情報が命である野村の企業情報部の社員が)外部に伝達したら情報管理態勢が杜撰であるとのネガティブな社会評価につながること、インサイダー取引が行われれば致命的なダメージを受けること、等々を周知徹底するはずです。
そして、ここまで教育したのだからインサーダー取引に手を染めることはなかろう、情報管理もしっかりできるだろうと判断できてから新卒採用者を補助業務につかせるでしょう。

でも同じレベルの教育研修で良かったのでしょうか?性善説対性悪説とまでは言いませんが、国が違えば価値観が違い、会社に対する忠誠度も異なり、行動の動機も変わってくるのは当然です。そこまで勘案した上での方策を実施していなかったために起きた事件ではないでしょうか。だとしたら、やはり野村の内部管理体制は不十分と判定されても仕方ないと思います。グローバル企業を標榜する野村としてはお粗末千万です。証券会社の行政処分の発動尺度を見極めるいい例になると思います。そしてそれは内部管理体制の構築と運用に関する取締役の任務懈怠の度合いにも通じると思います。

投稿: メロ | 2008年4月23日 (水) 10時36分

大変ご無沙汰しております。

現在の報道内容だけでコメントすることは適切ではないかも知れませんが、花形部門であるがゆえの危険性、また、従業者の多様化・多国籍化等を踏まえ、インサイダー取引に対するリスクの大きさの変容を的確に把握し、防止態勢の見直しや強化につなげるような取組みがあったのか、私としては関心があるところです。

このような取組みは、法的責任や行政処分に陥らないためのレベルというより、「ベストプラクティス」のものなのかも知れませんが、内部管理には評判維持・向上をも目的とし得る以上、社会的に「限界」と呼んでよいものか、判然としないところであります。

もちろん、ベストプラクティスをもってしても故意犯を企業内で防ぎきることは不可能だとは思いますが。。その意味で、報道されているような証券取引等監視委員会の粘り強い調査姿勢は、防止機能として有効性が非常に高いですし、すばらしいと思いました(本気で)。


投稿: 行方 | 2008年4月23日 (水) 16時19分

これ、何で発覚したんでしょうか?
(密告者がいたんでしょうか)

大量の、短期間の平常ではない特定の株式売買がされた場合は
監視委員会がチェックするのでしょうが、
もっと巧妙に行われた場合まず分からないと思うんですよね、
本人やその家族名義ではなく、単なる友人だった場合は。
今回の容疑者らは中国国籍のひとだったということで目をつけられた
のかもしれませんね。

もっともっと慎重に、長期間に渡って、インサイダー情報を
証券会社勤務の友人などから得続けて少しずつ儲けている日本人は
きっと少なからずいるような気がします。

これはもう防ぐ方法はありませんし、発見することも困難です。

池田信夫氏流に言えば、「インサイダー取引規制なんてやめろ」と
いうことになります(笑)。
そもそも一般に投資家が株式を積極的に購入するときって
インサイダーっぽい情報を得ようとするのは人情であり自然な発想です。
プロの投資家が総会や自分が選任したボードメンバーを通じて
投資先の情報を得ている?アメリカの場合はインサイダーもプレス情報も
へったくれもなくなっているのではないでしょうか。そこまでは杜撰では
ないのでしょうか?

角を矯めて牛を殺す、ではありませんが、
社員のモラルを向上させるぐらいしか予防のしようがないことを
どうこうしようとして規制を強めることは
株式市場の低迷を加速させるだけだと思います。

どうしようもないことはどうしようもないのです…。

投稿: 機野 | 2008年4月23日 (水) 16時29分

皆様、いつも貴重なご意見ありがとうございます。このたびのコメントは同様の悩みを共有しつつも、多方面から問題点に光をあてておられる様子がよくわかりました。
外国籍の社員の問題・・・実はこれをエントリーで書くべきかどうか、迷ったのでありますが、基本的にはメロさんと同様の意見ではあるものの、もう少し「この外国籍の社員の立場」に関する報道内容を検証したうえで意見を付そうと思っておりました。まだ自分のなかに、この問題を処理だけるだけの見識を持ち合わせていないのも事実であります。

すこしだけ野村證券の立場を応援しようかな・・・と思っていたものの、よーく考えますと、情報管理技術の限界がもたらす重要リスクはほかにもあるのではないかと思い、別エントリーを立ててみました。

投稿: toshi | 2008年4月24日 (木) 02時44分

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