« 2008年4月 | トップページ | 2008年6月 »

2008年5月30日 (金)

アデランスHDの「社外取締役」リスク(けっこう怖かったかも・・・)

こんにちは。カテリーナ・ヤマグチです。(ここは無視してもらって結構です。一度やってみたかっただけですので・・・)

すでに多くのブログでも話題になっておりますアデランスHD社の株主総会ネタ(取締役9名の選任議案において、新任の社外取締役2名以外の7名否決)でありますが、アデランスHD社のリリースによりますと、取締役の人数に欠員が生じたため(つまり、会社法で要求されている取締役会設置会社の最低取締役人数3名を割ってしまったため)、新任の2名が取締役、任期満了の9名が会社法346条1項に基づく取締役「権利義務者」として残ることになったようであります。本来、取締役は総会終了時をもって任期満了となり、お役御免となるわけですが、突然解任されたり、選任議案が否決されるなどで法定の取締役の人数に欠けることとなった場合には、会社との委任契約の性質上、(民法654条の「委任契約終了時の受任者の義務」に関する規定と同じく)後任が決まるまでは会社のために役員としての権利、義務を負うわけであります。そこで今回のアデランスHD社の場合にも、この規定に基づいて改任予定だった7名と、4月28日付けリリースで明らかにされていた退任予定2名の合わせて9名(つまり総会直前の取締役全員)がそのまま役員としての権利義務を負っている状態にある、ということになります。

もちろん、スティールを筆頭とした49,8%(2月末時点)の外国人株主の意向によって取締役の選任議案が否決される、というまことに異例の事態にも驚きましたが、よくもまあ無事にこれまでの7名が取締役「権利義務者」として残って、11人による取締役会が開催されることで済んだものだなぁ・・・というのが私の感想であります。(もちろん早期の臨時株主総会開催は必然のこととして)選任議案が提出された7名のうち、元最高裁判事でいらっしゃる大先生がおひとり「社外取締役」として選任される(改任される)予定だったようでありますが、この先生も選任議案が否決されたために、結果として取締役たる地位にあるのは新任の2名の「社外取締役」さん達だけになったのであります。(新任2名の除く9名のうち、2名については、任期満了で退任予定でしたので、選任議案は提出されておりません)もし選任予定の7名の取締役のうち、社外取締役だった元最高裁判事さんだけが、「社外取締役」であるがゆえに外国人株主によって「賛成」票が投じられていたとすると・・・・・、けっこうたいへんな事態になっていたのではないでしょうか。つまり、社外取締役ばかり3名が正式な取締役として就任することになりますので、法定の取締役人数に欠けるところはありません。またアデランスHD社の最新の定款をみてみますと、その20条において「取締役の人数は12名以内とする」とはありますが、とくに取締役人数の最低数を定款で規定しているものでもありません。ということは、もし外国人株主の方々が、「現任取締役のうち、社外取締役については再任はOK」と判断していたとしますと、会社法346条1項の「役員が欠けた場合」には該当しなくなりますので、社外取締役3名だけで取締役会を構成して、ほかの社長、会長を含めた実質的な役員の方々は、取締役「権利義務者」にもなれず、取締役会すら参加できない状況になっていたのではないでしょうか。これでは会社としての機能が一時的にでも麻痺してしまうことになりかねず、ゾッとしますよね。(なんぼなんでも、弁護士と会計士さんと、リスクマネジメントの先生の3人でアデランス社の経営判断をしろ、というのは厳しいですよね。だからといって、選任直後にわざと一名辞任する・・・というのは、それこそリスク大きいですし)

そのあたりのリスクも見越して、外国人投資家の方々は社外取締役についても選任議案に反対票を投じたのでしょうか?しかしそこまで足並みを揃えて反対票を投じていたとは思えないのでありまして、本当にヤバイ事態になりかねなかったのではないかと思われます。新任の2名の社外取締役については賛成票を投じているにもかかわらず、現任(再任)予定だった社外取締役にはこぞって反対票を投じる・・・・・・、このあたりはどう解釈したらよいのでしょうか。

ところで5月24日あたりの報道では、アデランスHD社の総会について、議決権行使助言会社であるISS、グラス・ルイスあたりが、会社側提案に賛同するよう呼びかけている・・・というニュースがありましたので、今年は昨年ほどの騒ぎになるようなことは予想されず、マスコミにとっても意外なニュースだったのではないでしょうか?あと1ヵ月後に控えております3月決算会社の株主総会対策にも、けっこう大きな影響を与えるのかもしれませんね。

5月 30, 2008 平成20年度株主総会状況 | | コメント (9) | トラックバック (2)

2008年5月28日 (水)

船場吉兆の廃業報道について思うこと

本日の読売新聞の一面トップ記事として「船場吉兆、廃業へ」とありました。読売のネットニュースはこちらです。(関西版だけがトップ記事だったのかもしれませんが)何名かの方より、エントリーのご要望がありましたので、仕事中ではありますが、ほんのひとこと、感想だけ書かせていただきます。

民事再生開始を申し立てたころは、おそらく顧客の方々さえ来店いただければ、事業規模を縮小することによって営業を継続できるだろう・・・との期待があったと思われます。しかしながら、やはり「つかいまわし」は痛かった。これは最後の砦である「長年にわたる顧客からの信頼」を裏切ったことになってしまったことは間違いないでしょう。これでは接待で使うにも使えないですよね。不祥事の種類にもいろいろありますが、この企業体質を如実に表現するタイプの不祥事の怖さを痛感しました。

それと、関係者の方々にご迷惑をおかけしてはいけないので、これはあくまでも私個人の感想(といいますか推測)にすぎませんが、廃業と刑事捜査との関係はどうなったのでしょうかね?不正競争防止法違反容疑で大阪府警の捜査が継続していたと記憶しておりますが、もし経営者の方々の刑事問題が微妙なところに来ているのでしたら、「廃業」はまちがいなく不起訴処分(起訴猶予)と結びつく事情になります。あまり報道はされておりませんが、私はむしろこっちのほうが大事だったのかなぁと。企業コンプライアンスに身を置く立場として、ギリギリの司法警察との交渉は過去に何度か経験がありますので、ただ私個人の感想として読み流していただければ幸いです)

5月 28, 2008 相次ぐ食品表示偽装 | | コメント (13) | トラックバック (1)

監査役交代が内部統制に及ぼすインパクト

日本ハウズイング社と原弘産社における株主名簿閲覧拒否仮処分事件の東京地裁決定につきましては、昨日の日経法務インサイドで少しだけ骨子が掲載されておりましたが、結論からみて、保全の必要性がない(原弘産ホームページにて自らの主張を株主に訴えかけることが可能、法定開示書類によって議決権ベースで65%程度の株主が判明している、日本ハウズイング側が株主に発送する参考書類に提案全文を掲載予定であることなどが理由)とのことで、原弘産側の閲覧請求が認められなかったようです。(ただし即時抗告あり)ただ、本日(5月27日)日本ハウズイング社の大株主(株式会社カテリーナ・イノウエ。日本ハウズイングの創業者による資産管理会社だそうです)より、双方に対して公開質問状が届いたようで、その中身を拝見いたしますと、これがかなりおもしろい内容です。とりわけこの質問状では、株主名簿閲覧拒否事件に絡んで、昨日の法務インサイドの記事にも言及されており、日本ハウズイング社に対しては、正々堂々と株主名簿を公開するよう要求しており、もし拒否するのであれば、その理由を説明するように求めています。他の質問内容も、委任状争奪戦を前にした株主からの質問として非常に参考になるところであり、私的には(こういった質問状が出てくる背景にはいろいろなご事情があるとは拝察いたしますが)ぜひとも、この公開質問状に対する真摯なご回答を両社にいただき、勉強させていただきたいと切に願っております。

さて、本日ある研究会の席上で、小耳にはさんだお話ですが、某会社の監査役が任期満了目前の時期に、諸般の都合によって辞任をされた、ということで、適時開示もされたのでありますが、これを知った監査法人の担当者から某会社に連絡が入り、「監査役辞任後の貴社の内部統制が有効であることの証明書を差し入れてほしい」と言われたそうで、会社も顧問弁護士さんもたいそうビックリしたそうであります。私もその開示情報は読んでおりましたが、その辞任理由は、やむをえず任期満了前に辞任せざるをえない正当な理由が読み取れるわけでして、とくに不穏な空気が会社内に漂っていることを予感させるようなものではありませんでした。したがって、私も「内部統制の有効性証明宣誓書の差し入れ」というのも少し驚いた次第です。ひょっとすると、任期を残して監査役が辞任する場合のマニュアルとして、こういった有効性証明書を出させるのが、最近の傾向になってきているのでしょうか?そもそも、いったい誰がそんな内部統制に関する有効性を判断できるのか、また有効であることを証明できるのか、ちょっとよくわかりませんが、こういった慣行があるとすると、監査役もずいぶんと辞めるのにプレッシャーがかかりますよね。。。だいたい、監査役辞任のお知らせには、辞任理由として「一身上の都合により」とか「諸事情により」といった簡単な理由が付されているだけでありますが、監査役が辞任することが会社の不穏な空気を想像させるものであるならば、もう少し「不穏な辞め方なのか」、「平穏に辞めたのか」想像がつく程度の理由が必要になるのかもしれません。以前にもエントリーのなかで少し述べましたが、監査役の任期は(上場会社の場合)4年ということで非常に長いものですから、とりわけ社外監査役(非常勤)のように他の仕事を兼任しているような方でしたら、本業の関係で途中辞任しなければならないケースもけっこう多いと思います。また、年齢的なところからくる「健康上の理由」もあるでしょう。したがいまして、監査役の(任期半ばにおける)辞任というのは、本当に「不穏な理由」と「平穏な理由」がけっこう数の上では拮抗しているのではないでしょうか。(もちろん、そんな統計結果などあるはずないでしょうが)

「社内に不穏な空気が流れているのかどうか」ということだけでなく、モニタリングの重要な役割を担う監査役がいなくなったこと自体が、内部統制の有効性に影響を与える場合もあるかもしれませんので、一概には申し上げられませんが、内部統制の有効性評価にあたって、監査役の社内における行動が参考とされるのが一般的ということであれば、少しずつ会社制度における監査役監査の地位も向上するのかもしれませんね。

5月 28, 2008 内部統制構築と監査役のかかわり | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月27日 (火)

西武鉄道有報虚偽記載事件判決と法人自身の不法行為責任

先週の日経「法務インサイド」で採り上げられておりました「西武鉄道有価証券報告書虚偽記載事件判決」(東京地裁平成20年4月24日 民事8部判決)の全文が裁判所HPにて公開されています。法務インサイドでは、裁判所による「損害額」認定への疑問などが中心だったと記憶しておりますが、なるほど、こうやって全文を読んでみますと、裁判所の損害額認定の理屈が論旨明解である、とまではいえないように思いますね。(また、ご関心のある方は直接判決文にあたってみてください。)

私が知識不足なのか、それとも基本的なところで理解不足なだけかもしれませんが、この判決は株式会社西武鉄道や、名義株を多数保有していた株式会社コクド(現プリンスホテル)自身の民法709条に基づく不法行為責任を当然のこととして認めているわけですね。法人に不法行為責任が認められるのは、使用者責任(民法715条)が認められる場合や、代表者に不法行為が認められる場合(旧商法261条)が原則であって、特定の個人の不法行為成立が前提になってはじめて法人の責任が認められるような印象がありますが、本判決では「被告西武鉄道の注意義務」の有無がいきなり議論されています。法人責任が無過失と結びつくケースだとなんとなく理解しやすいのですが、法人自身の過失という概念は、証券被害事件などでも普通に認められているのでしょうか?(普通に認められているのだとすれば、私自身、かなりの認識不足があったかもしれません。法人自身の不法行為責任というのは、もっぱら公害訴訟など、ごく一部の分野で議論されているにすぎないと思っておりました。)

しかし、企業自身の不法行為責任という概念は、おそらく被害者救済的な発想から、企業活動全体を評価して、その故意過失(違法性)を認定しようということだと思いますので、逆に企業側からしますと、けっこうコワいですね。法人が契約当事者になる以上、法人の債務不履行責任は当然イメージできますし、使用者責任や法人の理事による不法行為ということであれば、個人の不法行為責任が前提となりますので、故意過失の有無に関する反論は考えやすいのでありますが、どういった事情が重なれば法人自身に過失があったといえるのか、法人側からの反論の機会が十分に付与されないと、あいまいなままに不意打ちをくらって、企業自身に違法行為があったと認定されてしまう可能性が高いのではないでしょうか。つまり「何をもって法人自身の注意義務違反と評価するのか」、訴訟当事者間における問題点の共有が十分はかられる必要がありそうです。

また、本判決では、法人(西武鉄道やコクド)自身の不法行為責任と、個人として被告とされている西武鉄道の元代表者らの不法行為責任とが連帯債務関係に立つことが明言されていますが、なぜ法人の不法行為責任と取締役の責任とが連帯債務になるのか、そのあたりの理屈についても実はよくわかっておりません。また時間のあるときにでも、じっくり考えてみとうかと思っています。

5月 27, 2008 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年5月26日 (月)

内部統制報告制度と財務諸表の適正性確認義務との関係

当ブログにお越しの皆様方はすでにご承知のことと存じますが、5月24日(土曜日)の日経朝刊におきまして「内部統制に問題が判明しても、即時の開示を求めることはしない方針を(東証が)固めた」とのニュースが掲載されておりました。今年1月29日に東証からリリースされました「金融商品取引法における四半期報告制度の導入等に伴う上場制度の整備について」(パブコメ案)では、東証の意見として、

上場会社は以下に該当する場合には、直ちにその内容を開示すること

a 内部統制報告書において、「重要な欠陥」または「評価不実施」の記載を行うことを決定した場合

b 内部統制監査報告書において、「不適正意見」または「意見不表明」の記載が行われた場合

とされておりましたので、 「重要な欠陥あり」と評価した場合でも、適時開示の手続は不要、ということなんでしょうね。有価証券報告書提出と同時に内部統制報告書も提出することになりますから、上場企業における内部統制の有効性に関する経営者評価、監査意見については、それまでは開示されない、ということになるんでしょうか。市場の過剰反応を防ぐのが目的とありますが、以前も書きましたが「重要な欠陥」なるネーミングが影響しているのかもしれません。そもそも内部統制の有効性評価というものは、動的なプロセスを評価した結果を示すものですから、B/S的発想からくる「当該企業の生来的体質」を表現するのではなく、P/L的発想による「当該企業の運営成績」(みたいなもの)を表現するものですよね。「重要な欠陥」があるとされた企業にとって、頑張れば翌期には「有効」と評価されていいと思いますし、何年も「有効」だった内部統制について、「重要な欠陥」が認められる企業もあると思います。「改善を必要とする重要な課題」くらいのネーミングのほうが、投資家も過剰反応しないかもしれませんし、また経営者も素直に課題を「弱点」として認めて、前向きに取り組むようになる思うのですが。まぁネーミングはともかくとしまして、いずれにせよ市場の混乱を防ぐということが大きな目的であるとすれば、やはり「重要な欠陥とは何か?」もう少し具体的な判断基準を、関係者間で共有することが喫緊の課題のようであります。

(さて、ここからが本論でありますが)先週末あたり、財団法人日本証券経済研究所のHPに、金融庁(総務企画局)企業開示課長のM氏の講演録がアップされております。(金融資本市場法制等をめぐる最近の状況-開示を中心として-)講演内容は3本の柱から成り立っておりまして、①会計基準の国際的なコンバージェンス、②内部統制報告制度、③金融商品取引法の改正案等、いずれも金融庁の公式な見解に近いものとして、非常に参考になるところです。(なお講演日は4月2日。)とりわけ内部統制報告制度につきましては、米国SOX法における監査実務がなぜ、あのように厳格なものになってしまったのか、金商法24条の4の4はあくまでもディスクロージャー制度として規程したものにすぎず、内部統制構築義務とは無関係であること、内部統制報告制度に関する11の誤解の「説明」、今後も追加Q&Aを公表する予定であることなどが述べられておりまして、制度の根幹を再確認する参考になると思われます。

以下、若干興味を持ちましたM課長の講演内容について、引用させていただきますと(M課長いわく)

「ストレートに言いますと、『内部統制は一切やる気がないので整備しませんでした。したがって内部統制には重大な欠陥があります。なぜなら、当社は上場したばかりで、コストもかかるし、赤字になって、会社にとってはマイナスだ。自分の営業スタイルは、こうすることによって粉飾決算を防ぐことができます』、こういうことが宣言できれば、そのとおりありのままに書けば、内部統制報告としては合格でございます。」

「気をつけていただくのは、その場合、内部統制には欠陥があるので、財務諸表が正しいかどうかというのは別途考えなければいけないので、『財務諸表には粉飾がありません。正しいんです。』ということは、経営者はどこかで説明をしないと、みんなは納得しないでしょう。その意味で経営者は必ず内部統制を整備すると思います。ただし、そのことと金商法24条の4の4とは法律的には別のことです。」(講義録22頁~23頁)

「11の誤解」に沿ったご発言内容だとは思いますが、たしかに、金融商品取引法24条の4の4から「内部統制構築義務」が導かれないことは、すでにいろいろなところで議論されており、ほぼ現時点での通説かと思われます。(経営者に課せられるのは、内部統制評価、報告義務と監査を受ける義務)しかしながら、このM課長が言われるように「重要な欠陥があるけど、財務諸表は正しいです」と説明しなければ投資家、株主は納得しないのはわかりますが、そうであるならば、「重要な欠陥」があっても、説明責任さえ尽くせば法的義務はない、と素直に考えてよろしいのでしょうか?投資家が納得しないのが怖くて「内部統制を整備する」というのは、いわば経営者が財務報告にかかる内部統制を構築するかどうかはソフトローの世界の話であって、放置していてもなんら法的責任がないことが前提となるお話だということなんでしょうか。

ここから先は会社法と金商法の交錯する場面の問題かと思いますが、金商法および関連規則も取締役が遵守すべき「法令」に該当することから、これを遵守することも取締役の善管注意義務にあたるといわれることが多いですよね。(これが財務報告の信頼性確保のための内部統制システムの構築義務を根拠付けるものである、と。)しかし「金商法を遵守する」といいましても、上述のとおり、内部統制の整備義務自体が金商法から導かれないのであれば(つまり取締役が整備するのは、ソフトローの効果に期待するということであれば)、やはり善管注意義務違反もしくは任務懈怠と評価することとは、ダイレクトには結びつかないように思います。また、取締役が構築すべき財務報告内部統制のレベルを決めるのに「重要な欠陥」概念で判断する、というのも、果たして裁判規範としてみた場合に妥当なものと言えるのでしょうか?「重要な欠陥」があるかどうかは、そもそも会計監査の世界にかなり近いモノサシを使って考えるわけで、「合理的保証」とか「重要性」の基準からみて、その是非を判定することになるはずです。こうなりますと、重要な欠陥の有無は判断する人によってかなりバラツキがあると思いますし、取締役の法的責任を判断する基準としてはあまりにも漠然としたものになってしまうのではないでしょうか。つまり「重要な欠陥」という概念は、あくまでも企業情報開示制度と親和性を持つものにすぎず、取締役の法的義務の範囲を定めることとの親和性は薄いものと考えられます。また、かりに「重要な欠陥」の概念にはこだわらず、ともかく上場企業の取締役には、財務諸表の信頼性を向上させるための内部統制構築義務があるのだ、といった前提に立ったとしても、それでは一体、どの程度の構築義務があるかという点も、「重要な欠陥」概念を用いる場合以上にあいまいなものであると思われます。このあたりが、私にはいまだ混沌としておりまして、明確な回答を持ち合わせていないところであります。

ただ、こうは考えられないでしょうか?たしかに会社法は上場企業だけでなく、非上場の会社にも適用されるものなので、財務報告の信頼性確保のための内部統制構築義務というものは、直接的には導かれるものではないものの、やはり、(会社法上で取締役の善管注意義務のひとつとされている)法令遵守義務と金融商品取引法とを結びつけて善管注意義務のひとつと捉えたいところであります。ただ、金商法24条の4の4をもって、直ちに内部統制構築義務の根拠法令とすることにも疑義が残る・・・

そこで、取締役の財務報告に係る内部統制の整備構築義務というものを、金商法全体の趣旨から、捉えることはできないものでしょうか。たとえば内部統制報告制度は、はじめて経営者評価の基準を定立して、内部統制の評価というものを法的に意味あるものにしたわけでして、これは、日本の会計制度において、監査人だけに頼るのではなく、経営者もより健全な開示制度のために協力する必要があることを示しております。なぜなら会計基準の国際的なコンバージェンスへ向けた取組みや、会計基準が複雑化、高度化するなかで、正確な企業情報開示のためには、企業側の努力が必要だからであります。その努力の具体的な内容は、経営者自身が会計方針を決定したり、レベルの高い経理担当者を置いたり、内部統制の評価や改善に資する内部監査人を置くことが要請されるところであります。そういった企業側の努力は、開示制度のなかでも活用されてしかるべきだと思いますが、内部統制評価報告制度自体が、「ありのままの報告」で合格点であるならば、努力は報われないことになってしまいますよね。そこで当然のことながら「確認書」制度のなかで活用されることが期待されます。内部統制の有効性を評価できる企業であれば、これに依拠して確認手続をとることができるでしょうし、内部統制に重要な欠陥がある企業であれば、確認書を出すまでの経緯については投資家が納得できるような説明を尽くすことが要求されることになります。ということで、これまで有価証券報告書の添付書類として、任意の制度だった確認書を義務化されたことは、経営者が財務諸表の正確性について、合理的な理由をもって説明できることが前提となっているわけでありますので、そこに財務報告に係る内部統制の整備義務を根拠つけることができるのではないでしょうか。そもそも平成19年2月15日に公表されました財務報告に係る内部統制意見書の前文(審議の背景)におきましても、「我が国では、平成16年3月期決算から、会社代表者による有価証券報告書の記載内容の適正性に関する確認書が任意の制度として導入され、その中で財務報告に係る内部統制システムが有効に機能していたかの確認が求められてきたが・・・」とあります。この前文の記述からも明らかなとおり、財務報告に係る内部統制の有効性評価と確認書の提出制度は(ともに財務諸表の信頼性を確保することを補完するものとして)密接な関係にあり、この確認書の提出が、独立して法定化(義務化)されたことは、まさに経営者における財務報告の信頼性確保のための内部統制システム構築を通じて、財務諸表の数字の適正性を保証することを、各上場企業に求めているものと言えるのではないかと思います。

このような理解は、「内部統制を整備しない経営者が、財務諸表の正確性を説明できれば(法的には)それでいい」とするM課長の話との整合性について疑問が残るかもしれません。たしかに、何年も内部統制が有効と評価されている会社どうしが合併した場合のように、たまたまその年度においては会計処理システムの有効性が十分検証できずに「重要な欠陥」があるとされる場合があっても、経営者は、これまでの合併当事会社の内部統制評価の結果からみて、連結財務諸表の正確性は説明できる場合もあるでしょうし、構築義務違反=取締役の任務懈怠とはならないケースもあるとは思います。ただ、それは構築義務を尽くさなかったとしても財務諸表の正確性が合理的な範囲で担保されているような、相当な理由がある場合に限られるわけでして、やはり、原則は金商法の制度趣旨からみて取締役に構築義務を認めていいのではないでしょうか。あくまでも開示制度を充実させる範囲での内部統制構築義務を取締役に認めるわけですから、この義務を認めるとしても、経営者におけるリスク評価、内部統制の整備、運用において広い裁量権があると考えていいと思います。

企業は新株予約権や種類株式を活用しながら、直接金融、企業再編、事業承継を行う自由度が増したわけであり、また市場もいま、その仕組みを作りつつあるわけであります。自由を持つ裏にはその責任も伴うものであり、市場の健全性を確保する責任の一端を、発行体企業自身も負担する必要があるわけで、複雑化していく会計制度の透明性、公正性を監査人だけに委ねるのではなく、協働作業によって維持することが、すくなくとも上場企業の場合には、金融商品取引法を通じて要請されているものとみるべきではないでしょうか。

5月 26, 2008 「内部統制議論」への問題提起 | | コメント (5) | トラックバック (2)

2008年5月23日 (金)

リコール実施と開示統制システム

Husyoji021 昨日のエントリーには、たくさんのアクセスをいただき、ありがとうござした。内容的に、それほど盛り上がるようなテーマではないのでありますが、やはり粉飾決算と会計監査人の責任問題・・・というのは、けっこう注目度が高いのでしょうね。間違った内容等ありましたら、どうかご指摘いただければ幸いです。(そういえば、関連するような問題で、5月21日付けにて、日本公認会計士協会のHPに懲戒処分リリースが掲載されていますね。処分理由を読んでかなりビックリしました。)

さて、JASDAQ上場企業である日本トイザらス社が販売商品の塗料に問題があったとして、製品回収(リコール)を告知しましたが、リコール発表の時間を報道機関を通じて予告することで、その告知内容が世間に大きく知られるところとなりました。企業の社会的責任を宣言する企業として、このリコール実施の方法は、まさに企業の体質を物語るものであります。

こういった危機管理(クライシスマネジメント)の一環としてのリコール実施方法について、私がよく参考にさせていただいているのが「不祥事を防ぐ市場対応ハンドブック」(久新大四郎 著 唯学書房 2800円税別)であります。前半部分はまさに問題発生の第一報からリコール実施までの詳細な解説が記述されておりまして、現場感覚がよく把握できるもので、たいへんありがたいです。後半は、まさにいま問題となっております消費者庁へ移管が予定されている各法律を消費者問題との関係から手際よくまとめておられるものであり、私にとりましては「一粒で二度おいしい」参考書であります。著者の九新(きゅうしん)氏はソニーCSオフィサーなど、長年企業の側から消費者問題に関与されている方でありまして、法律家の執筆するコンプライアンス本よりも「明解でわかりやすい」内容であります。いざ!というときはもちろんコンサルティングが必要でありますが、平時におけるリスクマネジメントを考えるには最適であります。この前半部分を参考にしながら、今回のトイザらス社のクライシスマネジメントの手法などを検討してみると、リコールの成否が企業の情報開示統制に大きく依存していることがおわかりになるかと思います。

5月 23, 2008 本のご紹介 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年5月22日 (木)

キムラヤ粉飾決算事件に関する会計監査人の責任(否定)

(22日午前11時 追記 なんだか、本日はものすごいアクセス数になっておりますが、本件エントリーはまだ「書きかけ」程度にご理解ください。本判決の3分の1程度の論点しか紹介しきれておりません。こういったときはかならず後でご批判を受けるんですよね 笑)

旬刊金融法務事情の最新号(1835号)の判決速報にて、株式会社キムラヤ(ディスカウントストア 平成16年9月民事再生手続開始)の粉飾決算事件について、三菱東京UFJ銀行等2名が取締役らと会計監査人に損害賠償を求めた訴訟の判決全文が掲載されております。(東京地裁、平成19年11月28日民事第五部判決 確定)キムラヤは、当時同族で90%以上の株を保有していた非上場会社でありますが、負債が200億以上の「商法特例法上の大会社」だったために、平成12年より平成16年1月期まで会計監査人による商法監査を受けていたものであります。三菱東京銀行は、他行とともにシンジケートローンを組み、民事再生開始申立の直前に10億円をキムラヤに融資実行したわけでありますが、その際に、被告会計監査人の適法意見の付された計算書類を信用して融資を決定したということで、商法特例法10条(現行会社法429条2項4号)による会計監査人の責任を追及した、というものであります。

判決は、粉飾を実行した取締役らの責任を全面的に認めましたが、会計監査人(公認会計士)の責任は否定しております。平成9年ころから粉飾は続いておりましたが、事案の性質上、原告銀行らは平成16年1月期の会計監査についてだけ、その過失を主張しているようです。粉飾はディスカウントショップらしく、いわゆる棚卸資産(商品在庫)の架空計上でありまして、平成16年1月期の貸借対照表上の棚卸資産計上額は89億3900万円ですが、実際(民事再生開始決定後にあずさ監査法人が算定した正味在庫)は、47億3700万円であり、実際の資産よりも倍額の過大計上だったようであります。裁判におきましては、商法特例法10条責任(立証責任の転換)が適用される事案であるため、会計監査人のほうが一生懸命「過失なし」であることを立証して、裁判所がこれを認めたものでして、会計監査人としてはキムラヤの固有リスク、統制リスクをきちんと評価したうえで、比較的厳格に監査手続を履行したことが、「平均的な水準の会計士としての注意義務をもって監査手続を行った」ものとして評価されたようであります。

しかし、先日のナナボシ判決を読んだあとで、上記判決文を熟読してみますと、ずいぶんと原告銀行側の主張もあっさりとしたもので、「絶対に会計監査人の過失を認めてやろう」といった迫力が感じられませんでした。これは原告側が監査契約に基づいて(実質的な)主張立証責任を負う債務不履行責任を追及したものではなく、銀行が「第三者」として商法特例法10条責任を追及したことからくる差なのかもしれませんが、ツッコミ不足だったように感じます。原告が会計監査人の不法行為責任を追及しておれば、もっとリスク・アプローチを採用したうえでの監査上の注意義務違反の有無が詳細に問われる事案ではなかったかと思います。あまりにも多くの疑問点があるために、到底ブログでは申し上げられませんが、そもそも法定監査が開始されて以来、ビッグカメラが銀座に出現して売上自体は伸びていないにもかかわらず、6年間で在庫商品の資産計上額が10倍というのはかなり異常ではないかと思いますが、そのあたりはまったく判決文のなかでは触れられておりません。また、メインバンクであるみずほ銀行が、「在庫を監査させてほしい」とキムラヤに申し出て、みずほが指定した監査人による監査が開始されるやいなや、わずか2日目でキムラヤ経営陣とみずほが委託した監査人との間で意見が衝突し、その直後に民事再生を申し立てたという経緯がありまして、このあたりの話からしますと、虚偽表示リスク(商法監査に、この用語は正確には不適切かもしれませんが)というものが、もうすこし厳密に争点になっていたら、どうなったんだろうかと疑問を抱くところであります。

本日(5月21日)ヤクルト株主代表訴訟の高裁判決が出たということで、またどこかで判決速報などを読んでみたいと思っておりますが、報道レベルでは、原告株主らが賠償を求めたかった取締役らの責任につきましては、「当時のリスク管理体制整備義務を尽くしていなかったとまではいえない」として否定されたようであります。こういった監査とか監視義務といっ