NHK土曜ドラマ「監査法人」に期待します!
NHK名古屋放送局が制作する土曜ドラマ「監査法人」が6月14日よりスタートするらしいですね。昨年の「ジャッジ~島の裁判官」では裁判官の生活や仕事ぶりがリアルに描かれていましたが、今度は企業の監査に携わる公認会計士さんの仕事や生活ぶりがドラマ化される、ということで楽しみにしております。昨年の私のエントリーのように(笑)、その筋の方々はおそらくツッコミを入れたくなるのかもしれませんが、監査に詳しい学者の先生方が監修されたり、日本公認会計士協会のHPでも広報されているようですので、「ドラマ」ということで、おおらかな気持ちで拝見することにいたしましょう。
門外漢である私がこのドラマで一番楽しみにしておりますのは、「いったい会計士さんというのは、仕事の楽しさをどこに見出すのだろうか?」という点であります。自らの監査という仕事をやりきったときに、果たしてどこにテレビドラマにふさわしい「充実感」が描かれるのでしょうか?先日ご紹介した山浦先生の「会計監査論第5版」第6章(職業監査の規範)におきまして、山浦先生はたいへん冷静に以下のとおり解説しておられます。
「・・・会計監査の需要者や監査結果の利用者にとって、監査が首尾よく実施されればされるほど、監査という業務のメリットを実感しにくいという、きわめて皮肉な構造になっている。たとえば同じ専門職業であっても、医者の場合は治療の結果を患者が直接に実感できる。また弁護士の場合は訴訟での勝ち負けが依頼人の利害に直結する。しかし会計監査の場合は、こうした成果を捉えにくい。むしろ何事も問題が生じないときこそ、会計監査の成果が発揮されているときであり、・・・(中略)会計監査はまさに「日々平穏こそ吉」であり、成功裡に終えることのできた業務を外に誇示できないという宿命を担った専門職業である」
たとえば、このドラマを商学部や経済学部に通う大学生が見ていたとします。ドラマをみて「うわぁ、やっぱり公認会計士ってカッコいいっす。俺も頑張ったらなれるかなぁ」と職業会計人を目指す動機付けになりうるためには、このドラマが監査業務という仕事上の充実感とか、自由競争によって会計士の能力に差が出ることなどが描かれることが必要だと思います。ちなみに、昨年の「ジャッジ」では最終回だけを見ても、島の将来を二分するような大きな紛争を裁判官の努力によって解決し、島民全体がWIN TO WINの関係を築き上げたところに裁判官としての職業上のやりがいが見事に描かれていたように思います。また、税理士さんであれば、(私もお世話になっておりますが)あのテこのテで税務署と格闘していただき、クライアントに対して「節税効果」を実感させてくれます。会計士さんが主人公のドラマということで、ストーリーはおそらく企業の会計不正を暴くことにフォーカスされるのではないかと想像しますが、会計士さんは、その能力によって不正を暴くとしても、その充実感はどこから得られるのか、人よりも監査能力が高いことを、どうやって会計士さんはアピールすることができるのか?(それとも、そんなアピールは必要ないのか?もしアピールする場がないのであれば、どうやって職業人としてのスキルアップへのインセンティブを持ちうるのか?)そのあたりはドラマのなかではどのように描かれるのでしょうか?とても興味があります。「行列ができる法律相談所」はあっても、「行列ができる有限責任監査法人」というものは、そもそもありえないんでしょうかね?
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コメント
他にもツッコミを入れているブロガーがいらっしゃいましたが、
その日本公認会計士協会サイトでの宣伝文、
>ドラマでは、監査法人を舞台に、厳格な監査を行うことが社会的な
>正義に繋がると信じる公認会計士の一途な仕事ぶりや、その結果として
>多くの人々が不幸になっていく過程での心の葛藤等、様々な場面が
>繰り広げられます。
「その結果として多くの人々が不幸になっていく過程での心の葛藤」
って、こんなこと協会が書いていいのでしょうか(笑)。
確かに会計士は多くの人々を幸福にはしてないような気はしますが(笑)。
投稿: 機野 | 2008年5月15日 (木) 09時45分
<機野サンへ
日本公認会計士協会の「その結果として多くの人々が不幸になっていく過程での心の葛藤等」は、下手をすると誤解を招きますよね。民事裁判も敗訴側に不幸を与えるのだとしたら、裁判もできない、弁護士も仕事ができない。
社会正義のためには、一部の関係者から一時的な利潤を奪い取ることになるかも知れないが、社会にはそれ以上の利益をもたらす。それが、私にとっては、仕事の楽しさであると思っています。
仮に相手が、こちらの意見に従わない場合でも、報告書の最後に「提言」として、好きなことを書いているコンサルタントと異なり、監査法人・会計士さんの場合は、監査対象企業が主体であり、自らが主導的に動く立場ではないことから、仕事の厳しさは、私などとはまるで違うと思いますが。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年5月15日 (木) 11時41分
リアルワールドの職業監査人の方は大半が見ないような気がします。
協会はこの機会に少しでもその社会的意義や職業的責任に関する一般の正しい理解の浸透を望むのでしょう、それは理解出来ますし、私個人もそれを期待するところがあります。
しばらく前にある有名なコミック(オーセンティックバーのカウンタが舞台の酒薀蓄で有名な作品)の特別版で公認会計士の役割や責任を紹介する編(非売品、厚さは1cm程度)が関係者に配られたようです。たまたま譲り受けましたが、今回はTVドラマ──ですよねえ、見せ場は経営者との対峙しかないな…異常点監査なんか初めて知る人は面白いのかな…でもあんまり手の内見せられないんじゃないかなあ…
ごくまれに──自分が関与した分野がスクリーンなどに登場する事がありますが多くは見当はずれでした。
「密着取材・公認会計士24時~はじめて明かされる真実との葛藤~」とかのドキュメンタリーを見たい気がしますが守秘義務がひっくり返るから無理ですね。
個人的には会計検査院の検査官のドラマの方がずっと面白い気がします。面白いと言うのは語弊がありますが、でもさまざまな内幕や人間関係が折り重なっているようです、こちらの方がインパクトがよっぽどあるはずですが──。
投稿: 日下 雅貴 | 2008年5月15日 (木) 13時07分
いわゆるネタばれですが(遠回しに書きます)、
ドラマ初回のエピソードは、
主人公による苛烈な会計監査が結果的に ある末端の人間を×××しまう
というかなり厳しく容赦ないお話なんだそうです。
このドラマについては監修者である「さおだけ屋さん」(笑)の
公式ブログもご覧ください。
下記は、そこからの孫引き(おおもとはNHKの公式資料)です。
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監査業務をおこなう公認会計士たちの活躍や葛藤を通して、息詰まる
企業監査の現場や粉飾決算の裏側を初めてドラマ化します。
近年、偽装商品や粉飾決算など企業モラルが問われるニュースが
相次いでいます。
企業経営をチェックするのが「監査法人」ですが、その内実はあまり
知られていません。
「監査法人」は、「決算書」に承認印を押さなければ、その企業を
上場廃止に追い込むほどの力を持っています。ドラマでは、経済界に
おける巨大権力組織となった「監査法人」の内幕を描きます。
「監査法人」をめぐる財界・政界・外資の思惑も絡めたスケール感
あふれるオリジナルドラマ。
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投稿: 機野 | 2008年5月15日 (木) 15時44分
皆様、コメントありがとうございます。(そういえば、弁護士モノのドラマって、あまりにも多すぎて最近視たことないです・・・笑)なるほど、第一話はそのあたりのストーリーから始まるわけですね。「巨大権力組織」ですか・・・ますます視たくなってきました。
エントリーを読み返して思ったのですが、このエントリー自体がすでにツッコミになってしまっているみたいです。
投稿: toshi | 2008年5月16日 (金) 01時21分
紹介文の孫引きを拝見するに──
すでにフィクションまっしぐらですね。
何かずれてますねえ、
あ、また突っ込みになってしまった。
投稿: 日下 雅貴 | 2008年5月16日 (金) 12時55分
>日下さん
ドラマが始まったら、マジでツッコミそうな予感がしますね。笑
私はたとえフィクションであっても、それを視た人たちが「おおー!俺も会計士になろう!」って思っていただければ会計士業界にとってもいい傾向になるのでは・・・と考えています(甘いかなぁ)
ちなみにcritical-accountingさんが、たいへん真摯に会計士の充実感についてブログでかかれており、参考になりました。リアルの世界では「充実感→人を不幸にする」といった図式ではないことに安心をいたしましたです。
投稿: toshi | 2008年5月16日 (金) 13時57分
丸山満彦です。学者は現場を知らないし、著名な会計士の人もほとんど現場経験がないわけで、かなり現場感覚のない話になるだろうと想像しています。もちろん、日々の現場にはいわゆるドラマ性はないわけですから、ドラマにするのであれば、かなり現場感覚のない話になるわけで、現場感覚を重視するとドラマにならない、こういう話だと思います。
しかし、こういうドラマをみて監査法人像をつくる学生や社会人もいるわけですから、時間があれば見ておきたいと思っています(しかし、録画装置がないのでその時間に家にいればということになりますが・・・)。
まぁ、小学校の授業でお父さん(お母さん)の仕事をお父さん(お母さん)にインタビューし、まとめて発表するということがあるようですが、そういう場合の理解の助けになるのかもしれません。
しかし、小学校3年生に監査法人の仕事を説明するのも大変だと思うんですけどね。。。
下手したら、学校の先生も理解していないかもです。。。
投稿: 丸山満彦 | 2008年5月17日 (土) 10時05分
「HERO」の久利生公平検事や「相棒」の杉下右京警部のようなところまでくずせば、誰でも「こんな奴ぁいない」が一目で分かるんですが、それでもそこを踏まえて、法廷仕立てや事件仕立てのフィクションを楽しみ、かっこいい俳優さんの演ずる姿を楽しむショーが出来上がります。一方で浅間山荘事件の攻防を描いた映画のように迫真のタイプもあります。
お話は虚構の塊りでも、凄腕検事や敏腕刑事が事件の真相に迫るために労と努力を惜しまず、叡智と合理を尽くし奮闘する──この社会的使命は大枠として(個人に重ねない条件での職業倫理像として)あってますよね。この構造で作られるのがドラマの絶対的要件、真骨頂。
でも、公認会計士──机の上で帳簿と証憑を前にチェック、チェック、チェック、チェック、チェック、チェック、チェック、チェック…
証拠、証拠、証拠、証拠、証拠、証拠、証拠、証拠、証拠、証拠、証拠…(多くはすごく地味なんですよね)
ある方が今の監査がある意味で実務化し過ぎている点を指摘されていましたが、真相究明と言う点では前者と共通する使命があるのかもしれません。法令違反と向き合う点も同じでしょうか、なんかそう考えると財務諸表監査に殺伐とした印象すら覚えますね…
投稿: 日下 雅貴 | 2008年5月17日 (土) 14時10分
丸山先生、日下さん、コメントどうもです。
みなさん、会計監査の現場に近い方々は、どうもドラマが始まる前から厳しい(さめた?)見方ですなぁ(笑)私なんか、あと10年若かったら、いまごろはアカウンティングスクールに嬉々として通っていると思うのですが(笑)
そういえば、私が役員を務める会社の監査報告会が先週ありましたが、これまでの主任だったY会計士が新○○監査法人を辞めたということで、代表社員の方から説明があったんです。聞くと、早稲田のロースクールに入学したとのこと。たしか30代後半でした。「隣の芝生は・・」というのはあるのかもしれませんが、みなさん、いろいろと考えるところはあるのでしょうね。
しかし弁護士の仕事は日々ドラマ(というよりもドラマよりもスゴイ)の連続ですから、シゲキはきっとありますよ。。。あっでも、大手の法律事務所だとまた違うかもしれませんが。
投稿: toshi | 2008年5月18日 (日) 01時49分
久しぶりにお邪魔します。
ドラマ化すると、仕事の一部にせよ公開されますので、世間の目が厳しくなりますね。世間の目は仲間内の尺度とは違いますから、「阿吽」は通用しません。瑣末なことで言えば、ちょっとした事件でもどんどん名前が出るようになります。これはとてもいいことだと思います。
コンプラは結局、「裸になる覚悟」にかかっているように思えてなりません。全情報公開がなされれば、嘘もごまかしもなくなることは分かっているわけですから、ゴテゴテした厚化粧をどこまですっぴんに近づけるかではないかと思うのです。
そういう意味では、道を踏み外さない会計士は十二分に誇りを持てる仕事でしょう。ただ、このところ道を踏み外した会計士が目立ちすぎたように感じます。専門知識を超えた理念が見えにくかったためでしょうか。ドラマを機に日本の社会にもっとメッセージを発信されたらと思うのですが。
投稿: tetu | 2008年5月18日 (日) 16時26分