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2008年5月12日 (月)

不正のトライアングルからみた粉飾決算リスク

5月11日の「情熱大陸」では今年のベストマザー賞を受賞された勝間和代さんの日常生活が取材されておりました。番組最後の質問・・・「勝間さんにとって『お金』とは?」

「ひとに感謝の気持ちを表現する道具ですね」 (さすがやなぁ。。。)

さて、その勝間さんが日経ITプラスにて「IT関連企業はなぜ会計偽装が多いのか」と言うテーマで、ニイウスコー社の架空取引を例に検証されておりますが、そのなかで「不正のトライアングル」について紹介されていらっしゃいます。「不正のトライアングル」といいますのは、CFE(公認不正検査士)の資格を有しておられる方はご承知のとおり、人はどのような条件が整うと会計不正をはたらくか・・・、という問いに対する回答として、一般に①動機、プレッシャー②不正の機会③不正の正当化要因の存在、が挙げられ、これら3つの条件がすべて整うと、不正リスクが非常に高まることを説明する概念であります。勝間さんが分析されているとおり、IBMと野村総研の下で生まれた「名門IT企業」であるニイウスコー社ですら、この不正のトライアングルの条件がすべてそろっていたことが理解できそうであります。(しかし短期間に多額の増資を行っているので、ニイウスコー社の場合、かなり悪質な気もしますし、条件たる「正当化要因」が認められるかどうかはちょっと微妙です)

ただ、この「不正のトライアングル」によって会計不正を説明する場合、「IT企業だから・・・」といった静的な分析だけでは若干不足しているように思います。IT企業でもしっかりしているところは多いですし、内部統制について配慮する若手経営者の方もいらっしゃいます。ぎゃくに製造業社でありましても、コンプライアンスについて全く配慮されない経営トップの方もいらっしゃいます。ということで、私はもうすこし「不正のトライアングル」については動的な視点についても重視すべきであると考えております。IT企業であれ、老舗メーカーであれ、上場審査を経ているわけですから、あの証券取引所で鐘の音を聞いて感動を覚えた時期があったはずであります。どんな経営者であれ、上場を果たしたときには、その栄誉をかみしめ、当社では絶対に粉飾決算などありえない・・・と心から確信していたに違いないでしょう。

たとえば法定監査で初めて監査法人さんに(地裁レベルではありますが)賠償責任が認められたナナボシの事件でありますが、粉飾を始めた当初は、上場前の厳しい監査法人さんのチェックが担当者の頭にこびりついておりましたので、用意周到に緻密な準備を怠らなかったのであります。ところが予想に反してあまりにもユルユルの監査だったために安心しきってしまい、2年目には約2倍、3年目には約3倍もの架空売上、架空利益を工作し、エスカレートしていくのであります。また、単独工作をもくろむも、粉飾が第三者に発覚してしまい、取引先に粉飾の協力者を得て、そこで集中的に繰り返されるという事態となるわけでありまして、「不正を行う機会の存在」というものも、監査法人の対応の変遷や手数料稼ぎに誘惑されたり、取引打ち切りをおそれてやむをえず粉飾に手を貸す外部協力者の誕生など、外部環境の変遷に起因するところのほうが影響度が大きいのではないかと考えております。また、「動機」につきましても、IT関連企業に限らず、上場後は株式時価総額の上昇へのプレッシャーについては同じだと思いますし、経営環境の変化に由来する「動機、プレッシャー」のほうが大きいのではないかと推測いたします。

勝間さんが指摘されているように、今後は内部統制報告制度の施行等により、こういった不正のトライアングルの示す条件が整いにくい経営環境となり、粉飾リスクが低減されるような状況になればいいのでありますが、企業は生き物であり、上記のような動的な変化によってどんな企業でも会計不正が生まれる要因を持っている以上は、少数株主権の確保、内部通報制度(ホットライン)の充実、社外取締役の増強、業務監査の強化などなど、コーポレートガバナンスの基本的な制度の充実によって、不正のトライアングルの条件が整った場合でも会計不正が生まれにくい体質を強化する必要があろうかと考える次第であります。

5月 12, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

コンピュータ屋です。

ご無沙汰です。久しぶりにコメントです。

おっしゃるように内部統制報告制度とは静的な環境の整備というのでしょうね。制度のみでは日々のチェックには無理があると思います。内部統制のマネジメント、PDCAをまわすこと、とくに日々の統制活動が大切です。
具体的には、内部通報制度については、これを運用する仕組みをIT上で実現すること、内部統制を日々のプロセスの中に取り込み運用できる仕組み作り(私流勝手に、ICMSと言っています)など提案しています。ぼちぼち、反応も出てきました。

これからも「動的な視点についての重視」について、どんどんご提言願います。

投稿: コンピュータ屋 | 2008年5月12日 (月) 11時09分

そちらのブログでも解説されていらっしゃるとおり、まさに内部統制報告制度が佳境に入ってきましたね。といいますか、これからが本当の「試行錯誤」の時期になってきましたし、「重要な欠陥」に関する共通認識を涵養する時期になってきました。机上の話ではなく、現場の状況をいろいろと認識したいと思いますので、またご教示ください。

投稿: toshi | 2008年5月12日 (月) 19時44分

ご無沙汰しています。
何事でも同じだといえばそれまでですが
外堀から不正をなくす仕組みは、いたちごっこでさらに高度な不正テクニックを生み出すという感じがします。

やはり、不正に対する取締役のペナルティが軽いのでは、という印象を持ってしまいます。
上場企業が「社会の公器」という前提があるのであればですが。

不正がばれれば取締役個人が相応の損害を株主に負うとか(おっと、公器であれば、株主だけでなく、そういった不正により事件と関係のない従業員の生活が脅かされれば、そういった方面への保障を含めることも大事でしょうかね)、船場吉兆とか赤福(こっちは代取がどこまで関与していたかややグレーですが)とか結局まじめに働いていた従業員や取引先がお客さんを除いてさまざまな「損害」(心の痛みを含む)を負っていると思います。

私も代表者の不正を下っ端銀行員がなぜ頭下げて客に誤るのかという気になったものですから(誤るだけでなく、引き出された預金を奪い返せという無茶なノルマでしたが)。

これはシステム、仕組みの問題でなく、法的罰則の話で少し論点がずれましたが。

投稿: katsu | 2008年5月13日 (火) 01時05分

katsuさん、おひさしぶりです。

野村證券が新たなインサイダー予防策を公表したようですが、やはりどのような体制であっても、知人の口座を利用して売り買いをしてしまうことを防止することは困難ではないでしょうか。そうなりますと、社員ひとりひとりの倫理感に訴えかけるか、厳罰で臨むしかしかたないと思いますし、そのあたりに内部統制の限界を感じますね。

あと、金融庁は最近、システム管理についてけっこう厳格に証券会社の検査をされているようですが、これも情報管理の一貫として、インサイダー防止のためにできる範囲のことをやろうとされているのかもしれませんね。

投稿: toshi | 2008年5月15日 (木) 02時52分

DMORIです。
山口先生の、証券会社がどのようなインサイダー予防策を敷いても、知人の口座を利用して売り買いをしてしまうことを防止することは困難ではないでしょうか。
というコメントですが、私も以前からそう思っています。

社員が自宅から電話やメールで知人へ情報を流し、その知人が株で大きな利益を上げ、情報源の社員には相当額の礼金を支払う。
こういう情報とカネの流れは、到底捕捉できないでしょう。
ということは、発覚していないから摘発されないだけで、このように現実に儲けている人間は、すでに相当数存在している、ということではないでしょうか。

この問題は、いかに個人の倫理観を高めても解決できる話ではなく、昨日買った株を今日売って儲けることができてしまう、株取引制度そのものが問題なのです。

一度購入した株式は、最低1年は売ってはいけないとか、短期売買の株利益には高額な税金をかけて、それを社会全体の福祉に使うとか、こういう制度に変えていくべきだと思います。

実需と関係ない投機マネーによって、穀物や原油が法外に高騰し、特にアフリカなどの貧困国の人たちが生存を脅かされるような事態になっている今、世界レベルでこういう論議が起きてこなければならないと思います。

投稿: DMORI | 2008年5月27日 (火) 09時41分

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