アデランスHDの「社外取締役」リスク(けっこう怖かったかも・・・)
こんにちは。カテリーナ・ヤマグチです。(ここは無視してもらって結構です。一度やってみたかっただけですので・・・)
すでに多くのブログでも話題になっておりますアデランスHD社の株主総会ネタ(取締役9名の選任議案において、新任の社外取締役2名以外の7名否決)でありますが、アデランスHD社のリリースによりますと、取締役の人数に欠員が生じたため(つまり、会社法で要求されている取締役会設置会社の最低取締役人数3名を割ってしまったため)、新任の2名が取締役、任期満了の9名が会社法346条1項に基づく取締役「権利義務者」として残ることになったようであります。本来、取締役は総会終了時をもって任期満了となり、お役御免となるわけですが、突然解任されたり、選任議案が否決されるなどで法定の取締役の人数に欠けることとなった場合には、会社との委任契約の性質上、(民法654条の「委任契約終了時の受任者の義務」に関する規定と同じく)後任が決まるまでは会社のために役員としての権利、義務を負うわけであります。そこで今回のアデランスHD社の場合にも、この規定に基づいて改任予定だった7名と、4月28日付けリリースで明らかにされていた退任予定2名の合わせて9名(つまり総会直前の取締役全員)がそのまま役員としての権利義務を負っている状態にある、ということになります。
もちろん、スティールを筆頭とした49,8%(2月末時点)の外国人株主の意向によって取締役の選任議案が否決される、というまことに異例の事態にも驚きましたが、よくもまあ無事にこれまでの7名が取締役「権利義務者」として残って、11人による取締役会が開催されることで済んだものだなぁ・・・というのが私の感想であります。(もちろん早期の臨時株主総会開催は必然のこととして)選任議案が提出された7名のうち、元最高裁判事でいらっしゃる大先生がおひとり「社外取締役」として選任される(改任される)予定だったようでありますが、この先生も選任議案が否決されたために、結果として取締役たる地位にあるのは新任の2名の「社外取締役」さん達だけになったのであります。(新任2名の除く9名のうち、2名については、任期満了で退任予定でしたので、選任議案は提出されておりません)もし選任予定の7名の取締役のうち、社外取締役だった元最高裁判事さんだけが、「社外取締役」であるがゆえに外国人株主によって「賛成」票が投じられていたとすると・・・・・、けっこうたいへんな事態になっていたのではないでしょうか。つまり、社外取締役ばかり3名が正式な取締役として就任することになりますので、法定の取締役人数に欠けるところはありません。またアデランスHD社の最新の定款をみてみますと、その20条において「取締役の人数は12名以内とする」とはありますが、とくに取締役人数の最低数を定款で規定しているものでもありません。ということは、もし外国人株主の方々が、「現任取締役のうち、社外取締役については再任はOK」と判断していたとしますと、会社法346条1項の「役員が欠けた場合」には該当しなくなりますので、社外取締役3名だけで取締役会を構成して、ほかの社長、会長を含めた実質的な役員の方々は、取締役「権利義務者」にもなれず、取締役会すら参加できない状況になっていたのではないでしょうか。これでは会社としての機能が一時的にでも麻痺してしまうことになりかねず、ゾッとしますよね。(なんぼなんでも、弁護士と会計士さんと、リスクマネジメントの先生の3人でアデランス社の経営判断をしろ、というのは厳しいですよね。だからといって、選任直後にわざと一名辞任する・・・というのは、それこそリスク大きいですし)
そのあたりのリスクも見越して、外国人投資家の方々は社外取締役についても選任議案に反対票を投じたのでしょうか?しかしそこまで足並みを揃えて反対票を投じていたとは思えないのでありまして、本当にヤバイ事態になりかねなかったのではないかと思われます。新任の2名の社外取締役については賛成票を投じているにもかかわらず、現任(再任)予定だった社外取締役にはこぞって反対票を投じる・・・・・・、このあたりはどう解釈したらよいのでしょうか。
ところで5月24日あたりの報道では、アデランスHD社の総会について、議決権行使助言会社であるISS、グラス・ルイスあたりが、会社側提案に賛同するよう呼びかけている・・・というニュースがありましたので、今年は昨年ほどの騒ぎになるようなことは予想されず、マスコミにとっても意外なニュースだったのではないでしょうか?あと1ヵ月後に控えております3月決算会社の株主総会対策にも、けっこう大きな影響を与えるのかもしれませんね。
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コメント
山口先生のご分析通り、6月総会への影響は重いものと予想されます。
ISSやグラスルイスが賛成意見をアドバイズしていたりしたので、取
締役会側が委任状勧誘をしていなかったのか、また、SPJが積極的な
委任状勧誘をしていないのかどうか、気になります。
取締役会を支えていた専門家の方々は、この事態を予想されていたの
でしょうか。また、どのような対策が取られていたのでしょうか。反対
過半数というのは、議決権行使書面の段階で判明していたのか、知りた
いことはたくさんあるのですが・・・・・・。
投稿: Kazu | 2008年5月30日 (金) 11時12分
これは実務にかなり大きい影響を与える事件ですね。
「外国人投資家はとんでもないやつらだ」ということで更に外国機関投資家による株式買い増しに対して危機感をもつようになるでしょうね。
最近なんかはJパワーへの株式買い増しなんかが取りざたされてましたが「やはり日本政府の判断は正解だった」という潮流とかにもなるんでしょうかね。
投稿: m.n | 2008年5月31日 (土) 00時35分
総会から一日明けた日の新聞報道などによると、アデランス経営陣にも総会の2日ほど前までこういった結果になることは予想外だったようですね。結局、議決権行使書面の最終集計段階では否決の結果が判明していたようですが、たぶん驚いたでしょうね。
さて、冷静に考えようと思っていますが、アデランス役員否決騒動の最大の原因はなんだったんでしょうか?
昨年の委任状争奪戦が起こらなかったことからの単なる慢心?中期経営計画の未達からくる株主の失望?過度の買収防衛戦略への機関投資家としての反抗?その主たる原因がどこにあるか・・・によって、6月総会への影響度も多少違ってくるように思いますが、いかがでしょうかね。
投稿: toshi | 2008年5月31日 (土) 01時36分
こんばんは
そうだったんですか。偶然だったのか意図的だったのか、新任の2名だけだったということは冷却期間が出来たようなものなのですね。
いずれにせよ、2ヵ月後の顔ぶれがどうなっているのか。横文字がずらっと並んでいたりするとまたもめそう。
行き過ぎた経営陣保護とも言える昨年の反動のようなものでしょうか。
最近では濫用的買収者という言葉も死語になりつつありますし(著しく価値を毀損するものと表現が柔らかく拡大解釈されているような気がする)。
比較的柔和なプロクシーガバナンスさんあたりでも、昨年の総会を総括してもっとアグレッシブに行くと明言していましたし(有識者のみの特別委はダメとか)、リスク背負って投資しているのに、それに報いようとしない姿勢があれば、そりゃ一言あるでしょう(もちろんそれまでの実績とかプロセスとかを十分評価してでしょうが)。
将来の投資のためといって配当を控え、持ち合いに精を出したのがバランスシートを見ればバレバレだとすれば、そういった企業さんは35分では総会を終えるのは難しいかもしれないでしょうね。
ただし、3歩進んで2歩下がるようなガバナンスの形成がされるのでしょうね。2歩下がっている余裕はないと思いますが、そういう社会ですし。
個人的にはソニーさんが役員報酬の個別開示に応じるかに興味があったりして。
投稿: katsu | 2008年5月31日 (土) 04時06分
katsuさん、こんばんは。
おそらく、katsuさんの立場からすれば、今回のアデランス社の事例について、いろいろと思うところがあるでしょうね。
86%程度の議決権が行使されたようで、とりわけスティールが大量に保有している企業にとっては、今回の件、研究しておく必要がありそうです。ここへきて俄かに総会ネタが新聞やブログなどでも増えるような予感がします。(しかしISS、グラス・ルイスの立場はどうなるんでしょうか?こんなもんですかね?)
なお、取締役選任議題の否決と取締役会運営リスクについては、葉玉先生のブログが詳しく解説されていらっしゃいます。
投稿: toshi | 2008年6月 2日 (月) 02時40分
私は、IRの重要性を物語った総会であったのかと思います。
書面による議決権行使が可能である株主総会において、個人株主は委任状ではなく、書面行使がより適切と考える。総会をめぐっては、プロキシーファイトというより、書面による議決権行使のIRファイトが株主総会の重要事項となり、そのためには日常のIRは欠かせない。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年6月 2日 (月) 14時25分
挨拶の元ネタは日本ハウズイングの関係だったのですね。気付くのに時間がかかってしまいました・・
投稿: おおすぎ | 2008年6月 2日 (月) 18時21分
ISSやグラスルイス自体もその独立性が実はあやふやな面があったりするので、個人的には格付機関のスタンダードアンドプアーズやムーディーズほど絶対的な存在ではないと感じます。けど面子ないですね。
今回どうしてアデランスの取締役は妥協点を探らなかったのかなあと感じます。米国でもニューヨークタイムス、モトローラのような企業でもアクティビストの社外取締役を容認したり取引をして総会でのエネルギー消耗をなくすような手を打っています(善悪は別として)。
「よそ者が会社に入ってくる」というのがどうしても違和感あるのでしょうね。中外製薬の件はあれは単なる時間外取引で済むのでしょうかね。一歩間違えると・・・という気がしましたが。
投稿: katsu | 2008年6月 2日 (月) 23時13分
>おおすぎ先生
すいません、先生のブログの「ご挨拶」のパクリになってしまいました。ただ、この件は今後も商法学者の方々の話題になるかもしれませんね。
>katsuさん
そういえば、以前「議決権行使助言会社」の中立性、公正性に疑問があるのではないか、といった某弁護士の方のコラムをご紹介したことを思い出しました。
件のおふたりの社外監査役さんは、独立委員会の委員に就任される予定だそうですね(今朝の読売新聞に掲載されていました)ごく一部の機関投資家が買収防衛策にのみ反対していて、その投資家が賛成に回ってくれれば否決されない・・・といった事情もあったりして。(採決の内容については公表されていないようです)今後も注目してみたいと思います。
投稿: toshi | 2008年6月 3日 (火) 11時56分