キムラヤ粉飾決算事件に関する会計監査人の責任(否定)
(22日午前11時 追記 なんだか、本日はものすごいアクセス数になっておりますが、本件エントリーはまだ「書きかけ」程度にご理解ください。本判決の3分の1程度の論点しか紹介しきれておりません。こういったときはかならず後でご批判を受けるんですよね 笑)
旬刊金融法務事情の最新号(1835号)の判決速報にて、株式会社キムラヤ(ディスカウントストア 平成16年9月民事再生手続開始)の粉飾決算事件について、三菱東京UFJ銀行等2名が取締役らと会計監査人に損害賠償を求めた訴訟の判決全文が掲載されております。(東京地裁、平成19年11月28日民事第五部判決 確定)キムラヤは、当時同族で90%以上の株を保有していた非上場会社でありますが、負債が200億以上の「商法特例法上の大会社」だったために、平成12年より平成16年1月期まで会計監査人による商法監査を受けていたものであります。三菱東京銀行は、他行とともにシンジケートローンを組み、民事再生開始申立の直前に10億円をキムラヤに融資実行したわけでありますが、その際に、被告会計監査人の適法意見の付された計算書類を信用して融資を決定したということで、商法特例法10条(現行会社法429条2項4号)による会計監査人の責任を追及した、というものであります。
判決は、粉飾を実行した取締役らの責任を全面的に認めましたが、会計監査人(公認会計士)の責任は否定しております。平成9年ころから粉飾は続いておりましたが、事案の性質上、原告銀行らは平成16年1月期の会計監査についてだけ、その過失を主張しているようです。粉飾はディスカウントショップらしく、いわゆる棚卸資産(商品在庫)の架空計上でありまして、平成16年1月期の貸借対照表上の棚卸資産計上額は89億3900万円ですが、実際(民事再生開始決定後にあずさ監査法人が算定した正味在庫)は、47億3700万円であり、実際の資産よりも倍額の過大計上だったようであります。裁判におきましては、商法特例法10条責任(立証責任の転換)が適用される事案であるため、会計監査人のほうが一生懸命「過失なし」であることを立証して、裁判所がこれを認めたものでして、会計監査人としてはキムラヤの固有リスク、統制リスクをきちんと評価したうえで、比較的厳格に監査手続を履行したことが、「平均的な水準の会計士としての注意義務をもって監査手続を行った」ものとして評価されたようであります。
しかし、先日のナナボシ判決を読んだあとで、上記判決文を熟読してみますと、ずいぶんと原告銀行側の主張もあっさりとしたもので、「絶対に会計監査人の過失を認めてやろう」といった迫力が感じられませんでした。これは原告側が監査契約に基づいて(実質的な)主張立証責任を負う債務不履行責任を追及したものではなく、銀行が「第三者」として商法特例法10条責任を追及したことからくる差なのかもしれませんが、ツッコミ不足だったように感じます。原告が会計監査人の不法行為責任を追及しておれば、もっとリスク・アプローチを採用したうえでの監査上の注意義務違反の有無が詳細に問われる事案ではなかったかと思います。あまりにも多くの疑問点があるために、到底ブログでは申し上げられませんが、そもそも法定監査が開始されて以来、ビッグカメラが銀座に出現して売上自体は伸びていないにもかかわらず、6年間で在庫商品の資産計上額が10倍というのはかなり異常ではないかと思いますが、そのあたりはまったく判決文のなかでは触れられておりません。また、メインバンクであるみずほ銀行が、「在庫を監査させてほしい」とキムラヤに申し出て、みずほが指定した監査人による監査が開始されるやいなや、わずか2日目でキムラヤ経営陣とみずほが委託した監査人との間で意見が衝突し、その直後に民事再生を申し立てたという経緯がありまして、このあたりの話からしますと、虚偽表示リスク(商法監査に、この用語は正確には不適切かもしれませんが)というものが、もうすこし厳密に争点になっていたら、どうなったんだろうかと疑問を抱くところであります。
本日(5月21日)ヤクルト株主代表訴訟の高裁判決が出たということで、またどこかで判決速報などを読んでみたいと思っておりますが、報道レベルでは、原告株主らが賠償を求めたかった取締役らの責任につきましては、「当時のリスク管理体制整備義務を尽くしていなかったとまではいえない」として否定されたようであります。こういった監査とか監視義務といった問題の場合、いつも思うのですが、監査人や取締役の「法的責任」を議論する場合、いかに具体的な主張を展開できるか、という点がキモでありまして、とてもむずかしいですね。「内部統制の不備あり→実査すべき」なる主張では、おそらく裁判所は説得できないわけでして、最低でも「内部統制の不備→代替手続による確認→虚偽表示リスクの認識→試査による追加手続の可否→実査すべき」といった過程のなかで、逐一、会計監査人の注意義務の存否を評価していく必要があると思います。また、取締役の内部統制構築義務違反を問題にする場合にも、「内部統制の基本方針→具体化作業→運用状況評価→改善に関する提案の有無→改善の実行」までの過程を検証したうえで、裁判所に内部統制上の「重大な欠陥」(重要な欠陥とは少し概念が異なりますが)があったことをまず論証したうえで、各取締役の内部統制をあえて無視する、という作為と同じほどに評価できる不作為(放置)を立証しなければ、善管注意義務違反は認められないものと思っております。そもそも「経営判断」や「会計監査」は、法との関係を離れて企業社会において重要な意味を持つものでありますから、そこに法が割って入ることの意味はよくよく慎重に考えておきたい、というのが私の勝手な持論であります。(うーーん、書きたいことの半分も書けずに、なんか不完全燃焼に終わってしまったエントリーです。。。トホホ)
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