« 内部統制報告制度と財務諸表の適正性確認義務との関係 | トップページ | 監査役交代が内部統制に及ぼすインパクト »

2008年5月27日 (火)

西武鉄道有報虚偽記載事件判決と法人自身の不法行為責任

先週の日経「法務インサイド」で採り上げられておりました「西武鉄道有価証券報告書虚偽記載事件判決」(東京地裁平成20年4月24日 民事8部判決)の全文が裁判所HPにて公開されています。法務インサイドでは、裁判所による「損害額」認定への疑問などが中心だったと記憶しておりますが、なるほど、こうやって全文を読んでみますと、裁判所の損害額認定の理屈が論旨明解である、とまではいえないように思いますね。(また、ご関心のある方は直接判決文にあたってみてください。)

私が知識不足なのか、それとも基本的なところで理解不足なだけかもしれませんが、この判決は株式会社西武鉄道や、名義株を多数保有していた株式会社コクド(現プリンスホテル)自身の民法709条に基づく不法行為責任を当然のこととして認めているわけですね。法人に不法行為責任が認められるのは、使用者責任(民法715条)が認められる場合や、代表者に不法行為が認められる場合(旧商法261条)が原則であって、特定の個人の不法行為成立が前提になってはじめて法人の責任が認められるような印象がありますが、本判決では「被告西武鉄道の注意義務」の有無がいきなり議論されています。法人責任が無過失と結びつくケースだとなんとなく理解しやすいのですが、法人自身の過失という概念は、証券被害事件などでも普通に認められているのでしょうか?(普通に認められているのだとすれば、私自身、かなりの認識不足があったかもしれません。法人自身の不法行為責任というのは、もっぱら公害訴訟など、ごく一部の分野で議論されているにすぎないと思っておりました。)

しかし、企業自身の不法行為責任という概念は、おそらく被害者救済的な発想から、企業活動全体を評価して、その故意過失(違法性)を認定しようということだと思いますので、逆に企業側からしますと、けっこうコワいですね。法人が契約当事者になる以上、法人の債務不履行責任は当然イメージできますし、使用者責任や法人の理事による不法行為ということであれば、個人の不法行為責任が前提となりますので、故意過失の有無に関する反論は考えやすいのでありますが、どういった事情が重なれば法人自身に過失があったといえるのか、法人側からの反論の機会が十分に付与されないと、あいまいなままに不意打ちをくらって、企業自身に違法行為があったと認定されてしまう可能性が高いのではないでしょうか。つまり「何をもって法人自身の注意義務違反と評価するのか」、訴訟当事者間における問題点の共有が十分はかられる必要がありそうです。

また、本判決では、法人(西武鉄道やコクド)自身の不法行為責任と、個人として被告とされている西武鉄道の元代表者らの不法行為責任とが連帯債務関係に立つことが明言されていますが、なぜ法人の不法行為責任と取締役の責任とが連帯債務になるのか、そのあたりの理屈についても実はよくわかっておりません。また時間のあるときにでも、じっくり考えてみとうかと思っています。

5月 27, 2008 未完成にひとしいエントリー記事 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/41335398

この記事へのトラックバック一覧です: 西武鉄道有報虚偽記載事件判決と法人自身の不法行為責任:

コメント

いつも読ませていただいており、大変勉強になっております。ありがとうございます。通りすがりの一市民でございます。

法人の不法行為能力という論点は、古くて新しい論点であるように思います。古くは、昭和30年代に旧民法44条を中心に法人実在説との整合性等から議論され、新しくは公害問題で議論されているように思います。ただ、以下私見ですが、客観的過失論からは、法人の結果回避義務違反が個人と特に異なる理由もないように思います。社会的に見て当該法人と同じ立場にある者であれば、当該結果を回避するべき義務があるという開かれた構成要件が適用されるということであれば、リスクの程度を含めて、個人の場合とそれほど大きく異なることはないのではないか、と思うのです。特に、金商法上法人が行うべきものがあるとするならば、結果回避義務を認定しやすいように思います。ただ、如何せんこれまであまり、法人の結果回避義務に焦点を当てた議論というのは、なされていなかったのかもしれません。注釈民法などでは、連帯債務なのか、不真正連帯債務なのかという議論に2頁ほど費やされていましたので、参考になるかもしれません。

ところで、上記エントリーでは、「故意過失(違法性)」とありましたが、故意過失と違法性は違うものであり、被害者救済の観点から「違法性」(権利侵害or損害)を認定するというのがちょっとよくわかりませんでした。


投稿: ぞう | 2008年5月27日 (火) 14時32分

ぞうさん、コメントどうもありがとうございました。こちらこそ、たいへん勉強になります。(どうみても、通りすがりの一市民ではないことは内容を拝見しますと、すぐわかりますよね (^^; )
法人の結果回避義務、という点から「企業自身の不法行為責任」を認めるということだと、たとえば具体的な自然人、つまり行為主体を特定しなくても、法人の過失行為を認定できる、ということですよね。もし、そのように考えるのであれば、会社法上の内部統制構築義務といったものも、客観的過失論と密接につながってくるのでしょうか?リスク管理の問題と、「結果回避義務」とがけっこう親和性があるように思ったものですから。

不真正連帯債務かどうか、といった点に関する「注釈民法」につきましては、一度読んでみたいです。どうか今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2008年5月28日 (水) 02時20分

コメントを書く