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2008年5月21日 (水)

世相を反映する新司法試験(雑感ですが)

著名ブロガーの方々が、平成20年度の新司法試験問題についてコメントされておられるので、たいしたことはコメントできませんが、ひとことだけ雑感を述べさせていただきます。おそらく受験された方は民事系問題を見てビックリされたことだと思います。今年は商法科目が民事訴訟法科目とくっついて大問(配点200点のほう)になっちゃったんですね。私のゼミを受講されたロースクール生の方々ならご存知のとおり、昨年から「会社法は絶対に訴訟法とからめて勉強すべき」と何度か申し上げておりましたので、そういった意味では「大当たり」でしたね(^^;

いえ、これは私が優秀な講師だからではなくて、逆に「とても人には言えない恥ずかしい訴訟」を何度も過去に繰り返してきた「ごく平凡な弁護士による苦い経験」からであります。大手の法律事務所の弁護士さん方でしたら、元々優秀なうえに訴訟担当チームを組んで、それなりに会社事件の訴訟活動は先輩からきちんと教えられるところもあるかと思いますが、小規模事務所が会社事件を担当することとなりますと、弁護過誤にもつながりかねないような基本的なミスを犯す可能性が高いのであります。当事者適格や訴訟形態(給付訴訟か確認訴訟か、形成訴訟か)、裁判管轄(どこの裁判所に訴えるべきか)、必要的共同訴訟かどうか、提訴期間や訴訟参加は可能か、定款自治や株主間契約による合意は訴訟要件にどのような影響を及ぼすか、などなど、会社法特有の訴訟法上の問題はやまほどあるわけです。あまり知られておりませんが、あのダスキン株主代表訴訟の第一審においてですら、かなり基本的なところで手続上の瑕疵があり、「瑕疵が治癒された」と裁判所に判断されているケースもあるほどです。ということで、商事事件を扱う弁護士を想定しますと、まずなんといっても、利害関係者の権利義務関係を裁判所に判断してもらうためには、「事件をとりあえず裁判にのっける」作業が必要なのでありまして、実務家になるためには、この「会社法と訴訟法の交差する場面」は「基本中の基本」なのであります。来年の試験問題がどうなるかは予想できませんが、私は判例研究などをされる場合でも、原告弁護士がどうやって「裁判にのっけたのか」、被告弁護士はどうして、ここで門前払いを求める主張をしているのかなど、きちんと配慮していただきたい、と常々申し上げているところであります。

あと、会社法を学ぶ上でとても大切(と私は勝手に思っておりますが)なのは、勉強しているときに思い浮かべている「会社」は大きな会社なのか、小さな閉鎖会社なのか、同族会社なのかベンチャー会社なのか、合弁会社なのか、ということであります。判例研究の際、毎回最初にお聞きするのは、「この被告会社はどういったイメージの会社ですか」ということでして、イメージされた会社によって、法律実務家が選択すべき法律構成はまったく異なるわけでして、そのあたりを十分理解しているかどうかは、非常に重要であります。今年の問題をみましても、上場子会社と、これを実質支配する小さな閉鎖型の親会社が登場して、かなり怪しい株式交換手続を行うものでありまして、上場会社からみた「会社法」、閉鎖会社からみた「会社法」、そして(責任財産保全の問題をからめながら)それらの関連性の問題点を見つけ出すというところは、かなり良問ではないかと思いました。

しかし架空循環取引や粉飾決算が登場したり、親子上場問題が出たり、怪しげなM&A投資アドバイザーが活躍したり、利益のためなら多少のコンプライアンス違反に目をつぶる銀行マンが登場したりと、まさに世相を反映した民事系問題ですね。昔の司法試験問題とは異なり、上から40%の人と45%の人の間に差をつけなければならない試験になりましたので、たくさんの文書を読ませて、論点抽出型の回答にならざるをえないものとは思いますが、楽しく議論してみたい問題だと思いました。(お気楽な内容ですが、このあたりで)

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