08’株主総会の準備時点で考えていたこと(総括)
今年の株主総会シーズンもほぼ終了し、原弘産vs日本ハウズイングの委任状争奪戦に代表されるように、株主提案権が不発に終わるケースが目立ちましたが、逆にいえばここ数年の「モノ言う株主」の存在感が増し、株主との対話を含めて現経営陣側の対応もかなり向上したことによるところも大きかったのではないでしょうか。私自身、それほど経営陣と株主との対立が先鋭化しそうな総会には関与しておりませんが、それでもいくつかの今年の株主総会への関与のなかで、総会準備段階で「紛糾リスク」として法律上の問題点を検討していた事項がございますので、総括の意味で記しておきたいと思います。(なお、総会当日は、いずれも平穏に終わったためにリスクが現実化したものではございません)
1 議題「剰余金処分の件」、会社提案の議案「任意積立金取り崩し→繰越利益準備金」、今年度は剰余金配当は見送ると報告。この場合に、総会において一般株主から「例年どおり7円の配当をせよ」なる要求があった場合、これを修正動議として上程すべきか?(株主数は1000名を超えるため議決権行使書面は送付済)
剰余金配当は原則として株主総会で承認決議が必要ですが、配当しない場合には、これは会社の決定事項を総会で報告すれば済む話です。したがいまして、総会議場で「7円配当せよ」と言われても、そもそも修正すべき議案がないので修正動議は採用する必要はないのでは・・・と最初は考えました。しかしながら、「剰余金処分の件」なる議題は存在しますので、「修正動議」なる用語にこだわることなく、会社法304条によって新たな議案が一般株主から出されたとみれば、これを会社側が拒絶する理屈もないのではないか?といった意見も出されまして、結論としては修正動議(といっていいのかどうかはわかりませんが)は上程したうえで、議決権行使書面による議決権行使を除き(つまり委任状を含めた会場の議決権の多数をもって)個別の採決をとることに決定しました。なお、この場合には、議決権行使書を送付した株主は、会社の「今年は配当はなし」なる報告事項を認識したうえで、剰余金の計数上の変動処理のみを承認しているわけですから、会社提案の先議をもって株主提案を否決することは困難と判断いたしました。(法律上の理屈だけでなく、議事運営に瑕疵ある場合に、会社にとってどのようなリスクがあるか、といった観点も考慮したうえでの判断であります)
しかし、剰余金処分に関する議題があるとしても、配当議案とその他の剰余金処分の議案とは、性質上区別されるべきものですし、実務上修正動議なるものは、招集通知および株主総会参考書類から、一般に株主が予見しうる範囲においてのみ許容されるものと解されております。(参考;旬刊商事法務1807号67頁)そして計数上の変動のみを議案とする剰余金処分の議題において、(しかも配当はしないとする会社決定がなされたことを知りつつ)、改めて配当議案が総会で審議されることは、一般の株主にとっては予見しうる範囲とは言えないでしょうから、そもそも会社側から配当議案が上程されていない場合には、株主による修正動議としての配当議案を上程することは許容されない、とみるほうが私的には正しいように思うのですが、いかがなものでしょうか?
2 取締役が任期を残したまま、株主総会において「経営判断にミスがあり、今後も企業価値を向上させる能力がない」として解任された場合、その取締役は会社に対して損害賠償請求権を行使できるか?
これは古典的な論点といってもいいかもしれませんが、実務上の取扱については未だ決着はついていないものと思われます。取締役はいつでも総会決議によって解任されうることになっておりますが(会社法339条1項)、解任された場合に「正当理由」がないときには解任取締役は、会社に対して任期満了時までの報酬額等の損害賠償請求ができます(同条2項、なおこの場合、会社を代表するのは監査役であります。会社法386条1項参照)。また、解任の理由については参考書類に記載されることになっております。(会社法施行規則78条)が、この「正当理由」の中身につきましては解釈にゆだねられており、はたして「経営上の判断の失敗」がこの正当理由に該当するのかどうか・・・といったところが問題となります。つまり経営上の判断にミスがあったことが「正当理由」であれば、解任された取締役に対して会社が損害賠償債務を負担することななく、「正当理由」にはならないとされれば、損害賠償債務が発生する、ということになります。多数説は「取締役の経営上の判断ミスは正当理由にあたる」とされているようであり(ただし、江頭教授は反対説)、また多数説に沿った判例も存在するようであります(広島地裁平成6年11月29日、判例タイムス884号230頁以下)。ただ、この問題は、実体法の解釈だけでなく、「正当理由」の立証責任がどちらにあるか、という点についても検討を要する問題であり、原則としては、会社側が抗弁として「正当理由」を基礎付ける事実を立証する必要がありそうです。そうしますと、多数説を前提とした場合、裁判官は「当該取締役において経営上の判断ミスがあったのかどうか」を会社側から提出された書証や証言をもとに、詳細な事実認定をする必要があるわけでして、これは「経営判断の原則」によって判断を回避するわけにもいかず(「経営上の判断ミス」を持ち出したのは株主であって会社ではない)、もし解任された取締役が裁判のうえでとことん争う場合には、公開の法廷に多くの企業秘密が(多くの証拠とともに)露呈されてしまうようなリスクが生じることも予想されます。そもそも立証責任が解任取締役側にあれば、このようなリスクは低減されると思いますが、そのようには考えられていないようでして、この点、どう克服すべきなのか思い悩むところです。
そこで、できれば取締役の解任理由については、「経営判断の失敗」といった問題に発展しないような方策もあらかじめ検討しておく必要があるのではないか・・・といった疑問が生じた次第であります。また、ご意見、ご批判等ございましたら、ご教示のほどよろしくお願いいたします。
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