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2008年6月22日 (日)

「社外監査役の乱」を冷静に考える(その3)

社外監査役のおひとりが、事業報告を承認できないとして、株主総会で(異例の)計算書類承認決議が上程される荏原製作所(呼称 荏原)でありますが、6月17日付けにて、計算書類承認の件(1号議案)に関する補足説明がHP上で公開されております。(第143回定時株主総会第一号議案に関する補足説明)きちんと会社法上の「計算書類」と「事業報告」の違いにまで言及されているようです。しかしながら、6月20日(金)の日経新聞朝刊記事によりますと、この計算書類の承認決議について、アメリカの議決権行使助言会社であるグラス・ルイス社が、株主に対して(会社上程議案を)承認しないように、と助言を行っているとのことであり、そればかりか、取締役会の信頼性に大きな疑いがもたれる、として取締役5名選任の件についても反対するように促しておられるようで、社外監査役の「異議」が、相当に大きな影響を及ぼす様相になってきたようであります。

上記補足説明によって明らかにされたとおり、この社外監査役さんは、計算書類について承認をしないのではなく、事業報告について承認しないということですので、会社法上は計算書類の承認を株主総会にはかる必要はなく、いわば「アンケート」的な総会決議をもって「念のため」の承認を得る、ということになります。しかし、そういった総会決議を会社側が上程する、ということであれば、2点ほど疑問が湧くところです。

まずひとつめは、上程される議案について、株主の皆様は「アンケートみたいなもの」であることは了解されているのでしょうか?それとも、そんなことは株主の方々は知る必要もないのでしょうか?私の推測では、このたびの計算書類の承認決議については、株主の方々は自分たちが承認してもしなくても、計算書類が適法に成立しているものであることはご存じないのではないかと思います。少なくとも、この承認決議が可決された場合はどうなるのか、また否決された場合には、計算書類はどうなるのか、そのあたりは取締役から株主に対して事前に説明責任を果たす必要があるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。そうでなければ、株主の皆様は単なるアンケートなのか、それとも、もし否決された場合には、たとえば計算書類を作り直すとか、ある一定の効果のあるものなのか、知る由もなく「なんのために承認決議をするのか」議論さえできないものになってしまうはずであります。

そしてもうひとつは、このたびのような「アンケート的」な総会決議が上程可能なものであるならば、今後株主側から会社への要望的な総会決議を求めることも可能になるのではないでしょうか?取締役会設置会社の場合には、株主総会で決議されるべき事項は、会社法もしくは定款において規定されているものに限られるはずでありまして、買収防衛策導入時の(定款変更議案を上程しない場合の)総会決議は「勧告的決議」と言われるところであります。それと同様、このたびの計算書類承認決議も、いわば会社法には規定されていないことを総会で決議するわけですから、もし今後株主側から会社経営における基本方針への提案などを勧告として求める場合には、これを総会にかけることが可能になるのでしょうかね?会社自ら勧告型決議を求めうることを宣言するわけですから、株主提案の場合にはこれを認めない理屈というものは立たないように思いますね。けっこう、考え出すと難しい問題が含まれているのではないでしょうか。

経済産業省の企業価値研究会から新たに公表される買収防衛策指針のなかでは、(ブルドックソース最高裁判決からは少し距離を置いて)防衛策の導入および発動に関しては、なにもかも株主総会の意思決定にゆだねるのではなく、むしろ取締役会における責任をもって判断し、株主には説明責任を果たすべし、というような基本方針が描かれているものと理解しております。この指針のように、最近は取締役(会)による説明責任を尽くすことと、株主総会における承認を得ることで取締役(会)としての責任を回避することとはかなり明確に分けて検討する必要性が説かれる機会が増えてきたものと思います。もし、取締役会の判断において、重大な事項の決定を株主総会に委ねるのであれば、そもそも「責任逃れ」とは言われないように、株主が決議すべき議案の内容については十分な説明責任を果たす必要があるのではないでしょうか。6月17日付けの荏原社リリースのなかでは、「株主総会において状況を十分に説明したうえで、株主の皆様に賛否を求めることとした」とありますが、議決権行使書面を行使する株主の方々にとりましては、会社の事前のリリースがすべてでありますので、せめて承認決議が可決された場合はどうなるのか、否決された場合にはどうなるのか、「アンケート」的決議であるがゆえに、明確に説明されていることが最低限度必要なのではないか、と思った次第であります。

6月 22, 2008 監査役の理想と現実 |

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コメント

小職も中小の会社の常勤で社外をしてますが、この件、何かあるのではと
思ってしまいます。
社外だから何でも敵対するということには無くて、「健全で継続的な会社」のためにと思っているはずです。
今期の計算書類上は問題が無くても、事業上将来的に何か危惧されるものがあっての発言ではないかと思います。
自分の発言がどのような影響をもたらすのかは十分に把握されているはずですし・・・
取締役会での意見が前段であったはずで、それに対して誤解ならそれを取除くことができなかったとすると、それはそれで執行部の説明力が無いことを露呈してしまったことになります。
いずれにしてもご本人から直接お聞きしないと不明な点はあるのですが、山口先生のご指摘のように大きな問題になるかもです。

投稿: unknown | 2008年6月23日 (月) 13時18分

ご意見ありがとうございます(できましたら、名前欄になんでも結構ですので、コメントされた方が特定できるようなハンドル名をお書きいただけますと幸いです)

おっしゃるとおりだと思います。監査役があのような意見を付記することが、会社にとってどのような影響を及ぼすのか、当然のことながら熟知されたうえでの公表だろうと考えます。また、軽々しくは論じられませんが、あの某ゴム会社の監査役さんのように、関連企業から来られた監査役であれば、また違った見方もできそうですが、どうも荏原社の場合にはそういった背景事情もあるようには思えませんし。
いずれにせよ、総会集中日である27日のニュースで総会の様子が詳細に伝えられることを願っています。

投稿: toshi | 2008年6月23日 (月) 13時43分

山口先生
申し訳ありませんでした。
年のせいで、うっかりしてました。
ハンドルというのでしょうか、
「ご苦労さん」でお願いいたします。

先生の情報でいろいろと毎日勉強させていただいて
ます。
ご紹介していただいた本以外にも大阪のお菓子
の紹介など楽しく拝読させていただいております。
(堂島ロールは本当においしゅうございました。
 喜久寿のどら焼きはまだ試しておりません。)

先生に一度お会いできる機会があればと思って
おります。
                   以上

投稿: (ご苦労さん) | 2008年6月23日 (月) 15時31分

昨日(6月28日)の朝日新聞ニュースなどを読みますと、O会計士は総会でかなり説明義務を尽くされたようですし、記者会見では、今後も監査役の地位に残り、会社のためにモニタリングを続ける・・・とされていますので、ご指摘のように事業上、将来に向かって何か危惧されるものがあるのかもしれませんね。しかし、これほど社外監査役が注目された事件も、過去にはなかったのではないかと思います。今後も注目しておきたい事例だと思いました。

投稿: toshi | 2008年6月29日 (日) 12時16分

山口先生
新聞報道のみでは、本人の残留しかわかりませんでした。
自分なら、監査役の責任を問われるのがいやなので、
さっさと辞めようと思いますが・・・・・
将来の危惧を明らかにしてからと考えているのでしょうか?

報道のように顧問弁護士との話が出来ないというのが本当
なら、由々しい問題ですね。

先生のおっしゃるように、小職も注視していきたいと思います。
(ただ、当方もこの景気の悪さで、いつまでこの職にあるか
判りませんが・・・)

投稿: ご苦労さん | 2008年6月30日 (月) 10時51分

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