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2008年6月27日 (金)

食品偽装事件と企業の公表義務違反

6月27日が株主総会のピーク日(約1300社)ということでありますが、私の場合は今日で総会関連の業務は終了しました。ただ、日本ハウズイング社の株主総会とか、「社外監査役の乱」シリーズで私だけ盛り上がっておりました荏原社の株主総会など、本日もいろいろと注目すべき総会がありますので、関心はつきないところです。(追記;午後1時20分の開示情報において、荏原社の計算書類が承認された、とあります)しかしながら、NHKドラマや総会関連業務、内部統制報告制度Q&A等に目が向いている間に、飛騨牛や中国産うなぎなど、またまた大きな食品偽装事件が発覚したようでありまして、少しばかりではありますが、食品偽装事件についてもエントリーしておきたいと思います。(26日の読売新聞夕刊によりますと、ウナギ偽装の件は、すでに兵庫県警に捜査本部がおかれる予定だそうです。)なお、以下の流れ図は、実際に農水Gメンの調査を受けた過去の事例などをもとに作成したものでありますので、すべての食品偽装事件の手続きにそのままあてはまる、というものではございませんので、ご注意ください。

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このたびの中国産うなぎの産地偽装事件でも報道されているように、まず農水省(食品110番)に内部告発や外部者情報が入るようですが、この外部情報をもとに、専門家知見によって詳細な情報分析が行われるようであります。

実際に食品を購入して、その仕入先や販売先商品についても徹底的に調べて、ほぼ偽装が行われていることが間違いない段階で、偽装会社および仕入先企業、販売先企業への調査が入ります。なお、調査に先立つ企業への連絡は、10分とか20分とか、本当に直前になって初めて行うものでありまして、証拠隠滅とか口裏合わせ、といった事前工作ができない状況で開始されるそうであります。人数的にはけっこう多く、某企業の場合には7名程度で3日間ほど調査が行われたようです。ただ、現時点における農水Gメンさんらの調査につきましては、司法捜査のような強制力はありませんので、強制的に捜索差し押さえをしたり、会社側の承諾なくして領置処分を行うことはできません。(このあたりが消費者庁が設置された後とは異なる点かもしれません)

さて、ここからが問題でありますが、Gメンによる調査直後になんらかの行政処分が直ちに発令されてしまえば二次不祥事は発生する余地がないのかもしれませんが、正式な適正表示に関する措置もしくは業務改善命令が出るまでには立ち入り調査の日から1か月から2か月程度の期間が「空く」ことが多いようであります。そして、この間は行政庁から何らの公表もありませんので、マスコミ報道がなされるのは、この正式な処分が発令された直後、というのが通例のようです。今回のウナギ産地偽装の事件でも、比較的短期間ではありますが、この「空白の時間」が認められます。この空白の期間中、企業としては行政処分が正式に出るのか、それとも単に警告や注意で済むものなのかは不明であり、悶々とした日々を過ごすことになるのでしょうね。

1 報道されない食品偽装事件の数は?

いままであまり考えたことがなかったのですが、JAS法違反の事例として行政による立入検査があったとしても、けっこう食品偽装事件として報道されていないケースもあるのではないでしょうか。たとえば強制捜査権がないために、食品偽装の事実を確認できずに終わってしまったとか、立入調査の際に、すでに食品偽装の表示を改めて、深く反省しているがゆえに「厳重注意」で終わった場合とか、(行政目的が達成できれば処分の必要性は消えますから)食品偽装事件を起こした企業でも、ほっと胸をなでおろしているところがけっこう多いのかもしれません。そうだとしますと、たとえば「口裏合わせ」や「責任回避」「口止め料の支払い」行動など、えげつない二次不祥事が発生してしまえば論外でありますが、企業としては最初の調査の時点において、食品偽装事件があったことは経営トップまで知るところとなったわけですが、食品偽装事件を公表せずに済むのであれば、このまま黙っているべきではないか・・・・・、との経営判断に至る可能性が出てくるのも不思議ではありません。

2 マスコミ報道されるかどうかわからない状況で、企業は本当に公表するか?

不祥事を起こしたからといって、直ちに企業が不祥事を公表しなければならないか、といいますと、社会倫理上ではそうすべき、と思いますが法的にはどうなんでしょうか。もし逃げ切れる可能性があるのだったら、その可能性に賭けてみて、とりあえず行政目的を実現する範囲でだけ偽装をこっそりと適正化しておく、ということで(法的には)足りるのではないか、という考え方も成り立ちそうな気もします。ただ、こういった選択肢で万が一、後で偽装の事実が内部告発などでマスコミの知るところとなった場合には、ダスキン事件と同様、会社ぐるみでの隠ぺい自体が二次不祥事として大きくとりあげられ、企業のブランドイメージを著しく毀損する結果となってしまうことは当然でしょうね。むしろ、倫理上、不祥事は判明した時点で公表したほうがいい、というだけでなく、やはり企業には法的にも公表義務がある、と言えるような理屈を考えたほうがいいのかもしれません。まず理屈として一番わかりやすいのは、偽装商品が出回っている状況であれば、企業は消費者に対して不当な表示であることを広報して、消費者被害が拡大することを防ぐ必要がありますので、そういった消費者保護上の観点から公表義務を認めることはできそうです。もうひとつの考え方としては、いわゆる内部統制システム構築義務(リスク管理体制の確保)ではないかと思います。つまり、公表せずに後で大問題として採りあげられるリスクと、現時点で公表して問題視されるリスクとを比較して、その前者の発生可能性がある程度確実であることが認められれば、リスク管理の一貫としての公表義務は取締役らに発生するとみることができるのではないでしょうか。

「発生可能性」の高さについては、社会情勢の変遷にもよるものだと思いますし、社内だけの常識にこだわっていては、その判断を誤る危険性があるのではないかと考えております。

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コメント

 東証の有価証券上場規程(他の市場もほぼ同様かと)に「当該上場会社の運営、業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」に「不祥事」が該当すれば、上記規程による開示義務があることになります。食品偽装の発覚は、個人的には、余程軽微でない限り投資判断に影響するのではと考えております。(行政処分がない段階ですが。)
 とはいえ、当事者としては、実際には「そんな影響はない。」と「解釈」して開示しないという誘惑にかられてしまうのでしょうか。勇気を出して開示するのでしょうか。

投稿: Kazu | 2008年6月27日 (金) 12時20分

上場規程までは考えが及びませんでした。たしかにそういった企業行動規範があれば、ひとつの根拠になりそうですね(不祥事を開示することに関する規則があるために、上場企業の取締役の善管注意義務になる・・・という理屈ですね)
ただKazuさんが指摘されているとおり、開示すべき「不祥事」とそうでない軽微なものとは当然に区別する必要がありますので、その判断が別の問題にはなるでしょうね。また、エントリーのように「本当に行政処分が課されるのかどうか」は投資判断へ影響する事実だと思いますので、やはりどの時点で公表義務が発生するか・・・という点の問題は残るように思います(ご意見、ありがとうございました)

投稿: toshi | 2008年6月27日 (金) 13時51分

毎度この季節になるとウナギのネタが出てきますね(笑)。土用の丑を盛り下げる記事ばかりです。
この辺はかつてコンサル経験があるので、やや詳しいのですが、「強圧的偽装」(造語ですが)ということを聞きました。
某大手スーパー(ちょっと固有名詞は控えさせていただきますが、前回、プロキシーファイトに勝利したあの企業です)などでは、仕入れ業者に半ば強圧的に「産地証明」させているとも聞きました。
小売側では「国産しか買わない」といい、納入側はまともに納入すると利益が出ない、スーパー側からはそれとなく偽装を匂わせるそうです。
仕入れ側は産地証明義務を負っているので、スーパー側は「被害者」という構図です。
似たようなことはミーとホープでも「スーパーは知っているのではないか」と少し問題になっていましたが。

ウナギに限れば、国産3割(2割かちょっと記憶が定かでない)、輸入は残り、の仕入れ構図なのに、スーパーの売り場では多分この反対で、なぜそこまで国産があるのかという単純な関係がちょっと知っている人だとすぐにわかります。
しかも、国産ウナギの半分以上はウナギ料理店、割烹など旧来の流通ルートで納入されるようです(スーパーがウナギを売り始めたのは歴史的には浅いのです)。

さらに土用の丑を興ざめさせますが、静岡産ウナギは国内産の10%程度で浜名湖付近でウナギを作ってる養殖業者は少ないと聞きました。

時間があれば調べてみたいのですが、日本の農業の輸出可能性がこのインフレで見直されています。しかし、中国に輸出できる果物などは種類が限定されているようです。
単純に「中国の輸入基準」(残留農薬とか)に引っかかっているんじゃないかなあと思います。中国の検査基準は世界水準にあります。日本では中国の一部の不誠実な業者を全てのように取り上げるのが残念です。

日本は輸入検査(これも問題になっていますが)は厳しいのですが、国内の出荷基準が輸入と同一でないといわれていることもあります(輸入は厚労省、国内は農水省)。

お試しに、目を瞑って、中国産のウナギと国産ウナギを試食されると、前者のほうがおいしいと感じると思います(私もやってみました)。牛肉と違い、ウナギは中国産のほうがおいしいという事実を国民に知ってほしいなあ。

(ウナギに限れば)偽装しなくていい世論形成が望まれます。

投稿: katsu | 2008年6月28日 (土) 03時39分

ご意見ありがとうございます。非常に参考になりました。実は私も「うなぎ」は詳しいほうでして、刑事事件で何度か取り扱ったことがあります。
うなぎの流通ルートというのは、ちょっとブログで書くのは危険なところがありますよね(わかる方にはおわかりかと・・・)今回の事例でも、不正競争防止法違反の事件として早々に捜査本部が組織されましたが、うなぎの流通を真剣に調べようとすれば、もはや警察以外には対応は困難かと思っておりましたので、予想通りの成り行きではないかと思います。
おそらくいまでも現金決済が多いのではないかと思いますし、実態を正確に把握するのはかなり時間がかかるのではないでしょうか。

投稿: toshi | 2008年6月29日 (日) 12時25分

 自主公表の問題の扱いで悩んでいます。
 単純に個人に帰結できない構造的若しくは組織犯罪的なケースを想定するなら、自主公表は避けられれば避けたいと考えるのが自然だと思います。自主公表を義務的に捉えられるぐらいなら、そもそもそうしたことはしないだろうからです。ある意味で《自首》するわけですから、かなりの決断が必要になると考えます。それを知った場合、コンサルタントはどう自主公表を説得するかは一筋縄ではいきません。実は潜在している自主公表事案はものすごい数あると思っています。どの企業にもあるかもしれません。
 鰻の話で言えば、国産鰻は20%しかないのに町の中で見る感じはそうではありません。例えば《里帰りうなぎ》というそうですが、国内から台湾などの最終養殖地に行って戻ってくるときには量が増えているのだそうです。行った鰻と帰ってくる鰻は違うとしか考えられません。また、一色産うなぎの地域商標も当事者の漁協が悪用していました。本件とは別の話です。ほかの養殖魚でも似たような話がいくらでもころがっています。こんなことを言ってはいけないかもしれませんが、交通違反の取り締まり状態で、何らかの原因でチクられたところだけ、一罰百戒の犠牲者のようです。
 偽装表示の問題ばかりでなく、犯罪的な不祥事も実際は明白な犯罪は少なく、一応は適法の言い訳があるのが普通でしょう。外形的に明々白々なケースなら自主公表も考えられますが、「これは拙いんじゃないか」とかなりの人は思っても有無罪は裁判所でしか判断できないのですから、「これはいいんだ。違法ではない」と突っぱねているケースではとても自主公表を決断するとは思えないのです。実際のところはこれがほとんどでしょう。例えば保険会社の支払い問題も違法でしたが、弁護士を抱えて理論武装をしていました。消費者側から見ればこんなひどい話はないですが、とても自主公表なんかしません。
 悪質なケースほど自主公表はあり得ないので、先生の説のような説得をしていてもとても無力感を感じてしまいます。消費者庁に関して言えば、弁護士がスタッフに入りますので、少しは頑張ってくれるかな、と一応期待はあります。しかし消費者団体訴訟も大阪が第1号の差し止め仮処分をやりましたが、東京は元気がありませんし、どうでしょうか。

投稿: TETU | 2008年7月 4日 (金) 00時26分

toshi先生、土曜日はおつかれさまでした。学会でのお話、ぜひ聞いてみたかったです。

うなぎ偽装事件についてはtoshi先生ご指摘のとおり「現金決済」の常態化がかなり流通経路の判明の障害になっているみたいですね。帳合取引なのか架空取引なのか、業界全体としての不透明感が悪質な偽装事件の背景にあるようです。

しかしあまりにもひどい話ですね。本当に問題になった会社だけのことで済むのでしょうか?

投稿: hiro | 2008年7月 7日 (月) 12時13分

TETUさん、いつもながら理論的なご解説、ありがとうございます。

自主公表とコンプライアンスの問題は、私自身も未だ説得的な考え方が示せずに悩んでいます。いまのところは「公表しないことが得策とは言えないよ」という点をどう説明するかに腐心しておりますが、やはり「ばれない場合がけっこうある」という実態の前ではあまり説得力がないものと思います。ダスキン事件の理屈をどう具体的な事案に応用できるのか、興味はありますが、まだまだむずかしい問題が残ります。
また続編を書きたいと思います。

投稿: toshi | 2008年7月 7日 (月) 23時30分

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