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2008年6月12日 (木)

企業価値研究会「敵対的買収防衛策のあり方」

6月11日の経済産業省企業価値研究会にて、「敵対的買収防衛策のあり方」に関する新しい報告書がまとまったそうであります。(日経ニュース朝日ニュースなど)新株予約権を用いた事前警告型の買収防衛策(いわゆるライツプラン)の導入や発動について株主総会の判断に委ねるのは「責任逃れ」、大量買付者に対して金銭を交付する行為は「株主の利益が害されるおそれがある」として許されないとか。ともかく、買収防衛策を導入するのは、取締役の明確な責任のもとで明確な要件にしたがって行われるべし・・・ということのようであります。(まだ、報告書の中身を読んでおりませんので、あくまでもニュースのみからの情報です。)なお、M&A関連のエントリーの際には毎度申し上げているとおり、当職はM&Aに詳しい弁護士でもなく、あくまでも社外監査役という立場からの感想にすぎませんので、あしからずご了承ください。

(6月12日午前 追記)以下は、読売新聞朝刊の記事からの抜粋です。経営陣の行動のあり方として①買収防衛策を発動する際、買収者に金銭補償をするべきではない、②株主総会に買収の是非の判断を丸ごと委ねるのは責任逃れ、③自ら保身を目的として発動要件を広く解釈してはならない、④買収提案の検討、買収条件の改善交渉を真摯に行う。検討期間をいたずらに長期にしない、⑤買収提案に対する評価について、株主に対する説明責任を果たすべき、⑥第三者機関を組み込んだ防衛策に関しては、その機関構成として独立の社外取締役が適切。などなど・・・

1 研究会の指針はソフトローなのか?

日経の記事などを読みますと「6月総会を控えて、防衛策の修正を迫られる企業も出てきそうだ」とあります。ということは、やはり企業がこの研究会報告書の指針内容に沿った防衛策を導入すること(もしくは変更すること)を誘導する面があるんでしょうね。(追記:12日に公表された「防衛策の在り方(案)」の末尾に、「この報告書は6月総会では、時間的制約の関係から参照されないものである」との注意書きがあります)つまりソフトロー的な機能を果たすことが期待されているのかもしれません。ただ、そうなりますと、ソフトローが目指すものはいったい何でしょうか?発動までを見越して「裁判で勝つ」ことを目指すものなのでしょうか、それとも導入して警告を与えることに取締役の善管注意義務違反、忠実義務違反が認められない(つまり取締役が法的責任を問われない)ことを目指すものなのでしょうか?それとも両方を同時に目指すということなのでしょうか?新株予約権の発行差し止めを回避すること(つまり裁判に勝つこと)と、取締役の責任を回避することとは違いますよね。どんなにお金を使ってでも買収者を排除する姿勢であれば、裁判には勝てるかもしれませんけど、取締役の善管注意義務違反が認められる可能性は残ることがありえますし、裁判で勝てるかどうかは不明だけれども、(つまり交渉のための道具としては有効だが、発動までは考えていない)これだけの手続を踏んでいれば取締役としての善管注意義務違反は問われることはない、というのも当然ありうる話であります。ということで、報告書に法的拘束力がなく、あくまでもソフトロー的な機能が期待されているのであれば、いったいどっちの方向を目指しているのか、という点がもっとも興味を抱くところであります。

2 買収防衛策は「権限分配法理」の呪縛から解放されるのか?

買収防衛策を導入する企業が500社を超えるらしい・・・ということのようでありますが、ある大証の方からお聞きすると、「取引所へは、いつも同じ弁護士さんが説明に来られ、いつも同じ説明をされて帰っていかれる」とのこと。企業としては、やはりライツプランを定款変更によって導入する以上は「発動した場合に勝てるスキーム」こそ、やはり一番関心が高いものと思います。しかし、企業価値研究会の新しい報告書のニュースを読むかぎりでは、取締役会で導入、発動の責任を持ちなさい・・・といったスタンスのようですので、そもそも株主の意思を問う、ということにこだわらないスキームをモデルとされているのでしょうか。ただ、そうなりますと「発動される事態までは想定されていない」のであればいいのですが、発動まで含んだモデルということでしたら、日本の裁判所における「権限分配法理」との関係はどのように考えたらいいのでしょうか?(たぶん、同じ疑問を持たれている方も多いのではないかと。。)思い切って、取締役会の判断が一般株主の意思を反映していると擬制できるような手続的スキームをもって適法性が担保できる、と考えるのでしょうか。(たとえば独立委員会の存在、独立性の強い社外取締役制度の導入など)しかし、いくら保身目的ではなく、公正な立場で取締役が行動していることを証明できたとしても、それは1でも述べましたように、取締役の責任回避の手段にはなりえても、株主意思を反映した判断に代替しうるものかどうかは未知数のように思います。とくに①買収防衛策は株主共同利益を守ることを最大の目的とし、②株主構成のあり方は、基本的には株主が決めることである、といった法理から出発するのであれば、平等原則(株主平等の原則)、比例原則(平等原則に反するとしても、その侵害は最小限度であること)、濫用禁止原則(保身目的の排除)が厳格に認められる場合にのみ、発動が許容されるのではないかと考えられます。とりわけ、最近では委任状勧誘に関する法理も活発に議論されているところですし、原弘産の事例のように、株主側から、買収防衛策の不発動を求める議案なども株主総会に出されるわけでして、発動によって最も利害関係を有する「現株主」の意思を問う機会が一方でありながら、他方で「現株主ほどの利害関係をもたない過去の株主の賛同を得ている」ことがどれほど買収防衛策の発動の適法性に意味があるのか、私には少し疑問を感じるところであります。

(6月12日午後 追記)ligayaさんのブログで知りましたが、昨日の企業価値研究会の資料として「防衛策のあり方(案)」が公開されていますね。いまから同志社の演習なので、また夜にでも拝見したいと思います。

PS 話は変わりますが、COSOの内部統制システムにおけるモニタリングのあり方に関する公開草案が出ています。英語に堪能な方、できましたらご解説をお願いしたいと思います。

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