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2008年6月24日 (火)

公認会計士(監査法人)異動時の意見開示について

今週は株主総会の集中週間となりましたが、上場企業の総務部の皆様、いかがお過ごしでしょうか? 議決権行使書は首尾よく集まっておられますでしょうか?(社員個人として)大株主の皆様からは包括委任状は受領されましたでしょうか?泣いても笑っても、あと数日、無事終了して気持ちよく有価証券報告書が提出できればいいですね。

さて、株主総会とは直接関係はございませんが、おそらく総会終了直後あたりから、いろいろと話題になるのではないかと思われる(と勝手に想像している)のが、会計監査人(ここでは財務諸表監査、内部統制監査を指して「会計監査人」といいます)の異動時における意見開示問題であります。金融商品取引法24条の5、第4項の規定によって臨時報告書を提出すべき会社(主に上場会社)につきましては、企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)の第19条の改正によりまして(この4月1日から施行されております)、新たに臨時報告書を提出すべき事例(監査人の異動)が追加されました。この改正された開示府令19条第2項9号の2といいますのは、財務諸表監査および内部統制監査を担当する監査人(公認会計士、監査法人)に異動が生じる場合には、その旨を臨時報告書によって速やかに財務局に提出することを要する、というものであります。もちろん、適時開示情報をご覧の方はご承知のとおり、これまでも証券取引所規則によって、会計監査人の異動については、その理由も含めて開示情報とされておりました。しかしながら、今回の開示府令の改正の重要ポイントは、なんといっても異動に関する監査人側の意見表明が原則として報告書に付される・・・という点であります。(会計監査人の主張内容は会社側が記載するわけですが、適当にまとめて書いてしまうと「虚偽記載」となる可能性がありますので、きちんと会計監査人側が述べたとおりに記載することになると思われます)

この臨時報告書制度の改正は、公認会計士の独立性維持と、その地位の強化を目的としたものでありますが、その影響については、これまでほとんど議論されている気配がなかったようであります。しかしやっと会計・監査ジャーナル7月号の特別企画「改正公認会計士法施行をめぐって」のなかで、日本公認会計士協会の執行部の先生方より、開示府令の若干の解説がなされておりますので興味のある方は、そちらをご参照ください。誤解をおそれずに平たく申し上げますと、4月1日以降に開始される事業年度の財務諸表監査、内部統制監査を担当される監査法人さんが何らかの理由で解任されたり、自ら辞任したり、自ら監査契約を解除したり、合意解約するなど、その地位を退く場合には、会社がすみやかに提出すべき臨時報告書のなかにおいて、異動の事実とともに、異動理由を表明することができる、ということでありまして、つまり、もし会社と会計監査人とが決算書や内部統制報告書の適正性についての意見が対立した場合、臨時報告書には、相対立する意見がふたつ掲載されている、ということになります。なお、異動理由については、監査法人側より表明することが原則ではありますが、とくに表明したくなければ理由を述べなくてもよく、ただし会社側が表明すべき機会を監査法人に付与したにもかかわらず、監査法人は意見を表明しなかった、と(会社側によって)書かれてしまうことになります。また、改正開示府令の立案担当者の意見によれば、会計監査人が意見表明する場合には、よほどのことがないかぎりは監査法人(公認会計士)の守秘義務が解除される正当性はあるだろう・・・とのことですから(旬刊商事法務1831号22頁以下参照)、おそらく監査法人側も会社側の不適切な会計処理や内部統制に関する不利益な事情を積極的に開示することが予想され、またこれに対する会社側の相反する意見表明も予想されるところであります。また、会計監査人が表明できる意見につきましては「監査報告書等の記載事項に係る」とされていますが、先に掲げましたジャーナル7月号座談会の協会執行部の方のお話によりますと

対象が非常に狭そうに読めるわけですが、記載の中身を詰める段階でかなり広い内容が記載できることがわかってきました・・・(中略)・・・たとえば監査手続に関するものも入りますし、追記情報、継続企業の前提も入ります。それから意見表明する前に監査人が辞任することが最近、たびたび見られますが、こういう場合でも理由および経緯に関わるものは書ける、という解釈のようです

とされており、会社側、会計監査人側双方のバランスを考慮しながら、けっこう広く経緯や理由は記載できる、と解釈されているようであります。

近時の会計不正事例の頻発に加えて、金融庁の監査法人に対する監督権限の強化や、新たな内部統制報告制度の混迷(経営者も監査人も実務的に手探り状態)を考えますと、今後多くの企業において、監査上の意見対立が発生することが予想されますが、いままでこの問題がほとんど活発に議論されていないところをみますと、ひょっとしたら単なる私個人の杞憂にすぎないのかもしれません(^^;※1しかし、私はやっぱり、監査法人にしても、上場企業にしても、これは大きな「監査制度リスク」ではないかと考えております。開示府令の改正趣旨そのものは監査人の独立性、地位強化にありますが、そもそも金融商品取引法における「臨時」報告書の適用を受けるわけですから、投資家保護のためにもすみやかにわかりやすい理由が記載される必要があろうかと思われます。なお、実際にはまだいくつか開示府令の適用について論点がありますが、とりあえず今回は問題提起までとさせていただきます。

※1 最新号の週刊経営財務におきまして、改正公認会計士法に関連する規則、内閣府令の解説記事が掲載されておりますが、ここでも解説されていませんね。金商法関連の内閣府令とは区別されているのかもしれません。

(追伸)SECが米国SOX法の中小上場会社に対する適用猶予を決めたそうですね。(これで5度目の延期ですね)おそらくSOX法の適用がどれほど上場企業の財務報告の信頼性確保のために効果があるのか、その「費用対効果」の検証のためと思われますが、柔軟性においてだいぶ日米の差がありそうですね。こういったSECの対応が日本の内部統制報告制度の実務にどのような影響を与えるのでしょうか。。。

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コメント

山口先生ご指摘のとおり、この部分は、会計処理をめぐり意見が対立するような会社にとって、大きなインパクトがある開示強化ですよね。

その対立点となっている具体的な内容も、インサイダー取引にいう重要事実に該当(バスケット条項経由)することもあるように思います。

また、会社法の中でも、会計監査人の異動に関する説明義務(会計監査人も、株主総会で選任されている以上、受任者として委任者側にきちんと説明すべきでしょう)などの議論があってもいいだろう、と思われます。会計監査人は、辞任に先立ち、監査役や監査委員会との調整が本来あるべきでしょう。監査役の中に、会計の専門家がやはり最低1名は必要でしょうね。

投稿: 辰のお年ご | 2008年6月24日 (火) 09時30分

コメントがつきにくいエントリーに、いつもご意見をいただき、ありがとうございます。
エントリーでは書けませんでしたが、私も会社法上の説明義務について、同様の問題があるのではないかと考えています。財務諸表監査人と会社法上の監査人については、実務慣行のうえで報酬も包括的に定められるでしょうし、もし辞任や合意解約ということでしたら、ほぼ同一の場面が想定されるでしょうから。(そうなりますと、監査役との関係も問題になりますから、監査役サイドでも、本件のような問題については検討の必要がありますよね)

投稿: toshi | 2008年6月24日 (火) 20時31分

制度の趣旨は理解できますが、実効性は?でしょう。会計監査人と会社が対立し、会計監査人が辞任に至るのは、りそなの頭取が言ったような「監査法人が豹変した」場合すなわちこれまで認めていた会計処理を、厳格監査の名の基に認めなくなったケースが多いでしょう。会社との信頼関係が喪失した中で、会計監査人がその正当性を主張すれば会社の大きな反発が予想されます。
最近、監査報酬をめぐる対立により監査法人を変更した会社が、HPに前監査法人との交渉の経緯を詳細に掲載しています。監査法人にとってはレ
ピュテーションともなりますので、会社と対立した場合会計監査人の意見をあえて主張することには慎重にならざろう得ません。
会社と対立した場合には、だまって辞任するといった「大人の対応」をとることになるでしょう。

投稿: 迷える会計士 | 2008年6月27日 (金) 22時48分

迷える会計士さん、ご意見ありがとうございます。そうですか・・・、なかなか実効性が期待されるものではないですか。
これからも黙って辞任する、といった大人の対応が主流になりそうですかね。しかし黙っていると「あの監査法人は、発言の機会を与えたにもかかわらず、なにも発言しなかったので、私たちの主張が正しいです」と臨時説明書に書かれてしまうわけで、これもレピュテーションリスクになりそうな気もしますし、ちょっと怖い気もします。
会社側も、そこまですると、本気で対応されるリスクが出てきますし、双方が大人の対応・・・ということになってしまうのでしょうか。

投稿: toshi | 2008年6月29日 (日) 12時36分

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