« 企業価値研究会「敵対的買収防衛策のあり方」 | トップページ | ドラマ「監査法人」明日土曜日スタート! »

2008年6月13日 (金)

株主の逆襲(司法編)株主名簿閲覧仮処分事件で東京高裁逆転決定

昨日の経済産業省企業価値研究会の報告書案において「株主の逆襲が始まったのか」と思いましたが、同日(6月12日)、司法判断においても、株主の逆襲が始まったようであります。原弘産が日本ハウズイング側に対して求めていた株主名簿閲覧謄写仮処分命令事件におきまして、東京高裁が原弘産側の主張を全面的に認める逆転決定を出したようであります。(なお、東京高裁の決定全文は、こちらの原弘産側リリースよりご覧になれます。まずはこういった重大な裁判内容を速やかに公表いただきました当事者の方々に御礼申し上げます。また、日本ハウズイング側の開示情報によりますと、この東京高裁決定を受けて、速やかに原弘産側へ株主名簿を開示されたそうであります。)当ブログでも、4月24日付けエントリーの冒頭で、債権者(原弘産)側の主張がすんなり理解できる・・・と書いておりましたが、上記東京高裁決定を読んだかぎりでは、やはりほぼすんなりと被保全権利の存否および保全の必要性とも頭に入りましたので、債権者側の主張がほぼ全面的に認められたのではないでしょうか。

原弘産側は、日本ハウズイング側に対して、委任状争奪戦のための広報を目的として、その株主名簿の閲覧謄写を申請したのでありますが、日本ハウズイング側は、原弘産が競争関係にある会社であることを理由に、この開示を拒否したために、原弘産側が裁判所に対して株主名簿閲覧謄写を求める仮処分を申し立てたのが本件の概要であります。この高裁決定を理解するためには、以下の会社法の条文と、過去の判例の知識が必要であります。

会社法125条(株主名簿の備置き及び閲覧等)

③株式会社は、前項の請求(注;株主はいつでも営業時間内に株主名簿の閲覧を会社に請求できるということ)があったときは、次のいずれかに該当する場合をのぞき、これを拒むことができない。

(一、二は省略)三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき

「株主名簿の閲覧又は謄写の請求が、不当な意図・目的によるものであることなど、その権利を濫用するものと認められる場合には、会社は株主の請求を拒絶することができる」(最高裁判決平成2年4月17日 判例時報1380号 136頁  旧商法時代の裁判例です。)

私が先日の日経新聞「法務インサイド」で記事を読んだかぎりでは、東京地裁は原弘産側の仮処分命令申立について、保全の必要性がないことを理由に仮処分を認めなかったものと記憶しております。(13日午後追記:保全の必要性だけでなく、被保全権利についても認めなかった、とのこと。SMさんのコメントより)つまり、①原弘産側は、すでに自社HPにおいて、広く株主に対して自社の主張を広報していること、②日本ハウズイングの「大株主」に関する開示情報などで、ほぼ65%以上の株主は判明していること、③日本ハウズイング側は、株主に対する招集通知の参考書類等で、原弘産側の主張を全部株主に伝える旨、約束していることなどから、名簿の開示を認めらなければ株主の権利が毀損されるほどの緊急の必要性はない、といった理由でありました。これに対して、東京高裁はまず、被保全権利を真正面から認めたうえで、その保全の必要性も認めているようです。私の印象では、およそ以下のような理屈をたどって被保全権利を認めるに至ったように思います。

株主が基本的な権利を行使するうえで、株主名簿閲覧権は重要な権利

     

申請があれば会社は開示するのが原則(拒否は例外)

     

拒否事由は新会社法で初めて明文化された(旧商法時代の会計帳簿閲覧申請の拒否事由をほぼ転記)

     ↓

しかし拒否事由が例示(規定)されていなかった時代でも、そもそも権利が濫用される場合には会社は閲覧を拒否できた(上記の最高裁判例参照)

     

つまり、拒否事由に該当するかどうかは、文言だけでなく、その閲覧目的なども考慮しながら拒否すべきかどうかは判断されるべき

     

拒否事由は権利濫用(不当目的による申請)の例示を列挙

     

1号、2号は確認事由であり、3号(競争関係)は1号、2号の特則規定

     

3号は立証責任を転換した規定とみるべき(つまり、請求者が不当な目的をもって閲覧を申請しているものでないことを証明できた場合には、類型化された「不当目的事例」には該当しないので、会社側は閲覧を拒否できない)

     

本件では、原弘産側が、不当目的で閲覧申請を行っているものではないことを、一応証明している

といった流れのなかで認めたものであり、新たな会社法125条の解釈指針を宣言したものといえそうであります。(会社法125条について限定解釈がなされたもの、といえるのかどうかは、ちょっと悩みますが・・・・・)さて、この東京高裁決定は、今後の実務にきわめて大きな影響を与えそうであります。とりわけ、競争関係にある事業会社の敵対的買収事例や、株主提案権行使事例などにおきまして、委任状争奪戦の武器対等原則が確保されることとなりますので、今後ますます「経営者と株主との対話の重要性」が高まることになりそうであります。正確な裁判解説は、また著名な商法学者や実務家の方々がお出しになると思いますので、速報版程度にご参照いただけましたら幸いです。

6月 13, 2008 商事系 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/41513621

この記事へのトラックバック一覧です: 株主の逆襲(司法編)株主名簿閲覧仮処分事件で東京高裁逆転決定:

コメント

原決定。
保全の必要性もないと言っていますが、保全すべき権利がそもそもない、というのが原決定です。ご参考までに

投稿: SM | 2008年6月13日 (金) 11時21分

ご教示ありがとうございます。そうでしたか。地裁の分は決定全文に触れずに書いていますので、こういった情報をいただくとありがたいです。どういった理屈で被保全権利がないとされたのか、今後は興味が湧いてきました。

投稿: toshi | 2008年6月13日 (金) 14時18分

週刊ダイヤモンド「裁判がオカシイ!」5/24日号を読んだのですが、この内容は真実と誇張があるとは理解しますが、それでも定量データーで裁判官一人当たり年間事件数が1,500件超を示していて、「判決マシーン」となっているやや同情的な現状と、一方では「出世は最大の関心ごと、ヒラメ裁判官」(自分の出世目当ての判決)と書いてあったり、昨年度のブルドック裁判の批判「裁判が日本を壊す?」などがあります。
何が言いたいかといいますと、積み上げ的になっているのか、KY的に理屈を後付しているのか(よく言えば政策的)、将来の影響も考えているのか、素人の私などはちょっと裁判官を見る目が変わってきました。
個人的な関心は、こんな中で裁判員制度がワークするのかなという点でしたが。

本件の判決と「買収防衛のあり方」とTCIの買い増し否決への政府の「開国弁護」などを勘案すると政策的な感がしました。全体的には、そのうちまた、「株主に何が出来る」みたいな意見がゆりもどしながら、前進する、3歩進んで2歩下がるようなガバナンス改革があるんだろうなあと。

投稿: katsu | 2008年6月13日 (金) 23時57分

裁判官の独立性は憲法で保障されていますので、そもそも会社法務に関するいろんな判断が(裁判官ごとに)あっていいと思います。どういった判決を書く裁判官が出世するか、というのは、うーーーん、とくに思い浮かばないです。ただ、かなり思想的に偏向した立場での判決ばかりを書いているような方の場合は、ちょっと出世からは離れていってしまうのかもしれません(こんなこと、真正面から言ったらヤバイかなぁ)

とことで、今日もライブドア損害賠償判決で、株主優位の判断が出ましたね。(いわゆる一般株主ではなく、金融機関が原告になっているほうの裁判ですね)3歩進んで2歩前進のような勢いじゃないかと(笑)

投稿: toshi | 2008年6月14日 (土) 01時57分

決定文を読んで考えたのですが、株主名簿閲覧権としての結論はこうあるべきなのでしょうが、法令の規定振りからこのように解釈できるんでしょうか?7頁の「このように解さないと、…株式会社の機関を監視し株式会社の利益を保護することを目的とする株主名簿閲覧謄写請求制度の趣旨、目的を損なう」とし、競合事業者であることの「そのことだけを理由に…株主名簿閲覧謄写請求権を否定しなければならない合理的な根拠は見いだし難」く、「…目的と手段の均衡を失する不合理なものである」と、これってなんちゅう規定をするんだ、という裁判官の悲鳴が聞こえるようですが?法律お得意の「…のときはこの限りではない」?

投稿: 総務部長見習 | 2008年6月15日 (日) 22時08分

>長見習さん
核心をつくコメントありがとうございます。(笑)
会社法の立案担当者でいらっしゃる葉玉先生のブログでは、おおむね妥当な解釈だと評価されていらっしゃるようですが、私は、この決定の解釈指針についてはもう少し考えさせてください。なんとなく長見習さんのおっしゃっている意味にもとれそうな雰囲気なんで(^^;、125条についてどこまでこの解釈方法が妥当するのか、といったことまで、検討してみたいと思っております。

投稿: toshi | 2008年6月17日 (火) 01時38分

本日、原弘産による日本ハウジング株主を対象とした説明会に参加してまいりました。説明会自体は何の混乱もなく淡々と進行したのですが一点疑問が残りました。入場の際に『クオカード』を500円分いただいたのですが、これは例のモリテックス事件に照らしてどうなのでしょうか?モリテックス事件のときは、確か議決権を行使してくれたら『クオカード』進呈。今回は『クオカード』を入場者全員に配布したあとで委任状を勧誘しています。モリテックス事件を精緻に検討しているわけでもありませんのでなんともいえませんが、少なくとも本日の会議終了後受付に原社社長を代理人とする委任状を提出されている方数人を見かけましたので、まさか『クオカード』をもらったから委任状を渡すというわけではないでしょうが、ちょっとどうかなぁと考えた次第です。

投稿: チロル | 2008年6月21日 (土) 21時27分

>チロルさん

情報どうもありがとうございました。(説明会は盛り上がっていましたでしょうか?)渦中の会社の株主さんですから、昨年のパトライトの株主さん同様、たいへんうらやましいです。(^^;
クオカードの件ですが、モリテックス事件で問題になりましたのは、たしか委任状勧誘規則の関係ではなく、会社法120条の「利益供与」の関係だったかと思います。このたびは原弘産側の説明会ですので、会社法120条の「株式会社による株主権利行使に対する利益供与」には該当しないと思います。日本ハウズイング社側がクオカードを配布した・・・ということでしたら、モロにヤバいかなあと思いますが。そういえばモリテックス事件のときのIDEC側説明会は(ビュッフェ形式とはいえ)一流ホテルでのディナー付でしたよね(笑)
ぜひまた、続編がありましたら情報をお願いいたします。

投稿: toshi | 2008年6月21日 (土) 21時50分

コメントを書く