NHKドラマ「監査法人」への重大なる疑問(その2)
ちょっと仕事がたてこんでおりまして、日曜出勤で執務中ではありますが、ドラマ「監査法人」の第二話「800億円の裏帳簿」を視聴しての印象をすこしばかり。昨夜は午後9時半スタートの予定でしたが、プロ野球中継が延びたので、実際には午後10時40分スタート。とりわけ昨日の「ごくせん」はストーリー的にも異常に面白いものでしたので、NHKはあえて(雨天中止のない)東京ドームの巨人vsソフトバンク戦をもってきて、放送時間延長を見越しての競合回避に出たのではないか?との疑惑はいちおう置いときます。(^^;
ドラマの展開としてはとても面白くなってきました。連結対象外の取引先企業を使った「飛ばし」事案は、弁護士にも比較的なじみがありますし、「厳格監査派」と「ユルユル派」との対立の構造もわかりやすくなってきて、来週以降の展開が楽しみになってきました。しかしながら、(もういいよ!って言われそうですが)どうしてもツッコミたくなる衝動にかられてしまいました。会計士さん方の専門分野に属するような細かい監査上のツッコミなどは、会計専門職の方々のブログにおまかせして、あくまでも私のような監査素人的な発想に基づくツッコミだけを以下に掲げております。とりあえず2002年ころの監査実務を前提としたドラマですが、現時点でもツッコミをいれることができそうなところだけ、ということで。もちろん、個人的な感想にすぎません。
1 いきなりBAR(バー)で打ち合わせってどうよ!?
監査の対象となっている企業の経理社員(しかも若い女性)から「若杉先生(主人公)、ちょっと相談したいことが・・・・」と言われ、次のシーンでは、若杉会計士が「やんちゃ」だったころに勤めていたBARで相談に応じているシーン・・・( ° ▽ ° ;) エッ?
これはマズイんじゃないでしょうか?会計士が被監査対象企業の職員と調査面談を行うのに、しかも若い女性職員とBARは絶対にありえないでしょ。これ、後日に万一なにか会社側と問題が発生したときに、「若杉会計士は経理部の女性と密会していた」と事実認定され、おそらく何もなくても「女性と親密な関係を結び、社内文書を受領した」なる判断をくつがえすことは困難だ思います。若杉先生はあまりにも「脇が甘い」ですよ。さらに驚くべきことは、上司の会計士だけならまだしも、バーのマスターやお客さんが覗き込んでいるなかで、経理職員から社内文書の提供を受けている場面など、おそらく絶対にありえないんじゃないかと。(しかも、このBARは若杉会計士が所属するジャパン監査法人の理事長も「行きつけ」のお店ですし・・・)ふだん、お仕事でお付き合いのある会計士の方々を拝見していて、私は弁護士よりも会計士さんのほうがクライアントに対する守秘義務の意識は格段に上ではないかと思っています。(こんなこと言うと同業者の方に怒られそうですが・・・単なる私の個人的な感想です・・・)したがいまして、上記シーンは視聴しながらヒヤヒャしておりました。
2 「意見不表明」は何のためにあるのか?
茜さん(松下奈緒さん扮する主人公の先輩会計士)が取引先企業の倉庫に無断侵入して商品の確認をしたり、経理社員が無断でコピーした社内文書を若杉会計士が受領して、裏帳簿による不正経理の証憑を入手するわけですが、ここも法律家の視点からすると、けっこうマズイのではないか、といった感想が漏れます。おそらくドラマでは会計士の「期待ギャップ」への配慮として、会計監査本来の使命である「情報監査」だけでなく、不正の発見を含む「実態監査」に焦点を当てていることから、どうしても「不正を暴く会計士」のイメージを優先させてしまうことはやむをえないと思います。しかしながら、今年3月には、ライブドア監査人であった会計士の方が、「社内書類の盗み見」行為について自身の著書で不適切な表現行為があり、会計士の品位を著しく損わしめた、として日本公認会計士協会から懲戒処分を受けておられますし、このあたりはとても微妙な問題を含んでいるところと認識しております。不正発見のために積極的に証拠探しに奔走する会計士の姿は、一面においてとてもカッコよくみえるのですが、反面、不当に企業の利益を侵害するものとしての違法行為の匂いが漂ってきますので、(たとえドラマであったとしても)その調和点をどこに求めるのか、というところも会計士さんの仕事について誤解を招かないためにも投影していただきたいと思います。私の感想としましては、こういったときにこそ「意見を表明しない」といった正当な対抗手段があるわけですから、そのあたりをドラマ進行の選択肢としても、紹介していただきたかったなあと思いました。
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コメント
このドラマ、第1回からDVDに録画しています。
第1回今見終わりましたが、とても面白かったです。ですが、2回目は野球延長のせいで、録画されず見れませんでした。
次回の「つっ込み」楽しみにしています。
投稿: レバレッジ君 | 2008年6月23日 (月) 00時26分
ヤフーニュースからとんできました。
社会派ドラマということで、私も楽しみに見ていますが、あおなみ興産の本社で若杉君を尾行していた輩だとか、調査をやめるような警告文が若杉君に届くなど、すこしミステリー化してきちゃったみたいですね(笑)私も監査に興味があるので、ぜひ現実感のあるドラマを期待したいものです。
これからも「つっこみ」に期待しています。
投稿: ひろしげ | 2008年6月23日 (月) 02時14分
不正の証拠を発見するのはかなりの難題で、会社が素直に資料を出すわけもなく、さりとて松下奈緒さんやグリンピースみたいなことをするわけにはいきません。
国の機関でも、こんなことしてますね。「Aらは、さらに非常手段をる。幹部が席を外しているあいだに机の引き出しを開けた。・・・・メモを見つけ出すのに、そんな時間はかからなかった。メモはその場でコピーし、引出しに戻した。」(『東京国税局査察部』岩波新書)Aというのが、調査官、幹部は銀行員。会計士も、この程度は許されますかね?
投稿: 迷える会計士 | 2008年6月23日 (月) 22時18分
国税局のは強制捜査ですよね(通常の監査もありましょうが)。
公認会計士の監査は、民間が民間に雇われて行う民間の行為です。
しかも会計士を雇うのはその事業法人ですから。
(だから公認会計士は公務員にすべき、という論は飛躍しすぎだと
思ってます。
そう仰せのかたに質したいのですが、
だいたいイマドキ国や地方自治体を信用してますか?まだ?
民間のほうが公務員よりも下だと民間人自身が思うようになったら
世の中終わりですぜ(笑))
このドラマ、やっぱりもっと民放の2時間ドラマみたく
分かるような出鱈目しまくりのほうがよかったですね。
内閣直属の全権を持った会計士が出てきたり、何でも判明する特殊兵器
が登場したり(笑)。
『ハゲタカ』のような本格経済ドラマを目指すには
NHK名古屋での制作ではスケールとしても無理があったようです。
投稿: 機野 | 2008年6月24日 (火) 00時53分
皆様、コメントありがとうございました。
NHKさんのおかげで、このエントリーがアクセス数新記録を樹立いたしました。(9300アクセス)
普通の監査手続きのなかで監査人が捜査のような手法を用いることは許容されないと思いますが、この話は結局「巨悪に立ち向かう会計士」を表現しているのかもしれませんね。いわば「大きな悪を暴くための小さな悪は違法性が阻却される」とか。(アメリカでは希釈法理といって、捜査の違法性が阻却されるケースがあります)でも、あのシーンはやっぱり通常の監査手続きのなかでの実査ですから、やっぱりアカンと思います。
なお、コメントではなく、メールでもいろいろとご意見をいただきましたので、また第三話のときにでも、ご紹介したいと思います。
投稿: toshi | 2008年6月24日 (火) 20時24分
国税局の件は金丸脱税事件の調査で、銀行が調査の対象となっているわけではなく任意で協力している中、あのような行為はやはりマズイのではないでしょうか?
調査官は、真の調査対象が金丸氏であることを秘しながら、ドンピシャ脱税の証拠を入手するという職人芸を発揮し、さすがマルサといったところです。会計士など、遠く及ぶところではありません。(笑)
投稿: 迷える会計士 | 2008年6月24日 (火) 21時28分
山口先生に面白がっていただいているようなので,今週も一言。まぁ,会計士と経理の担当社員がバーで飲むなんていうシチュエーションは,まずありえません。私は男で,すっかり幹部社員ですが,これまで,そうした経験はないですね。お互いに,そういうことがないように,気をつけてきたつもりです。担当者が,会計士と直接話をすることすら,避けてこさせました。まして,男女では……。
証拠をコピーして渡すなんてことも,ありえないですね。すでに,どのコピー機が稼動しているか,その時間,誰が事務所にいるか,なんてことは普通にわかるので,この設定もまた,ひじょうにリスクフルです。
私が気にしていたのは,彼女の行為が,公益通報者保護法により,不利益をもたらさないように配慮されるかどうかという点でした。このドラマの設定では,まだ公益通報者保護法は成立していないはずですが,法の趣旨に鑑み,彼女が罰則を受けないようにおとりはからいたいものです。
とはいえ,実際の鍵の管理はあんなものです。
今週以降の展開が楽しみですが,私の友人の会計士志望の学生(元サラリーマン)がどんな感想を抱いているか,一度,聞いてみたいものです。
投稿: TENPOINT | 2008年6月25日 (水) 00時05分
コメントありがとうございます。会計士の方より現実的なご意見がうかがえまして、正直ほっとしております(笑)いえ、本当にドラマをみていて、細かいことを言い出したらきりがないのですが、エントリーであげました2点だけは、どうしても違和感に押しつぶされそうになりましたので、書かざるをえなかったのです。実際、私はホテルのロビーで打ち合わせをして問題となった弁護士を知っておりますので、これは本当のリスクだと認識しています。弁護士と依頼者における信頼関係破壊の可能性と、会計士と被監査企業とのそれとでは大きな違いがあるだけだと思います。
一話、二話を通して、経営者自身が不正会計に関与している事案を扱っておりますが、どうも(タイミング的に)内部統制報告制度を後押しする意図も感じられるような気もいたします。
二話については、今後も続編となりますので、公益通報者保護の件、どうなるか展開が楽しみですね。
投稿: toshi | 2008年6月25日 (水) 23時16分
>どうも(タイミング的に)内部統制報告制度を後押しする意図
八田さんの陰謀でしょうだとか(バク)。
まあそういうことは全然ないでしょうな。
日経の記者でさえ理解不能な制度ですから
ドラマのネタにできるはずがない(笑)。
そもそも論でいえば、NHKに今こんな講釈を垂れる資格は
ないわけです。
NHKを上場会社に見立てると、その連結対象の「優良関連会社」の
財務内容だとか役員報酬だとかチェックしたいものが
山のようにあります。
ここでもまた「隗より始めよ」と(笑)。
あくまでも冗談ですが、一応。
投稿: 機野 | 2008年6月26日 (木) 00時20分