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2008年7月27日 (日)

企業サイドからみた「消費者庁リスク」(その2)

当ブログでは、2006年5月にエントリーしました「行政専門弁護士待望論」以来、行政とケンカしたり折衝のできる「政策法務」に強い弁護士の必要性を何回か訴えてまいりました。また、そういった機運が高まる大きなきっかけとなるのではないかと考えているのが臨時国会へ提出が予定されている「消費者庁設置法案(仮称)」であります。(企業サイドからみた「消費者庁リスク」 )

200809no6 さて、まだまだ中身がよくわからない「消費者庁構想」でありますが、このたび(企業を動かすリーガル・プロフェッションのための専門誌)「ビジネスロー・ジャーナル」9月号におきまして、この消費者保護行政と企業側の法的対応について大きな特集が組まれております。とりわけ消費者行政推進会議の委員であり、消費者庁構想案の土台部分を作ってこられた松本恒雄教授(一橋大学)のインタビュー記事は、これまで新聞などでも報じられていなかったような内容も多く含まれておりまして、今後の「消費者保護行政」の方向性についても少しばかり予測できるところであります。

消費者問題について、消費者側の視点から、その救済に重点を置いた法律雑誌向けの特集は何度も拝見してきましたが、こういった企業サイドから消費者行政や消費者団体訴訟にどう対応するか・・・・・、といった特集というのは(たしか食品行政問題に限っては「ビジネス法務」さんで勉強した記憶がありますが)あまりなかったのではないでしょうか。(なお誤解のないように申し上げますが、企業サイドからの対応といいましても、けっして不祥事を起こした企業がミスを隠ぺいしたり、報告を怠ることを助長するようなものではありません)この特集記事をすべて読ませていただいての感想は、やはり「行政専門弁護士」は待望されるところであり、かつ、大規模な法律事務所によって企業リスクに対応すべき問題である、ということであります。その理由としては①消費者庁に移管が予定されている法律は(共管を含め)30を超えるものであり、消費者問題リスクに関する企業支援への専門性は多岐にわたっていること、②松本教授のインタビューによると、消費者庁職員としては、「任期付公務員」としての弁護士採用の可能性が高いとされており、まさに「政策法務」に強い弁護士が育成される土壌が作られること、そして③移管対象とされる法律には競争法、PL法が含まれており、企業における国際的な対応が不可欠になる場面が想定されること等からであります。また弁護士だけでなく、BtoCの企業のみならずBtoBの企業においても、消費者コンプライアンスに関する組織的対応の必要性が出てくることについては、ほぼ間違いないものと思われます。

そして、もうひとつの感想としましては、企業としての消費者問題リスクへの対応として、いくつかの整理が必要ではないか、ということであります。たとえば、上記ビジネスロー・ジャーナルにも記載されているように、移管される法律の性質から「表示」「取引」「安全」に分類して、それぞれのリスクを検討したり、「独り立ちできる消費者」と「できない消費者」に分けて、それぞれの企業の対応を検討したり、違法か適法が不明瞭な「グレーゾーン」(たとえ違法でないとしても、従わないことによって企業のレピュテーションリスクが発生するような場合)に関する経営判断、といった問題が考えられます。とくに、最後の問題は企業行動指針に従うことと、信用毀損リスクを回避することとは相反する場面が生じる可能性がありますので、経営判断としてはきわめて難しいところであり、法律家としてもどのように回答すべきか悩ましいときがあります。いずれにしましても、「まじめに経営に取り組んでいる企業が損をしない。消費者と真正面から向き合っている企業が競争に勝てる」消費者庁構想であってほしい、と願っております。

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コメント

消費者庁構想は勉強不足の法律も少なくないですが、私も注視しています。

期待することとしましては、縦割り行政で重複等が生じている法律を横串刺してスパッと整理してくれること等でしょうか。

他方、懸念としましては、Toshi先生も同じと拝察いたしますが、消費者保護のスタンスが過剰となり、「悪徳業者」を基準とした事前規制が経済をより停滞、沈下させ、ひいては消費者不保護にもならないか、ということ等です。

「事前規制」は標準的な業者を基準に、事後規制(罰則等)は悪徳業者を基準に、また、良い業者にはインセンティブを、というのが私見ですが、「悪徳業者」が目立ってしまいますと、どうしても「事前規制」が厳しくなりがちで、結果として、それ以外の「全うな業者」が「損をする」印象があります。

「悪事」を早期に発見・差し止め、また、徹底的に不当利得を吐き出させる法律・行政の仕組みをきちんと確立する方が、行政も、まじめな業者や企業系弁護士からの法令解釈の問い合わせに煩わされることもなく、よっぽどいいのではないかなあ、と金商法騒動から思っているのですが(半ば笑)

投稿: 行方 | 2008年7月28日 (月) 23時49分

行方先生、コメントありがとうございました。

まっとうな業者が「コンプライアンス重視社会」においては、おそらく萎縮的な効果ばかりが目立ってしまうのではないか?というのが懸案だと思っています。ルールベースでの事前規制主流であえば、そういった懸案もないかもしれませんが、事後規制型でプリンシプルベースということになりますと、誰かが規制違反のリスクを企業に適切に指導する必要が急務だと思います。そういった領域にこそ、行政法に詳しい法律専門家の今後の活躍の場があるのでは・・・といったことを考えています。

投稿: toshi | 2008年7月29日 (火) 02時09分

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