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2008年7月28日 (月)

「平和奥田」事件における反社会的勢力との「共生者」は誰か?

この週末、新聞を賑わせていたのは、すでにいろいろなブログでも話題になっております平和奥田株式会社(大証二部)の元社長逮捕およびその逮捕容疑とされている特別背任事件(山林売買)をめぐる資金の流れでありました。すでに二年ほど前から、元相談役による国会議員脅迫事件により、反社会的勢力との関連が問題視されていた企業でありますが、このたびの元社長の逮捕劇によって、その背後で問題となっている約10億円の不動産売買における不透明な資金の流れがどこまで解明されるのか、注目されるところであります。

今回の平和奥田社の件では、上場廃止決定の要因となった粉飾決算問題や、当時の中央青山監査法人の監査の妥当性や、社長にブレーキをかけることができなかった社内における内部統制問題など、いろんな議論ができそうな気がしますが、一般事業会社の社外役員たる立場からの関心としましては、この事件を全体的に眺めてみて、いったいどこまでが「反社会的勢力」と言われる範囲に含まれるのだろうか?といったことであります。

ご承知のとおり、平成19年の警察白書において、はじめて「反社会的勢力」の「共生者」なる文言が使用されるようになり、また先日のエントリー(ドラマ「監査法人」第五話と反社会的勢力と共生する人たち)においてご紹介しましたように、NHK取材班が、その「共生者」の存在をクローズアップしておりました。この「共生者」なる概念が、最近の反社会的勢力の行動を示すだけであればそれほど問題視する必要はないかもしれませんが、この「共生者」も「反社会的勢力」と同視する、といった社会的、法律的取扱いが現実的なものになりつつあるとすれば、「どこまでが共生者に入るのか」を議論することはかなり重要な問題になってくるはずです。なぜなら、一般に「共生者」と認識されるものであるならが、昨今のコンプライアンス取引の時代、「暴排条項」を適用されて、無催告解除によって取引を停止されてしまうおそれもありますし、また、個人情報保護法によって保護されるべき対象から逸脱され、公益的理由によって情報取扱につき差別されることにも合理性が出てくる可能性が生じるからであります。(ひょっとすると、「共生者」なる概念が一般化されてくると、銀行や証券口座を強制解約されてしまうことにもなりかねません)

先のNHKの新刊書においては、この「共生者」なる概念を比較的限定的にとらえて、自身のビジネスに反社会勢力保有の資金を活用する人たちのことを指していたようでありますが、もっと広くとらえて、反社会勢力との関係によって自己の利益を獲得している人たち、と解する立場もあるかもしれません。そうなりますと、たとえば今回の平和奥田の元社長さんが逮捕後に供述している内容(すべて会社のためにやった)が正しいということになりますと、不動産開発ブローカーや元社長さんだけでなく、当の企業までもが「共生者」と評価されることになりかねません。現に、今回の山林売買に関する報道内容からすると、不動産開発ブローカーへ平和奥田社から流出した2億円のうち、4000万円が還流しており、この還流によって平和奥田社が貸倒引当金の積み増しをする必要性がなくなった、ということでありますから、実際に反社会勢力との関係をもとに当会社が利益を得ていた、と評価することもできそうな気もします。(もちろん、このあたりは、今後の捜査の結果をみないと確実な事実とは言えませんが。)ただ、平和奥田社において真面目に働いている社員の人たちにとってみれば、当会社自身までも「共生者」と評価されることには違和感があるでしょうし、そういった言葉で悪いイメージをもたれることについては精神的苦痛を受けることになるかもしれませんので、今後は慎重に議論する必要はあると思っております。

会社の「統制環境」が脆弱なために、過失によって反社会的勢力との関係を有するに至った場合まで、「共生者」と認定(評価)されることは、かなり異論も出てくるところかもしれませんが、反社会的勢力の属性に関する認定がますます困難になる状況や、企業のコンプライアンス経営志向の高まりなどを考えますと、金融機関を中心として、「共生者」の選別が進み、一般事業会社にとって大きなリスクになる可能性が否めないところです。いまのところ、一般事業会社において「反社会的勢力を排除する社内の仕組み」作りがいまひとつ進捗していない、とのことですが、こういった「共生者」と評価されないための仕組み作りについて、広く検討しておく必要があるのではないでしょうか。

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コメント

(もちろん)私見ですが、「共生者」は、「組織犯罪対策要綱」(http://www.npa.go.jp/pdc/notification/sosikihanzai/kikaku/kikakubunseki20041025.pdf)
での「特殊知能暴力集団等」(前各号に掲げる者以外の、暴力団との関係を背景に、その威力を用い、又は暴力団と資金的なつながりを有し、構造的な不正の中核となっている集団又は個人)と概念的に被ってきているのでは、と思います。
詳しくは存じ上げないのですが、本件はどうでしょうか…(少なくとも会社はやはり違いますでしょうか)。
もっとも同社の取引相手としましては、「反社会的勢力」だから謝絶・解消、そうでなければ取引を行う・継続、という単純な割り切りではなく、暴排条項を使用せずとも、レピュテーショナル・リスクも鑑みて今後の対応を検討されるのだとは思いますが。

投稿: 行方 | 2008年7月29日 (火) 00時31分

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