NHKドラマ「監査法人」最終回~あなたは会計士を信じますか?
「あなたは公認会計士を信じますか?」・・・・・NHKドラマ「監査法人」の最終回(会社、救えますか?)をじっくりと拝見しまして、公認会計士制度50周年のときの日本公認会計士協会が公表した上記キャッチフレーズを想い出された方もいらっしゃったかもしれません。ちょうどいまから10年前ですね。まさに昨日最高裁判決が下りました長銀や日債銀の粉飾決算が世間で騒がれ、その批判が監査法人や公認会計士に注がれていた頃のポスターに大きく書かれていたフレーズであります。監査法人の独立性と公認会計士の倫理感が世間で問題になり始めたころです。本日のドラマのはじめに改正公認会計士法1条が謳われましたが、そこにある「不断の自己研鑽による高度な専門的知識、スキルの修得、高い倫理観と独立性によって、その社会的使命、責任を果たす」ことが、きょうのドラマのすべてであったと思います。企業のゴーイング・コンサーンの一端を公認会計士が担うことは、本日のドラマのとおり非常に厳しいものでありますが、じつはそこに「真実を究明すること」を超えた会計士さんたちの社会的使命があるということで、私も隣接業種のひとりとして、会計士さんのその社会的使命を果たすことに、尊敬の念を抱くところであります。
長銀事件、日債銀事件からりそな国有化、そして足利銀行問題まで、ここ10年ほどの監査法人や公認会計士制度の流れを丹念に追って、これからの「あるべき」会計士制度を考察する「ザ・監査法人」(岸見勇美著 光人社 1700円)は2006年に出版された本ですが、この本を拝読いたしますとこのたびのNHKドラマの締めくくり方がよく理解できるところであります。「人を幸せにするための監査」とは、単に経営陣に迎合するような監査方針を立てることや、単純に不振部門を切り捨てて人員削減に走るものではなく、あの(ドラマのなかの)尾張部品株式会社のように、「コーポレート・ガバナンスの力」によって企業再建の可能性を見出す機会になる、ということを意味しているのでしょうね。独立性と倫理感を兼ね備えた監査法人(公認会計士)の監査によって、ディスクロージャー制度によるガバナンス改革の可能性についても、この本では(関係者の話などをもとに)記述されております。
先日来、ディスクロージャー制度を支えている三要素(開示、会計、監査)に加えて、最近はコーポレート・ガバナンスが第四の要素になりつつある、と書いておりますが、投資家に向けて誠実な監査を貫くのであれば、ドラマの中にありましたように、経営者交代という形での経営再建の機会も増えてくるのかもしれません。まさに今後の公認会計士制度の「あるべき姿」を映し出していたように思えて、(私としましては)たいへん好感のもてるドラマの終焉ではなかったかと思います。まちがいなくこのドラマの影響で「公認会計士になろう!」と決意をされた商学部系の学生さんは増えたんじゃないでしょうか(たぶん・・・)。なお、ディスクロージャー制度との関係で、今後は監査法人自身のガバナンスが適正化される必要性も、先の「ザ・監査法人」の著者は力説されておりました。
ただ、ドラマの最後にエスペランサ監査法人の小野寺理事長が、若杉(主人公)に対して「いつでも戻って来い。いまでもお前の部屋はそのままにしてあるから・・」とカッコよく言葉を投げかけるシーンにはビックリしました。いくら元上司、部下の関係であっても、いまは監査法人と被監査企業の顧問会計士の関係ですから、とんでもない「なれあい」ですよね。(このドラマを通じてずっとヒヤヒヤしていたのは、こういった利益相反問題がまったく度外視されていたところでした。これでは会計士の独立性なんて偉そうには言えないですよね。しかし橋爪功さんはやっぱりスゴイなぁ。それと、来週からのドラマ「帽子」・・・・・、緒方拳さんと田中裕子さんの共演ということで、予告編みただけでハマリました。ハンカチとティッシュを横に置きながら、コレ、絶対にみます 笑)
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コメント
一般に極めてよく間違えられるのですが(その都度間違いを正すのも
もう飽き飽きしているのですが)、
緒「方」拳ではなく緒「形」拳ですのでよろしくお願いします(笑)。
一個のTVドラマとして見た場合、会計士たちのプライベートが
描かれていない(主人公についてもおざなりな描写だった)など、
決して誉められた出来ではありませんでした。
ただ私はこのドラマを弁護しますが。
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>まちがいなくこのドラマの影響で「公認会計士になろう!」と
>決意をされた商学部系の学生さんは増えたんじゃないでしょうか
その計算でいけば、このドラマの視聴率の4倍ぐらいの数字を稼ぎ出
している『篤姫』を見て「私も将軍さまの御台所になろう!」と決意した
女子学生が増えているのかもしれませんよ(笑)。
結局、『ハゲタカ』になり損ねましたねえ…。
投稿: 機野 | 2008年7月20日 (日) 19時19分
粉飾決算を知りながら監査証明を出しても会計士は責任を取らず、金融庁もそれを知りながら処分しない。関与した会計士もそれを知っていた会計士も内部告発などしようともしないで、追い落とした元理事長と同罪でありながら、元の仲間で集まって素知らぬ顔で監査業務を続けていく。会計士の業務とはこんなものではないはずです。これが常識なら会計士とは恐ろしい職業ですね。ある意味、サムライ業も公務員と同じで仲間意識が強すぎて一般常識に欠けるているということがよく描写された素晴らしいドラマだったかもしれません。このドラマを見てこれではいかんと思わない会計士がいないことを切に希望するのですが、こんなドラマが監修付で放映されるところに日本の村社会ぶりを感じざるを得ません。
投稿: yamaguma | 2008年7月21日 (月) 20時21分
どうして日本人は
(逆に日本人はむしろそうではないという説もありますが)
白黒つけたがるんでしょうかねえ。
引き分けとか嫌いですし。
何が善で何が悪なのか、何が正しくて何が間違っているか、
そんなことはたとえ神様であっても判断は不可能なのだ…
と、描くべきなのがフィクション(創作)なのです。
はっきりさせられないものはハッキリさせられないのです。
領土問題がその良き例だと言えますまいか。
「正論」をぶつけ合ってもそれだけでは一切何も解決しません。
だからこそ、人間は知恵を使わなくてはならない。
コンピュータには評決は出来ない。
ドラマの出来はさておき、
そのことを描こうとしたことについては私はこのドラマを支持します。
投稿: 機野 | 2008年7月22日 (火) 00時00分