法人に対する金銭的制裁と取締役の法的責任論
また岩手県の沿岸部で大きな地震が発生したそうで、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。(当ブログもわずか0.5%ではありますが、岩手県の方に閲覧いただいております。)
★★★★★★★★★★★★(以下、本題)
7月9日、金融庁はIHI社に対して「虚偽の有価証券報告書を提出した」等により、これまでの最高額である約16億円の課徴金納付命令を行ったことは記憶にあたらしいところであります。(金融庁HPはこちら)金融商品取引法上の課徴金制度も、不当利得の一環ではなく、不当な手段で収益をあげた法人に対する金銭的制裁の意味合いが濃くなりつつあるところ、こういった違法行為によって取締役自身ではなく法人自身に課徴金や罰金が課される場合に、納付すべき金額を会社の損害とみて、当該違法行為に関与した取締役の会社に対する責任は発生するのでしょうか?もし発生するとなりますと、これまで一度も争われたことがなかった金融庁による課徴金納付命令について、その実務は変わっていくのでしょうか?
最新の金融法務事情(№1841 7月25日号)では、森本滋京大教授による「会社法の下における取締役の責任」なる大論文が掲載されておりまして(まさに「大論文」。おそらくたくさんの商法学者の方々や実務家の方々がお読みになっておられると思います)、そのなかで「取締役の責任を巡る特殊問題」のひとつとして「罰金・課徴金と取締役の責任」について論じていらっしゃいます。森本教授がどのように述べておられる、という引用はいたしませんが、たとえ取締役の過失行為によって法人に課徴金処分が下された場合であっても、相当因果関係のある損害として、取締役の法的な責任問題(つまり善管注意義務違反)に発展する可能性あることがうかがわれます。いままで課徴金制度と取締役の法的責任との関係については、あまり考えたこともなかったものですから、このあたりはたいへん刺激を受けました。(なお、会社に対する金銭的制裁処分は、取締役の法的責任と相容れない、とする学説も有力に主張されているようです。課徴金の性格が「不当利得の返還」と解するのであれば、会社から取締役に課徴金と同等の金額の損害賠償を求めるのであれば、結局不当な収益を会社に認めてしまうことになる、ということなんでしょうね。ただ、最近の傾向として課徴金制度は不当な収益の剥奪、という意味だけでなく、いわゆる「制裁」としての意味を含むものと考えられているところですので、別の考え方も成り立つように思います。勉強不足で、このあたりはきちんと理解しておりませんでした。)
最近の会社法上の内部統制構築義務に関する議論や、個々の取締役ごとにその責任範囲を限定する議論などとの関係から考察すれば、(かりに法人に賦課された課徴金について、取締役に責任追及がなされた場合には)インサイダー取引規制や談合規制といった法令遵守体制を構築するにあたり、その取締役の体制整備に関する関与の度合によって、信頼の抗弁や相当因果関係論をもとにその責任負担の是非が判断され、かつ個々に損害額が算定される、ということになるのかもしれません。いずれにしましても、事後規制的発想によって取締役の行為規範を検討する必要性と、過度に取締役に萎縮的効果を与えないこと(自由保障機能)とのバランスをどう考えるべきか、この森本論文にて勉強したいと思います。本日は、まだ上記論文をきっちりと読み込めていないため、とりいそぎ備忘録程度で失礼いたします。
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