金融庁ダブルスタンダードの憂鬱(やっぱりこの課長さんはスゴイなぁ・・(^^; )
NHKドラマ「監査法人」で描かれている財政監督庁は、日本の将来の金融行政を見つめながら、社会正義の実現のために邁進する公務員の姿が印象的です。2008年、現実の金融庁はベターレギュレーションとして、民間企業が法令に基づき、みずから妥当を思われる仕事をすることを推進し、内部統制報告制度Q&Aなど「対話の精神」をもって民間企業と向き合う姿勢を強めているようです。ただ、このベターレギュレーションに対して、どれだけ民間企業は対応しきれているのでしょうか。金融庁は先日の野村證券インサイダー取引事件について、法人には明らかな法令違反は認められないものの、再発を防止すべき内部管理体制を確立するよう業務改善命令を出したようであります(ニュースはこちらです)。最初の事件報道の際、「法人の活力を維持しつつ、これ以上のインサイダー防止策はあるのだろうか」と疑問を抱きましたが、こういった業務改善命令が出された現時点においても、企業の活力とコンプライアンスの調和点をどこに求めるべきなのか、正直未だ十分理解できていないところです。
さて、以前のエントリーにて、金融庁総務企画局企画課長でいらっしゃる大森泰人氏の新刊書をご紹介いたしましたが、旬刊金融法務事情の最新号(1839号)のコラム(オピニオン)におきまして、大森課長さんが、またまた民間企業(おもに金融機関)の方々を勇気づけるような小稿を執筆されておられます。期待どおり、実におもしろい。タイトルも「金融検査-ダブルスタンダードの憂鬱」(いいなぁ・・・・・、文章全体の趣旨を壊さない範囲で、少しだけ引用させていただくと)
(冒頭)金融庁の幹部が、業界との意見交換の場で、みなさんの自主性を活かしたベターレギュレーションとか、対話の促進とかいったところで、聞いているほうは醒めている。「あんたはともかく、ウチに来る検査官はそうじゃない」と思っているからだ。
(中略)・・・・・
私も歳をとり、役所では個室を与えられているが、現場感覚から乖離しないよう、しばしば喫煙所に行って職員の会話に耳を傾ける。若手検査官からは、「机叩いてでかい声出したら、ハケ(破たん懸念先)に落ちたぜ」なんて聞こえてくると、「やれやれ、猿にマシンガン持たせて野に放ってるようなもんだな」とぼやきたくもなる。
要は金融行政は時代の変化に対応して過不足ない仕事をすることが必要だが、この過不足なく、というのは並大抵ではない知識とセンスが必要ということをおっしゃており、ダブルスタンダードと受け取られる世界が形成されているのは、金融庁側の構造的な問題もある。しかし、民間企業も金融庁と真正面から対峙する姿勢がなければ、金融検査のレベルもセンスも高まらない、というものであります。
しかし、この「真正面から対峙する」という表現も、まさか「真っ向からケンカをふっかける」という意味ではないのでしょうね。一方的に金融庁の指針を期待するのではなく、法令遵守の意味を自社なりに検討する姿勢をみせる・・・といったところでしょうか。しかし金融商品取引法51条のように、明確な法令違反行為がない場合でも、公益や投資家保護のためであれば、その内部管理体制に着目して金融商品取引業者に対して業務改善命令を出せるとなりますと、企業側で検討すべき法令遵守の意味も広く解釈せざるをえないようにも思います。つまり金融庁と対話をするのも、並大抵の知識とセンスでは渡り合えないような気もします。こういった金融庁との「対話ができる人」こそ、昨今その構想が話題にあがっている「金融サービス士」の資格者だったりするのかもしれません。
(4日午後 追記)
最近すっかりファイナンスレギュラトリー(業法規制)の分野でご活躍の行方先生よりコメントをいただきました。コメントと合わせて、行方先生のブログでも関連の話題が更新されているようですので、ご一読されることをお勧めいたします。7月2日の時点で、この話題が出ていたのですね・・・・・存じ上げませんでした。
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コメント
本当にご無沙汰しております。
↓自身のブログ・コメントと同じで恐縮ですが…
個人的には賛同と異論もあるところです。私は辞めてから、もう2年も経ちましたので、昔の雑感をもとに、ということで申し上げますと、
検査官もいろいろな方いましたけど、「素」で付き合えばいい人多かったですが、仕事となりますと確かに「マシンガン」的な人もいました。
ただ、「国家権力」という強大な武器を正しく使えるかどうか、ということは、個々人のレベルアップのみならず、間違って使わせている原因が当人以外にも大きいのではないか、と思います。
検査官も基本的に組織人ですから、「上」を見る傾向はどうしてもあると思います。では、「上」とは誰のことか、といいますと、究極の上の方はそうそうお会いする機会はありませんので、検査班内でのトップ、主任やサブなどであったりするわけです。
そうしますと、(あくまで仮にですが)真ん中の「上」の方がベターレギュレーションの趣旨を良く理解しておらず、「指摘が多ければ多いほど、評定を低くすれば低くするほど良い検査」みたいな、とんでもマインドを持っていますと…当然「マシンガン」は打たせ放題で、逆に打たないと「ダメ検査官」の烙印を押されかねず、「猿」はある意味まじめな方なのかも知れないのです。
では、「上」のマインドを変えるのは、やはりその「上」なわけでして、普段庁内にはいない(検査現場ですので)方たちにどう浸透させていくのか、大森課長が書いておられるように、「組織管理」、いいかえれば当局のガバナンスの課題なのかも知れません。
ちなみに、「検査官と議論できるようになった」との声も前より聞きますし、今般の検査マニュアル改訂案など、地道な努力は「上」もその「上」もされているのだとは推察しています。
それでも「猿」には、やっぱりこの記事ですかねェ(笑)
投稿: 行方 | 2008年7月 4日 (金) 12時53分
こちらこそご無沙汰しております。できるだけ他の方の話題とは重複しないようにと気をつかっているのですが、まさかコメント欄で盛り上がっていたとは存じ上げませんでした。でもやっぱり行方先生にとってもM7クラスの激震コラムだったんですね(笑)
投稿: toshi | 2008年7月 4日 (金) 14時18分
日本内部統制研究学会の第1回年次大会へのご出張お疲れ様でした。
非会員でも当日参加できると聞き行ってまいりましたが、爆弾発言に地震まであったりと盛り沢山でしたね。
先生のブログを拝見している者にとっては「アリバイ」や「不正」も特に違和感がなかったのですが、東京で学者先生相手に「何言うてまんねん」はややKYだったのかもしれません。その後の懇親会ではいかがだったのでしょうか。野村調整官でなく大森課長であれば最高でした。
ところでマシンガンの被害を最小限にするにはどうしたらよいのでしょうか。金融検査でJSOXがどのように取り上げられるのか読めないだけにいつかテーマにしていただけると助かります。
投稿: JSOX専担の内部監査人 | 2008年7月 5日 (土) 21時00分
内部監査人さん、コメントありがとうございます。地震はびっくりしましたね。
いやぁ、会計学会の大御所の先生にツッコミいれられました(^^;
でも、ブログでお話するだけではなく、あのような日本の内部統制の最高府で持論をぶつけて、審議会委員の先生から厳しいご意見を頂戴するのも貴重な経験です。ほんと、基調講演をさせていただいてよかったと思っています。学会ということを忘れて、いつもの講演風に「なにゆうてまんねん」はさすがにKYでしたが・・・笑
なお、学会の様子や今後の内部統制報告制度の方向性など、またお話できる範囲で明日にでもエントリさせていただきます。
投稿: toshi | 2008年7月 6日 (日) 02時03分
toshi先生
土曜日はおつかれさまです。
懇親会まで出たかったのですが、ファイナンスの仕事で動いておりましてどうにもなりませんでした、すみません。
個人的にはとても面白い話でしたし、「実務に携わっている立場からすれば」当たり前の話だったと思うんですけどね。
いろいろと思うところはございましたが、それは自分のブログのほうで機会があれば書くことにいたします(苦笑)
学会初公演?+地震予知?などなど、ネタには事欠かなかったのではないかなと思いますので、またお会いするときにゆっくり拝聴させてください。
投稿: grande | 2008年7月 6日 (日) 23時59分