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2008年7月10日 (木)

コーポレートガバナンスと内部統制と経営者確認書の関係(再考)

Kore_naibu001 当ブログとしては、この新刊書の論評は避けては通れないわけでして(笑)、7月上旬発売ということですから、すでに読了された方もいらっしゃるかもしれません。昨年、上村早大教授と金児昭氏による「株式会社はどこへ行くのか」がビジネス書としては大ヒットしましたが、体裁はよく似ておりまして、内部統制報告制度の現状を憂うる木村剛氏が内部統制報告制度に関する誤解を問題提起し、八田進二教授がこれに答える、というものであります。 「これが内部統制だ!」(DMD JAPAN 八田進二、木村剛 著 1890円税込)

ご覧のとおりの「帯書き」を見た瞬間、「うーーん、なんだかなぁぁ・・・。ちょっと『統合的枠組み』の頃とはだいぶ変わってしまったのかもなぁ・・・。余計『もやもや』してくるんとちゃうかなぁ・・・・」などと多少引き気味になりましたが、内容は相当に充実したものでありました。(この黒い帯はむしろ無いほうがいいかもしれませんね・・笑)たとえば「内部統制の考え方と実務」(日本経済新聞社)シリーズでは、意見書や基準、実施基準の全般的解説という趣旨が強く、八田教授の色が薄かったわけですが、今回の「これが内部統制だ!」では、木村氏の後押しもあって相当に独自色が出ているものと感じました。つまり独自色が出ているということは、意見書、基準、実施基準を誰がどう読むべきか、金融庁の11の誤解やQ&Aシリーズをどう理解するのか、そしてこれから内部統制報告制度がどのような方向へ進んでいくのか、といったことへの示唆が豊富に含まれていることを意味しております。

ただよく考えてみますと、私自身にこの本を論評できるほどの力量がございませんので、以下は単なる読後感想文としてお読みいただければ結構です。私も内部統制関連の書籍はいろいろと読ませていただきましたが、いまでもときどき読み返すのは金融庁企業開示課の方々が共同執筆されている「総合解説内部統制報告制度」と新日本有限責任監査法人の森本親治氏が執筆された「内部統制の落とし穴」の二冊でして、なかでも「総合解説・・・」のほうでは、内部統制報告制度の導入は、(ディスクロージャー制度の要素である)開示・会計・監査に加えて、ガバナンスが適正なディスクロージャーを支える第四の要素として確立しつつあることを如実に示している、といった解説に興味を持っておりました。興味を抱いていたものの、よく理解できず「どうして内部統制報告制度がコーポレートガバナンスと関係あるのだろうか?」といった疑問を持ち続けておりましたが、「これが内部統制だ!」の後半部分(合理的な保証とプロセスを理解する)における木村氏と八田氏の「掛け合い」を読んで、なるほど、すくなくともこの方々や金融庁が考えている「コーポレートガバナンス」の中身と、その内部統制報告制度(具体的には「内部統制の限界論」)との関連性について、ようやく理解することができたように思います。(もちろん、コーポレートガバナンスの概念は一義的ではないために、その概念の捉え方に全面的に賛同するというものではありませんが)また、そこが理解できますと、内部統制報告制度における監査役制度への「期待度」もほぼ理解できることになり、また「プロセス」を評価することの意味が理解できると、経営者確認書がプロセスを評価する制度が誕生したがゆえに初めて法定化されうるものであることが理解できるようになります。

開示ルール、会計基準、監査証明制度いずれをとっても、これまでは財務情報の適正性を確保するために「外から付与されたもの」によって担保されてきたものでありますが、内部統制報告制度で初めて経営者自身の責任行動(評価)が法定化され、その全体についての権限、責任、義務は経営者が負うものであることから(プロセスの保証)、有価証券報告書に対する「確認書」は経営者に提出が義務化されても文句は言えないのが道理であります。また、経営者が表明している自社のコーポレートガバナンスがしっかりしているのであれば、万が一「虚偽の報告」を経営者が行っている場合でも(ガバナンスの機能によって)経営者交代が容易に発生するということとなり、ディスクロージャー制度がいっそう健全に確立する・・・といったことがいえるのではないかと思われます。企業開示制度においては、内部統制報告制度とコーポレートガバナンスの適正な開示がいわば補完関係にある、と捉えてもいいのかもしれません。

内部統制報告制度を支えるのは現場担当者と外部監査人、内部監査人、そしてコンサルタントだけである・・・といった考え方に立てば、この本はそれほど効果的な示唆を与えるものではないのかもしれません。(あくまでも感想です)また、内部統制報告制度における「監査」と四半期報告制度における「証明」(レビュー)の区別など、監査論を理解していないと少し頭が混乱しそうなところもありました。しかし、上記の方々に加えて代表者、取締役、監査役、そしてプロセスを回す一般社員も内部統制報告制度を支える人である、ということを素直に認めるのであれば、その支える方々にも、ぜひともご一読いただきたい一冊であります。

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コメント

はじめましてFNと申します。現在、メーカーにていわゆるJ-SOX対応の業務をやっております。

さて、ご紹介の本ですが、木村氏・八田氏の言っていること自体は、COSOレポートをきちんと読んでいる人間にとっては、当り前のことです。経営者の姿勢が大事ですよ、というのはCOSOレポートも強調しておりますし、文書化が内部統制の重要ポイントではない、というのもCOSOレポートに書いてあります。なにしろ、「内部統制の本質は書式やマニュアルではない。人である」という文章があるくらいですから。COSO ERMレポートにも、立派なマニュアルやルールを持っていても、経営者の姿勢に問題があった大手エネルギー企業のことが紹介されています。

下っ端社員としてJ-SOX(嫌いな言葉ですが、悔しいかな使い勝手は良いですね)業務に携わっている者としては、シニカルな読後感ではりますが、「あなた方の言うことは分かってる。でも、ただの平社員がどうやったら経営トップの姿勢を簡単に変えられるというのだ。そんな簡単にできるのならば、誰も苦労はしないし、内部統制の限界なんてものをそもそも心配する必要はないだろう」と思ってしまいました。

経営者の姿勢が大事なんですよ、という分かりきった話をするのも良いのですが、監査法人の保守的な対応を抑制する仕組みを十分に考慮しなかった点について、もっと真剣に反省をして欲しいものだ、というのが正直なところです。アメリカの例があったわけですから、容易に予見可能だったはずです。

新たな制度なので導入時の混乱は付きものとはいえ、これだけの混乱をもたらしている制度ですから、制度設計者としての結果責任をもっと感じてもらいたいよな、というのが企業における一担当者として感じたことであります。結果責任は政治家だけに問うべきものではないと思います。

ただ、木村氏による内部統制の説明の仕方というのは、今後自分が他人に説明する際の参考になると思いました。

投稿: FN | 2008年7月12日 (土) 01時34分

>FNさん

はじめまして。辛口のご意見ありがとうございます。(といいますか、このエントリーをアップしたら、おそらく常連の皆様から大いに辛口のご意見が出るのでは?と予想していたのですが、なんの音沙汰もなくさみしい想いをしておりました。ですので、FNさんのコメントで救われたような気がします)

経営者の姿勢云々はもうすでにいろんなところで言われているのですから、なにも今更・・・という感もありますが、私が最後に書いておりますとおり、現時点で役員クラスの方々に読んでいただければ少しは理解が進むのではないか、という意味もあるのでしょうね。あと、私自身の意見として言われてもらえば、「全社的内部統制」の評価として、経営トップとまでは言いませんが、リスク評価や評価範囲の決定にあたって、上の方の人たちはどのような行動をされたのか、その行動がどのように評価範囲の限定に生かされているのか、そういったことが実際に評価対象になることを強調していただければ、「経営者の姿勢」を主張する意味もすこしは実務にも影響するのではないかと考えております。

まだまだこれから「混乱」の要因は多いものと予想しています。(とくにディスクロージャーの点において)また現場実務を知る人として、有益なご意見をお願いいたします。

投稿: toshi | 2008年7月12日 (土) 19時09分

toshi様

J-SOX業務は、真面目にやればやるほど空しさを感じる部分もあるので、つい辛口のコメントとなってしまいます。崇高な理想の下に導入された内部統制報告制度ですが、理想により動くことの怖さを実感させてくれるという意味では、自分にとってよい勉強かもしれません。

>「経営者の姿勢」を主張する意味もすこしは実務にも影響するのではないか

経営者評価を代行する形となっている平社員の立場からすれば、「経営者の姿勢」に問題があります、とはそう簡単に言えません。こういう話はやはり社内からは言いづらいのが現実で、外部からでないと主張できません。そんな現実自体が内部統制の重要な欠陥である、と言われればそれまでではありますが、残念ながら我々はそういった現実の中にいるわけで、教科書の中のモデルに住んでいるわけではありません。

また、その外部である監査法人としても、「経営者の姿勢」に問題があると判断してしまえば、業務プロセスの評価範囲を拡大せざるを得ず、彼らの負担が増大してしまいます。人手不足だと騒いでいる現状で、業務プロセスの範囲を拡大して内部統制監査を実施できるほどの余裕を持った監査法人がどれだけあるのでしょうか。さらに、そもそもの構造的問題として、監査報酬を企業から貰っているので、報酬の出所である企業に対して、監査法人が「経営者の姿勢」という質的な問題をどれだけ強く言えるのか、という問題があります。

監査報酬の問題はさておき、ある程度は監査法人側が「経営者の姿勢」を含む統制環境に対して、まっとうな意見を言える環境をつくるためには、全社統制の評価結果に応じて業務プロセスの範囲を決定するという、現在の実施基準の枠組みを変更する必要があると思います。今のままでは、業務プロセスの内部統制監査に関わる負荷を減らすために、全社統制に対する判断基準を緩めるということが実務上は行われる可能性は高いと思います。

もし、八田氏をはじめとして、制度設計者側が経営者レベルを問題にしたいと考えているのであれば、全社統制と業務プロセスの範囲をリンクさせるという実施基準の枠組みを修正すべきです。現場レベルが優秀だというのが日本企業の特質なのでしょうから、その現場に余計な負荷をかけるような制度は大きな欠陥でしかありません。

真面目にJ-SOX業務に取り組んでおられる方ほど、「問題は現場ではなく、経営レベルにある」と感じておられるのではないか、という気がしております。

投稿: FN | 2008年7月12日 (土) 23時26分

いやね、こんな本を読んでいられるほど
そろそろヒマではなくなってきた、ということなのですよ(バク)。

私も大学に残って学者になればよかったかなあ(ウソです(笑))。

                             .

公認会計士に経営者の姿勢が評価できますか?
経営者評価について評価できますか?

まずはそういう学問でも創設してその上で試験制度を作り、
その「上場企業診断士」(仮称)が評価することにすればどうですか。

投稿: 機野 | 2008年7月13日 (日) 02時38分

>機野さん

いつもコメントありがとうございます。
若干、管理者権限としてコメントを修正させていただきましたので、あしからずご了承ください。

ただ現実の制度運営を考えた場合、開示制度のためのリスクアプローチの訓練を積んでおられる会計専門職の方々に評価してもらうのが「現時点での最適解」ではないかと思っています。もちろん「監査」のレベルでなくても「レビュー」でもいいかもしれませんが、そういった運用のなかで、企業自身がスキルを身につけていくべきではないでしょうか。法律も会計学も所詮は社会科学でありますから、どっかで現実と妥協することは避けられないと思います。(ここまで来ると哲学的な議論になってしまいますが)

投稿: toshi | 2008年7月13日 (日) 13時35分

山口先生、いつもご迷惑ばかりお掛けしております。

FNさまもお書きですが
「経営者の姿勢、意識が大事です」
というのはもう聞き飽きました(笑)。
間違っていないまさしく正論でありますが、
「政治家や公務員には高い倫理観が肝要」
「高位の見識が必要」
と語っているのと同じ次元なんですよね。
現時点にあっては もはや意義はあっても意味のない話。

コンプライアンスというより、モラルの問題であり、
気質や文化の問題であって、
一朝一夕に変えられるはずがありませんし、
そもそも変えないといけないかどうか
社会的コンセンサスがあるかどうかさえ分かりません。
国民総ガラパゴス的な生き方だってあるかもしれませんし(笑)。

投稿: 機野 | 2008年7月13日 (日) 16時35分

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