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2008年7月22日 (火)

株主代表訴訟における不提訴理由通知を検証する

7月21日の日経「法務インサイド」では、このブログでも採りあげました荏原社の「社外監査役の乱」が特集されていましたね。最近ある会合でこの荏原社の別の監査役の方と直接お話しをした関係で、ちょっと当ブログでは続きを書くことは遠慮させていただきますが、荏原社における株主総会では、疑義を呈された社外監査役の方から監査報告書の内容について説明もなければ、株主からの質問もなかった、ということだそうで、もう少し公開の場において紛争の中身が明らかにされればよかったのに・・・と(外野の者としましては)残念な結果に終わってしまった感があります。ただ、監査役の「独任制」については、少しは世間の方にもご理解いただけたのではないでしょうか。この職務執行の独任制という性質が、たとえば株主代表訴訟における(株主からの)提訴請求の場面で発揮されたりした場合には、もはや「監査役の乱」では済まないような状況になったりするかもしれませんね。たとえば5名の監査役が存在する株式会社において、株主から取締役らに対する提訴請求が会社宛になされた場合、4名の監査役は「提訴理由なし」と判断したが、社外監査役の1名だけが取締役に対して責任追及すべき、として会社を代表して(この場合は、おそらく責任追及する監査役には代表権が付与されている、とみるべきなんでしょうね)、取締役に対する訴訟を提起する場合、これはたいへんな事態になってしまいますよね。この場合、残る4名は不提訴理由通知書は出さなければいけないのでしょうか?いちおう、代表権をもって1名が提訴した以上は出す必要もないかもしれませんが、ちょっと自信がありません。また、この社外監査役が、株主から提訴すべし、とされた取締役のうちの一部だけを相手として訴えを提起した場合など、もっとややこしい事態になってしまいますよね。(^^;

さて、(不提訴理由通知書に関連する話題でありますが)株主総会シーズン中でありました平成20年6月25日に、個人株主(株主オンブズマングループ)らによって株式会社大林組取締役らに対する株主代表訴訟が提起されております。繰り返される談合事件について、取締役らによる(談合防止に向けての)内部統制システムの構築義務違反が主に問われているところであります。大林組社といえば、昨年の定時株主総会において、株主らによる提案をきっかけとして、談合決別宣言を定款変更によって導入したことは記憶に新しいところですが、このたび問題とされている談合事件は、いずれも平成14年から同17年ころにかけての事件であります。

上記株主代表訴訟の審理については今後たいへん注目されるところでありますが、この事件では個人株主らの提訴請求権行使とともに、監査役に対して不提訴の場合の理由通知請求もなされていたものでありまして、この大林組監査役ら全員の連名による不提訴理由通知書が株主オンブズマンのHPにて公開されております。(なお念のため、リンクは回避しておりますので、ご興味のある方は、そちらで閲覧ください)会社法が施行されて2年が経過しましたが、株主による責任追及訴訟において、監査役(5名の連名)による不提訴理由通知書が発出される、というのは、上場企業においてはかなりめずらしいケースではないでしょうか。監査役の皆様方におかれましては、モデルケースとして、参考になるかもしれません。

さて、この不提訴理由通知書の内容についてでありますが、内部統制システムの構築義務違反が取締役らに認められないとする理由を記載されておりますが、整備に関する検証事実は記載があるものの、運用に関する検証事実の記載が乏しい、といった印象を受けますのと、さらに運用に関する判断資料が(口頭による事情聴取以外)存在しないことに気付きます。平成17年ころまでの事案ということですので、事案当時の経営環境のもとでの取締役の善管注意義務の中身を探るわけですから、本件の場合にはこの程度でもいいのかなぁ、とも思いますが、会社法において体制整備に関する決議規定などが明文化された以後の事例においては、おそらくこの内容では判断理由としては不十分ではないでしょうか。法令遵守(独禁法遵守プログラム)のための内部統制システムの構築については、整備内容よりもむしろ運用状況のほうがはるかに重要ですので、PDCAプランをどのように回していたのか、といった「記録」が必要でしょうし、また社内のどこに談合リスクが高いのか、当然に検証に基づく優先順位(リスク評価)が存在するはずでありますが、そのような検証がなされたのかどうか、まったく不明ですと、かえって不提訴理由通知書が本訴において不利にはたらく可能性が出てくるかもしれません。原告株主側に、有利な証拠を明示して、文書提出命令によって資料が開示されることは(会社側としては)回避したい気持ちもわかりますが、この不提訴理由通知制度と内部統制システムとの関係を考えますと、ある程度の資料の存在が当然であり、そもそも資料が存在しないこと自体が、内部統制システムの構築義務違反(運用評価義務違反)となる可能性が高いのではないかと思われます。(もちろん、これは平成18年ころの、基本方針決定義務が明文化された後のことを指しています)ところで、監査役としては、提訴しないことの理由として、取締役の善管注意義務違反の有無については曖昧なままとして、その訴訟を維持することが、会社にとって有益ではないこと(たとえば勝訴したとしても、費用倒れになりかねないとか)をもって判断する・・・というのはダメでしょうかね?このあたり、また検討してみたいと思います。

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コメント

山口先生

小職も、日経を見ました。
何の発言も無かったのですね。がっかりです。
ご自身の信念によって、発言をなされたのですから、
公開の場で説明責任があるのではないかと思います。
事情で、総会に出られなかった株主さんもおられること
ですから・・・
それこそ裏で何かあったのではとつい勘繰りたくなります。
先生も「ブログではちょっと・・」いうことですから
なおさらです。
これでまた、海外から日本は不透明とされるでしょう。
事情がわからん閑散役のたわごとでした。

投稿: ご苦労さん | 2008年7月23日 (水) 13時29分

 はじめて投稿します。いつも楽しく拝見しています。
 とある上場会社の監査役の補助使用人をしている者です。

 会社法は1人の監査役のみが「取締役を提訴すべき」と判断する
シーンを当然に想定していて,それゆえに,
「監査役が会社側へ補助参加をする場合には全員の同意が必要」
としています。
 日ごろから,各(常勤)監査役の意向をふまえた仕事を心がけている
者としては,「監査役(会)にも多数決原理を」ともとれる日経記者の
記事には,少なからず違和感(=もっと勉強してほしい)を感じました。

 監査役というのは,個々人が切磋琢磨して,まっとうな意見を
発出し続けなければ,会社内で埋没してしまう(=株主からの受任者と
しての責任を果たさない)リスクを常に抱えていますが,それは,
執行側の役員も同じではないか,と最近さまざまな自社・他社の
不祥事・不適切事例を見るにつけ感じます。それゆえ,「閑散役」など
と卑下することなく,今まで以上に緊張感をもって仕事をしています。

 「監査法人」の認知度は今回のドラマで少し高まったと思いますが,
内部統制にかかわる様々なプレーヤーによって,資本経済がより良く
なることを願って止みません。

投稿: はる | 2008年7月27日 (日) 20時21分

いろいろと勉強させていただき、ありがとうございました。

以前、こういった話題には(必ずと言っていいほど)「監査役サポーターさん」という強力なコメンテーターがいらっしゃいました。(現在は監査役サポーターではなくなってしまったそうです)まだまだ会社における監査役の地位というものが、その会社によって千差万別でありますが、私も今後大いに監査役の方々を鼓舞させていただくようなエントリーを書き続けていきたいと思っています。
また、理論的に不明瞭な点等ありましたら、いろいろとご意見いただければ幸いです。

投稿: toshi | 2008年7月29日 (火) 02時19分

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