日本内部統制研究学会(年次大会)のご報告
7月5日、青山学院大学におきまして日本内部統制研究学会の年次大会が開催されました。当初は学会員を中心とした大会であるために100名程度の参加者と予想されておりましたが、非会員の方の参加も多く、急きょ開催教室が変更され、300名程度の方が大会に参加されました。そもそも私は日本私法学会にも参加した経験がなく、いきなりアウェー(しかも東京!)の会計系の学会で論壇に立つ、という暴挙に出たために、当然のごとく会計学会の大御所の大先生に鋭いご批判、ご質問を頂戴いたしました。(どうもありがとうございました。なお学会の様子は後日学会のHPに詳細に広報されるそうですので、そのときにでも、おわかりいただけると思います。※ 小冊子も作成される予定かもしれません・・・ちょっと記憶が定かではありませんが)しかし日本の内部統制報告制度の方向性を決定付けるような学会の場におきまして、持論を主張させていただく機会に恵まれましたこと、たいへんありがたく思っております。もしまた発言させていただく機会がございましたら、もうすこし内部統制報告制度の学術的意義を学びなおし、またもうすこし「お行儀」よくしますので(笑)、よろしくお願いいたします。ちなみに懇親会の席上では、「あの先生から突っ込まれたということは、あなたも少しは有名人になったということ」とか「自分が言いたいことを言うのが学会ですよ。実務家と学者では意見が違ってあたりまえ」とか「金融庁のNさんだってツッコまれてたじゃない」と元気付けていただきました。(でも、もう関西弁丸出しの講演はやめときます。。。)
ところで肝心の学会の中身でありますが、詳細は学会からの正式レポートに譲るとしまして、いくつかポイントのみ紹介させていただきます。まずひとつめは、中小上場企業における財務報告の信頼性を確保するための体制作りについて極めて深刻な問題が出ていることであります。これは単に「準備の遅れ」というものではなく、「内部統制報告制度そのものへの理解不足や、開示制度の整備に対する認識の甘さ」といったものであり、「早急な準備の必要性」といった甘い指摘では済まされない状況にある、といったものであります。とりわけ、コーポレートガバナンス報告書に開示すべき情報について、虚偽記載とも思われるような事態が発生している中小上場企業の現実が報告されますと、当ブログでもときどきコメントをいただいている「ともさん」から東証の土本さんに対して厳しい質問が飛んでおりました。私自身も、「中小上場企業の現状レポート」の内容につきましては、大変ショックを受けました。
ふたつめは、現在米国のCOSOでも議論されている(現在意見公募中)とおり、「モニタリング」の充実ということへの関心であります。日本の制度でいえば、内部監査人、監査役、社外取締役等を含む取締役会による監視、といったところでしょうか。日本においてもアメリカにおいてもコストがかかることへの修正は、どうしてもモニタリング部門の状況改善によってはかることが効果的ではないかと考えるのが自然でしょうし、会計専門職の方々がお持ちの知見が、社内のモニタリング部門へ浸透していくことがおおいに期待されているのではないかと思います。そもそもこれまで「経営者評価の基準」などなかったわけでして、今回初めて経営者が内部統制評価を身につける必要性に迫られることになりますので、このモニタリング部門への関心の高まりは自然の流れかと思われます。
そして三つめは、今後の金融庁の方針であります。先日の「内部統制報告制度Q&A追加版」を私は「完結編」と申し上げましたが、これは訂正させていただきます。まだこれからも決算財務報告プロセスなどを中心としたQ&Aの追加が予定されているようですので、御留意ください。また、これは当初からも公表されていたところですが、すでに施行されている内部統制報告制度の運用状況などから、修正すべき点があれば適宜「実施基準」などの見直しも検討されるそうですので、あまりQ&Aの内容についても硬直的に考えず、あくまでも具体例にすぎない程度にお考えになったほうがよろしいのではないかと思っております。(なお、すでに金融庁には個人団体等から240ほどの質問が寄せられている、とのことであります)
その他個人的な印象でありますが、この制度の運用にあたって、はたして「重要な欠陥」を報告する企業もしくは「重要な欠陥」を不適正意見のなかで表明する監査法人の数がどれほどに上るのか、今回の学会に参加しても未だ見えてきませんでした。絶対のモノサシがない以上は、「どれほどの企業が重要な欠陥ありとされるのか」、企業や監査法人の考え方によって大きく変わるのが現実ではないでしょうか。本来、「重要な欠陥」というものが非常に曖昧な判断基準によるものである以上は、重要な欠陥が表明された企業の具体例を蓄積するなかで決まっていくはずのものでありますが、その具体例がどこまで日本で蓄積されるのか・・・、このあたりはまだ私は懐疑的であります。また、私自身の基調報告でも述べましたが、もし重要な欠陥が指摘されうる状況があるとすれば、それは監査人がもっとも判断において自信を持っている「財務決算報告プロセス」に集中するのではないかと思っております。今回学会で公表されました「重要な欠陥」に関するアンケート結果をみましても、連結財務諸表作成プロセスに関するマニュアルの不十分性や、財務諸表に関する重要な修正、ITシステムに発生した障害への適時対応の困難性などにおいて、実施基準策定者側と現場担当者側とで、かなり大きな認識の隔たりが認められましたので、実質的な「結果責任」を問われる可能性にご注意いただいたほうがよろしいのではないでしょうか。また、このアンケート結果につきましても、正確なところが後日、学会のHPより公表(小冊子にて公表?)される予定のようですので、ご確認ください。
なお、来年の日本内部統制研究学会の年次大会は関西で開催されます(甲南大学)。来年は地元関西ということもあり(笑)、私はひとりの学会員として会場からツッコミを入れさせていただこうかと、今から楽しみにしております。
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コメント
toshi先生
絶対的アウェーの中での講演お疲れ様でした。
私のような中堅(中小?)企業のJ-SOX担当者からすれば、まあ何を今頃というのが正直な意見です。もう本番期が始まって運用状況評価を進めているはずの時期ですから。一生懸命やっている企業が報われずにやっていない(できていない)企業があるから何とかしようというのは本末転倒だと思います。(感情的になりました。少し抑えて本論に)
私からすると評価(独立的モニタリング)の重要性が評価されるのは大変良いことだと思います。当社のような中堅企業のモニタリング部門では、統制評価ではなく更に突っ込んで業務改革への指摘、指導が求められております。内部監査協会のいうコンサルティング監査という部分です。これを内部統制の整備にフィードバックし、J-SOXのPDCAのサイクルを回していくためのキーとなるセクションだと思います。
その意味で、モニタリング部門には過度の期待と担当者への要求が起きているのも正直な感想です。そのための講習もほとんど無いのもこれからの課題だと思います。
今後ともに先生の活躍を期待しております。
投稿: tonchan | 2008年7月 7日 (月) 11時31分
TOSHI先生
学会でのご報告、ご苦労さまでした。TOSHI先生にご挨拶しようと思っていたのですが、某出版社の金商法の注釈書の担当部分執筆でこのところずっと遅くまで働き疲労が蓄積していていたので、懇親会にでず、ご挨拶する機会のないまま失礼いたしました。
それにしても興味ぶかい報告ばかりの学会でしたね。また、関西弁の発表はたいへん結構でしたので、今後もどんどんやっていただきたいと思います。特に地震が襲ったときのTOSHI先生のアドリブがきいたギャグは馬鹿受けでしたし、場をリラックスさせました。さすが!と思いました。また、小倉親子さんの発表はショッキングでしたね。びっくりしました。
かの高名な先生の突っ込みはTOSHI先生のいいたいこととはかならずしもかみあっていなかったと思いますが、実は私はTOSHI先生に同一論点について質問をしたかったのです。私は①財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令1条1項、4項で、内部統制の評価基準は一般に公正妥当な基準にしたがわなければならず、かつ、企業会計審議会の定める内部統制の評価の基準が一般に公正妥当な監査基準とされていること、②「重要な欠陥」の虚偽表示(または不開示)に対しては刑罰を科せられていると考えられること(重要な事項の虚偽の記載には「重要な欠陥」の虚偽の記載または不開示を含む)の2点から、「重要な欠陥」は法的概念であると考えています。「重要な欠陥」があることによる法的責任の発生は、取締役としての善管注意義務の問題(したがって会社に損害の発生がなければ問題にはならない)であって、金商法の問題ではない(金商法では重要な欠陥を開示していれば問題ない)と思います。「重要な欠陥」を法的な概念でないとすることは、刑罰法規の明確性の趣旨に反するし、何が虚偽表示をより一層不明確にするおそれがあると思いますが、いかがお考えでしょうか。たしかに「重要な欠陥」は外延がはっきりしない概念ですが、それだからこなにがそれにあたるのかの基準を明確化すべき法的概念ではないでしょうか。
実は私の事務所では、重要な欠陥とは何かという問題にフォーカスしたセミナーを4月に行い、私が基調報告をして神田秀樹先生もおいでいただいて座談会を行ったので、はからずも今回の学会で「重要な欠陥」がトピックになったのはわが意をえたりでした。学会での八田先生、橋本先生、町田先生らのご報告は大変参考になりましたので、さらにこの問題を深めて生きたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: とも | 2008年7月 7日 (月) 13時24分
はじめて投稿します。土曜日の学会に参加した会計の研究者です。
先生の基調講演、研究者の立場からも興味深いものでした。すこし時間が短かったようで、もう10分程度持ち時間があればよかったかなあと感じました。あと、レジメでは「財務諸表監査における内部統制監査」とありましたが、あれは先生があいまいに説明されていらっしゃったので「内部統制の評価もしくは検証」と言いたかったのか・・・と推測しておりました。制度を策定された先生方が多かったがゆえに、報告者として用語の使用法についてはもうすこし慎重にされて、少し訂正が必要な部分だったと思います。(たしかパワーポイントの説明ではそうなっていたような気がしますが)
ともさんもおっしゃっているように、関西弁の報告はとても良かったです。(「ともさん」って、前のほうに座っておられた、かの有名な法律事務所の先生のことですよね?)これからもとくに変更される必要はないと思いました。みなさん朝からの学会で疲れがたまっていたところでしたし、先生のアドリブの利いた解説は見事でしたし、ぜひ今後も勉強させていただきたいと思っております。本当にお疲れさまでした。
投稿: 花房 | 2008年7月 7日 (月) 13時59分
年次大会の内容、「内部監査であそぼ」さんところで
もう少し詳細を知ることが出来ました
(しかし、お若そうなのに大胆にも大会に出掛けられたんですな、
「内部監査であそぼ」さんは(笑))。
もうですね、tonchanさまもお書きですが、
監査という建て付けは無理無理なので(皆んな分かっていたことじゃ
なかったんですか?そんなこと)
業務改善のためのレビューということでいいんじゃないですか。
但し、義務だの罰金だの懲役だのと脅しでも掛けないと
経営者のモチベーションが働かないということは確かですから、
或る意味結果オーライなのかもしれませんが。
だけどですね、公安だの監査人だのという存在が大きな顔をして歩く
ような社会というのはそれはそれでとても不健全なことなんですよ。
ベテランの会計士のかたがたにも学者先生がたにも
内部監査をするぞと張り切っているお若いかたにも
それだけは釘と針を刺したいと存じます。千本ぐらい(笑)。
投稿: 機野 | 2008年7月 8日 (火) 00時37分
皆様、叱咤激励、ありがとうございました。やはり皆様(お世辞では決してありませんが)いいとこついています。今更ながら、当ブログにお越しの方のレベルの高さに感服いたします。
ご指摘のとおり、「内部統制と監査」は必然のものではなく、レビューでもいいかもしれませんし、もっと言えば「監査証明」は不要と考えても理屈のうえでは成り立ちます。モニタリングの充実への傾斜は、ある意味で内部統制と監査との距離感について再認識することを意味するのかもしれません。今後の内部統制報告制度の展開のなかで注目されるところだと思います。
私もともさんにごあいさつを・・・と思ったのですが、名刺交換をしているうちにともさんを見失ってしまい、失礼をいたしました。
ともさんのご指摘の点、理由も含め異論はございません。実は、学会の前夜にホテルで同じことを考えておりました。また、当日の野村調整官のお話のなかでも、刑事罰の件について触れておられたので、「これはちょっと話にくくなってしまったなあ」と考えておりました。そもそも「法律の概念」なる用語が専門家の方々には「あいまい」と受け取られる可能性があるのですが、あくまでも「取締役の法的責任論」と「重要な欠陥」との関係をどう説明するか・・・というところで持ち出したものにすぎません。また、「不備」と「重要な欠陥」とを区別する判断基準には、そもそも法律家がなじみにくい監査論の考え方に親和性があることを説明するためにも、「法律上の概念ではない」といった説明が一番わかりやすいかな・・・と考えたうえでの使い方でした。法律家の皆様からすれば、ちょっと違和感があったでしょうし、ご指摘のとおり金商法との関係ではともさんのおっしゃるとおりかと思います。
なお、法律上の概念としても、はたして虚偽の内部統制報告書を提出する、ということが実際に故意の犯罪として成立するのでしょうか。重要な欠陥があったにもかかわわらず、ないと思って有効とする報告書を提出した、という点はおそらく裁判所の立証は困難ではないかと思います。法律上の概念としても、どう理解したらいいのでしょうね。
投稿: toshi | 2008年7月 8日 (火) 20時48分
別サイトで、またもう少し大会の詳報を知ることが出来ました。
なるほど…
山口先生、どうもお疲れ様でした(笑)。
.
数値(数字)の虚偽というのは実にはっきりしております。
財務諸表上の数字に虚偽があった、ということなら
いくらでも立件できるでしょう。
ところがそうではなくて、内部統制報告書の内容に現状は直接数字に
結びつかない虚偽(重大な欠陥があるのにないと書いてある)がある、
ということをそもそも立件できるでしょうか。
公認会計士が監査をした段階で会社側が記述しなかった重大な欠陥
(と会計士が主観的に判断したもの)が発見された場合は両論併記で
あろうが不同意であろうが、その「事実」は開示されているわけで
あります。投資家保護という観点から考えるに、処罰対象の虚偽報告
とすることには似つかわしくありません。
問題になるのは、あくまでも「会社側も公認会計士も見過ごした(場合に
よっては故意に見逃した)『虚偽』」が、内部統制報告書及び内部統制
監査報告書が提出されたのち、しばらく経って、何らかの経済事件が
発覚し、その原因を探るなかで内部統制報告書、内部統制監査報告書の
内容が再度チェックされ、虚偽が存在していたと判明した際だけだと
思うんですが、果たしてそんなことがどれだけ出てくるのでしょうか?
そもそも、このことを具体的に指摘できるのは誰、何処なんでしょうか?
.
何を「重大な欠陥」とするのか。
その判断が大前提として各上場会社自身に任されているという建て付けが
ある以上、どう考えても「虚偽だから訴える」「経営者を罪に問う」と
いうことはありえません。
極めて悪質なケースは想定できますが、そもそもそれは例えば詐欺事件と
して(内部統制報告制度関係なしに)立件できる場合でしょう。
会社側も重大な欠陥だと思わず公認会計士もそれに同意した…
それを、数ヶ月以上経って忘れた頃に
「お前らのその判断が間違えてたんじゃあ。罰してやる!」と
金融庁や監督機関が糾弾しにくるんですか??
.
真珠湾攻撃みたいなことは止めませんか?
「負けは分かっているけど決まったことだから守る」
これは、愚かで赦されざる行為ではありませんか?
完全に止めるのではなくて、当面は各企業に於いて制度の定着を進め、
監査は一旦延期するのです。
初年度は事実上「やってみるだけ」であり、大きなトラブルにならない
よう配慮する、と金融庁などは言ってますが、
それなら監査費用増加分を国が持って(国民に転嫁しないように)。
どうあがいても言い訳されようが所詮合衆国の猿真似なんですから、
US-SOXの見直し作業を注視し欧州各国とも連携しながら
費用対効果の最も高い手法を考えていけばいいのだと思います。
今からでも、まだ遅くありません。
投稿: 機野 | 2008年7月 9日 (水) 00時25分
toshi先生のご質問にお答えすると、有価証券報告書虚偽記載罪の「虚偽の記載」とは、真実に合致しないことを記載することであるが、一般的にみて投資家の投資の決意に影響を及ぼす程度の虚偽があるこを要するとされていますね(立花書房・注釈特別刑法第5巻269頁)。本罪が成立するためには虚偽であることの認識が判例上必要とされているようですので、内部統制報告書の虚偽記載もやはり虚偽であることの認識が必要で、過失により重要な欠陥を見逃しても「重要な事項について虚偽の記載」を行ったということにはならないようです。
特別刑法の適用はそれでいいとしても、課徴金制度になりますと、認識があったかどうかの認定は刑事事件ほど厳格に行わないで処分するというスタイルの運用になるのでしょう。
なお、機野さんの書き込みでちょっと気になるのは、『「会社側も公認会計士も見過ごした(場合によっては故意に見逃した)『虚偽』」が、内部統制報告書及び内部統制監査報告書が提出されたのち、しばらく経って、何らかの経済事件が発覚し、その原因を探るなかで内部統制報告書、内部統制監査報告書の内容が再度チェックされ、虚偽が存在していたと判明した際だけだと思うんですが、果たしてそんなことがどれだけ出てくるのでしょうか?』といわれている点です。まず、「重要な欠陥」というのは一定の金額を上回る虚偽記載または質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものをいうとされており、一定の金額を上回る虚偽記載をもたらす可能性のあるものはもろに数字に結びついているもの、質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性のあるものとは西部鉄道事件のように財務報告系でない主要株主の虚偽表示のような記載に関するものをいうのですから、先例はすでにあるということができると思います。すなわち、西部鉄道事件発覚直後の金融庁の自主点検要請では、上場企業4500社のうち
訂正報告書提出会社数 652社 総訂正件数1,330件で、訂正の内訳は
株主の状況に関するもの 351社 514件
財務諸表に関連するもの 257社 347件
企業の概況 132社 166件
事業の状況 77社 95件
という結果だったわけで、これに衝撃をうけて内部統制報告制度を整備するという方向性がきまったわけですから、先例は実はごまんとあったわけです。また、toshi先生の内部統制学会の報告でもあったように、企業の概況についての虚偽記載としか思えない事態が内部統制整備の過程で発見されているようです。また他のご報告では、少なくとも監査のプロセスの質的な向上を会計士さんたちも実感されているようですので、内部統制制度はうまく機能しはじめているのではないかなという感じをもっております。
投稿: とも | 2008年7月 9日 (水) 23時55分
>ともさま
噛み付くわけではございません(笑)。
いろいろ書きますが、所詮「悪法もまた法なり」ですし
お上には逆らえませんから(涙)。
精神そのものは否定してませんし、
もちろん効用がないわけでもないと思っております
(業務改善のきっかけにはなってますから)。
でも引かれている例って、事件が発覚して遡及して調べてみて
…ということであって、
別に内部統制報告制度があったから発覚したわけでもないし
内部統制報告制度があっても防げなかったわけでしょ。
なんか隔靴掻痒という感じは否めません…
投稿: 機野 | 2008年7月10日 (木) 06時45分
いままであまり考えたことはなかったのですが、もし内部統制報告書の虚偽記載事例に課徴金制度が適用されたら、ずいぶんと当局よりの制度になってしまうでしょうね。まさに「重要な欠陥」に対する当局と企業との認識の違いが出てくるわけですよね。東証の対応などでも、同じような問題が発生するかもしれません。ちょっと考えてみます。
投稿: toshi | 2008年7月11日 (金) 02時31分
内部統制は、事業の規模・特性等が様々であることから、経営判断原則が認められるわけですから、その延長として「重要な欠陥」を判断するため、内部統制の不備が定量基準に該当するか否かの計算フォーミュラーは、会社が決定すべき、というか実務的には会社しか出来ないでしょう。その合理性については、監査役の妥当性監査及び会計士の内部統制監査で担保する(多少荷が重いですが)構成にならざろう得ないのではないでしょうか。そう考えると、会社が自社の決定したフォームミュラーの従って算定した結果、「重要な欠陥」に該当したにも拘らず開示を行わなければ、故意の虚偽表示が成り立つのではないでしょうか?素人考えですが。
課徴金については、行政審判を主宰する審判官が審判手続を経た上で課徴金納付命令決定案を作成することとなっています。これまでは、会社が異議を申立てなかったため、このような審判が行われていなかっただけで、行政側が有利というわけではありません。
過去の課徴金が課された事例は17ありますが、3件が誤謬による虚偽記載、その他が不正による虚偽記載です。
①信託銀行に渡したデータに誤りがあったため退職給付債務が誤計上され た事例(東日本ハウス)
②業務システムから会計システムへのデータの転送に不具合が生じ財務デ ータが誤表示となった事例(東日カーライフ)
③工事進行基準の見積が大幅に狂った事例(IHI)
誤謬による「重要な欠陥」はあまり多く発生しないのではないかと予想していますが、発生するとすれば②のようなITがらみではないでしょか。
不正については、粉飾のダウンサイジング化(事業部や子会社の幹部が主動するタイプ)が進行しており、このよう不正は会社の正規の証憑を使用しや架空取引が多く、会計監査ではなかなかに発見出来ません。会社の内部統制の整備は、このような不正防止に主眼をおくべきであると考えています。
投稿: 迷える会計士 | 2008年7月11日 (金) 20時22分
いつも本ブログを楽しく拝見しておりますが、投稿は初めてです。
私も非会員ながら5日の学会に参加して、発言はしていませんが、統一論題討論で下記のような文書質問を行いました。
「学会という以上は現行制度の批判的な検討が必要ではないか。
少なくとも下記の3点については制度の見直しが必要と考えるが如何か。
①会計士の位置付けを現行の「監査」から「レビュー」、もしくは「アドバイス」へ変更
②財務諸表監査の手法を会社の評価に持ち込むことを止める(アサーション、サンプルテスト手法等)
③業務プロセス統制を対象から外す」
公認会計士の方から頂いた回答は、いずれも見直しは必要がないというものでした。
どうやら後で伺ったところでは、質問自体が「まだ初年度も終わっていないのに制度見直しのことを言うのは不見識」と顰蹙を買ったようです。
予想された反応ではありますが、私がこうした質問を敢えて行ったのは下記の二点を問題意識として持ったからです。
①監査法人と会社側では様々な厳しい攻防があり、会社側の監査法人への不満や不信感も非常に強くなっています。しかしよく考えれば監査法人が過度に保守的にならざるを得ないのも、個々の担当会計士の問題というよりは制度が監査法人にそうした立場を強要していると言うべきではないか。真面目な会計士ほど不信を持たれてしまう構造を問題にすべきなのに、監査法人や会計士を悪者にして問題を逸らせてしまう傾向があるように思ったこと。
②学会の報告や論議を当日聞いていて、現行制度の中での運用の現状と課題という点では大変興味深い内容ではありましが、全体として現状肯定的な発言が多く、又そもそもの制度のあり方への突っ込んだ言及が殆どなかった点は、内部統制セミナーならともかく、「学会」としてこれでいいのかという疑問を感じたこと。
前記三点を見直すことにより、会社側も監査人側も過度な負担と軋轢を避け、かつ本来の制度の趣旨を実現することが可能と考えます。
また、統一論題討論で、座長から「過度に保守的な監査人の対応」が現場で大きな問題、混乱となっているのではないか、という重要な問題提起があったにも関わらず、その点ではあまり突っ込んだ議論がなく、最後のまとめで本制度は大きな混乱なく導入が進んでいると総括されたのは、少なくとも企業でプロジェクトに従事している人間の実感とは大きくかけ離れているように感じました。
学会での先生のご発言はユニークで貴重なものでした。今後も本来的な制度のあり方を含め、しがらみに囚われない思い切った発言をして頂きたいと存じます。
投稿: 板さん | 2008年7月12日 (土) 18時49分
>迷える会計士さん、ご意見ありがとうございます。
「内部統制は、事業の規模・特性等が様々であることから、経営判断原則が認められるわけですから、その延長として「重要な欠陥」を判断するため、内部統制の不備が定量基準に該当するか否かの計算フォーミュラーは、会社が決定すべき、というか実務的には会社しか出来ないでしょう。その合理性については、監査役の妥当性監査及び会計士の内部統制監査で担保する(多少荷が重いですが)構成にならざろう得ないのではないでしょうか。そう考えると、会社が自社の決定したフォームミュラーの従って算定した結果、「重要な欠陥」に該当したにも拘らず開示を行わなければ、故意の虚偽表示が成り立つのではないでしょうか?」
「重要な欠陥」判定のメルクマールとしてはご指摘のとおりかと思いますが、これを虚偽表示の故意と結びつけることには無理があると思います。
重要な欠陥の判断を会社しか決められない、というところからスタートしますと、そもそも第三者(検察)からみて、客観的に重要な欠陥があることを立証することはきわめて困難です。たとえ社内に客観的な基準があったとしても、それだけで常に「重要な欠陥」ありと公訴を追行できるだけの証拠にはならないと思われます。ちょうど偽証罪が、本人が内心で「うそ」だとおもいつつ証言した場合に、外から「内心のうそ」を証明することが困難な場合などと比較するとわかりやすいのではないかと思います。誰が判断しても、この会社の内部統制には「重要な欠陥」があった、と認定することは至難の業です。内部統制監査人から「重要な欠陥」があると指摘された場合でも、「適性意見をもらった」とウソを書けば問題でしょうが、「意見が異なる」場合には故意は認定されないと思われますので、やはり私は「内部統制報告書」の虚偽報告というもので罰則を受けることはまずないだろうと考えています。
課徴金の関係については、詳細なご教示ありがとうございます。上記のとおり、いまだ内部統制と課徴金の問題はほとんど考えたことがなかったものですから、もうすこし検討したうえで、また持論を述べさえていただこうかと思っています。
投稿: toshi | 2008年7月12日 (土) 19時24分
>板さん
はじめまして。コメントどうもありがとうございます。そうでしたか、たくさんのご質問がございましたが、ぜひ板さんのご質問は採用していただきたかったですね。(東証の土本さんと太陽ASGの梶本さんにかなり質問が集中していたみたいでしたね?)
厳しくご指摘いただいているとおり、あの討議は(私も含めまして)現状をとりあえず肯定し、また現状が「うまく」進んでいることを前提とした内容だったかもしれません。(言われてみれば、そのとおりのようでした)といいますか、作ったものをどううまく運営していくか、そのあたりに腐心してしまって、そもそも作ったものがマズイのではないか、というあたりまでは進めることができなかったというのが正直なところかもしれません。まだ始まったばかりで、運用もしていないときから「修正」とはいかがなものか・・・という意見もたしかにあるかもしれません。
ただ、ご指摘の3点については、関連当事者の皆様でぜひとも検討いただきたいと思います。また、私自身はおそらくこのなかの2つくらいは実際に改正されるのではないかと考えています。あと、私自身は大規模上場企業と中堅上場企業との実務指針の問題もあるかと思います。企業自身が真実の情報を的確に開示する能力を向上させることは重要でありますが、そのための工夫は、この内部統制報告制度を通じて、まだまだこれから検討されるべきであり、それまで極力混乱を抑えることも必要ですね。
私も「法律家」の立場から、今後の金商法、会社法上の内部統制について発言をしていきたいと思っておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2008年7月12日 (土) 19時46分
『裁判長のお弁当』という、
賞を獲ったTVドキュメンタリーを土曜の再放送で見ました。
現役と、元現役の二人の裁判官にスポットを当て、
裁判官と裁判の実情をリアルに追った評判どおりの秀作でしたが、
その中で現役の裁判長が富山の誤審裁判(無実の罪の人間が有罪となり
刑務所に収監されてしまった問題)について、
「私であっても、検察の提出する証拠が整っていれば、有罪判決を
出してしまうだろう(過去形ではなく現在これからもという言い方で
あることに留意)」
と答えておりました。
裁判が絶対ではないということはむろん存じてますが、
それでも私は暗然とした思いに捉われてしまいました。
手馴れた刑事裁判であっても絶対ではないのです。
あまつさえ判断に困るような事例を裁判所に持ち込んで判決を仰ぐような
愚かしいことは極力避けるべきでしょう。
もっともっともっともっと、詰めるべきところは詰めて、
除くべきところは除き、再検討を重ねた上で
慎重にも慎重に運用していくべきです。
投稿: 機野 | 2008年7月13日 (日) 02時30分
toshi先生
機野さんのご意見、板さんのご意見、迷える会計士さんのご意見を拝見していると、法律家としての議論を深めていかないと、刑罰法規で強制されている内部統制報告制度が単に現場の方々、会計士の方々の困惑、とまどいを増殖させるだけになるなと感じております。この点、私もtoshi先生と同じく、弁護士としていろいろ考えを発表したいと思います。特に、丸山先生がブログで指摘されている不備の種類の話はちょっと整理しないといけないし、toshi先生の問題提起についても考えてみたいと思っています。ちなみに、金融融財務研究会というところで7月25日に重要な欠陥に思い切りフォーカスした講演を行います。会計のことがわかっているとはいえないのでビビッてはおりますが、もしお時間があれば聞きにきてください。関西でも問題提起としてやってみたいのですが、セミナー屋さんは内部統制は人気ないんです、というんで。。。。
投稿: とも | 2008年7月13日 (日) 17時05分
TOSHI先生
私、「特別刑法の適用はそれでいいとしても、課徴金制度になりますと、認識があったかどうかの認定は刑事事件ほど厳格に行わないで処分するというスタイルの運用になるのでしょう。」と書き込みましたが、これは間違いでした。課徴金納付命令の条文を見直しましたが、どこにも内部統制報告書の虚偽記載を対象とするものはないことがわかりました。申し訳ありません。お詫びいたします。
投稿: とも | 2008年7月13日 (日) 18時22分
こんにちは、丸山満彦です。
不備の問題の分類の問題もそうなんですが、私の根本的な問題意識は、「日本ってこれからどうなるよ」なんです。
1.資源がない
2.人口が減少する
という状況の中で、いかに世界において日本のプレゼンスを高め続けることができるか・・・なんですね。
例えば、資本市場をとっても戦いの場なのです。東京証券市場はニューヨークやロンドン、ユーロ、シンガポール、上海などとの戦いなわけですよ。
東京証券市場における資本調達コストが高ければ、競争に国際競争に負けるわけです。会計基準や監査基準が統一されてくれば、証券市場のよしあしが競争に与える影響が大きくなるわけです。
海外の企業が東京を始めとする日本の資本市場で資金調達をしていくようにしなければならないわけです。
学者の遊びではないわけです。国家の存亡がかかっているといっても過言ではないわけです。そんな真剣さがありますか?ということが私の疑問なんです。
ごまかしてもわかっている人はわかっているわけで、その影響は国の存亡にもかかってくるわけです。そういう意識をもって資本市場の整備をしてほしいわけです。私が1998年に米国の会社で働いたのは、将来日本がだめになった場合には海外で稼げるようにならないとだめだなぁ・・・と思ったからです。まぁ、日本人ですから、日本が繁栄するに越したことはありませんので、できるかぎり日本の発展に貢献したいと思っているし、将来も日本で働きたいと思っています。しかし、どうしようもないのであれば、国外に出て行くしかありません。私だけではなくて、多くの人がそう思ってくると思います。
そういう危機感を皆さんはもっていますか。。。それが私の言いたいことであります。
投稿: 丸山満彦 | 2008年7月14日 (月) 02時11分
丸山先生のお書きのことは理解できます。
私、池田信夫さんのブログの愛読者でもありますし(笑)。
ただ、そのこととこのこととは必ずしも同列には
語ってはいけないような気がします。
ニッポン人がアグレッシヴさを失っている、内向きになってしまっている
(例えば海外旅行者の減少もその現れのひとつ)。
それはその通りだと思います。
さりとて、闇雲に(闇雲にならないようにルールを決めるんだと
仰せになりたいのでしょうが)国際的な過剰競争をしていくことが
果たして正しいのか、弱者たる私は躊躇せざるをえません。
例えば、冷静に考えれば全く意味のない地球温暖化対策など
かなぐり捨てて
(日本がその為に生産を落とした分、他国が成長を伸ばすだけですから)
ためらいなく経済発展に邁進するとか、
雰囲気や流行に流されないやり方を貫く、とか。
もちろんJ-SOXなんてアメリカの猿真似は即時に止めてね。
逆説的なことを申し上げますが、
世界のことを考えるのではなく自国のことを考えるべきでしょう。
言うまでもなくそれは保護貿易でもなく農産物非自由化でもありませんが。
投稿: 機野 | 2008年7月15日 (火) 00時44分