すかいらーくMBOの行末はどうなるのだろう?
急に医療過誤事件でバタバタとしております関係で、ブログを更新する時間もあまりありませんが、ちょっと驚きのニュースがありましたので感想だけとどめておくことにいたします。2006年6月に公表されました外食大手のすかいらーく社のMBO(マネジメント・バイアウト)でありますが、MBOによって大株主となった野村プリンシパル・ファイナンスとCVCがすかいらーくの現社長に対して退任要求をされたそうであります。(とりあえず朝日新聞ニュースはこちら)また、別のニュースによると現社長さんはサントリー社に対して増資を要望しておられるようで(毎日新聞ニュースはこちら)、野村やCVCなどのPEファンドとの信頼関係がどうも喪失されてしまっているような雰囲気であります。ちなみに、いつもM&A関連のエントリーをアップする際には申し上げるところですが、私自身はとくにそういった分野に精通している弁護士でもなく、いわばすかいらーくさんと同業他社の社外役員、という立場からの感想としてお聞きいただければ幸いです。
すかいらーく社のMBOは投資額3800億円(ちなみに野村プリンシパルとCVCが出資した投資事業会社であるSNCインベストメントがTOBによって取得した金額は2730億円)であり、日本最大級の規模であります。2006年9月には東証一部を上場廃止となり、上記SNCインベストメントがすかいらーくを吸収合併、その後すかいらーくの創業家社長がCEOとして就任しているものであります。報道されているところによると、経営陣3%、野村プリンシパル61%、CVC36%の保有株式のようですね。
非上場化を目指した理由としてはいろいろとあるでしょうが、こんなに短期的に「業績が上がらない」ことを理由に現経営者は退陣しなければならないのでしょうか?(まだわずか2年ですよね?)そもそも改革を断行するわけですから、短期的に利益が上がらないことは当初から織り込み済みでしょうし、また外食産業の景況感がどこも同じように悪いわけですから、経営陣による経営手法に問題がある、ということはまったく言えないはずであります。「リストラの速度感に対立がある」とされていますが、外食産業の場合、これだけ食中毒事件や食品偽装事件が問題視されているなかで、リストラを加速させればコンプライアンス問題に直面することは誰の目にも明らかでしょう。(店舗閉鎖とリストラがリンクしているのであれば別ですが)いろいろな報道ニュースを読みましても、ガソリン代の高騰問題や消費不振による影響が予想外であったことは記載されていても、経営者のどこがどう悪くて退任要求をされたのかはまったく素人にはわからないところです。普通、MBOによって再上場を目指すとしても、4年から7年程度の期間、経営改革に取り組むわけですし、わずか2年で経営者交代といった結論が出る・・・というのはとても信じられないところであります。
また、これも素人的な感想でありますが、MBO投資を支える銀行団の了解がなければ経営陣の退任については大株主だけで決めることができない、ということのようですが、これって「これからMBOを考えてみようか」と思案している経営者の皆様にはどう映っているのでしょうか?ちなみに、本件で大株主であるCVC社が監修している本「これがMBOだ!」(かんき出版 2007年11月発行)の185ページを読みますと、日本企業のガバナンスはかつて銀行に牛耳られていたが、これからは銀行にも証券会社にも耳を貸さなくてすむ、ということをMBOの大きなメリットとして記述されています。(この本は「なぜすかいらーくは非公開化したのか?」という項目を掲示しており、今回の騒動については参考になります)しかし、銀行の了解がなければ経営者の交代がままならない、ということになりますと、結局のところガバナンスの大きなところは旧態依然に銀行に抑えられていることになって、「いったいMBOのどこが魅力なのだろうか?」と素人ながらに疑問を呈したくなるところであります。私はとくに経営者寄りの意見を持っているわけでもなく、むしろMBO事例においては「少数株主保護」の視点から注目をしているものでありますが、そもそも2年前にTOBに応じた個人株主の方々は、これから現経営陣のもと、抜本的な改革を行うことで企業価値が高まること、SNCインベストメント以外にTOBをかけてくる第三者が当時いなかったことから、おそらくTOB価格は適正な企業価値を示している、といったことに納得されていたのであろうと推測されます。すかいらーく社は、もはや非公開企業でありますので、とくに(銀行団以外の)誰に対しても今回の騒動について説明責任は発生しないものでありますが、こういった事態はTOBに応じた株主にとってみれば期待を裏切られたものであり、「はたしてあのとき、本当にMBOすべき会社だったんだろうか」と疑問を抱いておられる方も出てくるのではないでしょうか。
なんだか「おバカ加減」をさらけ出してしまったようなエントリーになりましたが、そもそも株式非公開化に伴うMBOの場合には、TOBの手続きを通して(MBOによって企業価値が向上する、といった買収者の意見、現経営者の賛同意見が表明されるわけですから)素人にもわかるような解説がどこかにあってしかるべきではないかと思う次第であります。8月中旬に、臨時株主総会が開催されるそうですが、ぜひとも今後の展開に注目しておきたいと思います。
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コメント
こんにちは。
経営陣の交代が銀行の了解事項なんて初耳ですね(ファンド側は株式を銀行の担保にしているのかな)。
しかし、最近の銀行はシンジケートローンのコベナンツ(制約条項)により、かなりあれこれ経営者の自由を奪っていると感じます。よく、有価証券報告書にも継続疑義の欄に「シンジケートローンの財務条項に抵触しているので、期限の利益がない」といった話がありますね。
もっとも銀行から見れば、かつての甘いグリップがあのような事態を招く一因となったという「反省の念」があると思いますが。
したがって、経営基盤が盤石とまでいかず、景気の波に左右されやすい中堅どころの企業さんには、MBOに関係なく、銀行の干渉が大きくなったと感じていらっしゃると思われます。
不良債権の防止の観点からは、良いと思う反面、期限の利益の観点からは「うるさいなあ」と感じてしまうでしょうね。
もとも最近は「うるさい」を通り超えて民事再生まで一直線というパターンが多いのかな?毎日のように記事になっていますね(3回目の会社更生なんてのも新聞に出てびっくりした次第です。裁判所は保全命令だすのかな? これも見ものですが、なんでも許容するとなるとモラルハザードの観点も考えてほしいなあ。ゾンビ企業の社会的存続意義なんてあるのか)
抜本的な経営改革という定義も客観性があいまいで、事前の事業計画との前提条件の違いが外部要因なのか内部要因なのかでも話がかなり変わってくるのかなあと感じました。
投稿: katsu | 2008年7月31日 (木) 09時01分
katsuさん、コメントありがとうございます。たいへん勉強になります。
今朝の日経新聞に、もうすこし詳しい報道がなされていますね。現経営陣の総退陣ではなくて、別の執行役員の方をトップにすることで業績回復をはかりたい・・・といった感じですね。(大株主の意向としては)
また、どっちかというと、現経営陣側の事情よりも、MBOにからんで銀行団との融資契約に盛り込まれている条項との関係で、大株主側があせっているような報道がなされています。いずれにせよ、MBOが実行される場合には当然にシンジケートローンが付されるわけですが、契約条項によっては大株主以外の意向によって経営環境が変わってくるということがありますと、当然にそのような点についても広く説明される必要があると思います。また、サントリーさんの増資提案については、この銀行団はどのように対応されるのでしょうかね。
またkatsuさんのブログでも、一度ご解説いただけますとありがたいです。
投稿: toshi | 2008年7月31日 (木) 17時33分
TOSHI先生、こんばんわ。
私の外資系の勤務経験にてらしますと、CEOの経営能力は1年もみればわかってしまうので、2年目で改善の兆候すらみえないならば、首が飛ぶのはあたりまえです。MBOをして上場までは4,5年かかるのは普通でしょうが、こんなCEOにやらせていたら上場なんて無理と思われたら、ハイ、それまで、ということに外資だったらまちがいなくなります。情報をみたことがないので、この経営者がそうなのであるという意味ではまったくないのですが、もしそのように投資家に判断されたとすれば別に不思議なことではないように思いますが。そんだけプレッシャーたかいので、外資の経営者は若いのに40代で白髪になりしわもふえますよね。私の上司もできる経営者でしたが、5年間でほんと、ふけました。
投稿: とも | 2008年8月 1日 (金) 23時47分
とも先生、ご意見ありがとうございました。たいへん楽しく読ませていただきました。とも先生のところは大きな法律事務所ですし、ファンドの代理人などもされているご経験からすれば、こういったことは当然なのでしょうか。
今後MBOをお考えの経営者の方からすれば、ぜひ、こういった事例やとも先生のご意見があることを熟知していただきたいと思います。しかし、経営能力以外にも、大株主と経営陣との間でなにか信頼関係が破壊されるような事情などもあるのかもしれませんね。もし、そんなものもない、ということだと、かなりコワイ世界だなァと(^^;
こういった世界に素人の私は、現経営陣が大株主の意に反するような増資先を勝手にみつけてこれることこそ、なにか事前の「縛り」はなかったのだろうか?と不思議に思えてくるのですが。いろいろと疑問がつきません。
投稿: toshi | 2008年8月 2日 (土) 22時42分
8月9日(土)の日経11面で、社長解任の見通しが報じられていますね。解説記事で、MBO実施時に経営陣と投資家の間の意向のズレ(同床異夢)が分かりやすく説明されていて、なるほどと思いました。
投稿: おおすぎ | 2008年8月 9日 (土) 11時19分
ほんとですね。クレディ・スイスのO先生も「もともとの考え方の違いにある」とコメントされていますので、やっぱりMBO導入時におけるリスクへの認識に大きな差があることがわかりますね。
しかし2007年1月に就任した社長さんが一年後の2008年1月に交代を打診されていた、ということですから、これが現実とすると、これから非上場化をはかろうと考えている社長さんは、MBOリスクを認識しておく必要がありそうです。あと、よくMBO指南書には「経営者と従業員が一体となるインセンティブ」を喧伝していますが、今回組合は投資ファンド側への賛同の意思を表明していますので、このあたりも、なぜこういった経緯となったのか、知りたいところです。
投資ファンドではなく、同業他社がMBOに参画してくるケースもありますので、そういったケースだとまた少し違うのかもしれませんが。
続編のエントリーをたててみたいです。
投稿: toshi | 2008年8月 9日 (土) 14時40分