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2008年8月29日 (金)

関西不正検査研究会(第1回会合)

そごうの元株主らによる損害賠償請求訴訟の控訴審判決が出たようですね。(産経新聞ニュース)原審と同様、元代表者による粉飾決算は認められないとして、原告株主の請求は棄却されたようであります。本件も日本で最も大きな監査法人さんが被告となっておりますが、どういった内容で原告らが敗訴したのか、近日中に全文にあたって検討してみたいと思っています。(控訴審の審理期間がかなり短かったので、おそらく原審の判断内容とはあまり変わっていないと思いますが)

さて本日はご報告ネタでありますが、以前、当ブログでも広報させていただいておりました「関西不正検査研究会」でありますが、去る8月26日、某所にて第一回の研究会を開催いたしました。ACFEに加盟するCFE(公認不正検査士)およびACFE会員によるCPE(継続研修制度)のための公認研究会でありまして、私を含む発起人3名は「いったい、関西でどのくらいの会員が集まるのだろう?」と危惧しておりましたが、本日現在で登録者14名、当日の出席者は12名ということとなり、たいへん盛況な研究会となりました。

弁護士、会計士、会計学の先生以外のメンバーは、みなさん企業の業務監査室、監査役室、監査役、セキュリティ部門等の方々でして、なかには「海外の取引先企業から、ひとりもCFEがいないのは問題」と指摘され、社命によって資格を取得された方もいらっしゃいました。(アメリカではすでに2万人のCFEが活躍しております)参加者は、皆様「守秘義務誓約書」を提出していただいておりまして、それぞれの(社内規定に反しない範囲におきまして)会社における内部監査事情を赤裸々に語っていただきました。

各企業の諸事例をお聞きして印象深かったのは、どこでも立派な内部統制システムが存在するにもかかわらず、その網の目をかいくぐって、用意周到な準備のもとで業務上横領や背任行為、情報窃盗等が行われる、ということでありました。安全や品質、コンプライアンスに関するマニュアルが完備され、また監査が慣行化してしまいますと、やっぱり「穴」が開いてしまうんですね。いわゆる不正のトライアングル(動機、機会、正当化根拠)のうちの「機会」がそこに発生してしまうわけです。当ブログでも何度か申し上げましたが、内部統制システムが不正予防に効果的であることの条件は、その運用や改善にあたって「動物的な勘」をもったごくごく少数の人材の存在ではないかと考えておりますが、やはりそういった実感を更に強く抱いた次第であります。(簡単な例をあげますと、内部通報がほとんどない場合に、うちの会社は平和だね・・・と安堵する社員のなかで、ひとりだけ内部通報制度の仕組みのまずさを指摘して改善を提案するような感じでしょうか)

内部統制というと、どうしても「仕組み」をイメージしてしまいますが、改善のための運用評価や、調査方法、人材育成など、いわゆる「プロセス」こそ最も重要なんでしょうね。これがそんなに簡単ではないところだと思います。

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2008年8月28日 (木)

アーバンコーポレイションの情報開示の問題点(その2)

ロイター通信のアクセス1位になってますね、この記事。

破たんアーバン増資に市場から批判、金融庁もパリバをヒアリング

さすがに内容はおもしろいです。有識者のコメントも豊富です。記者さん方の取材意欲が伝わってくるような内容ですね。やっぱり問題化してきましたね。仕事中なので、とりいそぎ備忘録としてアップしておきます。

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2008年8月27日 (水)

ANAの景品表示法違反と企業リスクマネジメント

(27日午後追記あります)

ANAの広告と景表法違反問題に関する昨日のエントリーにはたくさんのアクセスありがとうございました。また、ちゅうさんやある非ユーザーさんから有益なコメントをいただきました。また、消費者問題に詳しい川村先生も、ご自身のブログにおきまして、「これはやっぱり排除命令が出てもしかたない」とのご意見を述べておられます。どうも私の意見は分が悪いようです。

それでは、皆様がたのご意見にひとまず従うとしまして、では企業側からすれば、こういった排除命令の現実を見据えて、どういったリスクマネジメントをとればいいのでしょうか。もちろん排除命令が出てしまった以上は、命令内容を履行しなければ法令違反になってしまうわけですが、私がここで検討したいのは、

このポスターをそのまま使いつつ、排除命令が出ないような工夫はあるのか?

ということであります。ひとつは、このポスターが新型シートを全面に出したものであるがゆえに、全日空国内線のプレミアムクラスすべてに、同様シートを設置したうえでなければ排除命令の対象となるのか、それとも、「4月1日スタート」「順次導入」とあることから、すくなくとも4月時点において国内線のうち1機だけでも同様シートに変更していれば「順次導入」として排除命令の対象からはずれるのか?というものであります。これは「優良誤認」の基礎となる前提事実をどう考えるのか、という問題ですよね。当然に企業側のリーガルリスクの回避としては1機だけでも同様シートに変更することで、この広告をそのまま使えることが好ましいわけでして、このあたりはぜひとも皆様のご意見を伺いたいところであります。

そしてもうひとつは、コメント欄にも少し書きましたが、(法令違反という現実は受容せざるをえないとしても)プレミアムクラスを購入しようとするお客様に対して、「お客様が搭乗される国内線のプレミアムクラスにつきましては、この新型シートではございませんがよろしいでしょうか」といった説明を行うことで苦情件数を減らす努力をすれば、そもそも公正取引委員会が動くことはなかったのではないか、ということであります。報道では20件ほどの苦情があった、とのことですが、この苦情が実際に利用された方によるものなのか、問い合わせだけに来られた方によるものなのかは不明です。ただ、実際に利用された方の「消費者被害」が現実にあったがゆえに、公取委が調査に乗り出したとすれば、不当表示以外の企業活動によってリーガルリスクを低減することは可能なはずであります。このあたりはどうなんでしょうか?

景表法違反は、最近、競争規制というよりも「表示適正化」に重心を置いている、とちゅうさんがコメントでお書きになっておられますが、たしかにこういった排除命令が出るような事態となりますと、どうしても広告そのものの修正のほうに目が行くのが当然だと思われます。しかしながら、せっかく「お客様に夢を与える」ことを真剣に考えて広告を作っている以上は、いまの広告をそのまま残しつつも、どうしたら景表法違反のリスクを低減することができるのかを考えることも、大切なことではないでしょうか。このような発想で考えることにより、「お客様をだます広告」とそうでない広告を区別することにつながり、またそういった議論を踏まえることで(景表法による)広告の自由に対する萎縮的効果もできるだけ少なくする道も見えてくるように思います。

(27日午後;追記)すいません、勝手なことを気ままに書いていたのですが、とんでもなくアクセス数が多いので、ひとことだけ「おことわり」を追記いたします。私はとくに「法令違反行為」を推奨するつもりで書いたのではなく、企業に及ぶ現実のリスクを回避するための方策について思案しているものにすぎません。CSR経営の視点からすれば、そもそも情報を正確に伝えていない広告はただちに修正すべき、ということになろうかと思いますが、情報を正確に伝えていない「らしい」広告であれば、これを正確に伝える方策は、広告の修正以外にもあるのでは?といった発想も必要ではないか、ということを言いたかったものであります。

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2008年8月26日 (火)

ANAの景品表示法違反(これでもアカンの!?)

ひさりぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、全日空の「プレミアムクラス」の広告(テレビでも三国連太郎さん、佐藤浩市さんのCMが記憶に新しいところです)が景品表示法4条1項1号(優良誤認)違反として、公正取引委員会より排除命令を受けたそうであります。(朝日ニュース  読売ニュースなど多数。またANAの開示情報はこちら です)

公取委のリリースに、問題となった広告が添付資料として掲載されておりますが、この広告が「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すこと」になってしまうのでしょうか?プレミアムクラスの商品の特色が①幅広シート、②高級料亭による食事、③特別ラウンジの使用の三本立てであることは広告から読み取れますし、「4月1日スタート」なる文字よりも少し小さな文字ではありますが、「シートは順次導入」と明確に記載されていますから、プレミアムクラスに搭乗したいと思っていた方は、おそらく「いつから?」なる情報とともに、この「順次導入」にも注意が向くと思われます。広告に大きく「4月1日スタート」とあれば(不当表示かどうかは、一般消費者からみた印象をもとに判定することになりますので)写真のイメージと文字から「誤認のおそれ」もありそうですが、文字の配列などからみて、この広告はおそらくANAの社内におきましても、景表法違反にならないようにリーガルリスクに注意をしながら作成したものではないでしょうか。

それでは、かりに同じデザインの広告で、JALより先にANAがファーストクラスを導入していたらどうだったんでしょうか?今回と同様、お客様から苦情が出ていたとしても、景表法上の不当表示には該当しなかったのでは?といった疑問が浮かびます。実際にはJALがこのANAの広告の2か月ほど前に「幅広シート」を目玉商品として国内線にファーストクラスを導入しているわけです。つまり競争相手が幅広シートを目玉商品としてファーストクラスを打ち出したわけでありますが、一般の消費者には、先行するJALのサービス商品のイメージが刷り込まれているわけですから、ANAとしては「シートが目玉商品です」とは一言も口に出さなくても、おそらくこの広告を見た一般消費者は、「シートは三本立てサービスのうちのひとつ」ではなくて、「このシートがANAのプレミアムクラスの目玉商品」といったイメージを持ってしまうのでしょうね。つまり比較するものが存在しない状態であれば、この広告でセーフなのかもしれませんが、すでに比較の対象となる先行商品が現存する状態であれば、同じ広告でも、消費者の積極的な誤解を排除するだけの表示がなければ「不当表示」になってしまうということが考えられます。

上記はまったくの私見に基づく推論ではありますが、もし同じ広告でも、他社の営業戦略との時間的な後先によって法令違反が生じてしまうということになりますと、景表法違反のリスクはけっこうコワいですよね。ANAの開示情報によると、排除命令を受け入れる予定のようでありますが、競争法としての景表法違反となるのかどうか、争っていただけるとかなり関心が高まるのではないかと思いました。とりわけ景品表示法違反の事件は、公正取引委員会から消費者庁へ移管することになっておりますし、今後の運用次第では、いくらでも企業経営に萎縮的効果を及ぼす可能性のあるところであります。まさに行政処分を争うことによって、広告活動の自由と規制の「狭間」を探る必要性の高い分野だと思っておりますが、いかがでしょうか。

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2008年8月25日 (月)

サンプリングと「勘プリング」

年齢を重ねてきますと、若い時に比べて本当に涙もろくなってきまして、北京五輪の閉会式でジミー・ペイジが往年のツェッぺリンの名曲を弾くのを見て感動し、またサザンの大感謝祭最終講演を見ては感動し、日曜の夜は本当にウルウルきてしまいました。(お別れライヴ完全版は10月にWOWOWで放送されるようですね)

さて、この週末はコメントをいただいておりました「迷える25件」さんをはじめ、常連の方々の「サンプリング」に関するご意見について、とても興味深く拝読させていただきました。当ブログで、これまで100件以上のコメント(一部、後で整理しておりますが)がついたのが「サンプリング」に関するエントリーでありまして、本エントリーのカテゴリーであります「経営者のためのサンプリング(J-SOX)」をクリックしていただきますと、2007年3月ころからのエントリーと、そのコメントがご覧になれます。なお、今回の迷える25件さんのご意見のなかで、私も気になりましたのが、以下の部分であります。

いわゆる監査論で言う、実証性監査の前の遵守性監査はどのへんが危ないかと言う概算的指標による領域探査を目的としたところにある点でロジカルかと思います。仮にこれで25件とか50件とかを初期値としても違和感は覚えません、第一段階の理論的ふるいなわけで、さらにこれに加えて専門家の経験と勘と言うものが働くわけですから、理に適う戦略的な方法でしょう。

ところが今回の内部統制報告制度はその適否を経営者が表明しているというものであり、法的責任を背負ったものである以上、信憑性──信頼性にそれなりの論理的根拠が必要かと思います。その点を25件と言うのは(信頼度と許容エラー率の問題と換言出来ますが)、ちぐはぐでしかないと思われます。これを言ったら、これまでの会計にまつわる企業大不祥事はいわゆる内部統制の限界である経営者の統制無視に端を発している事が歴史的に明らかなところで、内部統制でこれを規制しようとする点ですでにちぐはぐですが。

私のような文系人間が、当ブログで「属性サンプリング」を話題としたのは、内部統制報告制度においては「経営者評価」が法制化され、これまで会計専門家に任せていればよかった内部統制の検証作業を素人がやらなければならなくなったためであります。もちろん企業の内部監査室には会計制度に詳しい方もいらっしゃるでしょうし、優秀なコンサルタントに逐次ご教示いただいている企業もあるかとは思いますが、「上場企業すべて一斉スタート」である以上、少なくとも私程度の「ど素人」でも理解できなければ、おそらく業務プロセスの運用評価が先に進まないのではないか?といった懸念からエントリーをアップしたわけでありまして、「迷える25件」さんのように真正面からツッコミを入れられますと、無視するわけにはいかないところであります。社会科学のひとつである会計制度を世の中のために活用するための道具なんだから、機野さんが言われるように「らしいものが採り入れられた」程度に考えたほうがいいとは思うものの、やっぱり気になるところであります。

最近公表された日本監査役協会の「財務報告内部統制アンケート」(5月)や、7月24日の日本総研の内部統制実態調査、日本内部統制研究学会アンケート結果、そしてまもなく公表されるであろう日本取締役協会内部統制部会の第5次アンケート結果などをみましても、現場担当者(もしくは経営者)の悩ましい問題として、この「業務プロセスの運用評価の方法」ということがほとんど上がってこないのは不思議です。(サンプリングなる言葉さえ出てこないのは、ひょっとするとアンケートを行う主体のほうが、あまりこの点についての問題意識をお持ちではないのかもしれませんが)そろそろ第一回目の内部統制監査が始まっている企業も多いとは思いますが、運用評価においてサンプリングを採用するのか、しないのかの選択も含めて、実際にどの程度の評価方法に関する協議が行われているのか、私自身も知りたいところであります。(そもそも整備に関する評価が有効と判断されなければ運用方法に関する判断まで到達しないことになりますので、今後の課題・・・というところなのかもしれませんが)

とりわけ迷える25件さんのコメントを拝見して、少し考えこみましたのは「サンプリングと勘プリング」のお話です。以前のエントリーへのコメントでbunさんが「母集団全体の特性を推定するにあたって、二項分布とか正規分布をすぐに持ち出してきた場合、こいつ楽しやがったな・・・と思って、その先は読む気がなくなります」と書いておられました。私などは、途中をはしょって、公式のように覚えればいいのでは?と考えておりましたので、25件をサンプルにとることの「逸脱率」と「信頼性」だけの理屈をわかればいいような感覚を持っておりました。ただ実際にはサンプリングの対象として選択されたキーコントロールの内容次第では、財務諸表監査における内部統制評価の実務を積んだ職業会計人の方々の勘が働かなければ、サンプリングによる最終結果としての「有効性」判断には到達しないのではなかろうか・・・と思われますし、そのあたりをズバっと指摘されますと、では経営者としてはどう考えたらいいのだろうか・・・と悩むのが自然ではないでしょうか。

現実には、サンプリングの巧拙によって経営者の法的責任が左右される場面というのはあまり考え付かないところでありますが、アプリオリに「25件のサンプリングでミスがなければ不備はない」として運用評価に臨むことと、「この基準が本当に母集団の特性を映し出すものかどうかは諸々の問題点はあるけれども、費用対効果の関係では正しい方法だ」と悩みながら取り組むのでは少し差があるように考えます。とりわけ当局はどこまで整備したか、ということよりも(少なくとも1年目は)その取り組む過程こそ重要であると強調されていますが、そうであればなおさら、経営者評価における「悩み」を抱きつつ試行錯誤する姿勢も決して無駄ではないと思います。(今後の応用力を身につけるためにも・・・)

※ なお「実施基準」におきまして、経営者評価は「サンプリングにより十分かつ適切な証拠を必要とする」とありますが、監査人監査基準とは異なり、25件なる件数が要件とはされていないことにご注意ください。

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2008年8月21日 (木)

消費者保護行政とソフトバンクモバイルの対応(素朴な疑問)

読売新聞ニュースによりますと、ソフトバンクモバイル社(以下、SBM社といいます)が「一方的に契約内容を変更した」として、利用者から国民生活センターへ多くの苦情が寄せられている、とのこと。約2か月間、センターとSBM社が協議交渉を行った末、SBM社が一定の改善案を出したことから、センターとしてもこの改善案を評価している、とのことであります。詳しくは国民生活センターのプレスリリースを参照ください。

プレスリリースによりますと、SBM社の回答概要は、これまでの契約内容変更に関する周知が不十分であったから、改めて周知する。周知期間は従前の契約内容の履行を保証する。今後さらに周知して、契約者の意思を確認のうえ新しい契約内容を適用する、といったものであります。「月々500円の保証料を払えば、外装破損の無償交換を認める」とあったものを、80%割引きに契約条項を変更したことによって、これまで保証料を払ってきた人も約3000円程度の交換費用を負担しなければならないことに契約内容が一方的に変更される、というものであります。

このニュースを読んで、私はどうしても素朴な疑問が浮かんできます。SBM社の回答によると、本件は「説明不足」が問題だから、ご迷惑をかけた契約者にはそのお詫びをします、というものであります。けっして、一方的に契約内容を変更したことは間違いでした、とは言っておりません。しかしながら、そもそも契約というものは携帯電話利用者と事業者との自由な意思による合意ですから、なぜ一方的にSBM社が契約内容を(利用者に不利に)変更することができるのでしょうか?その変更については携帯利用者の合意が必要ではないでしょうか?先のSBM社の回答内容によると、たしかに改めて意思確認を行うことは記載されておりますが、明確な意思確認ができない利用者には新しい契約を適用します、とありますので、やっぱり「一方的な契約内容の変更」自体が有効であることを前提としていることがわかります。

ソフトバンク側からの抗弁としては、まず約款の中に「この契約は事前の予告なしに、サービス内容を変更することがある、ということが書かれている」ので、利用者から事前の合意はもらっている、との主張です。しかしながら、消費者を相手とする有償双務契約において、消費者側に一方的に不利益なサービス内容に変更することは、明らかに公序良俗違反であって、その条項自体が無効になる可能性があります。たとえ無効にはならないとしても、一方的に変更される「役務」とは、(有償契約ですから)そもそも従前の「役務」と対価として相応な役務のことを指す、として少なくとも限定的な解釈がなされるはずであります。

また、もうひとつの抗弁としては、(もし一方的な不利益変更が公序良俗違反にならない合理的な理由があるとすれば)携帯電話事業に関する契約でありますので、いわゆる「附合契約」の性質を有するものであって、たとえサービスの提供内容が利用者に不利益を生じさせるものであっても、契約内容については個別の交渉なくして、利用者へ適用させることに合理性がある、とする理屈だと思います。つまり電気料金の値上げと同じく、電力提供契約を締結している事業者側の都合によって、利用者の同意、不同意にかかわらず値上げ料金が適用されるのと同じ性質のものである、ということでしょうか。ただ、こういった公共料金の値上げは、認可が必要なものですから、勝手に不利益な契約内容の改訂を行うこととは異なる状況にありますし、また携帯電話の利用契約については、細かな利用条件に合わせて契約内容を選択することができますので、そもそも一般の附合契約とも少し違うのではないかと思います。附合契約の特質は「契約をするかしないかの自由しか利用者には認められず、契約内容を交渉する余地がない」ところにあるわけで、一方的な契約内容の変更に関する合理性を根拠付ける理由とはならないように思います。

こういった理由からしますと、そもそもSBM社の一方的な不利益変更を規定する条項自体の効力がどうなのかを明確に確認することが本来の消費者行政の役割であり、そうでなければ将来的な消費者被害の事前抑止には役に立たないように思うのでありますが、いかがなものでしょうか。もちろん行政が私法上の法的な効力に関する公権的な判断など出せるものではありませんが、せめて条項の見直しを要望するといった指導的役割は果たすことはできないのでしょうか。さらに、こういった場合に消費者訴権を有する適格消費者団体によって、条項使用の差止請求など提起することは無理なのでしょうか。素朴にそういったことを疑問に感じております。なお、通信事業法のような個別法規を調べたわけでもない、個人的な私見にすぎませんので、誤り等、ご指摘いただけましたら幸いです。

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2008年8月20日 (水)

アーバンコーポレーションによる情報開示の問題点(まだ思案中)

数日前に備忘録として若干触れましたアーバンコーポレーションの民事再生申立の件ですが、昨日あたりのニュースによると、東京証券取引所も調査を開始するようですし、また監督委員の弁護士さんもスワップ取引の経過について関心を寄せておられるようであります。ただ、本件はコメントでKazuさんやろじゃあさんがご指摘のとおり、いくつかの問題に整理して検討するほうが適切だと思います。噂としてはいろいろと出ているところのBNPパリバとアーバン社との5月以降の経過とか、スワップの仕組みの問題点というのは、純粋な倒産法上の法律問題ですから監督委員の先生にがんばっていただくことになるでしょうし、タイムディスクロージャー(適時開示)として適切であったかどうかは、証券取引所の方に検討していただくことになるでしょうし、そして「臨時報告書」および「訂正臨時報告書」に関する点につきましては、まさに金融商品取引法上の民刑事問題として検討されるべき問題かと思われます。

実は、ここ数週間に開示されたアーバン社以外の適時開示情報のなかにも、はっきり言ってヤバい(明らかに問題になる)開示情報がいくつかありますよね。重要事実に関する解釈を曲解したり、重要事実の発生時期を開示による影響を恐れて周到に操作したり、といったことが明らかに行われています。ただ、世間で情報開示が問題になるのは、今回のアーバン社のように、その情報の裏側まで世間に周知されることが前提であって、「あの会社は怪しい」といった議論がなかなかできないところに特徴があります。開示ルール違反ではないか?と、首をかしげたくなるような「グレーゾーン」は頻繁に指摘されるところですが、結局のところ一般投資家に大きな損害が発生して初めて事後救済の段階でやっとルール違反の有無が問われることになるということなんでしょうね。開示ルールの事前規制ということでいえば、結局のところ内部管理体制を厳格に要求するか、改正金商法によって創設されるプロ向け市場のNomad(上場企業後見人制度)的な制度を一般上場企業にも採り入れるか、といったことが必要になってくるのではないでしょうか。

さてEDINETでアーバンの開示情報を検索しますと、Kazuさんがご指摘のとおり、訂正臨時報告書が8月13日に出ていますね。内容的には適時開示情報と同一のものと思いますが、スワップ契約に基づいて割当先にいったん社債金額300億円を全額支払って、スワップ契約に基づく受領金を適宜受領する・・・という内容が「訂正」された資金使途ですが、これは本当に訂正で済むのでしょうか?ご承知のとおり、金融商品取引法197条の2第6項では、臨時報告書の重要な事項につき虚偽記載のあるものを提出した場合には刑罰の対象となるわけでありますが、たしかに開示府令第19条の内容を検討してみましても、新株予約権付転換社債発行時に臨時報告書へ記載すべき内容のなかには、そういった条件を記載することまでは要求されていないようであります。しかし(形式的にせよ)300億円という資産が(信用リスク回避のために)アーバン社からBNP社に対して移動しているわけですし、これは投資家の判断に著しく影響を与える事実ではないでしょうか。少なくとも、スワップ契約の内容が事前に開示されていなければ、一般投資家の自己責任を問えないと思いますが、このあたりはいかがでしょうか。また臨時報告書虚偽記載の問題ではないとしても、金商法157条のバスケット条項の適用が問題となりそうな気もします。一般投資家の判断を基にすれば、BNPパリバによる300億円の資金支援の事実はアーバン社にとっては起死回生の事実と受け取るのが一般だと思うのですが、こういったスワップ取引の存在を同時に知っていた場合には別の考え方が成り立つはずですし、いずれにしましても、本件の開示ルール違反疑惑につきましては、どのような問題に発展していくのか、非常に関心の高いところであります。(ただ、アーバン社の場合、最近まで元検事総長の方が社外取締役に就任されていらっしゃったので、そのあたりも影響があるかもしれませんが・・・)

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2008年8月18日 (月)

民法上の使用者責任と内部統制

お盆休みも終わりましたね。私は家族と一緒に世界遺産の高野山に出かけていましたが、気温が平地よりも6度低いことに加えて、たいへん湿度が低いためにホントにクーラーいらずの週末でした。しかし高野山の人口が最も増える万灯会(まんとうえ 8月13日)を避けて出かけましたが、やっぱりお盆シーズンはとても混んでました。精進料理がお嫌いでなければ、一度高野山を訪ねてみるのもいいですよ。

とても興味のある裁判を8月14日の産経WEBだけが報じているようですが、四国労働金庫の元職員から預金をだまし取られたとして、その被害者の方が四国労金を相手に損害賠償請求を求めた裁判におきまして、高松高裁は四国労働金庫の(元職員の不法行為につき)民法715条に基づく使用者責任を認めたそうであります。なお、原審地裁判決では、四国労金の使用者責任を否定(棄却)していたそうですので、裁判所の判断が分かれた事例ですね。(産経WEBのニュースはこちら

このニュース内容によりますと、高裁が使用者責任を認めるに至った最大の論点としては、使用者責任免除の根拠となる「使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当な注意をしても損害が生ずべきであったとき」に該当する場合であったかどうか、ということだと思いますが、高裁は他の職員が、元職員の預金詐取の事実を予見できたか、または少なくとも上司や被害者に事情を聞くなどして損害を回避することができたはずであるから、免除されるべき場合にはあたらないとしております。

そもそも民法上の使用者責任は、使用者側が監督責任がないことを立証できなければ認められてしまうものでありますので、厳格に解釈されることは事実でありますが、こういった高裁の判断理由をみますと、社内における社員(使用者責任との関係でいえば、上司ということになりますが)の規範的行動に関する期待によって、その企業の責任の有無が判断される、ということになります。(おそらく地裁の判断は、元職員の不正行為についてはそこまで上司の行動に期待するのは無理というもので、いわば会社としては相当の注意をしても到底損害発生を回避することはできなかったというものであって、会社の使用者責任は追及できない、というものだったと推測されます。)本件は、元職員が懲戒処分を受けた後の犯行でありまして、別の職員が預金手続きに関与していることから「外形的んは」事業の執行について被用者性が認定されていたものと思いますし、また「別の職員」の行動にもちょっと首をかしげたくなる部分もありますが、「社員としての規範的な行動」に焦点を当てて使用者責任を認めたものであることは間違いないだろうと思われます。

法律家が「内部統制」を議論する際には、取締役の法的責任論(会社法上の善管注意義務違反にあたるかどうか)との関係で論じることが多く、また大和銀行事件地裁判決のころ(平成12年)と比較して、最近は会社法や金商法においても「内部統制システムの構築義務」(義務とまでは言えるかどうかは議論のあるところですが)が謳われていることから、取締役にはより高度な注意義務が課せられるようになった(言い換えると、責任が認められやすくなった)と言われることが多くなったように思います。そして、上記のような裁判所の判断理由からしますと、取締役の法的責任だけでなく、企業自身の法的責任の有無にも、内部統制に関する議論が影響を及ぼすのかもしれません。たとえば内部通報制度の整備状況とか、業務プロセスにおける牽制システムやチェックシステムなどが整備されることによって、部下や同僚の不正行為の予防、発見の期待というものが、そのまま結果回避義務として「法的責任」へと関連付けられる、ということになるのでしょうね。

あまりこういった視点で「内部統制と法的責任」が議論されたことはなかったものと思いましたので、あくまでも「たたき台」として、すこしだけ考えたことを留めておくことにいたします。

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2008年8月16日 (土)

すかいらーくのMBOにみるファンドと金融機関の関係

あまりネットニュースではとりあげられていませんが、日経新聞では8月9日、13日そして本日(15日)夕刊などで詳細が報じられていました「すかいらーく」社の創業家社長解任の件、ブログ意見なども含めまして、やはり経営者にとってはMBOはそんなに甘いものではないということを改めて思い知らされました。(もう少し創業家社長さんの言い分について深くお聞きしたいところですので、できれば日経ビジネス誌の「敗軍の将・・・」で思いのたけを述べていただければありがたいと思うのでありますが)私自身はとくにM&Aに詳しい弁護士ではございませんが、同業他社の社外役員たる立場の人間として、以下のとおり感想を述べておきたいと思います。

PEファンドと経営陣とのこれまでの経過については、新聞報道などで理解できましたが、やっぱり未だによく理解できないのがPEファンド(の設立した投資会社、つまり新生すかいらーく社)に融資をしている銀行団とPEファンドとの関係であります。株式非公開化によって業績が向上している時期であれば、経営者、投資家、債権者間の信頼関係も厚く、再上場を目標として一致団結して業績向上へまい進するのでしょうし、また経営者が業績向上の機会が付与されたにもかかわらず、なんらの抜本的な改革に着手しない、ということになりますと、経営者交代によって計画達成を急ぐ、というのも理解できるところです。しかしながら、今回のように業界自体が著しい不況に陥り、改革が業績向上に結び付かないようなケースにおいては、このMBO計画自体が厳しい状況に追い込まれることになるのではないでしょうか。

経営陣に役員を送り込んでいるPEファンドと比較して、銀行団のほうは経営状況をチェックするだけの情報が入ってこないと思いますので、そのあたりは融資に細かな条件を設定したり、新聞でも報じられているように経営陣を交代させるときには銀行団の了承を必要とすることによって情報の非対称性をできるだけ解消させようとすることについては理解できるところです。ただ、今回の場合のように、外食産業全体が不況に陥っていて、予想どおりのキャッシュ・フローを生み出さない場合には、それ以前の問題としてファンドと銀行団との間で利益相反状態が顕在化するのではないでしょうか。つまり、このままだと業績が悪化する一方であるが、改革を打ち出すことによって確実に収益が上がる場合、銀行団はリスクが少なく確実に収益があがる(ただし、ほとんど投資家に利益が回るほどではない)ほうの改革案に賛成するはずですが、ファンド側は、リスクは高くても収益が大きく上がるほうの改革案を採用するはずであります。(そうでないと銀行だけを儲けさせても何の得にもならないわけですから)いわば、ファンドとしては銀行団にデフォルトのリスクを負担させてでも、ギャンブル性の高いほうの選択肢を選ぶ、という事態が「業績悪化の傾向」のなかでは生じる可能性があるように思われます。たとえば今回のすかいらーく社の事例において、創業家社長さんの推進している改革が、あと1年もすれば業績向上につながるものだとしても、その業績向上が金融機関への負債返済に資するには十分ではあるが、ファンドの儲けをねん出させるには足りないような場合であれば、ファンドとしてはリスクはあるけれども、一か八か収益が高いほうの選択肢をとるために解任する、ということも考えられるのではないでしょうか。8月13日の日経新聞の記事によりますと、創業家社長の解任につき、19行の銀行団にうち数行が賛同し、その他は態度を保留したとありましたが、結局のところ銀行もこのあたりの「利益相反関係」に関しての疑念を抱きつつ、今回の解任劇を見守っていたのではないかと勝手に推測しているのでありますが、このあたりは是非、内実を知りたいところであります。

本日の日経夕刊(二面)の論調では、MBOにおける創業家社長の出資持分の過少性も含め、MBOに対する経営者の認識の甘さに起因した騒動であったとして「これが正常なMBOへの第一歩」であるとしておりますし、また最近の日経報道に登場されている有識者の方々のご意見も「そもそも経営者と投資家との認識のずれが問題ではないか」ということのようであります。しかし、そういった認識のずれの問題に関しては、創業家社長さんがインタビューで答えておられるように「5年の約束についての内諾を得ていたのに、その内諾をしてくれた担当者が途中でいなくなった」といった、これまでのバブル崩壊時における紛争事例とまったく同じことの繰り返しでありまして、おそらく認識のずれだけを問題としても、今後のMBOの正常化にはあまり役に立たないものと思います。むしろ、すかいらーくの事例において、今後のMBO正常化のために必要なことは、債権者(金融機関)と投資家(PEファンド)との利益相反関係、投資家と経営陣との利益相反関係が、いかなる場面において顕在化するのか、そして顕在化した場合に、関係当事者にとってどういったリスクを背負うのかを整理することではないでしょうか。(たとえばMBO事例において創業家社長を解任させることがどれほどPEファンドの信用、評価に影響を及ぼすのかといったことも含めて)

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2008年8月14日 (木)

「工学倫理」が企業を救う三要素とは?

8月5日の読売新聞夕刊で紹介されていた工学倫理研究の第一人者でいらっしゃる森田正直さんから、昨日、長時間にわたって「工学倫理と企業コンプライアンス」に関するお話をお聞きする機会に恵まれました。(8月6日のエントリーのとおり、「ダメもと」で山陽色素さんのほうへ、本当に勝手ながら連絡をさせていただいたところ、山陽色素さんのご厚意によって、森田さんと連絡がとれまして、めでたく対談させていただくこととなりました。いろんな方に感謝、感謝です)

森田さんは、染料のトップメーカーである長瀬産業さんに定年まで勤務されておられ、現在も技術アドバイザーとして山陽色素さんに所属されておられますが、近畿化学協会の科学技術アドバイザー研究会の事務局長として、他のアドバイザーの方とともに、京大、阪大、九大ほか多くの大学の理工系学部生に「技術者としての工学倫理」を教えていらっしゃいます。「工学倫理」といいましても、大きく分けて「技術者倫理」と「技術倫理」に分けて研究されるのが一般のようです。技術者倫理といいますのは、個々の技術者としての心構えに関するものが中心でありまして、企業不祥事(たとえばデータねつ造)を知った場合に、技術者としてはどのように報告すべきか、そもそも不祥事の兆候を発見した場合に、どのように調査すべきか、被害を最小限度に食い止めるための対策をどのようすべきか、といったあたりが中心となります。いっぽう技術倫理といいますのは、そもそも「不正な目的に活用されないための」新規技術開発を研究するというものであり、たとえば新しい化学技術が開発されるにあたって、悪用されないための技術というものを最初から導入したり、悪用の危険性を抑制するための法制度(社会インフラ)などを最初に策定してから公表する、といったことの研究ということのようです。(そういえば、昨年、京大再生医療研究所の山中伸弥教授にお会いしたときも、「再生医療進歩のための倫理規定の重要性」を強調しておられました)森田さんの講義を受講されている学生さん方は、「そんなことは法学部の学生が勉強するものかと思っていました。」とびっくりされるそうですが、最近の企業不祥事の傾向をみましても、たとえば姉歯事件(構造偽装事件)のように、一般の人では「安全性に問題があるかどうか」が判明せず、技術の専門家の人たちの目によってはじめて不祥事が発覚する、という場面には、まず技術者の方々のコンプライアンスに対する意識の向上が図られる必要があるわけでして、これは到底法律を学ぶ人間だけではどうにもならないところであります。

森田さんとのお話のなかで、ブログではとても書けないような現実の不祥事発生に至る実例をいろいろとお教えいただいたのですが、そのような問題事例をお聞きするうちに、工学倫理が本当に会社を救えるためには3つの条件がそろう必要があるのではないか、といった感想を強く持ちました。

まずひとつめは不正を知った技術者がこれを「報告する勇気」です。ひょっとすると経営者先導で不正を容認しているケースもあるでしょうし、ある工場長が独断で不正を容認しているケースもあるかもしれません。現場はかなり不正には敏感なようで、プロの技術者であれば安全性よりも業績向上が優先されている姿勢というものを察知する場面が多いとのこと。しかしながら、技術者の方にとってはコンプライアンスにあまり関心がなかったり、社内における居場所がなくなってしまうことへの危惧などから、「知らないふり」をされるケースもまた多いとのこと。まずは現場でのコンプライアンス意識の向上と、これを上司に報告する勇気が必要なことは言うまでもありません。

そして二つめが「報告を受けた本部長クラスの胆力」です。森田さんのお話をお聞きして、どんなに現場技術者が不正を糾弾したとしても、この本部長クラスの方のところで情報が止まってしまって、いざ不正が発覚するや「社長は知らなかった」となるケースが非常に多いことが印象的でした。(内部通報制度などが有効に機能すれば、こういったケースが減っていくのではないか、とも思いますが、現実にはそうもいかないようです)

そして最後が、「技術者は営業の人たちの努力を知るべきである」ということです。1億円の売り上げを向上させることが、どれだけ営業を担当する人たちの努力によるものか、その苦しみを技術者が理解しなければ、結局「技術畑と営業畑との見解の相違」ということで片づけられてしまって、「君たちの意見もわからんではないが、会社はきれいごとだけでは食っていけないよ」といった意見に経営陣は与することになってしまうようです。ところが何度も営業部門とけんかをするなかで、その営業部門の苦しみがわかるようになると、「不正発覚」による信用棄損がどのように営業部門の活動に影響が出てくるのか、ということも理解できるようになるそうです。そのような相互理解の末、先の「本部長クラス」の人たちにも「今は3億円の売り上げ損になるけれども、将来の300億円の売り上げ損に比べればまし」と判断されるケースも増えてくる、とのこと。

森田さんとマルハニチロ社の6億7000万円の特別損失計上に関するお話(先の子会社によるうなぎ産地偽装の件)をしておりましたが、森田さん曰く、「結果として6億円の損失で済むならたいしたことはありませんよ。不祥事で恐ろしいのは、これからの営業ですよ。これまで6億円稼ぐのに必要な労力の10倍くらいの労力がないと、信用は取り戻せないし、それだけのものを稼ぐことができないんじゃないでしょうか」本当にコンプライアンス経営って、むずかしいですね。今度は森田さんのご厚意によって、近畿化学協会の技術アドバイザー研究会におじゃまして、他のアドバイザーの方々のお話を聞かせていただくことになりました。「化学」など、私のまったく知らない世界ではありますが、コンプライアンス問題を通じて、いろいろな方と意見交換をさせていただくことはたいへん貴重であり、楽しみにしております。

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2008年8月13日 (水)

ただの備忘録ですが。

お盆休みの真っ最中ですが、本日(8月13日)民事再生を申し立てた東証一部の会社の適時開示の内容は、かなり問題ではないでしょうか?元検事総長さまが社外取締役として就任されておられる会社ですので、めったなことは申し上げられませんが、このような「訂正」ってありですかね?(私の感覚がおかしくなければ、ただの倒産劇では済まないような気もしますが)

追記;本件につきましては、TBいただいているノオトさんや、go2cさんのブログなどで開示情報をもとに私とほぼ同様の疑問を抱いておられるようです。

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2008年8月12日 (火)

アデランス社の買収防衛策は「無用の長物」?

TBいただきましたkatsuさんの「すかいらーくネタ」はたいへん参考になりました。たしか12日が臨時株主総会当日だったと記憶しておりますので、また結果が出てから、検討してみたいと思っております。(ちなみに、新しくすかいらーくの社長に就任される予定の方が責任者として頑張っておられる「バイキングビュッフェ」が私の家から徒歩10分のところにありますが、本当に流行っていますよ。私ははっきり言ってお店の雰囲気が好きになれないのですが・・・しかし大人一人1500円のバイキングとしてはお値打ち感があります。)いよいよ「盆休みモード」に入りまして、当ブログも例年どおり急激にアクセス数が落ち込む季節となりました。そんなときこそ、M&Aネタをこそっと織り込んでみようと思い、本エントリーに至りました。

さて、10日(日曜日)の日経朝刊の記事によりますと、5月の定時総会で7名の取締役の再任が拒否されたアデランスHD社の臨時株主総会が前日に開催され、選任可決となり、やっと新体制を組まれるようになったそうであります。(つまり取締役不在の状況が解消された、とのこと)前記記事によりますと、9名の取締役のうち2名はスティール社が日本の企業に初めて送り込んだ(推薦した)社外取締役の方々であり、また取締役会に企業価値向上策を提言する「特別委員会」は過半数がスティールパートナーズ側より推薦された役員で占められているそうであります。そうなりますと、M&Aに詳しくない弁護士としましては、またまた素朴な疑問が湧いてくるところです。本日(8月11日)も、子会社である美容院チェーン大手の完全子会社化を予定、といった報道が出ておりますが、経営の基本に関わる今後のアデランス社の買収防衛策に関する疑問であります。

そもそも、2006年12月に導入したアデランスHD社の事前警告型買収防衛策は、スティールパートナーズによる株式の買い進みの脅威に対抗して導入した経緯があったと思われます。また、2007年5月の定時総会においては、反対票が40%に上るも、なんとか過半数の株主の賛同も得て可決承認された経緯があります。しかしながら、8月9日の臨時株主総会によって選任され、すでに29%の株式を保有しているスティール側の意向が十分に浸透した経営陣としましては、今後も上記買収防衛策をそのまま維持している意味はあるのでしょうか?スティールの脅威に対抗するべく導入した防衛策は、すでにスティールによる相当程度のコントロールが効く支配権にとってはもはや無用の長物になってしまったのでは?といった疑問であります。(みなさま、そういった素朴な疑問が湧いてきませんでしょうか?)

「特別委員会」を構成するスティール側より推薦された役員の方々としては、(おそらく「大きなお世話」かとは思いますが)今後この買収防衛策をどのようにしたいのか、はっきりと意思表明をされたほうがいいのではないでしょうか?サッポロHDに対しては、スティールは極めて厳しい態度で「買収防衛策発動は企業価値向上のためには役に立たない」と主張されているものと思われますが、もしその意見が真摯なものであるならば、ご自身が経営の一角を担うに至ったアデランスHD社においても、その意思を貫徹させて、一刻も早く事前警告型防衛策を廃止すべきではないでしょうか。(ちなみに、2007年4月20日のアデランスHD社のリリースを読みますと、2007年5月の定時総会によって可決承認される防衛策の有効期間は3年間でありますが、株主総会または取締役会の決議によって期間中はいつでも廃止できる、とされています。したがいまして、廃止しようと思えば、取締役会においていつでも廃止できるはずであります。)株式を買い増す場面においては「買収防衛策はけしからん」と言いつつ、自社が経営権を取得(もしくは十分な支配コントロール)した段階になると「買収防衛策も企業価値向上のためには有用である」といった姿勢で臨むのであれば自己矛盾を生じることになりかねませんし、今後はそのようなスティール社の態度を「何かあったら有利に援用しよう」と考える企業も増えてくるかもしれません。

アデランスHD社の新社長さんは、以前アデランス社が買収したフォンテーヌ社の役員だった方だそうですが、そもそも女性用ファッション装具と男性用装具とではまったく営業形態が異なりますし、営業努力によって「男性かつら需要」が向上することはないでしょう。若年用「ヘアサポート」も、女性用も、すでに市場は飽和状態です。はっきり申し上げて一般のサラリーマンや主婦の方々の手の届く商品として「大転換」しないかぎりは、今後も売り上げの向上は望めないと思います。(1台あたり30万円から100万円程度の高額商品を、しかも社員から勧められるままに常時2台から3台を併用するとなりますと、70万から300万円ほどのクレジットを常にかかえている状態で一生を過ごすことになります)ただし、ご承知のとおり、アデランス社の支店、営業所は社会インフラのごとく、地方都市の津々浦々にまで浸透しておりますので、規模を縮小して、思い切った人員削減を敢行すれば、かなり大幅な経費削減の余地があり、大幅な業績向上の機会はたしかにあるように思います。私自身、海外におけるM&Aの動向などは存じ上げませんが、こういった業界、業績の企業において、そのまま買収防衛策を維持していくことにどういった意味があるのかよく理解できないところであります。むしろ企業の存続をかけてホワイトナイトを真剣に探すのであれば、「魔除け」としての防衛策は不要ではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

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2008年8月11日 (月)

司法に経済犯罪は裁けるか-細野祐二氏の新刊

Sihouha002 当ブログへお越しの方々はご存じ「公認会計士VS特捜検察」、「法廷会計学VS粉飾決算」などのベストセラー書をお書きになっておられる細野祐二氏の新刊書を拝読させていただきました。司法に経済犯罪は裁けるか(細野祐二著 講談社1600円税別)

内容的には、代表作である「特捜検察VS・・・」で著者が記述したところと若干重複する部分もあります。しかしながら、キャッツ事件で粉飾決算の被告人として係争中であり、190日間の勾留期間を経てなお一貫して無罪を主張しておられる方であることや、控訴審判決が下された直後に奥様を御病気で失くしておられることなどを含めて、経済犯罪を裁く「司法制度」の現状に対して強い憤りをおぼえ、その構造変革を強く主張している姿には、かなり大きな衝撃を受けるものであります。また、私のように前作である「法廷会計学VS粉飾決算」を、フォレンジックのための財務分析の教科書として何度も読み返す者にとりましては、細野氏の財務分析手法を学ぶためにも、この新刊書は参考書として貴重なものであります。(とくに第3章と第4章)ただ、この本を、この時期に出版することにはほんのすこしばかり疑問を抱くところであります。

そのひとつめは、つい先日、最高裁が長銀粉飾事件において被告人らに対して逆転無罪判決を言い渡しました。あの事件は、「公正なる会計慣行とは何か?」を争点として粉飾決算の有無を問う、まさに代表的な「経済犯罪」であります。以前にも書きましたが、長銀事件の5人の最高裁判事は、弁護人らによる上告理由については「理由にはあたらない」と排斥しながらも、このまま被告人らに有罪判決を確定させてしまっては、著しく正義に反するとして、逆転無罪判決を言い渡したものであります。細野氏は、この著書のなかで、検察だけでなく、裁判官に対しても「社会常識を持ちえないエリート」としてご批判をされておりますが、ではこの長銀粉飾事件に対する最高裁の判断についてはどう受け止めておられるのでしょうか?私自身も、「特捜検察VS公認会計士」を読ませていただき、地裁判決の根拠となった細野氏のアリバイが崩れ去った後にもなお、有罪判断を下した高裁判決には疑問を呈するところではありますが、「検察一体の原則」が存在する検察庁とは違い、「裁判官の独立性」は憲法で保障されているものでありますから、「とかく裁判所というものは・・・」なる批判はあまり説得力がないものと考えております。(もちろん、個々の裁判官に対する批判ということであればそれなりに説得力はあると思いますが)したがいまして、私は(どのような結論に至ろうとも)、細野氏自身の最高裁上告審の確定を待って本書をお出しになったほうがよかったのではないか・・・と感じるところであります。

そしてもうひとつは、細野氏が批判されている「司法に経済犯罪は裁けるか」というご疑問でありますが、それでは、「行政は経済犯罪を裁けるのか」という疑問であります。私は司法と同様に検討されるべきは「行政に経済犯罪が裁けるか」ということだと思っております。ご承知のとおり、インサイダー取引にせよ、有価証券虚偽記載にせよ、平成17年以降、課徴金制度が導入され、またこのたびの金融商品取引法の改正ではその課徴金の金額も上乗せされております。また、最近の証券取引等監視委員会の幹部の方の講演でも、今後ますます経済事件については個人に対しても、法人に対しても課徴金制度の活用によって臨むことが明言されております。細野氏ご自身の苦しいご体験から、経済事件の適正な処理能力が不足している司法制度を御批判される点は当然だとは思いますが、それでは「行政はどうなのか?」ということについては疑問を抱かざるをえません。たしかに強制捜査や刑罰のない「課徴金」制度と刑事訴追事件とは、その対象となった個人や法人へのインパクトの度合に違いはありますが、対象者が社会的制裁を受けるという点においては変わりはありません。司法制度を支える我々も、細野氏のご指摘を真摯に受け止める必要があることは当然でありますが、では経済事件に制裁を加える行政はどうなのか?司法と同じく会計制度や財務分析を学ぶ必要が高いのではないか?などと、私は考えるところであります。

それにしましても、第3章で記述されている検察官の会計知識が事実であるとするならば、本当に驚愕であります。少なくとも、すこしばかり会計制度に関心があるにすぎない私ですら、そこに説明されていることは「会計のイロハ」と認識しており、このような理解不足が実際のところであるとは信じがたいところであります。(たしかライブドア事件で監査人の取り調べを担当していたのは、公認会計士試験に合格している検察官だった、と記憶しておりますが、そういった検察官がキャッツ事件を担当しておられなかったのでしょうか?)なお、司法制度が会計制度を理解するための「社会的インフラ」作りが必要であるといった趣旨には私も賛同いたしますが、細野氏が提案されている具体策につきましては、私が考えるインフラとは少し異なるものがありますので、そのあたりはまた別の機会に検討してみたいと考えております。

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2008年8月 8日 (金)

上場会社コンプライアンス・フォーラムのお知らせ

やっぱり東京はこういった法令遵守体制整備に関するセミナー(フォーラム?)が充実していて羨ましいですね。上場企業における法令遵守体制整備として、インサイダー取引防止のための体制整備は最も重要なポイントでありますが、東証自主規制法人とジャスダック社の共催により、下記のようなフォーラムが開催されるそうです。弁護士としては、ぜひ勉強させていただきたいところですが、9月10日ということですので、もし大阪から伺う時間がありましたら拝聴したいものであります。

「上場会社コンプライアンス・フォーラム」

メンバーが豪華ですね。証券取引等監視委員会の方のお話も要チェックですよね。できれば私がもっとも関心のあります「インサイダー規制と課徴金制度」について、深く掘り下げたお話があればいいですね。大証でも、こういったフォーラムが開催されたらいいですなぁ。

場所は渋谷公会堂ですか。。。渋谷公会堂といえば、「紅白歌のベストテン!」を想い出しますね。マチャアキ(堺正章)さんとピンキー(今陽子)さんの司会でしたよね。(後半は岡崎友紀さんでしたね。)いわゆる「平凡」「明星」全盛の時代であり、毎月付録でついてくるアイドルの楽曲集を持ってテレビ視聴していました。あいざき伸也、伊丹幸雄、JJS(ジャニーズ・ジュニア・スペシャル)、浅野ゆう子、片平なぎさ、安西マリア・・・、なつかしいなァ。。。高校の文化祭でレイジーの「赤ずきんちゃん、ご用心」を歌ったことを想い出します・・・・・(^^;; (振り付けを「紅白歌の・・・」で一生懸命覚えた記憶があります)そういえば、中学生当時、近所の大学生のお兄ちゃんの部屋に「平凡パンチ」があって、勝手に持って帰って健康な中学生に目覚めていた時期でした(笑)雑誌「GORO」で水沢アキさんの「りんごショット」を見たときの「青春」は忘れられませんなァ・・・・・・・すいません、脱線してしまいました。

なお、参加対象者は上場企業、取引参加者の管理担当者(各社1名から2名)とのことですが、市場関係者の方の参加も可能のようであります。(トラックバックをいただいた法務ブログさんにご指摘いただきましたが、東証でもすでにリリースされているようですね。情報ありがとうございました。)

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内部統制報告制度(J-SOX)運用に関する具体的提言(追補)

すいません、昨日書き忘れたことだけ補足しておきます。とくに「具体的提言」というほどのこともありませんが、内部統制報告制度が施行されて、最近はいわゆる「評価マニュアル」の指南書がずいぶんと出版されてきましたし、私が知るかぎりでも、今後もいくつかの評価マニュアル書が出版される予定でありますそういった「評価マニュアル」は、これまで以上にIT全般統制の評価や、業務プロセスの評価内容(評価手続きの具体例)が詳細であり、(おそらくこれまでの監査法人さんの内部統制評価方式を基本としたものだと思いますが)各企業の内部統制担当者の方には実践的で有益なものだと理解しております。

しかしながら、こういった評価マニュアルを拝読していて新たに疑問が生じるのでありますが、もし評価手続きについての理解不足が経営者(実際には現場担当者)にある場合、これはおそらく、一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準に準拠して内部統制評価が行われていないとして、内部統制監査人としては「不適正意見」を出すことになると思います。(会計士協会の「実務上の取り扱い」においては、「不適正意見」を出す場合の例として、監査人が重要な欠陥を特定しているにもかかわらず、経営者がこれを記載しない場合と、内部統制の評価範囲、評価手続き、評価結果について、著しく不適切な記述がある場合があげられておりますので、おそらく経営者評価の基準に合致しない(内部統制評価の理解不足)場合は、この評価手続きについて著しく不適切な記述がある、ということに該当するのではないでしょうか)

評価マニュアルや、実施基準等の意見書を十分理解し、また監査法人さんとの十分な意見交換を行う企業であれば問題は発生しないでしょうが、最近の評価マニュアルを拝読していて「本当にこれだけの評価手順を経営者(実際には現場プロジェクトチームや内部監査人)が理解できるのだろうか?」と皆様は疑問を抱かれませんでしょうか?最近は、内部統制報告制度においての大きな課題が「重要な欠陥」の判定にあることは間違いないでしょうが、それと並んで、もっと広い意味で経営者が「一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準に準拠して評価しているのかどうか」という点についても大きな問題になるのではないでしょうか。そもそも、「重要な欠陥」の判断基準が問題となるのは、その前提として、経営者は一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準に準拠して評価手続きを行い、きちんと不備を指摘しているわけですよね。でも、そんなに簡単に会社と監査人とで合意に達するような不備って見つかる(評価できる)ものなのでしょうか?「経営者が財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす内部統制を統制上の要点として識別すること」って、素人に簡単に理解できることなのでしょうか?この点、ダイレクトレポーティングが採用されず、経営者評価報告書が監査対象となるわけですから、なおさら監査人としては、経営者報告書の「評価基準への準拠性」とそれを前提とした「有効性」への配慮が必要になるのではないかと思います。もうすこしわかりやすく言えば、「なにが不備がわからない、不備がみつけられない」という「評価基準の理解不足」のレベルの話と、「不備は基準どおりに正確にみつけることはできるけれども、その重要性判断に監査人と意見の食い違いがある」というレベルの話とでは大きな差があり、いま世間で問題となっている「重要な欠陥」の判断基準の問題は後者のレベルではないかと思うのであります。

金融庁の方々は「重要な欠陥があれば、そのまま開示すればいいじゃないですか。あとは説明義務を果たせば合格点です」とおっしゃいますが、そもそも一般に公正妥当な経営者評価の基準に準拠していれば重要な欠陥でもなんでもない(たとえば代替統制がきちんとあったりして)のに、理解不足のために重要な欠陥だと錯覚して報告書を提出しているケースとか、どう考えたらいいのでしょうか。これでは「合格点」もあったものではないですよね。内部統制監査人が適正に指導していただけるとは限らないでしょうし。アメリカのように8割の中小の上場企業に制度の施行が猶予されるのであればいいのですが、ヨーイドンで一斉に始まったJ-SOXの場合、こういった問題点についてもどなたか解説していただけるとありがたいのですが。「重要な欠陥」よりも先に、「重要な理解不足」をどう考えるか、という問題が横たわっているように思うのでありますが。

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2008年8月 7日 (木)

内部統制報告制度(J-SOX)運用に関する具体的提言

7月5日の日本内部統制研究学会での基調報告以来、ずいぶんと多くの方々に取材や講演のご依頼をいただき、また実際に内部統制のコンサルティング業務に従事されていらっしゃる方ともお話する機会が増えました。四半期決算報告もほぼ終了して、そろそろ会社と監査法人さんが真剣に「統制環境」や「評価範囲」について検討される時期かとは思いますが、最近漠然とではありますが、内部統制報告制度の運用について、つらつらと考えていることを「具体的な提言」としてまとめてみることにしました。最近は内部統制報告制度(もしくはアフターJ-SOX)に対して法律家の視点から、どのような意見が求められているのか、ある程度わきまえているつもりでありますが、やっぱり越権的にツッコミを入れたくなるのも事実であります。失笑を招くこと必至でありますが、ご一読いただければ幸いです。

1 中小規模企業の特性は大企業には応用できないのか?

ご存じのとおり、6月24日に金融庁より追加公表された「内部統制報告制度に関するQ&A」では、合計6問が「中小規模企業の内部統制」に関するものであります。また、Q20にもあるように、意見書前文において「中小規模企業については、その規模の特性に応じた工夫」がなされるべき、とされています。しかしながら、どの程度のものが「中小規模」なのかは実施基準でも明らかにされておりません。せっかくQ&Aで6問も割かれているわけですし、もうすこし中小規模企業における特性についての議論があってもいいと思います。また、せっかくこういった「特性」が示されているわけですから、大企業においても「事業拠点」とか「評価範囲」が決定された場合には、たとえば支店単位、事業部単位での業務プロセスの評価などは、中小規模企業基準による整備、運用を基準としてもいいのではないでしょうか。(たとえば先のQ&A39問の注意書きには「事業規模が小規模でない企業であっても、比較的簡素な組織構造を有している場合には、これに該当する場合がある」として、柔軟な対応を認めているように思われます)問題は経営者による関与と支店、事業部責任者による関与の差でありますが、そこは全社的内部統制の評価や全社的な決算財務報告プロセスの評価によってカバーできるのではないかと思います。グループ企業の場合、選定された事業拠点としての子会社などは、こういった比較的簡素化された組織の特性といったものを工夫されているのでしょうか?2年目以降の業務プロセス評価については、内部統制プロジェクトチームから内部監査部へと移行するケースも多いようですが、「数に限りのある」内部監査部員が評価作業を行うにあたっても、こういった中小規模基準の考え方を導入することに一理あるように思います。

2 企業は「重要な欠陥」ガイドラインを公表すべきではないか?

最近の内部統制報告制度の議論は「重要な欠陥」の判断基準に集中しているようであります。(最新号の「週刊経営財務」2880号にも、重要な欠陥に関するアンケート結果とその分析報告が掲載されていますね)たしかに企業にとっても、また監査人にとっても悩ましい問題でありますが、いまの議論を聞いておりまして、どこまで客観的な評価がなされ、またどこまで同一レベルの監査人の監査がなされるのかは不透明でありまして、投資家にとっても本当に有益な企業情報の開示がなされるのかどうかは心もとない雰囲気であります。そこでいっそのこと、企業としましては「何をもって不備とするのか、そして何をもって重要な欠陥とみるのか」といったガイドラインを投資家向けに公表してしまったほうがいいのではないでしょうか?投資家にとっては、監査人が「不適正意見」を出してくれれば理解できるではないか、とも考えられますが、内部統制監査報告書のひな形を見て思いますのは、内部統制監査において「不適正意見」を出す、ということは経営者の評価が虚偽であり、刑事罰の構成要件にも該当するような場面でないと出しにくいのではないかと思われ、結局のところ、「意見は表明できない」で終わってしまう懸念があります。そうしますと、経営者は内部統制は有効としているが、監査人は意見を表明しないということで、投資家にとってはさっぱりわからない。せめて、抽象的なものであってもかまわないので、「重要な欠陥ガイドライン」を示していただければ、と思うのでありますが、いかがなものでしょうか。せっかく上場企業が4000社もあるわけですから、「重要な欠陥ガイドライン」の言葉が悪ければ、たとえば「当社の内部統制評価における指針」とか「今後改善を要する重大な課題について」といったリリースを行う企業が少しくらい出てきてもよさそうに思えますが。

3 アフターJ-SOXも含めて、いまこそ「内部統制の限界論」を検討しては?

J-SOXは財務報告の信頼性確保を目的とした制度であり、せっかくこの制度対応によって内部統制を理解した企業としては、本当の目的である業務の有効性、効率性向上のための内部統制(全社的リスクマネジメント)で企業価値を向上させましょう・・・といった考え方も、ここ1カ月ほど、いろいろな方からお聞きしました。(ご批判も含めて。しかし、この考え方からすると、J-SOXで学んだ企業が対象ですから、アフターJ-SOXというのは上場企業だけが対象なのでしょうか?それとも上場企業と非上場の企業を区別しておられるのでしょうか?)しかしながら、「J-SOX」も「アフターJ-SOX」も、おそらく今後は世間の「期待ギャップ」に悩まされることになるのは間違いないところであります。内部監査人が「適正意見」を出した企業が粉飾決算として捜査対象となった場合、おそらく世間の方は「なんだ、あんなに騒いだ内部統制制度で監査人までオッケーって言ってたのに、これじゃ企業にとってはどぶに金捨てたのと同じやん」、「アフターJ-SOXって言って、騒いでいたのに、やっぱり商品の偽装やってるじゃん。だめだこりゃ・・・」と言われることは想像に難くありません。こういった世間のご批判に対して、合理的な説明がつかなければ、内部統制なる概念はおそらく地に落ちていくに違いないと思います。世間の「期待ギャップ」に対して合理的な説明を行うためには、その効用を「見える化」するか、リスクマネジメントなる概念を理解していただくか、あるいは最初から「限界があること」をきちんと世間に認識していただく方法を研究する以外にはないと考えております。内部統制システムを適正に整備運用することによるプラス面(企業価値向上)を「見える化」することが至難の業である以上、すくなくとも「内部統制の限界論」についてきちんと研究し、一般の方々にもわかりやすく説明できることを検討すべきであります。それこそが、唯一、内部統制の有効性を維持して企業価値の向上に恒常的に役立てていける道ではないかと思っております。

以上の提言のうち、ひとつぐらいは、まともにご検討していただける企業さんがいらっしゃれば幸いです。

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2008年8月 6日 (水)

技術者からみた「企業コンプライアンス」

大阪はいま「花火」の季節でありますが、8月6日は大阪弁護士会に(各紙報道のとおり)「火花」が散る一日になります。(臨時総会)我々弁護士にとりましては、洒落(しゃれ)にならない大問題が決議される予定でありますが、世間の皆様方にとりましてはあまり関心のないところかもしれませんので(笑)、ブログでは触れないことにいたします。(法務大臣が鳩山さんから保岡さんに交代したのは、ここに最大の理由があるんでしょうね)

さて、本日(5日)の読売新聞夕刊(関西版)に、技術者OBの方々が、大学の講義において「工学倫理」を教えておられる、という記事が掲載されておりまして、たいへん興味深く読ませていただきました。偽装、ねつ造、不具合などの企業不祥事が相次ぐなかで、製造技術者としてどのように対応すべきか、といったことを自らの経験を生かして講演される、ということですでに近畿大学、同志社大学、阪大などへ講師派遣されているとのこと。そういえば、現場における「データ捏造」の記事などを読みますと、「現場の技術者の人たちって、ねつ造の事実を知ってどう思うのだろうか」と、いつも疑問に思うわけでありますが、おそらく「現場責任者にはっきりとものが言えない」などといった短絡的な要因では済ませることができないような空気が漂っているのではないかと推測いたします。

たしか再生紙偽装で、このブログがたいへん盛り上がったときに、富士市にお住いの製紙会社の方のコメントはリアルで淡々としたものでしたね。たとえばデータ捏造といっても、長年同じことを繰り返しているとほとんど罪悪感も鈍磨してしまって、規範意識も希薄化してしまうのかもしれません。製品検査のための持ち込み部材の偽装事件についても同様の問題があったと記憶しております。

技術者の方からみた企業コンプライアンスの現実については、こういった講演をされている方のお話をぜひ聞いてみたいと思いまして、さっそく新聞に出ていらっしゃる先生に連絡をとらせていただくことにしました。(ダメもとですが)また実現しましたら、ブログでもご紹介させていただこうかと思っております。

PS 7月9日のエントリーにてお知らせいたしました「関西不正検査研究会」立ち上げの件でありますが、本日現在発起人含め11名の研究会参加者となりました。(弁護士1、会計士4、金融2、事業会社4、いずれも個人のCFE資格保有者)第一回の研究会は8月26日ですが、まだまだ参加希望者を募集しておりますので、どうかよろしくお願いいたします。

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2008年8月 5日 (火)

「公正なる会計慣行」と長銀事件(その8・有罪判決の時代背景)

今日は特別に「公正なる会計慣行」の内容について検討するものではありませんが、このたびの長銀粉飾決算事件の最高裁判決に関連して、有罪判決を出した原審当時の時代背景について少しだけ記述しておきます。裁判は、その判決当時の時代背景(ひょっとすると世論の流れ)に影響されることもあるかもしれません。なぜなら、裁判には紛争解決機能もあれば、政策形成機能もあるわけでして、後者を重視する刑事裁判官であれば、当時の「国民の声」に敏感に反応することも考えられるからであります。

1 長銀の検査忌避・検査妨害事件の影響について

今回の長銀最高裁無罪事件が出たことで、マスコミの論調は「法的には無罪が証明されたわけだが、当時の金融機関としての道義的責任まで晴れたわけではない」というものが多いようです。しかし、本当に今から10年前の長銀経営陣には、道義的責任は別として、法的責任はまったく残っていないと言い切っていいものでしょうか?

ご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、長銀は平成10年7月から同年9月までの金融監督庁(現金融庁)による立入検査において、系列ノンバンクへの融資に関する資料を改ざんして金融監督庁に提出し、また「融資の資料は存在しない」などと虚偽の報告をして検査忌避・妨害を行ったとして、(長銀および旧経営陣は)平成11年9月に金融監督庁から長期信用銀行法違反として刑事告訴されております。そして東京地検は、旧経営陣が粉飾決算を隠ぺいするために、組織的な検査忌避・妨害を行ったものと認定したわけですが、平成12年3月、法人および担当者について起訴猶予処分としております。当時の新聞報道によりますと、起訴猶予処分とした理由は、すでに長銀自身が平成10年に破たんしてしまったために、すでに罰則を科する意味がなくなってしまったことと、旧経営陣らも、粉飾決算による証券取引法違反事件で起訴されたことから、とされております。

粉飾決算による証券取引法違反事件が無罪と確定した現時点において、もはや上記検査忌避・妨害事件の処分が復活する、ということはもちろんありませんが、東京地裁判決が下された平成14年当時において、この平成12年の起訴猶予処分の事実がなんらかの影響を及ぼしていたのではないか、という点は少しばかり検討しておくべきものではないでしょうか。「公正なる会計慣行とは何か?」といった論点に影響を及ぼしていたとまでは言えませんが、すくなくとも証券取引法違反の故意を立証するための有力な資料として用いられた可能性は高いものと推測されます。

2 長銀副頭取の死

平成11年5月6日、(東京地検特捜部による事情聴取の直後)平成10年3月期決算の作成を直接担当した長銀の副頭取の方が、妻に宛てた遺書を残して亡くなっておられます。長銀事件さえなければ、次期頭取と目されていた長銀のエース級の方のようでした。当時とくに醜聞も聞かなかったこの副頭取の方の死は、実質的には「経営陣による粉飾決算共謀の事実」が闇に葬られる可能性を高めたものといえるのでありまして、こういった事実は原審の判断にどような影響を及ぼしたのでしょうか。平成11年当時の「国民の声」そして内部調査委員会における厳格な責任追及の意見が飛び交うなかでの出来事であり、当時の裁判所としての判断において、この副頭取の死が、すくなからず旧経営陣の有罪の心証形成に与えた影響は否定できないのではないかと推測いたします。

もちろん、いずれの上記推測も、単なる私見にすぎず、明確な根拠はございません。ただ、この最高裁判決までに10年を要した長銀事件の判決を「冷静に分析」する場合にあたり、時の流れとともに、原審判断時における当時の時代背景についても、きちんとわきまえたうえで検討することが、この事件に関係するすべての利害関係者(当事者)への私なりの礼儀ではないかと思った次第であります。

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2008年8月 4日 (月)

「うっかりインサイダー」の「うっかり」とはどういう意味か?

私のブログでもそうですが、最近のマスコミなどでも、「うっかりインサイダー」なる言い回しによってインサイダー規制と課徴金制度との関係について説明されることがあります。(企業におけるインサイダー取引防止プログラムも、この「うっかりインサイダー」発生を予防する趣旨で策定されることもあるようです)典型例としては、昨年のコマツ社や大塚家具社の課徴金納付命令事案などがこれにあたると思いますが(詳しくは2007年5月9日の こちらのエントリーをご覧ください)、最近でもサンエー・インターナショナル社が、証券会社の「インサイダーにはあたらない」との意見をとりつけたうえで増資発表を行ったことについて、後日金融庁より課徴金納付命令を受ける事態となり、これも「うっかり」インサイダーに含めて考えてもよいものと思われます。要はインサイダー情報を利用することで、不正な利益を獲得する目的はないままに、インサイダー取引による規制に違反して、結果的に不当な利益を会社が獲得してしまったようなケースのことを指すものであります。

さて、この「うっかりインサイダー」でありますが、本来、刑事罰としてインサイダー取引が規制されてきたわけですが、ご承知のとおり平成17年以降は課徴金処分を中心とした取引規制がさかんになり、その課徴金による規制のなかで「うっかり」事例も取締対象となるに至りました。刑事訴追となりますと、厳格な立証のための証拠が必要となり、一件あたりの調査に多くの労力を要するものでありますが、課徴金制度を用いる場合には、立証の負担がきわめて軽くなり、金融庁としても機動的にインサイダー規制に対応できることとなります。おそらく、今後もインサイダー規制の中心的な機能を担うのは、この課徴金による規制方法であることは間違いないところであります。

しかしながら、「うっかりインサイダー」における「うっかり」とは、いったい何を指しているのか、これまであまり議論されてこなかったのではないでしょうか。たとえば四半期報告書虚偽記載に関する刑事罰規定(金融商品取引法197条の2、第6号)と、課徴金規定(同法172条の2、第2項)の条文を比較しますと、虚偽記載に関する構成要件が別個に規定されていることからみて、おそらく四半期報告書の虚偽記載については、たとえ報告書発行者に故意が認められない場合であっても課徴金が賦課される(であろう)ことが推測されます。しかしながら、インサイダー規制に関する刑事罰規定(同法197条の2第13号、166条1項)と、課徴金規定(同法175条)の条文を比較しますと、課徴金規定は刑事罰の構成要件を引用しているにすぎないので、原則としてインサイダー取引について課徴金処分を科す場合にも、会社関係者には刑事罰同様の主観的要件が必要になるのではないかと考えられます。つまり「うっかりインサイダー」における「うっかり」というのは、過失によってインサイダー取引を行ったことを指すのではなく、たとえ「うっかりインサイダー」であっても、そこに(少なくとも)故意は認定される必要があるのではないか、ということであります。(※ ちなみに、インサイダー取引規制における「故意」とは、公表されるべき重要事実が決定(発生)していることを知りながら、売買することの認識でありまして、不正な利益を獲得する意図を含むものではありません。)

実は、このあたりが私自身よく理解していないところでして、「うっかりインサイダー」とは、有価証券報告書虚偽記載の場合と同様、課徴金賦課事例においてはインサイダー取引に関する故意が不要な場合であると(従来は)考えていたのでありまして、そもそも不正な利得の収奪を目的とする課徴金制度にあっては、それでもまったく問題はないと理解しておりました。しかし、 「金融商品取引法下の証券取引等監視員会の活動」(内藤純一氏の講演録)のなかで、内藤氏が、

例えば、インサイダー事件を考えたとき、金額が非常に小さい案件であるとか、悪質性に乏しい、偶然にそういうことをやってしまった、調べてもなかなか故意性を立証するだけの証拠が集まらないという場合、犯則というもので告発することは断念せざるをえなかったわけです。・・・・(中略)・・・課徴金制度が入ったことによって、そういったものをいわばきちっと取り上げていける、そういう体制になったということです。課徴金制度の場合には、必ずしも犯則としての立件のための立証の要請といいますか、故意性の立証が相当程度緩和されているという認識をもち、制度運営をしているところです

と述べておられるところからしましても、やはり金商法175条によるインサイダー規制の場合でも、(たとえ実質的には故意性の立証が不要なほどに緩和されているとはいえ)理屈のうえでは故意性の立証は必要であって、たとえ「うっかりインサイダー」であっても、過失によるインサイダーは規制の対象にはならない、ということになりそうであります。つまり、「うっかりインサイダー」の「うっかり」とは過失によるインサイダー取引を指すものとは言えない、ということであります。

さてそうなりますと、「うっかり」というのはいったい何を指していると考えるべきなのでしょうか?構成要件への「あてはめ」の錯誤に該当する、ということになるのでしょうか。たとえば「重要事実」に該当しないと考えていたら、それが「重要事実」だったとか、重要事実が「決定」していたにもかかわらず、それが決定していないと認識していたとか、そういった構成要件該当性に関する認識の食い違いのことを「うっかり」という言葉で表現したものにすぎない、ということなのでしょうか。しかし、こういった「あてはめ」の問題としてとらえますと、刑法理論との関係からみて、責任が阻却されるかどうか、いちおう裁判所の判断を仰いでもおもしろそうな問題になってくるように思われます。また、そのようなものではなく、「うっかり」というのは、不正な利益を得る目的がある場合とない場合とを区別するものであり、課徴金制度は、そういった不正利益を得る目的がない場合でもインサイダー規制の対象とする、ということであれば問題はなさそうに思われます。いずれにしましても、このあたりの整理をしなければ、「うっかりインサイダー」が何を示しているのか、共通認識が得られないのではないかと危惧しているところです。

本来はインサイダー取引についての「グレーゾーン」をどのように取り締まるのか、といった立法政策上の問題に帰着することは間違いないとは思いますが、金融商品取引法上の課徴金処分については、まったく処分の効力が争われた事例がなく、また今後も争われる可能性に乏しい現実のなかで、具体的な処分の適法性はどのように担保されるのだろうかとの疑念をぬぐいきれないところであります。先日のサンエー・インターナショナルの社長さんも、今回の課徴金処分の責任をとって辞任されるようでありますが、私からすると「なぜ辞任しなければならないの?」といった気持であります。課徴金処分を受けたとしても、とりわけ「うっかりインサイダー」事案であれば道義的な批難の対象にはならないと考えています。かりにサンエー・インターナショナルの社長さんのように感じるのが一般的な傾向であるとするならば、この課徴金処分の運用については慎重でなければならないはずであり、またさらに積極的な運用が検討されているのであれば、この「グレーゾーン」に関する対応についてはもっと多くの人たちが検討すべき問題ではなかろうか、と考える次第であります。(うっかり事例とは離れますが、たとえば「重要事実」の決定時期については、村上ファンド事件でもそうですが、とても早い段階で「決定」があったとされるケースが目立ちますが、取締役会や監査役のガバナンスがしっかりしている会社であれば、「社長が意思決定をした」時期に決定があったと認定されることに関して、大いに異論を唱えてもいいのではないでしょうか?)

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