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2008年8月21日 (木)

消費者保護行政とソフトバンクモバイルの対応(素朴な疑問)

読売新聞ニュースによりますと、ソフトバンクモバイル社(以下、SBM社といいます)が「一方的に契約内容を変更した」として、利用者から国民生活センターへ多くの苦情が寄せられている、とのこと。約2か月間、センターとSBM社が協議交渉を行った末、SBM社が一定の改善案を出したことから、センターとしてもこの改善案を評価している、とのことであります。詳しくは国民生活センターのプレスリリースを参照ください。

プレスリリースによりますと、SBM社の回答概要は、これまでの契約内容変更に関する周知が不十分であったから、改めて周知する。周知期間は従前の契約内容の履行を保証する。今後さらに周知して、契約者の意思を確認のうえ新しい契約内容を適用する、といったものであります。「月々500円の保証料を払えば、外装破損の無償交換を認める」とあったものを、80%割引きに契約条項を変更したことによって、これまで保証料を払ってきた人も約3000円程度の交換費用を負担しなければならないことに契約内容が一方的に変更される、というものであります。

このニュースを読んで、私はどうしても素朴な疑問が浮かんできます。SBM社の回答によると、本件は「説明不足」が問題だから、ご迷惑をかけた契約者にはそのお詫びをします、というものであります。けっして、一方的に契約内容を変更したことは間違いでした、とは言っておりません。しかしながら、そもそも契約というものは携帯電話利用者と事業者との自由な意思による合意ですから、なぜ一方的にSBM社が契約内容を(利用者に不利に)変更することができるのでしょうか?その変更については携帯利用者の合意が必要ではないでしょうか?先のSBM社の回答内容によると、たしかに改めて意思確認を行うことは記載されておりますが、明確な意思確認ができない利用者には新しい契約を適用します、とありますので、やっぱり「一方的な契約内容の変更」自体が有効であることを前提としていることがわかります。

ソフトバンク側からの抗弁としては、まず約款の中に「この契約は事前の予告なしに、サービス内容を変更することがある、ということが書かれている」ので、利用者から事前の合意はもらっている、との主張です。しかしながら、消費者を相手とする有償双務契約において、消費者側に一方的に不利益なサービス内容に変更することは、明らかに公序良俗違反であって、その条項自体が無効になる可能性があります。たとえ無効にはならないとしても、一方的に変更される「役務」とは、(有償契約ですから)そもそも従前の「役務」と対価として相応な役務のことを指す、として少なくとも限定的な解釈がなされるはずであります。

また、もうひとつの抗弁としては、(もし一方的な不利益変更が公序良俗違反にならない合理的な理由があるとすれば)携帯電話事業に関する契約でありますので、いわゆる「附合契約」の性質を有するものであって、たとえサービスの提供内容が利用者に不利益を生じさせるものであっても、契約内容については個別の交渉なくして、利用者へ適用させることに合理性がある、とする理屈だと思います。つまり電気料金の値上げと同じく、電力提供契約を締結している事業者側の都合によって、利用者の同意、不同意にかかわらず値上げ料金が適用されるのと同じ性質のものである、ということでしょうか。ただ、こういった公共料金の値上げは、認可が必要なものですから、勝手に不利益な契約内容の改訂を行うこととは異なる状況にありますし、また携帯電話の利用契約については、細かな利用条件に合わせて契約内容を選択することができますので、そもそも一般の附合契約とも少し違うのではないかと思います。附合契約の特質は「契約をするかしないかの自由しか利用者には認められず、契約内容を交渉する余地がない」ところにあるわけで、一方的な契約内容の変更に関する合理性を根拠付ける理由とはならないように思います。

こういった理由からしますと、そもそもSBM社の一方的な不利益変更を規定する条項自体の効力がどうなのかを明確に確認することが本来の消費者行政の役割であり、そうでなければ将来的な消費者被害の事前抑止には役に立たないように思うのでありますが、いかがなものでしょうか。もちろん行政が私法上の法的な効力に関する公権的な判断など出せるものではありませんが、せめて条項の見直しを要望するといった指導的役割は果たすことはできないのでしょうか。さらに、こういった場合に消費者訴権を有する適格消費者団体によって、条項使用の差止請求など提起することは無理なのでしょうか。素朴にそういったことを疑問に感じております。なお、通信事業法のような個別法規を調べたわけでもない、個人的な私見にすぎませんので、誤り等、ご指摘いただけましたら幸いです。

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コメント

toshiさんのご指摘に賛成します。当然のこととと考えます。

1点だけ、電力料金について自由化されていない100Vの家庭向けや50kW未満の電力供給契約のことと思いますが、電気事業法19条による経済産業大臣の認可が必要と思います。現在一般電気事業者10社が受けている認可には燃料費調整も含まれており、燃料費調整のみを理由とする料金変更については新たな認可は必要がない。

燃料費調整条項の上限条項の改訂を一般事業者は検討中であり、そのための認可はこれからの事項と思います。

以上が私の理解です。

投稿: ある経営コンサルタント | 2008年8月21日 (木) 11時44分

たしか、以前にもADSLの関係で、無料といっていた
ものについて、解約するときに何かトラブルが
あった記憶があります。

通信行政はどうかわからないですが、こういった
事業者に電波を割り当てている総務省は何もしないので
しょうか?

加入者同士が無料の通話も加入者が増えているとサービス
の低下を防ぐために突然有料とするかも知れないですね。

ここと取引の業者から突然の変更等があって付き合いきれ
ないとボヤキを聞いたことがあります。

投稿: ご苦労さん | 2008年8月21日 (木) 14時11分

皆様、ご教示ありがとうございました。十分な知識もなく、脊髄反射的にエントリーをアップしましたので、こういった情報を教えていただくと助かります。本日のエントリーはずいぶんとアクセス数が多かったので、この件は社会的にも反響が大きかったのでしょうね。また、いろいろなご意見お待ちしております。

投稿: toshi | 2008年8月21日 (木) 18時35分

私も、以前Jフォンの時代に同様のケースがありました。その時は納得がいかず、Jフォンを即座に解約、沖縄セルラーに切替えました。当時のJフォンは今のソフトバンクほど契約数が多くなかったので、問題にはならなかったのでしょうか。

投稿: 沖縄の地より | 2008年8月23日 (土) 09時01分

toshiさんのご興味との関係でいえば、問題とされた約款の内容にもよると思うのですが、そもそも条文自体について消費者契約法との関係でどうなのかということを検討することはできるのではないかと思います。
第8条や第9条に抵触すれば無効に導かれますし、それらに該当しない場合でも、第10条の規定との関係はどうかということは問題となるかもしれません。
取り急ぎろじゃあでした。

投稿: ろじゃあ | 2008年8月25日 (月) 12時41分

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