ANAの景品表示法違反と企業リスクマネジメント
(27日午後追記あります)
ANAの広告と景表法違反問題に関する昨日のエントリーにはたくさんのアクセスありがとうございました。また、ちゅうさんやある非ユーザーさんから有益なコメントをいただきました。また、消費者問題に詳しい川村先生も、ご自身のブログにおきまして、「これはやっぱり排除命令が出てもしかたない」とのご意見を述べておられます。どうも私の意見は分が悪いようです。
それでは、皆様がたのご意見にひとまず従うとしまして、では企業側からすれば、こういった排除命令の現実を見据えて、どういったリスクマネジメントをとればいいのでしょうか。もちろん排除命令が出てしまった以上は、命令内容を履行しなければ法令違反になってしまうわけですが、私がここで検討したいのは、
このポスターをそのまま使いつつ、排除命令が出ないような工夫はあるのか?
ということであります。ひとつは、このポスターが新型シートを全面に出したものであるがゆえに、全日空国内線のプレミアムクラスすべてに、同様シートを設置したうえでなければ排除命令の対象となるのか、それとも、「4月1日スタート」「順次導入」とあることから、すくなくとも4月時点において国内線のうち1機だけでも同様シートに変更していれば「順次導入」として排除命令の対象からはずれるのか?というものであります。これは「優良誤認」の基礎となる前提事実をどう考えるのか、という問題ですよね。当然に企業側のリーガルリスクの回避としては1機だけでも同様シートに変更することで、この広告をそのまま使えることが好ましいわけでして、このあたりはぜひとも皆様のご意見を伺いたいところであります。
そしてもうひとつは、コメント欄にも少し書きましたが、(法令違反という現実は受容せざるをえないとしても)プレミアムクラスを購入しようとするお客様に対して、「お客様が搭乗される国内線のプレミアムクラスにつきましては、この新型シートではございませんがよろしいでしょうか」といった説明を行うことで苦情件数を減らす努力をすれば、そもそも公正取引委員会が動くことはなかったのではないか、ということであります。報道では20件ほどの苦情があった、とのことですが、この苦情が実際に利用された方によるものなのか、問い合わせだけに来られた方によるものなのかは不明です。ただ、実際に利用された方の「消費者被害」が現実にあったがゆえに、公取委が調査に乗り出したとすれば、不当表示以外の企業活動によってリーガルリスクを低減することは可能なはずであります。このあたりはどうなんでしょうか?
景表法違反は、最近、競争規制というよりも「表示適正化」に重心を置いている、とちゅうさんがコメントでお書きになっておられますが、たしかにこういった排除命令が出るような事態となりますと、どうしても広告そのものの修正のほうに目が行くのが当然だと思われます。しかしながら、せっかく「お客様に夢を与える」ことを真剣に考えて広告を作っている以上は、いまの広告をそのまま残しつつも、どうしたら景表法違反のリスクを低減することができるのかを考えることも、大切なことではないでしょうか。このような発想で考えることにより、「お客様をだます広告」とそうでない広告を区別することにつながり、またそういった議論を踏まえることで(景表法による)広告の自由に対する萎縮的効果もできるだけ少なくする道も見えてくるように思います。
(27日午後;追記)すいません、勝手なことを気ままに書いていたのですが、とんでもなくアクセス数が多いので、ひとことだけ「おことわり」を追記いたします。私はとくに「法令違反行為」を推奨するつもりで書いたのではなく、企業に及ぶ現実のリスクを回避するための方策について思案しているものにすぎません。CSR経営の視点からすれば、そもそも情報を正確に伝えていない広告はただちに修正すべき、ということになろうかと思いますが、情報を正確に伝えていない「らしい」広告であれば、これを正確に伝える方策は、広告の修正以外にもあるのでは?といった発想も必要ではないか、ということを言いたかったものであります。
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コメント
「順次導入」と書いていてもポスターのイメージからすれば新型シートをすべて導入済みと考えるのが当然でしょう。新型シートをすべて導入してからでなければこのポスターを利用できないことは議論の余地はありません。
投稿: ANA好き | 2008年8月27日 (水) 09時47分
そうなんでしょうか。極論ですがそうすると
新車購入で、全ての販売店で用意できないと広告はできない
のでしょうか。
新型の、家電やアイホン、ゲーム機が手に入るようにならな
いといけないのでしょうか。
また、公取として、行政として取り締まるのであれば何らかの
基準を決めて公表すべきだと思うのですが・・・
確か、審査基準は作成して公表するのが行政として求められて
いるのではないでしょうか。
さらに、超大手の広告代理店が作成に絡んでいるでしょうから
こうした事態になるかどうかの判断を経験則でしたと思うので
すが、そこの判断はどうだったのでしょうか、聞きたいところ
です。
以上
投稿: ご苦労さん | 2008年8月27日 (水) 10時36分
意見を紹介いただきありがとうございました。
長文でお邪魔します。
あのポスターをそのまま使うという前提であれば、新型シートという強調表示に対する(それが当面ない場合もあるという)打ち消し表示が極めて弱いと私には思えますので、本件では、基本的には全機に導入すべきだったと考えます。導入が9割だったら、8割だったら、と、こういった問題の線引きは難しいのは当然ですが、宣伝をどう見ても新型シートが売りのサービスであり、例え少数でもそのシートがない便があるのであれば、それを楽しみに予約してしまった利用者としてはどう考えるでしょうか。一般の方であれば「詐欺だ!」と憤慨しても仕方ないと思います。
後の個々への具体的説明は、本件では直接的には景品表示法にはあまり関係しないのではないかとも思いますが(実際の運用上は違いが出るでしょうけど)、いずれにせよ、航空券はネットで予約する比重も大きいので、窓口での説明をきちんとしているというだけでは駄目だと思います。
やはり、表示の面で、プレミアムクラスのサービス内容がどのようなもので、その内、シートについては新型の導入が6月から順次になるので、新型シートの利用ができない場合があるなどということを、ある程度明確にしておく必要があるのではないでしょうか。
大企業の広告に対する同種の公取委の最近の処分としては、NTTの「DIAL104」と「ひかり電話」についての排除命令や、携帯電話(メール)料金について携帯電話会社3社に対して警告や注意がなされたものがあり(ただし、こちらはいずれも「有利誤認」事案)、これらも強調表示に対する打ち消し表示の問題になろうかと思います。
投稿: 川村 | 2008年8月27日 (水) 12時45分
ちょっとお邪魔します。
「打ち消し理論」というのはわかるのですが、そもそも新型シートが導入されることは当然なわけですから、なにも「打ち消す」必要なないのではないかと。
打ち消すべきものは「4月1日にスタートします」ということでして、それはどこにも誇大に強調されていませんよね。むしろ「打ち消し文字」とあまり変わらない程度の文字で下欄に記載されているだけですから、そもそも本件で「打ち消し理論」を持ち出すのは矛盾ではないでしょうか。
投稿: アンチ公取委 | 2008年8月28日 (木) 03時08分
皆様、コメントありがとうございます。また、川村先生、理論的なご解説、おそれいります。本エントリーは「リスクマネジメント」としての企業の対応策について考えようと思って立てたものですので、やっぱりこのままの広告で対応するのはけっこうむずかしそうですね。
私は打ち消し表示に関する議論はよくわからないのですが、アンチ公取委さんのご指摘の点についても、少し気になるところがあります。もう一度公取委の「違反事実の概要」を読み直してみたのですが、ここでは3本のサービスのうち、新設シートを目玉として表示していることのほかに、やはり4月1日からこのプレミアムクラスがスタートすることを「表示上の問題」として取り上げていますよね。しかし、一見したところ、この4月1日スタート、というのは下の小さな文字をみなければ認識できないところです。下の小さな文字を見た人が、これまたその下に記載されている「シートは順次導入」とある文字を見落とすことが、一般の人を誤認させる、という意味なのでしょうか?この表示から、一般人は何を誤認するのか、もうすこし検討する必要があるかもしれませんね。
投稿: toshi | 2008年8月28日 (木) 10時52分
全日空、また景表法違反やっちゃいましたね。
こういった初歩的なミスをやって謝罪しているところをみると、この広告の方もコンプライアンス意識が希薄なためにやってしまったとみるべきではないでしょうか。
でも、どなたかがコメントされていますが、こういった大きな広告であれば当然に大きな広告代理店が仕切っておられるでしょうから、そっちの会社のコンプライアンスもどうなってるんでしょうね。
投稿: hiro | 2008年9月 2日 (火) 17時10分