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2008年8月18日 (月)

民法上の使用者責任と内部統制

お盆休みも終わりましたね。私は家族と一緒に世界遺産の高野山に出かけていましたが、気温が平地よりも6度低いことに加えて、たいへん湿度が低いためにホントにクーラーいらずの週末でした。しかし高野山の人口が最も増える万灯会(まんとうえ 8月13日)を避けて出かけましたが、やっぱりお盆シーズンはとても混んでました。精進料理がお嫌いでなければ、一度高野山を訪ねてみるのもいいですよ。

とても興味のある裁判を8月14日の産経WEBだけが報じているようですが、四国労働金庫の元職員から預金をだまし取られたとして、その被害者の方が四国労金を相手に損害賠償請求を求めた裁判におきまして、高松高裁は四国労働金庫の(元職員の不法行為につき)民法715条に基づく使用者責任を認めたそうであります。なお、原審地裁判決では、四国労金の使用者責任を否定(棄却)していたそうですので、裁判所の判断が分かれた事例ですね。(産経WEBのニュースはこちら

このニュース内容によりますと、高裁が使用者責任を認めるに至った最大の論点としては、使用者責任免除の根拠となる「使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当な注意をしても損害が生ずべきであったとき」に該当する場合であったかどうか、ということだと思いますが、高裁は他の職員が、元職員の預金詐取の事実を予見できたか、または少なくとも上司や被害者に事情を聞くなどして損害を回避することができたはずであるから、免除されるべき場合にはあたらないとしております。

そもそも民法上の使用者責任は、使用者側が監督責任がないことを立証できなければ認められてしまうものでありますので、厳格に解釈されることは事実でありますが、こういった高裁の判断理由をみますと、社内における社員(使用者責任との関係でいえば、上司ということになりますが)の規範的行動に関する期待によって、その企業の責任の有無が判断される、ということになります。(おそらく地裁の判断は、元職員の不正行為についてはそこまで上司の行動に期待するのは無理というもので、いわば会社としては相当の注意をしても到底損害発生を回避することはできなかったというものであって、会社の使用者責任は追及できない、というものだったと推測されます。)本件は、元職員が懲戒処分を受けた後の犯行でありまして、別の職員が預金手続きに関与していることから「外形的んは」事業の執行について被用者性が認定されていたものと思いますし、また「別の職員」の行動にもちょっと首をかしげたくなる部分もありますが、「社員としての規範的な行動」に焦点を当てて使用者責任を認めたものであることは間違いないだろうと思われます。

法律家が「内部統制」を議論する際には、取締役の法的責任論(会社法上の善管注意義務違反にあたるかどうか)との関係で論じることが多く、また大和銀行事件地裁判決のころ(平成12年)と比較して、最近は会社法や金商法においても「内部統制システムの構築義務」(義務とまでは言えるかどうかは議論のあるところですが)が謳われていることから、取締役にはより高度な注意義務が課せられるようになった(言い換えると、責任が認められやすくなった)と言われることが多くなったように思います。そして、上記のような裁判所の判断理由からしますと、取締役の法的責任だけでなく、企業自身の法的責任の有無にも、内部統制に関する議論が影響を及ぼすのかもしれません。たとえば内部通報制度の整備状況とか、業務プロセスにおける牽制システムやチェックシステムなどが整備されることによって、部下や同僚の不正行為の予防、発見の期待というものが、そのまま結果回避義務として「法的責任」へと関連付けられる、ということになるのでしょうね。

あまりこういった視点で「内部統制と法的責任」が議論されたことはなかったものと思いましたので、あくまでも「たたき台」として、すこしだけ考えたことを留めておくことにいたします。

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コメント

おはようございます。

今の時点で、今日のような話はみなさん避けておられると思いますが、今回のお話は、J-SOXと言う狭い話ではなく、本来の内部統制の役割について述べられていますね。
企業の社会的責任を具体的に求められる流れになってきているのかと思います。そのためにも、内部統制の目的としても、仕事の効率化と法的責任かつ倫理観の向上が求められてくると思います。

いやいやでやるJ-SOX対応ではなく、一歩踏み込んだ内部統制への取り組みがよい成果が上がるものと信じています。2年目以降のテーマではありますが。

投稿: コンピュータ屋 | 2008年8月18日 (月) 07時33分

最近、中小の上場企業の経営者の方とお話をしていますと、「もっと内部統制と法律の関係について話してほしい」と要望がありますので、すこしこういった問題にも触れていきたいと思っています。また、7月24日にリリースされた日本総研のアンケート結果でも、今後の内部統制に関する取組への要望内容はずいぶんとJ-SOXとは異なるところにありましたよね。私にはすこし意外だったんですけど。

投稿: toshi | 2008年8月18日 (月) 09時39分

そもそも(いわゆる)J-SOXに限定して内部統制を考えるほうが
不自然ですから、経営者の対応、意識としては
それで真っ当であると思います。

それはアフターなんちゃら(笑)ではなく、
本来もともと金商法や会社法関係なく企業が(或いは経営者が)
取り組んでいくべきものです。

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当該裁判ですが、法的なことはよくわかりませんが、
使用者責任というより、企業が顧客に果たすべき責任を厳格に考えた末
での判決ではないかという気がします。裁判長殿はそれを法律の中で
うまく当てはめようとされたのでは?

投稿: 機野 | 2008年8月19日 (火) 01時20分

こういったエントリーはきちんと全文を読んだうえでアップすべきなのですが、おそらく公表はされないのではないかと思いましたので、報道記事だけで推測したものです。最近は「二次セクハラ」などと言われて、会社の使用者責任が問われる時代ですので、同じレベルで考えられるのかもしれません。また詳しい内容が(もし)わかりましたら、続報としてアップしたいと思います。

投稿: toshi | 2008年8月20日 (水) 09時28分

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