ANAの景品表示法違反(これでもアカンの!?)
ひさりぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、全日空の「プレミアムクラス」の広告(テレビでも三国連太郎さん、佐藤浩市さんのCMが記憶に新しいところです)が景品表示法4条1項1号(優良誤認)違反として、公正取引委員会より排除命令を受けたそうであります。(朝日ニュース 読売ニュースなど多数。またANAの開示情報はこちら です)
公取委のリリースに、問題となった広告が添付資料として掲載されておりますが、この広告が「一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すこと」になってしまうのでしょうか?プレミアムクラスの商品の特色が①幅広シート、②高級料亭による食事、③特別ラウンジの使用の三本立てであることは広告から読み取れますし、「4月1日スタート」なる文字よりも少し小さな文字ではありますが、「シートは順次導入」と明確に記載されていますから、プレミアムクラスに搭乗したいと思っていた方は、おそらく「いつから?」なる情報とともに、この「順次導入」にも注意が向くと思われます。広告に大きく「4月1日スタート」とあれば(不当表示かどうかは、一般消費者からみた印象をもとに判定することになりますので)写真のイメージと文字から「誤認のおそれ」もありそうですが、文字の配列などからみて、この広告はおそらくANAの社内におきましても、景表法違反にならないようにリーガルリスクに注意をしながら作成したものではないでしょうか。
それでは、かりに同じデザインの広告で、JALより先にANAがファーストクラスを導入していたらどうだったんでしょうか?今回と同様、お客様から苦情が出ていたとしても、景表法上の不当表示には該当しなかったのでは?といった疑問が浮かびます。実際にはJALがこのANAの広告の2か月ほど前に「幅広シート」を目玉商品として国内線にファーストクラスを導入しているわけです。つまり競争相手が幅広シートを目玉商品としてファーストクラスを打ち出したわけでありますが、一般の消費者には、先行するJALのサービス商品のイメージが刷り込まれているわけですから、ANAとしては「シートが目玉商品です」とは一言も口に出さなくても、おそらくこの広告を見た一般消費者は、「シートは三本立てサービスのうちのひとつ」ではなくて、「このシートがANAのプレミアムクラスの目玉商品」といったイメージを持ってしまうのでしょうね。つまり比較するものが存在しない状態であれば、この広告でセーフなのかもしれませんが、すでに比較の対象となる先行商品が現存する状態であれば、同じ広告でも、消費者の積極的な誤解を排除するだけの表示がなければ「不当表示」になってしまうということが考えられます。
上記はまったくの私見に基づく推論ではありますが、もし同じ広告でも、他社の営業戦略との時間的な後先によって法令違反が生じてしまうということになりますと、景表法違反のリスクはけっこうコワいですよね。ANAの開示情報によると、排除命令を受け入れる予定のようでありますが、競争法としての景表法違反となるのかどうか、争っていただけるとかなり関心が高まるのではないかと思いました。とりわけ景品表示法違反の事件は、公正取引委員会から消費者庁へ移管することになっておりますし、今後の運用次第では、いくらでも企業経営に萎縮的効果を及ぼす可能性のあるところであります。まさに行政処分を争うことによって、広告活動の自由と規制の「狭間」を探る必要性の高い分野だと思っておりますが、いかがでしょうか。
| 固定リンク
コメント
最近の公取の景品表示法の運用は競争法ではなく表示適正法になっているという専門家の話を聞いたことがあります。競争にどのような影響があるのかではなく、大企業が広告で消費者に嘘をついたということで問題としているみたいだが、嘘をついた企業が争っても勝てる可能性は低くイメージが悪くなるだけなので、争わないほうが賢明だということでした。消費者庁になると、もっと表示適正法的な運用になるのではないでしょうか。
投稿: ちゅう | 2008年8月26日 (火) 14時33分
不当表示規制への課徴金導入は、先の国会で審議に入れなかった独禁法改正法案の目玉の一つですので、ー消費者庁との関係で下記の事情は複雑になってはいますがー単なる法運用に止まらない政治的・社会的要因も公取委の不当表示規制における活発な動きの背景にあるのかもしれません。さらに、うがった見方かもしれませんが、景表法への適格団体による差止請求訴訟が導入されたことも、公取委にその存在感を示さねばならないというプレッシャーを与えているのかもしれません。
それはともかく、東京・伊丹間をANAで頻繁に往復する者としての印象を書きますと、空港に直結するアクセスラインから空港へ通じるエレベーターに乗るとその正面に三国・佐藤親子のどでかい写真の広告がありましたので、エレベーターに乗っている瞬間に、座席以外の2つも目玉であること(それにしては最近の「日経トレンディ」誌によれば弁当等の評価も高くないようですが)、その下に小さく4月から順次導入すると表示されても、読む余裕はないですし、あの豪華な座席の印象しか残らないなという印象を持っていました。羽田・伊丹便のほとんどの飛行機では、8月末の現在に至っても3月までのシートとあまり変わってないとように思います。したがいまして、あれはやはり、有利誤認だいわれても仕方ない気がします、というのが7000円余分に払ってこのシートに座る勇気のなかった貧乏性の一サラリーマンの印象です。
投稿: ある非ユーザー | 2008年8月26日 (火) 17時04分
ちゅうさん、ある非ユーザーさん、コメントありがとうございました。やっぱり今回のANAの広告については優良誤認として排除命令が出されてもしかたないのではないか、というご意見が強いようですね。ちなみに、専門家でいらっしゃる川村哲二弁護士も「これはおとり広告のようなもので、排除命令が出てしかるべき」なるご意見です。
原則として、この広告をみて一般の方がどのような印象を持つか、という基準と、ちゅうさんがおっしゃるように「表示適正化」を重視する、ということからすれば、排除されてもしかたないのかもしれません。ただ、報道によりますと20名弱のお客さんからの苦情があったということですが、このお客さん方からの苦情が出ていなければどうなっていたのでしょうか?つまり、プレミアムクラスの購入(加入?)を希望するお客さんに対して、きちんと説明義務を尽くしていたとすれば、購入を差し控えたわけで、その時点では苦情が出なくなる可能性がありますよね。
JALからのクレームなどに基づくものであればまた別の意見もあるかもしれませんが、今回の排除命令がお客様の苦情に発端があるとするならば、広告以外のところで対応していれば、今回のような処分が下されなかった可能性もあるのではないでしょうか。コンプライアンスの観点からは邪道かもしれませんが、企業のリスクマネジメントの観点からは、一考に値するのではないかと思いますが。
投稿: toshi | 2008年8月27日 (水) 02時19分
違反は違反です
投稿: unknown | 2008年8月27日 (水) 09時43分