関西不正検査研究会(第1回会合)
そごうの元株主らによる損害賠償請求訴訟の控訴審判決が出たようですね。(産経新聞ニュース)原審と同様、元代表者による粉飾決算は認められないとして、原告株主の請求は棄却されたようであります。本件も日本で最も大きな監査法人さんが被告となっておりますが、どういった内容で原告らが敗訴したのか、近日中に全文にあたって検討してみたいと思っています。(控訴審の審理期間がかなり短かったので、おそらく原審の判断内容とはあまり変わっていないと思いますが)
さて本日はご報告ネタでありますが、以前、当ブログでも広報させていただいておりました「関西不正検査研究会」でありますが、去る8月26日、某所にて第一回の研究会を開催いたしました。ACFEに加盟するCFE(公認不正検査士)およびACFE会員によるCPE(継続研修制度)のための公認研究会でありまして、私を含む発起人3名は「いったい、関西でどのくらいの会員が集まるのだろう?」と危惧しておりましたが、本日現在で登録者14名、当日の出席者は12名ということとなり、たいへん盛況な研究会となりました。
弁護士、会計士、会計学の先生以外のメンバーは、みなさん企業の業務監査室、監査役室、監査役、セキュリティ部門等の方々でして、なかには「海外の取引先企業から、ひとりもCFEがいないのは問題」と指摘され、社命によって資格を取得された方もいらっしゃいました。(アメリカではすでに2万人のCFEが活躍しております)参加者は、皆様「守秘義務誓約書」を提出していただいておりまして、それぞれの(社内規定に反しない範囲におきまして)会社における内部監査事情を赤裸々に語っていただきました。
各企業の諸事例をお聞きして印象深かったのは、どこでも立派な内部統制システムが存在するにもかかわらず、その網の目をかいくぐって、用意周到な準備のもとで業務上横領や背任行為、情報窃盗等が行われる、ということでありました。安全や品質、コンプライアンスに関するマニュアルが完備され、また監査が慣行化してしまいますと、やっぱり「穴」が開いてしまうんですね。いわゆる不正のトライアングル(動機、機会、正当化根拠)のうちの「機会」がそこに発生してしまうわけです。当ブログでも何度か申し上げましたが、内部統制システムが不正予防に効果的であることの条件は、その運用や改善にあたって「動物的な勘」をもったごくごく少数の人材の存在ではないかと考えておりますが、やはりそういった実感を更に強く抱いた次第であります。(簡単な例をあげますと、内部通報がほとんどない場合に、うちの会社は平和だね・・・と安堵する社員のなかで、ひとりだけ内部通報制度の仕組みのまずさを指摘して改善を提案するような感じでしょうか)
内部統制というと、どうしても「仕組み」をイメージしてしまいますが、改善のための運用評価や、調査方法、人材育成など、いわゆる「プロセス」こそ最も重要なんでしょうね。これがそんなに簡単ではないところだと思います。
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コメント
不正尽きることなし!
「スギ薬局」のエントリー以来さほど時間はたっていませんが、東証1部上場企業で億単位の横領事案が3件(1件は子会社)発生(発覚)していますね。
不正の発見・防止にはモニタリングが重要であることは言うまでもありませんが、具体策が重要であると思います。例えば、「帳簿残高と残高証明を照合する」といった通常の方法では、なななか不正の発見は難しいでしょう。監査手続に工夫を凝らさなければなりません。
監査人や内部監査人には、まさに「センス」が求められています。
投稿: 迷える会計士 | 2008年8月31日 (日) 11時21分
古くから「異常点監査」とよばれている分野があります。あまりメジャーではありませんが、これは財務諸表監査の分野(の書籍)で使用されてきたようです。
超平たく、分かりやすい例をあげれば、交通費や接待交際費などで、内税が基本になった今、円単位の証票が経理に回付された場合、経理がその内訳を使用者に確認するなどの選別テクニックです。期首の返品に目を光らすなども定番でしょう。
随分以前ですが、あるメーカさんの年間のリベート計上を分析していたら、他と二桁も違う支払額の取引先が発見されました。これは金額幅と件数の関係の「分布」などで見た場合、ハズレ値として明白に可視化されます。
また、通常の営業循環のサイクルを無視したようなイレギュラーな時期に突出する取引などをつかまえるのもひとつの手法です。
別トピで監査と確率統計の利用方法について取り上げて頂きコメントしておりますが、どうもこの──初期の摘発監査と言うか、取締監査と言うか、探偵監査と言うものと、近代監査のフレームワークの支柱のひとつである内部統制の順守性監査、それに基づく財務取引の実証性監査とは同じ監査といっても目的だけでなく推定アプローチにだいぶ差があるはずなのです。少し乱暴ですが、前者は精査(全数検査)、後者を統計的試査と言う事も出来ます。ただ、昨今では精査はまずありえないのでどちらも確率統計の考え方で論じられ、この辺から話がややこしくなってくると思います。
母集団に関して、許容誤謬率2%を前提に信頼率95%で適正と推定する適正度推定の手法と、不正がどれくらい存在するかを推定する手法はかなり見方が違っているのですが、どちらも確率統計で云々する事が出来るのでややこしく、内部統制では時々これらをいっしょにしている気がしてなりません。私だけかもしれませんが…
あ、ちなみに会計検査院さんが行なう会計監査は摘発監査の性格を帯びており、聞いた話ではひとつの母集団に関するサンプルは数百件レベルで(その処理スピードはかなり驚異的)行なわれているようです。
投稿: 迷える25件 | 2008年8月31日 (日) 16時20分
すみません、言葉足らずでしたので補足致します。
>母集団に関して、許容誤謬率2%を前提に信頼率95%で適正と推定する適正度推定の手法と、
ですが、正しくは──
母集団に関して、例えば許容誤謬率2%を前提に信頼率95%で適正と推定する適正度推定の手法と、
投稿: 迷える25件 | 2008年8月31日 (日) 16時26分
迷える会計士さん、迷える25件さん、こんばんは。最近、ハイレベルのコメントが多くて、ひとつひとつ回答するのに苦労しております。また、内部統制ネタが少なくてすいません。。。実は今週木曜日に財務報告に係る内部統制の最新事情なるセミナー(第一法規主催)をやりますが、その準備のために追われております。当日は、これまたこの分野のツワモノの方々がご来襲されるとお聞きしておりますので、いじめられる可能性が高いのですが、そこでまた勉強させていただく議論をこちらでフィードバックしたいと思っておりますので、またご意見よろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2008年9月 3日 (水) 01時54分