財務報告に係る内部統制アンケートなどを拝見しておりますと、「重要な欠陥」とは何か?みたいなテーマが主流になっておりますが、最近の運用評価現場などを垣間見ているうちに、もっと具体的に「発生可能性」って、いったい誰が主導権を握って判断するのだろうか、とか、補完統制がある程度のリスク低減性があるんだったら、結局、全社的内部統制の統制活動にフィードバックしてくるんじゃないだろうか、など考え出したらきりがない制度であることに愕然としている今日この頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか。(挨拶ここまで)
(ここからが本題ですが)8月29日の日経夕刊では、再生紙偽装事件を契機に、リコー社の社内監査チームの方々が取引先製紙会社の工場監査を開始された、という記事が掲載されておりました。(ただしOEM供給元の取引先かと思われますので、CSR以前のリーガルリスクの回避が中心かと)記事によると、偽装発生の要所をきちんと押さえた監査のようで、その真剣さが伝わってきました。他社といえども、自社ブランドの信用を保持するために厳格な監査を行う、というのは「言うは易し、行うは難し」ですね。
さて、先週より頻繁に報道されておりますサンライズフード社のウナギ産地偽装疑惑でありますが、専門家の方のブログによりますと、もうすでに5,6年前から噂になっていたようで、やっと本丸まで調査が届いた、というものだそうであります。食品偽装に関するいろいろな事件がありましたが、今回のはスケールが大きいようであります。サンライズ社に対する行政調査や刑事立件に関する話題はひとまず置いといて、私自身が企業コンプライアンスの視点から関心を持ちますのは、このサンライズ社より大量のうなぎを仕入れてスーパーへ卸していらっしゃる東証二部の中央魚類社の対応についてであります。具体的には、中央魚類社はサンライズ社を「怪しい」と思わなかったのか、取引先調査をやってみようとは思わなかったのか、今後事後調査はやらないのか、製品回収はどこまでやるのか、といったあたりであります。これまでの対応とともに、今後の同社の対応にも注目しております。(なお、以下は私個人の雑駁な意見にすぎません。)
以前、中国ギョーザ事件発覚のときのエントリーにおきまして、商社の方より「商社の人間が輸入商品を個別に調査するなんて物理的に不可能です。もしそのような調査を要するのであれば多額の費用を消費者に転嫁しなければならないでしょう」と一蹴されてしまいましたが、もちろん今回も、一般論として考えますと大量の水産食品を仕入れている築地最大手の食品卸会社が、取扱商品のひとつにすぎないウナギの産地に関する調査(取引先監査)を行うことは到底困難なことなのかもしれません。また、実際に今回の報道に至るまで、サンライズ社の監査を行っていなかったことは、先週来、中央魚類社の適時開示情報が訂正(修正)されている内容からも明らかであります。ということになりますと、中央魚類社も今回の件は「いい迷惑」であり、基本的には「被害者的な立場にすぎない」ということになるのかもしれません。
しかし、今後の中央魚類社の対応を考えるにあたって、すこし検討を要する点がありそうです。まず8月30日の毎日新聞ニュースによりますと、中央魚類社は1998年からサンライズ社との間でうなぎの取引を開始していたところ、取引を継続していた2004年になって、「中央魚類社が出荷しているうなぎは中国産であり、偽装している」といった告発が東京都に出されていたようであります。このとき、中央魚類社は東京都に呼ばれ、都と対応策を検討したのでありますが、結局「産地証明書」のほかに、産地表示については間違いはありません、なにか問題がありましたらすべて私が負担いたします、といった「誓約書」をサンライズ社からとりつけることで解決したようであります。(なお、「産地証明」自体はサンライズ社が発行したものではなく、別の養鰻場経営会社が作成したものだったので、サンライズ社自身による誓約書を要求したのでしょうね。しかし逆に言えば、この誓約書を取り付けたことだけで一件落着となったようです。)このときに、なぜ実地調査をしなかったのだろうか・・・といった疑問も湧いてきますが、中央魚類社を弁護するつもりではございませんが、(中央魚類も東京都も)この程度の対応で終わったのは「おそらくイタズラの部類に属する申告にちがいない」といった感覚だったからではないでしょうか。
もうひとつ気になるのが、8月27日付け読売新聞ニュースによりますと、サンライズ社は2001年7月に、中国産や原産地不明のうなぎを「四万十川」産と表示して販売して、愛媛県からJAS法違反に基づく是正措置を受けていた、とありますが、こういった事実は、先の東京都との協議のなかで問題として浮上しなかったのでしょうか。もしくは、2001年といえば、すでに中央魚類社としてはサンライズ社と取引を継続していた時期ですから、愛媛県による行政措置を知る立場にはなかったのでしょうか。もし、東京都や中央魚類社が、こういったサンライズ社の「過去」を知りえたとするならば、先のように「嫌がらせの告発」とは推測されず、ある程度「サンライズ社は怪しい」といった心証を得られたのではないかと思います。もし、こういった事情から取引先における産地偽装のリスクを認識していたとすれば、それこそ取引先監査(調査)は行う必要があるでしょうし、調査に協力的でない場合には、しかるべき対応はとらざるをえないと考えますが、いかがでしょうか。
この点、8月27日の朝日新聞ニュースによりますと、中央魚類の担当役員の方がインタビューに対して「2005年と2007年に養殖池と加工場を現地で確認した。産地証明書を信じていた。偽装品とは疑わなかった」と述べておられます。しかし報道当初こそ、330万匹のうち2000匹程度の偽装品が混在していた、ということでしたので、この申し開きでも通ったでしょうが、現在の報道によりますと、そもそもエサが見当たらず、養殖場も使われていなかったのであり、ましてや加工場は「中国産」と書かれた箱が積まれていた、ということのようでありますので、もし報道内容が真実だとすれば、かなり窮地に立たされてしまっているんじゃないでしょうか。2004年の東京都との協議の一件(しかも誓約書をとりつけている)の後に現地に向かっていたのであれば、実際にうなぎがどのように養殖されているのか、現認せずに帰ってくることなどありえないですよね。(^^;;
ともかく、以前から疑惑を知っていた取引先の産地偽装の報道がなされた後におきましても、自社で調査を開始するといった対応すらとられていないのはなぜなんでしょうか。中央魚類社に対して、かなり好意的に事件の経緯を推測してみても、この一点だけは消費者に対する企業の姿勢が透けてみえるようで、どうも解せないところであります。そしてもうひとつ感じますのは、情報を集約することの重要性ですね。農水省、東京都、愛媛県などの情報が一元管理されていれば、もっと早期に行政も中央魚類社も対応することができたのではないかと思われます。(現在構想されている消費者庁では、こういった情報が一元的に管理されることになるのでしょうか。)