« 2008年8月 | トップページ | 2008年10月 »

2008年9月29日 (月)

エンジェルからみた日本企業の内部統制

アントレプレナー(ベンチャー起業家)を多数支援しておられるビジネスエンジェルのような方は、ともかく支援先企業を上場まで持ち込んで、適当な出口さえ見つけて「儲け」を出すことに注心されるのであり、ともかく商品の開発とマーケティングだけに興味を示し、ガバナンスや内部統制などはまったく関心の対象でなないといった印象を(少なくとも私は)抱いておりました。しかしながら、八幡恵介氏の新刊「(日本初のエンジェルが教える)投資できる起業、でいない起業」(光文社 税込1000円)を読ませていた印象としましては、私の先入観は、かなり現実とは異なるもののようであります。

Toushi001_2 著者はNEC出身の技術者として、外資系日本法人の立ち上げに成功され、その後多数のベンチャー起業家を支援されておられる方でありますが、本書は基本的には起業家向けに、ビジネスエンジェルの立場からの「成功指南書」として書かれたものであるものの、自身の投資失敗事例が20社ほど紹介されておりまして、起業家のみならず、一般事業会社のCEO、CFOの方にもたいへん参考となる一冊であります。(いや、実におもしろい。このようなブログで紹介せずとも、これは相当に売れる本だと思いますが・・・・)おそらく、どんなに頑張ってみても、上場にまで至る企業は20社に1社程度、それでもエンジェルとしては20社に分散投資して、1社から元がとれればハッピー!!といった非常に現実を直視された目線で起業家へ提言されている点も、この本の説得性を物語るものであります。

私的には、起業の成長段階に応じて、企業に要求されるガバナンスのレベルを具体的に解説されているところがもっとも考えさせられる点でありましたが、なんといっても「安易な起業」や「マンパワー不足」などに分類された20の失敗事例は企業コンプライアンスとの関連性も想起させるものでして、たいへん参考になりました。また、ビジネスエンジェルの方から「成長時点においてこそ内部統制の整備が重要である(上場準備の段階において、すぐに内部統制が整備されるということはありえない)」「経営者は職業的倫理感が不可欠」とされ、さらに昨今の「日本版SOX法」施行への思いについても記述されている点につきましては、たいへん勇気付けられるところであります。(ちなみに、著者は自身が社長を務めておられた企業で米国SOX法への対応も経験されておられたようです)

IPOに向けての知識を蓄える、というよりも、知恵を養うための一冊といえるものですので、とくに専門的な予備知識が必要ということもなく、おそらくどなたでも内容は理解できるものと思われます。内容を理解したうえで、著者の考えに賛同するか、批判するかは読まれた方の自由だと思いますし、それがまた読まれた方の楽しみではないかと思われます。なお、八幡恵介氏のブログも開設されているようですので、そちらも参考にされてはいかがでしょうか。(値段はペーパーバック版のため1000円ですが、中身はしっかり244頁の充実版であります)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月28日 (日)

モリテックス社の少数株主保護と買収防衛策の有効期限について

昨年、IDEC社との間でプロキシーファイトを繰り広げたモリテックス社でありますが、9月24日、独ショット社の日本法人がTOBによりモリテックス社の過半数の株式保有を目指すことにつき、賛同する旨のリリースを出されております。なお、賛同については、IDEC社から派遣されている(おそらく)取締役2名以外の6名の取締役によるものとされておりますので、今後のIDEC社のカウンター・テンダーの可能性に注目が集まっているようです。(事業提携を伝えるニュースはこちら)

9月24日付けモリテックス社のリリースに添付されている資料(株式会社モリテックス社に対する公開買付けの開始に関するお知らせ)を読みますと、過去1か月の株価平均の79,2%ものプレミアムを上乗せしたTOB価格もさることながら、特筆すべきは少数株主保護に関する具体的な記述がなされている点であります。まず、①少数株主保護政策について、すでに以下の点について資本業務提携契約において合意に達していることを示したうえで、②ショット社を含む議決権比率の高い株主からモリテックス社への不当な圧力に対して、モリテックス社がコントロールする方策を講じること、③モリテックス社による関連当事者との間の取引の公正性およびアームズレングス・ルールの順守などであり、基本的にショット社自身が日本における「少数株主保護に対する関心」を熟知している旨、宣言されております。

昨日(9月26日)の日経新聞では、記者さんの「今回の提携が大規模買付行為にあたらないと判断して、買収防衛策を適用しなかった理由は?」との質問に対して、モリテックス社の社長さんは

ショットとはモリテックスの企業文化や日本の商慣習を尊重し、少数株主の利益を無視するような大株主の論理を振り回さないなどの点で合意している。資本提携で両社の企業価値が向上すると取締役会で判断したため、(買付の是非を判断する)特別委員会の招集も必要なかった

と答えておられ、上記の少数株主保護に関する合意をショット社に対して買収防衛ルールを適用しなかったこととの関連で説明されておられました。しかし、私はむしろ、両社とも「一般の株主にやさしいTOB」を目指したものと理解しています。つまり、株主の判断として、ショット社と提携して企業価値の向上を目指すモリテックス社の株主としてそのまま残るのもよし、TOB価格に魅力を感じて、TOBに応募するもよし、ともかくTOB時の株主の判断にまつわる不安(TOBに応じないことで、結果として少数株主として残ってしまい、その後の組織再編等によって低価格で排除されてしまう不安)を排除した状況のなかで、株主の皆様が自由に判断してください、といった気持でショット社およびモリテックス社が一般株主に接している態度こそ特筆すべき点なのではないかと思いました。新光証券さんをフィナンシャルアドバイザーとして、公正価値算定報告書を吟味していることや、プレミアム価格の大きさも注目されますが、この一般株主への配慮が、今後のTOB実務の適法性および取締役の株主に対する説明責任の充足という観点からとても重要ではないかと考えた次第です。

なお、モリテックス社が「ショット社のTOBについては買収防衛ルールを適用しない」とする判断について、一点、非常に素朴な疑問が湧いてまいります。平成18年12月18日に取締役会判断によって導入されたモリテックス社の事前警告型買収防衛策でありますが、これは現在でも本当に有効なのでしょうか?同日のリリースを読みますと、この防衛策は平成19年の定時株主総会で選任された取締役が、総会直後に開催される取締役会におきまして、継続するか、廃止するかを決定することになっております。つまり、普通に読みますと、平成19年の定時株主総会時点までが有効期限と思われます。しかしながら、ご承知のとおり、モリテックス社の定時株主総会における取締役選任決議は、東京地裁によって取消判決が出ておりまして、その後の取締役会における「防衛策継続決議」も効力は有していないはずであります。その後の東京高裁での和解、それに続く臨時株主総会における取締役の選任決議はなされたものの、社長を含む数名の取締役が交代しておりますので「瑕疵が治癒された」とは言えないはずであります。(それとも、高裁で両者が和解をしたので「瑕疵」自体がそもそもなかったという判断でしょうか?しかし和解の効力は当事者間における相対的効力があるにすぎず、その後に実際に臨時株主総会で再度取締役の選任議案を上程しているわけですから、すくなくとも地裁の取消判決の対世効については「確定判決がなくても」無視できないようでありまして、やっぱり瑕疵自体は残るような気がしますが。。。また本年6月の定時株主総会においては取締役の選任議案は提出されておりません)ということは、現時点ではモリテックス社には買収防衛策は存在していない?ということになるのではないでしょうか。また、平成18年12月のリリースからすれば、モリテックス社としては、株主総会における取締役の選任議案とリンクさせることで買収防衛策の正当性の根拠を株主意思に求めておられるようですので、かりに現在も買収防衛策が生きているとしても、これを取締役会判断でショット社との関係で適用排除することはどういった理屈をもって可能となるのでしょうか?(取締役会独自の判断で適用を除外できるとすると、その旨が防衛ルールのなかで明示されている必要があると思うのでありますが。)もし買収防衛策の有効期限が切れている・・・という事態となりますと、IDEC社からのカウンター・テンダーが出てきた場合には、事前警告型防衛策に基づくルールが使えないのではないかといった疑問も生じるところであります。

(追記)防衛策の有効期限の点につきましては、ある方よりモリテックス社のガバナンス報告書を参考ください、とのメールをいただきました。内容を読ませていただいたうえで修正する可能性がございます。私の勘違いやリリースの見落としがございましたら、またご教示ください。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月26日 (金)

有害物質規制に係る土地売買と瑕疵担保責任規定の適用に関する疑問

ろじゃあさんも「これは実務への影響大かも!?」としてとりあげていらっしゃいますが、東京高裁において、土地売買契約の後に有害物質規制が敷かれた土地については、その汚染除去費用は民法570条の「隠れた瑕疵」に該当し、買主は売主に対して除去費用額4億4800万円の請求ができる、とする判決が出たそうであります。(日経ニュースはこちら。なお、9月26日の日経新聞朝刊にも同様の記事が掲載されております)私自身も、この判決内容は、企業実務に多大な影響を与える可能性が高いものと認識しております。

本来ならば、判決全文を読んでからエントリーすべきでしょうが、どうも私の感覚として、1991年に土地売買が完了して、2003年に高濃度フッ素が有害物質として指定されたわけですから、12年も経過した後に、商事売買の売主の瑕疵担保責任が発生する、というのは(たしかに買主にとってはお気の毒な状況ではありますが)取引の安定という意味から見ても、どうも違和感を覚えます。売買時よりも後に「汚染した土地」の指定を受けた土地がはたして「隠れた瑕疵」のある売買対象物に該当するのかどうか、という点につきましては、瑕疵担保責任の法的性質が、債務不履行の一種なのか、特別法定責任なのか、といった典型論点との関連でいろいろとご意見はあると思われます。しかしながら私が反射的に違和感を覚える最大のポイントは「瑕疵担保責任と消滅時効」に関する最高裁判例との整合性であります。

瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効に関する民法166条の適用があり、この消滅時効は買主が売買契約の対象物の引渡を受けたときから進行する、というのが最高裁判例であります(最高裁平成13年11月27日・民集55-6-1311)。本件についてみますと、たしかに買主としましては、少なくとも2003年時点にならないと「汚染物質の除去費用」発生の事実を認識できないわけですから、それ以前には損害賠償請求権を行使することは不能であります。したがいまして、損害賠償請求権の消滅時効の起算点を2003年と捉えるべきのようでもありますが、上記最高裁判例は、瑕疵を認識できた時点を起算点とするのではなく、あくまでも「売買契約対象物の引渡を受けた時点」としております。これはおそらく、瑕疵担保責任の追及といえども、取引の安定性を考慮して、たとえ取引時において買主には瑕疵の存在が判明できず、損害賠償請求権を行使することができなくても、両当事者の公平を図る見地から、起算点を「引渡時」としたものであると思料されます。そうであるならば、本件でも、売主の瑕疵認識の時点よりも、1991年を消滅時効の起算点とすることが最高裁判例と整合するものであり、当該東京高裁判決は、最高裁の判例と抵触するのではないでしょうか。(もちろん、売主側が訴訟において消滅時効の抗弁を援用していること、を条件とするものでありますが)

どうも脊髄反射的に、違和感を覚えた次第でありますが、もし東京高裁の判断に公平性を付与する事情があるとするならば、売主は化学系の会社であり、後に有害物質として指定されるような汚染物質を自ら放出したのであるから、その除去責任は売主側が負担すべきである、とする価値判断かと思われます。ただ、この価値判断は、どこでどのように「瑕疵担保責任」を結びつくのか(債務不履行責任の一種と捉えるのかもしれませんが)、やはり判決全文にあたってみないと、そのあたりは不明のようであります。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

アクセス社の「ガバナンス評価委員会」の役割とは?

先日の「全社的内部統制の重要な欠陥判断はむずかしい」のエントリーにつきましては、多数のコメントをいただき、本当にありがとうございました。また、丸山満彦先生には背中を押していただくようなエントリーも書いていただき恐縮です(笑)本日も、全社的内部統制にすこしばかり関連するようなエントリーであります。

粉飾決算(有価証券虚偽記載)および特別背任容疑で元代表者および前代表者が起訴されている大阪のシステム開発会社アクセス社でありますが、本日(9月25日)、社外調査委員会報告の最終答申書とともに、企業風土の改善を目的として「ガバナンス評価委員会」を新たに設置することを発表しております。(当初の委員は社外調査委員会の著名な先生方がそのまま横滑りで就任されるようであります)すでに法務・会計アドバイザーを擁した社内調査委員会が6月の時点で「ガバナンス評価委員会設置」の必要性を提言されておりましたが、不祥事を起こした企業の風土を改善するために取締役会における重要な意思決定に事実上の影響力を有する機関として、このような委員会を設置するというのは極めて珍しいケースではないでしょうか。買収防衛策の一環として有事に機能する社外独立委員会とは、かなり様相を異にするようであります。(現時点におけるアクセス社自体が「有事」にあたる、という見方もあるかもしれませんが・・・)

ちなみに、上記ガバナンス評価委員会の主たる役割は、①依然として34%の株式を保有し筆頭株主の地位にある元代表者の不当な影響力を排除する(取締役候補者の適否を評価し、意見を取締役会に述べる)②元代表者に対するアクセス社からの損害賠償請求訴訟の内容、提起時期等についての見解を示す、③ブラック・ナイト、グリーンメイラー等、株主共同の利益を害する、あるいは会社のガバナンスに悪影響を及ぼす者が株式を保有しようとする場合に、適切な対抗措置をとるように勧告をする、④ガバナンスに関する改善、実効的な内部統制の実施等について監督、監視する、というものでありまして、どれも非常に興味深い内容となっております。とりわけ、社外調査委員会はこのガバナンス評価委員会に対して

「再生アクセス社については早急に元代表者の影響力を排除する方策がとられる必要があることから、元代表者が保有する株式を第三者に譲渡させることを勧めたり、場合によっては提携先企業への第三者割当増資などの方策の検討も視野に入れる必要がある」

とされております。(最終答申書P6参照)

とても興味深いものではありますが、経営者の株式保有の面からの支配力が強く、他の取締役らが意見を述べることが困難なほどに経営にも影響力を持つ・・・というだけで、こういったガバナンス評価委員会がどこの企業でも「企業風土を改善するために」有効に機能するかどうかはわからないところだと思います。おそらくアクセス社の場合には、取締役の行動にきわめて透明性、公正性が要求される場面が今後予想されることから、こういった手法で切り抜ける必要が強いことによるものではないでしょうか。たとえば、場合によっては提携先企業への第三者割当増資などの方策も検討されるようでありますが、昨年の日本精密事件(さいたま地裁決定平成19年6月22日)や、本年6月23日のクオンツ事件(東京地裁決定)の裁判例の流れからしますと、株主の在り方を実質的にコントロールするための第三者割当につきましては、会社側にとってかなり実行しづらい状況になっております。また元代表者との株式譲渡に関する話を進めながら、一方で会社側より元代表者に対して損害賠償請求に関する提訴を検討するということでありますと、個別株主に対する「利益供与」の問題や、株主平等原則との抵触可能性など、いくつかの会社法上のかなりナーバスな問題点をクリアする必要が出てくると思われます。そういった法律上の問題点を厳格に判断しながら最終的な取締役会としての意思決定を行うためには、どうしても、こういった法務や会計に精通された社外委員が深く関与せざるをえない状況にあるのかもしれません。

ただ、こういった社外委員によるガバナンス評価委員会が、恒常的に長い期間存在する、というのもどうかなぁ・・・とも思いますね。むしろ本来的には社外取締役や監査役こそ、こういった透明性、公正性確保のために活躍すべきではないでしょうか。そもそも本当に企業風土を改善する必要があるのであれば、社外取締役を複数名導入したり、監査役(会)の地位を強化する方向で検討されるべきであり、真のガバナンスの変革のためには、本件ガバナンス評価委員会の皆様には、こういった恒常的な組織強化にもご尽力いただければ・・・と思う次第であります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月24日 (水)

アーバンコーポレーションのコンプライアンスにみる内部統制の脆弱性

本業のほうがどうも忙しくなってまいりまして、祝日も終日事務所で書面を作成しておりましたが、ブログはできるかぎり更新いたしますので、引き続きよろしくお願いいたします。(すいません、コメントはまともにお返しできない状況が続いております)さて、ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでありますが、今回は金融商品取引法違反による損害賠償請求訴訟の噂が出ておりますアーバンコーポレーション社の件をとりあげておきたいと思います。なお、9月20日の日経新聞でも「不適切な開示への誘惑」なる記事(大機小機)が出ておりましたが、訴訟提起の噂もありますので、不適切開示が果たして違法行為となるのかどうか、といった問題については立場上、意見を差し控えさせていただきます。

パリバとのスワップ契約部分を開示しなかったことの適法性は別として、すでに東証は、アーバン社による開示が不適切であったとしておりますし、「あの資金調達さえなければ、倒産という最悪の事態は避けられたかもしれない」(9月12日日経朝刊記事による、アーバン関係者の証言)ほどの事件だったわけですから、本件はアーバン社にとりましては企業情報開示に関わるコンプライアンス問題であることには間違いありません。そこで、すこし気になりましたのは、会社法務A2Zの3月号におきまして、「アーバンコーポレーションにみる『内部通報システム』と『コンプライアンス教育』」と題する特集記事(内部統制最前線)が組まれておりまして、そこでは「21世紀を代表する不動産価値創造企業をめざす」という経営ビジョンをもとに、アーバン社がすぐれたコンプライアンス教育に注力をしてきたことが内部統制室長インタビューのもと、広報されている内容であります。リスク情報の公表や反社会的勢力からの物品購入など、企業の信用維持のために必要なリスク管理についてもコンプライアンス研修の対象になっているようです。コンプライアンス研修などは、短期間で効果があらわれるようなものではありませんが、2006年秋ころから内部統制プロジェクトも開始されているようですので、おそらく1年以上は内部統制構築の一環としてなされてきたのではないかと推測されます。

私がいつもお世話になっているコンサルティング会社も関与しておりますし、その教育過程自体には多くの企業で採用されている実績の高いものではありますが、こういったコンプライアンス研修をどれだけやってみても、今回のような不祥事(と思いますが)は、発生してしまうわけでして、コンプライアンス経営において昨今よく指摘されるところの「現場コンプライアンスと組織のコンプライアンスとの分断」があったと言わざるを得ない事態に起因するものと言えそうです。コンプライアンス研修等を積極的に取り組む姿勢は、経営トップの「コンプライアンス重視」の意思を全社員に発信する意味もあるとは思いますが、やはり不祥事体質からの脱却という全社的な取組の一環として行われなければ、どこの企業でも今回のような事態が発生してしまうでありましょうし、コンプライアンス経営のもろさを露呈することになってしまうはずであります。メリルリンチも今後資産状況がまだどうなるのかはわかりませんが、少なくとも日経新聞の後追い記事「アーバンコーポレーション破たんの実相(上-パリバとの密約障害に)」が真実だとするならば、あのスワップ契約の不開示以外に倒産の危機を脱する別の選択肢があったのではないでしょうか。

これだけ内部統制システムを充実させていたとしても、切羽詰まった状況における経営トップの行動に誰もストップをかけることができず、多くの一般投資家に迷惑をかけてしまった現実には、正直、内部統制の無力感を抱かざるをえません。私自身も非常にショックを受けているところでありますが、こういった事件を今後防止するためには、市場の萎縮的効果を承知のうえで、あえてバスケット条項を用いてでも事後制裁の厳格化をはかる方向で考えるのか、あるいは速効性は期待できませんが、地道に経営トップの関与する不正を予防できる仕組み作りを作っていく方向で考えるのか、考えるべき時期に来ているのかもしれません。それぞれの選択肢によって、コンプライアンス・プログラムの内容は180度変わってくるはずであります。(しかし、本当にコンプライアンス経営はむずかしい・・・ですね・・・)

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2008年9月22日 (月)

全社的な内部統制の「重要な欠陥」の判断はむずかしい?

第一回の内部統制監査、監査人報告会、四半期レビュー立会など外部監査人との協議を通じて、各社における内部統制評価のレベル感も次第に明らかになりつつある時期ではないでしょうか。旬刊経理情報の最新号(10月1日号)では、大手監査法人に所属する会計士さん方による「内部統制実施半年前チェック」が特集されておりまして、「制度対応」「業務プロセス文書化」「整備、運用状況の評価」そして「有効性判断と内部統制報告書作成」それぞれのチェックポイントが紹介されております。どれも手際よく、比較的簡素化されてまとまっておりまして参考になります。とりわけ「不備の発見」から「重要な欠陥」を内部統制報告書で開示するまでの分類図表は、私もその思考過程においてまったく同感であります。

ただ、いずれのチェックポイントにおきましても、全社的な内部統制をどのようにチェックするのか、という点について、①42項目の評価ポイントを自社の状況に合わせて活用しなさい、②重要な欠陥の具体例が「実施基準」ではこうなっています、③全社的内部統制の評価手続きはきちんと記録しておきましょう、といったことだけが記述されているだけで、具体的な提案がなされていないのは少しだけ残念に思いました。財務諸表監査において、「重要なエラーが発見されない」という消極的な心証を「合理的保証」のレベルにまで積み上げる必要がある監査人の方々にとりましては、本来的業務に資するものとして、どうしても業務プロセス、決算財務報告プロセスへの関心が高まることはやむをえないとは思います。しかしながら、ディスクロージャーの充実によってコーポレートガバナンスの機能向上(「経営者の不正防止」と言って学会でご批判を受けましたので、このように申し上げます)を図ることが求められている金商法上での制度である以上、各社が全社的な内部統制をどのようにチェックをして、どのような判断過程をたどって「重要な虚偽表示に結びつくような不備は認められなかった」と評価したのか、この制度にとっては不可欠の作業工程であります。

この特集記事の最後のところは、「ただし、財務報告にかかる内部統制に責任をもち、かつその有効性を判断しうるだけの能力を持つ経営層に必要な情報が報告される体制は必ず必要である」と締めくくられておりますし、私も同感でありますが、皆様の会社におきましては、この「財務報告の内部統制の有効性判断をできる能力のある経営層は、どなたかおひとり頭に思い浮かびますでしょうか?もしそのような方が思い浮かぶのであれば、少なくとも私であれば、ぜひ上記のとおり、全社的な内部統制の有効性の判断過程をきちんと説明していただきたいと思います。なお、私の場合は、「重要な欠陥は是正することに意味がある」という立場から、有効な補完統制の有無、金額的重要性の範囲確定、(重大な虚偽表示の)発生可能性の有無において、全社的内部統制は重要な意味を持っていると解しておりますので、そのあたりのお話もしたいのでありますが、長くなりましたので、また別の機会にさせていただきます。

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2008年9月19日 (金)

全日空システム障害に思う「企業風土と内部統制」

9月14日に全日空社の端末ダウンにより、同社は休日の利用客に大きな迷惑をかけてしまったわけでありますが、そのシステム障害の原因がなんとも「きわめて初歩的なミス」(同社IT推進室長のご発言)だったそうでありまして、ニュースを聞いた方も驚いたのではないでしょうか。(朝日新聞ニュースはこちら)といいますかニュースをよく読みますと、これはシステム障害というのは不正確でして、「手作業のミス」と言ったほうが正確かと思われます。(むしろシステムが正確に作動していたからこそ発生した不祥事というのが正しいですね)

この全日空社のシステム障害事件のニュースを読みまして、ITに関しては素人ながら疑問に思いましたのが、なぜ自ら認めておられるような「きわめて初歩的なミス」だったにもかかわらず、4日間もその原因究明が遅れてしまったのか?という点であります。端末ダウンという事故を(昨年も起こしてしまったにもかかわらず)初歩的なミスによって発生させてしまったこと自体に非難が集中するのも理解できますが、それよりも私の場合は、こういった事故の原因がすぐに判明せずに丸4日間が経過した後に判明する、という事実のほうがよほど非難(問題視)されるべきではないかと思います。つまり効果的な再発防止策は、初歩的なミスが二度と発生しないように点検作業を万全に行うことではなく、ミスが発生することを前提として、そのリカバリー体制を万全とすることと、そのミスの原因が速やかに発見できる体制ではないでしょうか。そのほうがよっぽど利用客へ迷惑をかける度合が少なくなりますし、企業の信用棄損のリスクも低減することになると思います。また、なんといっても、「運用上の人為的ミス」のおそろしさをリスクとして実感できるのではないでしょうか。

データ暗号化機能の設定ミス(有効期限の更新手続きミス)にせよ、原因究明の遅延にせよ、これを単にIT推進室や外部委託業者の責任問題とみなして「一件落着」とするのでは、おそらく再び原因不明のシステム障害を発生させ、利用客に多大な迷惑をかけることになるのは間違いないと思います。私の経験からすれば、こういった問題はおそらく「組織」に関わるところが大きいと思います。結局のところ、「あのIT室長は優秀な人だから彼に任せておけば大丈夫」とか「あの業者は日本で一番安全確実だから、うまくやってくれる」といった「人の信用」に重きを置きすぎて、内部統制が機能しない状態に陥っていることに大きな原因があると考えます。「あの人のところではミスは起こらないだろう」といった気持を誰もが持っているとすれば、当然のことながらミスの発見は遅延します。また社内で成功体験を持った人のミスというのは、なかなか声を出していいにくいものであります。(これは組織の大小にかかわらず発生する場合があります)人から信用されるからこそ、大きな仕事を任せられることの「期待」に応えようとするのはよくわかります。しかしながら、こういった人の能力に頼りすぎる組織風土だからこそ、内部統制が必要となるのであり、本件のような場合には少なくとも独立部門によるモニタリングが不可欠になってくるはずであります。IT全般統制における保守管理部門に優秀な人材が投入されていることは、それだけをみれば内部統制の有効性評価にはプラスかもしれませんが、その評価はあくまでも当該部署に独立したモニタリング体制が存在することが前提であることを忘れてはいけないと思います。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2008年9月17日 (水)

「名ばかり監査役」に衝撃の一喝(荏原・社外監査役)

最近の日本経済新聞の記事のなかで、私が「さすがプロの記者は違うなぁ」と読み応えを感じましたのはアーバンコーポレーションとメリルリンチ、パリバの攻防を追った連載記事、そしてJR西日本尼崎事故の元経営陣の書類送検までを追った連載記事「企業の不作為」でありました。そして日経ビジネス誌における最新号(9月15日)の「敗軍の将、兵を語る」も、これまた(上記日経連載記事の衝撃に劣らず)スゴいですよ。荏原の「現役」社外監査役でいらっしゃる大森義夫氏、ついに登場であります。タイトルもズバリ

          「不正暴けず、逆にスパイ扱い」。

大森氏の件は当ブログにおきましても、すでに「社外監査役の乱」シリーズとして二度ほどご紹介いたしましたが、結局のところ計算書類の承認決議が得られた荏原社の株主総会を伝える新聞記事も比較的おとなしめの内容でしたので、「あれ?監査報告書ではずいぶんと過激なご意見だったのに、どうしちゃったんだろう?」と思っておりました。しかし、この「敗軍の将」シリーズで、大森監査役は思いのたけを語っておられます。

「今後も荏原が事実を明らかにすることがなければ、最終的には私は提訴も辞さない構えです。」

なお、私は新聞報道を読んで「あれだけ監査報告書で『コンプライアンス上の問題あり』と意見を述べられたのであれば、株主総会においても大森監査役自ら、株主に対して説明責任を尽くすべきではなかったか」と疑問を呈しましたが、この大森氏のお話によれば、きちんと総会の場において自ら「理由と背景について」説明された、とのことであります。(そうとは知らず、たいへん失礼をいたしました。m(__)m)そして、この「敗軍の将」シリーズにおきまして、おそらく荏原社の株主総会でも説明された(であろう)「経理帳簿に虚偽記載のおそれがある」とした意見理由及びその背景事情が赤裸々に語られております。(ちなみに、記事の公平性への配慮から、荏原広報室の反論インタビューについても囲み記事として掲載されております。しかし、荏原社の役職員の方々は、今週号の日経ビジネス、どんな思いで読んでおられるのでしょうか。)

ご興味のある方は、ぜひご自身でお読みいただくのがよろしいかと思いますが、このインタビュー記事におけるポイントはいくつかあると思います。ひとつめは

「これまでの4年間は、少しおかしいな・・・と思っても、会計監査人も承認しているし、他の4名の監査役も問題なしと言っているから、何も言わず黙って署名押印していました」

ということで、いきなりの「ご乱心」とは言い切れないところであります。いくら非常勤社外監査役といいましても、5年ほどの就任期間を経過すると、大きな上場企業でも「当該会社の人的な力学」が手に取るようにわかるはずであります。たとえ社外監査役に諸々の情報が直接的に入らなくても、周囲の環境の変化から、ただ事では済まない事情を察知することは十分可能であります。もし4年間沈黙されていたのに、今回黙っておれない状況になった、ということを経営陣側にとって有利に推測するためには、なにか別件の事情によって経営陣と大森監査役が対立することになった、という経緯が必要になってくるのではないでしょうか。もし、そういった事情もないということであれば、当該監査役が真摯な気持ちで監査役としての職責をまっとうしようとされた、との推測がこの「4年間の沈黙」の事実によって浮上するようにも思われます。

ふたつめは、本来経営者トップとの利害関係が一致するのが通常である顧問弁護士の方が、会社側にとって極めて不利な(不都合な?)事実と証拠を握っておられたようでありまして、この顧問弁護士の方のレポート内容と、会社側設立に係る社外評価委員会によるレポート内容とが食い違っている、とのことであります。あくまでも一般論ではありますが、顧問弁護士は、独立社外調査委員とは異なり、クライアントである顧問企業を守る立場にあるのが通常ですから、その顧問弁護士があえて顧問企業にとって極めて不利な内容のレポートを「公表」したことは、そのレポート内容の信ぴょう性が高いことを示していると推測するのが自然であります。したがいまして、監査役としては、この「信憑性が高いレポート」と、外部委員会のレポートとで、その内容に大きな食い違いが生じた場合には、どちらの事実が正しいものなのか、調査することはむしろ自然ではないかと思われます。この顧問弁護士の方の把握されている内容とその証拠に関する大森氏の証言が、かなり具体的でありまして、これがインタビュー記事の内容を鬼気迫る雰囲気にしております。(内容はここでは申し上げませんが)

そして三つめは、大森氏の独自調査に対して、経営陣が調査の続行を承諾をしなかった、という点であります。(ここは会社側は異なる見解です。会社側としては大森監査役の調査を妨害をしたことは一切ない、と反論されています)ここで問題は、(かりに大森監査役の言われるところが事実だとするならば)なぜ経営トップには監査役の調査を拒否する権限があるのだろうか?という点であります。これは(どちらに味方する、ということではなく)素直に疑問を感じます。会社法381条1項では「監査役は取締役の職務の執行を監査する」と規定されており、同条2項では「監査役は、いつでも会社の業務、および財産の状況を調査することができる」と規定されているのでありまして、同976条4号では「会社が正当な理由なく、これらの調査を妨げたときは、その取締役等に罰則の制裁が科せられる」ことになっております。つまり正当な理由がないかぎり(監査役による権限濫用にあたらない限り)、監査役の業務・財産調査権は何らの制限なく行使されるものであって、顧問弁護士との面談を妨害するような行為があったとすると、それは制裁の対象になってしまうかもしれません。(もちろん、当該企業の顧問弁護士と面談することが、はたして監査役の調査権限の範囲内にあたるかどうか、といった問題はありそうですが。)だからこそ、会社側としては、大森氏の調査をなんら妨害するようなことはなかった、あくまでも顧問弁護士自身から面談を断ってきたのだ・・・といった説明になるのでしょうね。(ただし、他にも取締役がどうして監査役からの事業説明への協力を拒絶できるのか、という問題もありそうです)

大森氏は今回の社外監査役の乱によるも、辞任することなくいまも監査役として執務しており、全国の監査役に対して「名ばかり監査役に甘んじてはいけない」とのメッセージを送り続けておられます。このたびのインタビュー記事においては、他の4名の監査役の方々はどのように思っておられるのか、といった点も気になるところではあります。今回の件につきましては、監査役の立場からみて賛否両論があると思いますが、いずれにしましても、先日ご紹介したニチロ社の元監査役の方の対応なども含め、ぜひとも監査役の方々にお読みいただき、いろんなご意見をうかがってみたいものであります。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年9月16日 (火)

実践「現場発信のJ-SOX」~失敗を乗り越えた内部統制講座~

おそらく本日の世間での話題は「本当に日本はアメリカ経済と心中する気があるのだろうか?」といったことに集中しているのではないかと推測いたしますが、せっかく日経新聞の「法務インサイド」にて内部統制報告制度に関する話題をとりあげていただいておりましたので、一言申し上げます。9月15日の日経新聞朝刊の記事にて、内部統制報告制度(いわゆる日本版SOX法)が「思わぬ副作用」をもたらしている・・・といった(私が読むかぎり)比較的ネガティブな解説が出ておしました。その「副作用」といわれるものは何かと申しますと「中堅企業を中心に株式上場を取りやめる動きが相次いでいる」ことと「中堅上場企業を中心に、株式上場を維持するために必要なコストが急速に増加する傾向にあり、収益を圧迫しており非公開化(MBO)を検討する企業が増えている」ことだそうであります。私もIPO支援ネットワークの副代表を務めておりまして、大手のVC(ベンチャー・キャピタル)さんに支えられている上場準備企業が上場予定を延ばしているのを間近にみておりますが、いずれも景気動向を見据えてのVCさんのご意向に従ってのものでありまして、とくに内部統制報告制度が要因になっているというのは(少なくとも私の周囲では)聞いたことがありません。ただMBOを検討している企業が増えている・・・というのは、私自身もある監査法人さんから概況としては聞き及んでいるところですので、そのような状況にあるというのは現実なのかもしれませんね。もし、この日経記事のように日本版SOX法の「聖域化」が市場の活性化と健全化のバランスを失してしまっているのであれば、「一定レベルをクリアするための内部統制」について、ベストモデルを目に見える形で提供する必要があるのかもしれません。

Genbahassin001_2 業務用洗剤を主力商品とする東証二部の株式会社ニイタカは、従業員規模160名程度、売上120億円規模(四季報より)の典型的な中堅上場企業であります。その中堅上場企業の内部統制プロジェクト担当者はたった一人でありまして、その担当者の方がこのたび「現場発信のJ-SOX(失敗を乗り越えた内部統制講座)」なる本を出版されました。本日(15日)大阪梅田の旭屋書店の本店では、「内部統制コーナー」にたくさん平積みになっておりましたので、おそらく東京の大型書店でも発売されたものと思います。著者である雑賀(さいが)氏は、私も在籍しております内部統制研究会(関西で毎月1回開催している現場担当者や、IT統制、システム監査に詳しい監査法人担当者の方々が集まる研究会です。もう発足して1年以上が経過しました)に参加されている方でして、某金融機関にてシステム関連の仕事をされた後、ニイタカに転職されました。監修者でいらっしゃる法政大学の石島隆先生も、また(米国SOX法による監査を経験している立場から)執筆協力をされた元バイエル薬品監査部の鈴木氏も、上記研究会にご参加いただいております。最近は大手の監査法人さんが発行されている内部統制整備、運用評価に関する実務参考書が人気を博しているようですが、1年半かけて、監査法人担当者の方と相談をしながら、作り上げた内部統制システムの実務書というのは、ほとんどなかったと思います。この本は、先に述べましたとおり、「一定のレベルをクリアするため」の内部統制を完全に意識したものでありまして、ベストモデルを目に見える形で示したところに特徴があります。また、そのようなベストモデルを構築するなかで、雑賀氏は「いろいろと問題は抱えているものの、実施基準自体はたいへんよくできている」といった結論に達しております。まさに「内部統制の副作用」に悩む中堅上場企業の方々にぜひお勧めしたい一冊であります。(もちろん、ベストモデルといいましても、内部統制評価自体がプロセスの評価ですから、次年度に向けて改良(改善)が必要であり、人材育成が欠かせないことは当然であります)

最近、広報コンプライアンスや危機管理対応の広報リスクマネジメントに関する仕事をさせていただくなかで、不祥事発生時における事実集約や原因究明、開示と非開示の区別、マスコミへの公表事実の選択などを短時間のうちに適正に行うことが非常にむずかしいことを知りましたが、唯一効率化のための方法として、全社的統制→現場統制→全社的統制といった「サイクル」で組織一体的に危機管理対応を図ることがけっこう有効であると認識いたしました。(ただし危機広報というのは、内部統制と異なり、経営トップは何も言わなくても率先して事に当たるというところでありますが。もちろんコンサルティングの方に教わった部分もあります)まさに同じような感覚を、この本でも学んだような次第であります。サンプリングにおきましても、おそらく実際の現場では「不備」がゴロゴロ出てくることが予想されますが、ではどんな手法をもって虚偽表示リスクを低減していくことが可能なのか、中堅企業ならではの、経営トップが全体に目の届きやすい環境を活用した手法の試行錯誤は示唆に富むものであります。

雑賀氏が個人的な意欲で体制の整備を行ったことから、萌芽期から成熟期までの過程を理解しやすいところは長所でありますが、ぎゃくに社内におけるモニタリングの有効性をどのように高めていくのか、といった問題は残っているのかな・・・とも思いますし、また社内に「内部統制システムの構築や改善のわかる人」が一人しかいないこと自体が「リスク」と捉えられることもあろうかと思われます。また、決算財務報告プロセスやIT統制についてもこれで十分かどうかは不明なところもありますが、ともかく現時点での「ベストモデル」を提案され、多くの読者の方々の企業の内部統制整備、運用評価に役立つことを真摯に祈念されておられるようです。中堅企業にとっての内部統制実務書として、ぜひご一読いただければ幸いです。

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2008年9月13日 (土)

レックスHD株式価格決定申立事件(高裁)逆転判決(速報版)

すごい決定が出ましたね。(三尊さん、おめでとうございます。私は2年前、ずいぶんと三尊さんを怒らせてしまいましたが、このような難しい裁判に実質勝訴されたことにつき、代理人の先生方を含め、素直に皆様方の功績に称賛をおくりたいと思います。もちろん、まだこれで終わったわけではないと思いますが・・・)MBOにおける商事非訟事件におきまして、専門家による高額の鑑定なしで、少数株主が実質的に勝訴した意義は非常に大きいものと思われます。いやホント、ビックリしました。

日経ニュースでも報道されているとおり、本日(9月12日)東京高等裁判所におきまして、旧レックス・ホールディングスのMBO(正確にはTOB価格)に最後まで反対されておられた約120名の株主の皆様方の一株あたりの買取価格を33万6966円とする決定が出されました。(ちなみに、原審東京地裁決定では昨年12月19日に一株あたり23万円とする決定が出ております)決定全文は、コメント欄で株主の会代表でいらっしゃる山口三尊氏が紹介されているHPにてご覧になれます。(私もすぐに全文を入手しました)

午後11時まで仕事をしておりましたので、まだ全文をきちんと読めておりませんが、ざっと読ませていただいたかぎりでは、東京地裁決定を完全に覆す決定理由ですね。おそらく少数株主の皆様が、当初より主張されていた内容にほぼ沿った形での判断過程をたどっているのではないでしょうか。おそらくこの決定につきましては、今後いろいろな法律雑誌で高名な先生方が解説を書かれることになるでしょうから、拙ブログで偉そうに感想を述べることも差し控えさせていただきますが、MBOの利益相反構造について、これほどまでに主張立証責任や、裁判所が斟酌すべき平均株価の算定期間の選択との関係で、真正面から採りあげた裁判例はなかったと思います。さらに、東京地裁が23万円を合理的な株価とした判断理由の大きなところ(多くの株主がTOBに応じたから、たぶん合理的な価格である、とする理由と、ほかにTOBをしてくるような会社が出てこなかったから、たぶん合理的な価格であるとする理由)をことごとく否定しているのは、少数株主側からみて痛快でしょうね。今後、「株式非公開化としてのMBO」を検討している上場企業にとっても、いろいろな行動指針を提供している点も高く評価されるのではないでしょうか。(この点はじっくり読んでみるとおもしろそうですね)

最後にどうしても触れておかねばならないのは、昨日のエントリーでも少し書きましたが、企業価値研究会の「MBO報告書」の裁判に及ぼす影響であります。東京地裁決定では、レックス側に有利に引用されておりましたが、この東京高裁決定では、逆に少数株主側にかなり有利に引用されております。ともかく、経産省企業価値研究会の策定する実務指針の司法判断に及ぼす影響については、これを別途研究する必要があるんじゃないでしょうか。(また、連休中にでも、じっくり全文を読ませていただこうかと思っておりますが、本日は速報版にて失礼いたします)

| | コメント (12) | トラックバック (0)

2008年9月12日 (金)

「会計士」と称する結婚詐欺師登場(被害者続出)

お見合いパーティで「私は公認会計士です」と詐称して、推定約40人の独身女性から多額の現金を詐取していた男性がおられるようですが(朝日新聞ニュースはこちら)、嫌疑内容が本当だとすると「40人」とはすごいですね。こういった結婚詐欺の事件は過去に何度か弁護人を務めましたが、本当に「人がいい」「誠実」そうな被告人ばかりでした。言葉巧み・・・というよりも、おそらく人間からにじみ出てくる部分に魅かれるケースが多いと思います。

弁護士です・・・というのは昔からよくありましたが、遂に「会計士です」も登場ですね。先日のNHKドラマの影響も少しばかりあったりして。でも、弁護士よりも仕事内容がわかりづらい、少しベールに包まれているところが実はミソだったりしたのかもしれません。

このニュースの最後に

同署によると、○○容疑者は女性から金を受け取った後、「あなたに甘え過ぎた。別の道を歩もう」と言って連絡を絶っていたという。

とありますが、このフレーズは、最近の監査法人さんが、被監査企業さんにおっしゃるところとよく似ているような気がしますが。。。(もちろん冗談ですよ・・・(^^;  )

| | コメント (3) | トラックバック (0)

スティールP、ノーリツ社に買収提案(速報版)

スティール・パートナーズ(以下、SP社といいます)の活動がふたたび本格化したきたようでありますが、SP社は従来より経営改善を求めてきたノーリツ社に対して、本日(9月11日)最終手段としての買収提案をされたようであります。(9月10日現在、SP社はノーリツ社の18,7%の株式保有)M&Aネタの場合には、毎度のことながら申し上げますが、私はM&Aに詳しい弁護士でもなく、あくまでも社外役員としての立場からの関心において記述するにすぎません。ただ、このたびのノーリツ社の事前警告型買収防衛策におきましては、大量買付行為者による買収行為がノーリツ社の企業価値及び株主共同利益の確保向上に反するかどうかに関する取締役会の判断について、特別委員会の勧告と同時に、社外監査役全員の同意が必要とされております。(なお、ノーリツ社の場合、監査役4名中、社外監査役は3名)社外監査役が「独任制たる監査役の地位において」有事における企業価値判断を行うといった、特別な職責を負うもののように思われますので、かなり興味を持って注視したい事例であります。(ちなみに、もし企業価値判断に監査役が関与する場合、監査役さんのなかで法務とか会計など、専門職の非常勤社外監査役さんがいらっしゃると、その善管注意義務のレベルは高くなるのでしょうか?)

さらに、本件はブルドックソース事件とは異なり、買収交渉の機会確保に向けての「事前警告型買収防衛策」が導入されている企業に対して、買付希望者がTOBを前提とした交渉を行うものでありますので、6月30日に企業価値研究会から公表されております「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」(以下、企業価値研究会報告書といいます)における指針が現実の事案において、どのように生かされるのか、非常に注目されるところであります。従来の報告書に比べて、この6月30日の報告書は多方面で高評価を得ているようですし、(MBO事案に関する報告書ではありますが)レックスホールディングスの価格決定申立事件の東京地裁決定におきましても、その決定理由のなかで企業価値研究会の報告書の内容が(相手方に有利に)援用されたりもしておりますので、やはりモノサシとしての貴重な役割は担うものと思料されます。

ノーリツ社は12月決算の企業であり、定時株主総会は来年3月下旬ということですし、取締役の任期も1年ですので、今後の交渉も、とりあえずこの定時株主総会の日程などにも配慮されるのかもしれません。また、ブルドックソース事件の頃とは異なり、SP社はアデランス社の株主総会において、現経営陣7名の会社側選任議案を否決させた経験を有しておりますので、その属性要件も変わってきているのではないでしょうか。「現経営陣の交渉次第ではTOB価格を見直す用意がある」と通告しておられるようですので、そういった価格見直しへの現経営陣の努力も必要になってくるかもしれませんし、一般株主への説明責任を尽くす必要もあります。全部買付義務を負わない範囲でのTOBとTOBに応じない少数株主との関係が生じる可能性を、ノーリツ社側としてはどのように評価すべきでしょうか。また、たとえ導入にあたって株主意思が斟酌されているとしても、はたして株主意思の確認を得ることなく、発動ができるほどに発動要件が具体的かどうかも不明でありまして、考えてみると、とても多くの論点がありそうな事例であります。

しかし、ここまできますと「魔除け」としてではなく「勝負に勝つ」ための防衛策の意味が問われるでしょうから、内部統制と同様に買収防衛は「動的プロセス」が「適法性」のためには重要になってくるのでしょうね。商事法務の9月5日号、同15日号の座談会記事なども参考になりそうですし、今後の展開に注目をしております。(とりあえず速報版で失礼します)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月11日 (木)

土地区画整理事業における事業計画の「処分性」と最高裁大法廷判決

(11日午後 追記あり)

(本日はビジネス法務に関連する話題ではございません)いよいよ9月11日は新司法試験の合格発表の日ですね。私もロースクールの教員(もちろん非常勤ですが)の一人として、在籍している大学院の合格率が(ちょっとだけ)気になるところであります。昨年は京大が60%、神戸大が50%を超える合格率でしたが(注;「通りすがりの関西人」さんから誤りをご指摘いただきましたので修正しました)、今年はこの2校に肉薄できる法科大学院が台頭してくるのか、非常に楽しみであります。せめて阪大も同志社も40%を超える合格率に到達していただきたいです(←かなり弱気)

さて、司法試験に合格した人も、残念だった人も、法律家を目指すのであればぜひお読みいただきたいのが、本日(9月10日)の土地区画整理事業の事業計画に「処分性」を認めた最高裁大法廷判決であります。(すでに最高裁HPより判決全文がご覧になれます。そういえば横尾和子判事は今日で退任されるんですよね)昭和41年の最高裁判決を実に42年ぶりに変更するということで、おそらく11日の新聞各紙でもいろいろと解説記事が出ていると思いますが、解説記事を読んでもあまりおもしろくないですよ。おもしろいのは、この最高裁判決全文に、多数意見や意見、補足意見など、各裁判官それぞれの判断理由が記載されておりまして、この意見の違いが実におもしろいです。(なお、反対意見はありません)とりわけ、多数意見に対して涌井裁判官(裁判所出身)が「結論は同調するが、判断理由はちょっと違うのではないか」と異論を述べ、藤田裁判官(行政法の学者出身)が涌井意見にまた異論を述べて多数説を補強する。関連事件の先例との整合性を特に重視される泉裁判官や、本事件の解決とは直接関係ないけれども、本事件の社会に与える影響への配慮を怠らない近藤裁判官の意見など、実に多彩であり、またいずれも「美しい」判決です。最近の司法試験は行政法も必須科目と聞いておりますし、「行政計画と抗告訴訟」なる論点は、みなさまご承知かもしれませんが、ただ単に結論を暗記するのではなく、こういった最高裁判事さんの判断過程を学ぶことはリーガルマインドの涵養にはとても役に立つと思いますよ。

ちなみに前期の会社法ゼミにおいて、昭和46年の最高裁大法廷判決の事例(旧商法265条の利益相反取引の第三者効)を採りあげまして、少数意見まで含めてきっちりと熟読玩味して、少数意見を述べた裁判官のバランス感覚は「本当におかしいのか?どっかできちんとバランスを保っているのではないか?」など、ゼミ生と議論を交わした経験がありますが、あまり好評ではありませんでした(^^;;皆さんそんなにヒマではなかったみたいで・・・

4年前に行政事件訴訟法が改正されたこともありまして、いろいろと意見が分かれるところでありますが、法的拘束力のある行政計画への司法の介入という観点からみれば、たとえ「処分性」を認めたとしましても、実質審理のなかでどこまで行政の裁量を認めるか、事業計画決定までの行政手続(審議会方式など)にどこまで民意が反映されていると考えるか等につき、また別の論点がありますので、「どの裁判官がリベラルか?」といった予測は、この判決内容だけでは判断が難しいところだと思います。私自身は(行政法の先生でもいらっしゃる)藤田宙靖裁判官の意見に同調するものでありますが、「この人はめちゃくちゃ頭いいなァ」と感嘆したのは近藤裁判官のご意見でした。(やっぱり行政法はおもしろいです。最近は風俗営業法なんかも立派な体系書、解説書が出版されておりますし、行政法専門弁護士がますます待望されるところです。私はそこまでヤレる気力も知力も体力もありませんが・・・・・)

(11日午後追記)

日経では社会面で小さくとりあげられていただけですが、読売では法律実務家や学者さんの意見を含め、かなり大きく報道されていました。新聞の論調は「この判決で行政計画への司法救済の道が広がる可能性がある」とされています。たしかに、上記涌井裁判官の意見が通るのであればそのようにも考えられますが、藤田裁判官はじめ多数意見は、あくまでも「法律上の争訟性」「紛争解決における事件性」にあくまでもこだわった考え方(つまり伝統的な裁判所観)に立脚していますので、準立法的な性格をもつ「行政計画」に対して、今後も司法救済の道が広がるかどうか、という点については私は懐疑的な意見であります。今回の土地区画整理事業についても、計画決定(および公示)の法的効力よりも、それに付随する(土地区画整理事業特有の)「換地処分」に焦点をあてて、「計画が決定されれば、換地処分が行われる蓋然性が高い」ということを理由として「争訟性あり」としているのでありまして、法的拘束力を有する行政計画一般への安易な拡張解釈はちょっと疑問が残るところではないでしょうか。(とりわけ、事件性なく司法が関与できるのは、機関訴訟や民衆訴訟など、別途行政事件訴訟法は定めているわけですから、この事件性に関する要件はあいまいにはできないと思われます。結局、これからも「事件性」については代理人弁護士がどのように事件性を裁判官に説得的に主張できるか、にかかってくるのではないかと思います。また、行政事件訴訟法4条の「確認訴訟」が活用されることも検討されるべきではないかと思いますが。)さらに、行政計画への司法救済の道を開くことは、一面において、後で訴訟によって救済されるべきではない、といった意思表示も含むことになりそうですし、行政計画手続きへの住民関与のシステムを補強するほうが住民の方々にとっては望ましいことではないでしょうか。(以上、思いつくままに記述いたしました)

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2008年9月10日 (水)

食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その2)

金融庁開示課の皆様方は、日本公認会計士協会における「内部統制監査セミナー」において会計士の方々にどのようなご講演をされたのでしょうか?いままでどおりの金融庁のご見解だったのか、それとも何か新たな指針(らしきもの)が提言されたのでしょうか?(興味津津・・・笑)

さて、7月11日の食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その1)の続編であります。(自ら会社責任者として、農水省による(JAS法違反)調査に3日間立ち会ったAさんのお話の続きであります。)食品偽装で大きく新聞報道された今、食品偽装問題について現在Aさんはどういった感想を抱いているのか、お聞きしました。Aさん曰く、

④自主公表について

会社への帰属意識が低下し、かつてはタブーだった「内部告発」に対する抵抗がなくなりつつある今、偽装はいつかバレルと考えるべきです。また、消費者からの通報も盛んです。(かつての消費者通報は、企業に対し賠償金目当てで行なわれるものでしたが。)また、上場企業の場合はもちろんですが、非上場の場合でも報道された場合の痛手は相当なものがあります(経験者ですから...)当社の場合は、会社が認識せずしかも担当者に悪意がなかったと当局から言われましたが、そんな事は一切報道されません。プレスは定型書式ですし報道後はかなりの痛手を被ります。

よって、これまでバレなかった企業は、単にラッキーだっただけであること。それと先に述べましたように調査が終わると今は必ず警察に通報されますので、自ら公表した方が軽くすみます。

「信義」とか「コンプライアンスの問題」とかは、これまで黙っていた企業には通用しませんが、バレる確率が非常に高いこと&バレたら必ず刑事事件になることを踏まえさっさと公表しないとあとで大変な事になる!のですが、多分依然として黙っている企業には通用しないでしょうね。

Aさんは警告を発しつつも、少しあきらめムードでありますが、最近の三笠フーズ社の事故米(汚染米)騒動につき、農水省は2度にわたる告発があったにもかかわらず、なかなか事故米目的外使用の事実をつかむことができなかったと報道されているようです。何十回と調査が行われたにもかかわらず、目的外使用の事実が発覚しなかった、ということはもはや完全にナメられていたのでは?たしかに最近の事件をみておりまして、食品偽装事件につきましては、告発があったとしても偽装発覚を免れるチャンスもあるように思いますし、「偽装は必ずバレる・・・」とは一概には言えないようでもあります。ということは、やはり商品の偽装は競争に打ち勝つために「やり得」であり、発覚した業者は単に「運が悪かった」といったことなのでしょうか?

1 立ち入り調査の「抜き打ち」化は奏功するか?

今朝の読売新聞ニュースによりますと、このたびの三笠フーズ社の件で、農水省の調査が何度も空振りに終わったことを反省して、今後の「抜き打ち」検査が検討されている、とのことであります。しかしながら、当ブログでAさんが証言されているように、Aさんの会社には、調査員が会社到着の10分前に電話をかけてきた、とのことでした。つまり、任意調査の方法として、会社到着10分前に調査への協力要請があった、というのは、ほとんど抜き打ち検査と言っても過言ではないと思いますし、これが任意調査の限界ではないでしょうか。農水省の調査に強制処分が検討されることはないと思いますので、これ以上の対応を検討されても、あまり実効性が高まるようには思えませんが、いかがなものでしょう。

2 偽装業者の「自主申告」のインセンティブを考える

以下の事実は、(事案を特定されないように若干修正したうえで記述することで)関係者の皆様にご迷惑をおかけしないよう十分に配慮をして語りますが、実は、このAさんの会社が農水省から調査を受けていたときに、別のB社についても、ある行政機関から調査を受けておりました。このB社こそ、すでに2年以上もの間、某行政機関の調査のターゲットになっており、担当職員も「ハラワタが煮えくり返るほど」にしっぽをつかませない業者でありました。そのB社がある日突然、某取締法違反事件によって行政処分を受けることになりました。なぜ、正式な行政処分を受けることになったかと言いますと、なんとB社は偽装の事実を自主申告してきたからであります。度重なる調査をかいくぐって商品偽装の事実を隠ぺいしてきたB社でありますが、何故「自主申告」してきたか、皆様想像つきますでしょうか?ひょっとして経営者のコンプライアンス意識の高揚によるものでしょうか?それとも関係官庁の調査に「もはや逃れられない」と観念してのことでしょうか?それとも、もしかして「行政と手打ちがあった?」

実は別の理由からであります。(これはAさんから聞いたものではなく、B社に近い関係者からの情報であります。あまりツッこんで詮索しないでくださいね。)つまり反社会的勢力からの裏取引の強要であります。 (これは私が最近相談を受けておりましたC社の場合もほぼ同様の展開をみせておりました。)私自身も内部通報の外部窓口をしておりますが、内部告発は弁護士事務所やマスコミ、行政機関や国民生活センターだけではなく、いわゆる「裏社会窓口」にも届くことがありますよね。つまり、最近はずいぶんと「偽装問題が金になる」といった情報が裏社会でも出回っているそうであります。おそらくB社やC社の場合にも、かなり長期間にわたって「あそこの商品は産地偽装や品質偽装している」といったうわさが流れておりましたので、そういったうわさを裏付ける証拠を反社会的勢力に握られてしまって、裏取引が要求される。そして、やむにやまれず自主申告に至る、というパターンになってしまうようであります。経営者が「不正競争防止法違反で警察に捕まるほうがまだまし」と考えて、自主申告すればまだいいとしましても、ここでも経営者が「裏取引」を選択したり、支店レベルで偽装が行われ、その隠ぺいを支店責任者が裏取引で処理していたとなりますと、当然のことながら(会社が反社会勢力と癒着するといった)「二次不祥事」に至るわけでして、企業の存続にかかわる問題に発展する事態となります。

おそらく現時点でも、商品の偽装を継続している企業もたくさんあると推測いたしますが、偽装問題に対する消費者の意識が高くなればなるほど、また裏社会での「偽装問題」の取引価値も上がっているはずであります。数年前とは比べモノにならないほど、偽装は「見つかったら運が悪かった」では済まない時代になってきたと思われます。ずいぶんと生臭い話になってしまいましたが、「これも商品偽装事件の現実」としてご理解いただけましたら幸いです。

(追記)「関係者に迷惑をかけないように記述する」というのはかなりしんどい作業です。いろいろと問い合わせを受けましたが、内部通報に関連るお話は一切取材をお受けすることはできませんので、ご了承ねがいます。<m(__)m>

| | コメント (6) | トラックバック (2)

2008年9月 8日 (月)

会計士疲弊~監査現場の再生を急げ~

日本公認会計士協会近畿会の前会長でいらっしゃる佐伯先生が、9月5日の朝日新聞「私の視点」において、タイトルのとおりの意見を述べておられます。佐伯前会長は、ご存じの方も多いかとは思いますが、ズバッと自説を述べられる方ですので、(ご異論も多いかもしれませんが)論旨明解でわかりやすいご主張内容です。(引用されている日本公認会計士協会東海会の調査では、主として監査業務に従事しておられる会計士の半数以上の方が「子供には勧めたくない」業務と回答されているとのことで、これにはちょっと驚きましたし、事態はかなり深刻であることを思い知らされました。このあたりは、多くの会計士が第一線の会計監査の現場を離れて、コンサルタント業務に足場を移す傾向にあるといった引用や、20%を超える会計士の方々が「将来的に魅力を感じないため、やりたくない」といった回答とも相通ずるところがあるように思います。ご自身のやっておられる職業を娘や息子に誇らしげに説明できない、ということはけっこうつらいところではないでしょうか。)

疲弊する監査現場の再生の道筋として、佐伯先生は三点を挙げておられ、どれも当ブログで何回か話題となっていたものでありました。ひとつは訴訟を意識した「過剰ともいうべき監査マニュアルの導入」であり、今後は経済事件において逮捕、起訴、判決のありようとその報道について、事後的に専門家が検証できる仕組みが不可欠、と主張されています。裏を返せば「司法は経済事件を裁けるか?」という問題を真剣に検討すべき時期に来ているということであり、これは法曹においても真摯に会計専門職の方々の経済事件への率直な意見に耳を傾ける時期に来ている、ということでもあろうかと思います。ふたつめは「期待ギャップ」に関するものであり、会計士側としてはこれには言い分もあるようですが、どういった理由があるにせよ、会計監査への社会の期待には応えなければならないとして、日本公認会計士協会の会計士不正への対応に厳しい注文をつけておられます。

そして三つめとして「制度のねじれ」を挙げておられますが、(制度のねじれとは、一般に企業を監査する立場の人が、その対象企業から報酬をもらっているために、どうしても甘い監査になってしまうのではないか・・・という制度の構造上の問題のことを指します)これもまた社会から期待されている会計監査の実現を妨げる要因である、とされています。特徴的なのは、ここでは佐伯先生は、監査役の存在を重視されている点です。いわゆる報酬決定権限および会計監査人選任権を監査役(会)に付与すること(上場企業の場合でしたら、これと併せて財務諸表監査に関する実質的な委託権限も監査役に付与する、ということなんでしょうね)、および監査役と会計士との連携強化という点に求めておられます。これまでも監査役制度の充実という点からは(つまりコーポレート・ガバナンスの視点から)会計監査人の選任権や報酬決定権の問題がとりあげられたり、内部統制報告制度の統制環境の問題として、監査役と会計監査人との連携が謳われることはありましたが、社会の期待に応える会計監査の実現のためにも監査役の地位強化が図られるべき、とか会社決算の早期開示の要請との関係で会計士と監査人がいかに連携強化を図るべきか、といった意見が出されることは少なかったように思われます。

監査役の地位強化や、会計監査人と監査役との連携強化、という問題は、これまでも現役の監査役さんの立場からは発信されていますし、会社法改正や公開会社法の検討のなかでも議論されていることは承知しておりますが、私はやはり会計士さんの立場や、証券取引所等の自主規制機関の方々、金融商品取引業者の方々などからも問題提起がなされなければなかなか前に進まないのではないかと思っておりますので、こういった立場の方が今後の監査役の役割や会計監査人との協働に言及されることは大きな意義があると考えています。(なお、監査役の役割への期待と同時に、粉飾決算等が社会問題化した際には、会計監査人と同等に監査役も責任を問われるべきである、と明言されていることも、これまた当然のことだと認識しております)ただ、以上の三点が再生の道筋だとしましても、それで本当に会計士の皆様が「子供に職業として勧めたくなるような会計監査」となるのかどうかはちょっと疑問のような気もいたします。かといって、NHKドラマ「監査法人」の主人公(社会悪を暴く正義の味方)のような仕事こそ、皆さんが理想の姿として見ておられたという感じでもなかったようですし。「あの人はできる会計監査人だから、あの人に依頼しよう」とか「あの監査人がいるから今度は○○監査法人にしよう」といった被監査企業側の声が出てこない職域である以上、「子供に勧める職業」というものがどうもイメージしにくい業務であることは間違いないかもしれません。「期待ギャップ」の問題とは若干異なりますが、「100点とっても誰もほめてくれないのが会計監査」であるならば、もっと「会計監査の社会的使命や責任」を世間的に認知されることが必要だと思います。

| | コメント (9) | トラックバック (0)

2008年9月 5日 (金)

三井物産社の不適切循環取引にみる内部統制システムの効用(意義と限界)

本日は「内部統制の最新事情と企業実務における今後の展開」なるセミナーに多数ご参加いただき、ありがとうございました。参加された皆様は内部統制統括部門と内部監査部門とちょうど半々の割合でしたね。(あと、監査役、監査役室の方もいらっしゃいましたね)「中小上場企業向け」と謳っておきながら、中小上場企業固有のお話がなかったではないか、とアンケート用紙にお叱りの意見が書かれてありましたので、この場を借りてお詫び申し上げます。(すいません、時間が足りませんでした。)

本日のセミナーの冒頭でもご紹介しました9月3日リリースの三井物産九州支社における架空循環取引発生の事実と、その再発防止策に関するお知らせでありますが、当事例を検討するにあたりましては、会社法務A2Zの9月号「内部統制最前線(7)」の特集記事を参考にされることをお勧めいたします。といいますのも、今月号は三井物産社の内部統制の推進と課題ということで、三井物産社の業務プロセス管理第一部長さんのインタビュー記事と、2001年以降の全社的内部統制構築への取り組みがしっかりと記載されているからであります。(なお、本日セミナーにお越しいただいた方々はおわかりのとおり、私は今回の三井物産社の対応を非難するつもりでご紹介したのではなく、そのリリース内容から、①事実認定プロセス、②認定事実開示プロセス、③業務プロセスと全社プロセスの組み合わせによる効果的な再発防止策策定の3点を紹介することを主眼としたものであります)

なお、このリリースを単純に眺めてみますと、業績絶好調の商社ゆえ、7年間で82億円程度の循環取引による売上計上額など、過年度修正の必要もなく「軽微なものにすぎない」ことは間違いございません。ただ、担当部署の売上推移表からみて、300億円のうちの27億円ということですから、たとえば売上高300億円(2008年3月期)の企業に27億円(2008年3月決算分)の架空循環取引が混在していたと仮定しますと、公表されている税引後利益から税引前利益を推定しましても、「重要な欠陥と評価されるべき不備」が残っている可能性は否定できないものでありまして、一般事業会社においても参考になる事案かと思われます。(まぁ、巨大商社の信用ゆえに、担当部署で年間27億円もの架空取引ができた、ということも考えられますが・・・)以下、私なりに分析における意見を若干述べさせていただきます。

1 業務プロセスの平準化が炙り出した不適切な循環取引への関与

三井物産社の本件不適切取引に関する7月25日および9月3日のリリースを読みますと、不適切循環取引の対象取引は2008年2月で(会社の方針として)一旦中止をしたことがわかります。なぜこの取引を中止したかということは、先の会社法務A2Zの記事および7月25日付けリリースによりますと、単純に売上向上が見込めないから、というわけではなく、現状の会計プロセスの問題点として、社内において「財務報告に係る重大な虚偽記載リスク」を十分に把握できない取引が多く残っており、それらを一旦引き揚げて、プロセスをきちんと整理したうえで再開する方針にしたがったからであります。(上記雑誌でも、本件不正取引とは関係なく、そういった方針によって全社的に取引見直しが行われていることが説明されています)。つまり、三井物産社は、今年2月に、この会計プロセスの再構築の方針のもとで不適切循環取引の対象となった取引(農業資材取引)をリスクの大きな取引として中止したことは間違いないようです。三井物産本社がこの不適切循環取引を直接発見したのも、(三井物産社による信用補完が途切れてしまった)今年6月の循環取引に関与していた販売先からの「資金繰りに窮しての」相談によるものであることに起因するようですので、そもそもこのリスク管理の一環としての取引中止が引き金となって循環取引の連鎖が崩壊したことは間違いないと思われます。まさに「業務プロセスの平準化」が社内不正を炙り出した結果となったようであります。

2 業務プロセスの統制手続きと内部統制の限界

そもそも三井物産社は上記会社法務A2Zの記事にもあるように、米国SOX法404条(財務報告統制)及び同法302条(開示統制)をクリアしている会社ですし、不正取引を防止するために権限分掌や上長によるモニタリングなど、プロセスチェックを重視した(かなり進んでいると思われる)業務プロセスを構築されているようであります。しかしながら、それでも7年間にわたりチェックできなかった循環取引による売上および利益計上が行われていたということですから、やはり「どんなに万全の体制を敷いていても、不正はなくならないし、また発見することができない」という点では内部統制の限界を考えざるをえないところであります。ちなみに、先日ご紹介した「関西不正検査研究会」におきましても、某銀行の業務監査部の方が「不正を働く社員は、どこに穴があるか知り抜いているし、また内部監査のクセまで見抜いているから発見は本当に困難」と発言されておられましたが、まさにこのたびの三井物産社の対象社員の所業も、(9月3日のHPリリースをご覧になればおわかりのとおり)商社取引のなかにおいて、少しばかり「法令順守よりも利益拡大のほうが優先順位が高い箇所」をピンポイントで狙った不正行為であります。ただし「内部統制の限界事例があるから仕方がない」で済ませるものではなく、その限界部分をできるだけ狭めるべく、今後の対応策が検討されてしかるべきであると思われます。

3 不正発覚時の対応にみる内部統制構築プロセスの全社的能力

上記法律雑誌の記事と今回の不正取引に関するリリースを統合しますと、今回の三井物産社の「調査の結果、判明した不正行為発生の原因」が単なる後だしジャンケン的なものでないことは判明いたしますが、とりわけ9月3日のリリースで特筆すべき点は、冒頭でも少し触れたとおり、事実認定の迅速さ、認定事実開示の正確さ、そして説得的な再発防止策の提言であります。昨今の内部統制事情を垣間見るに、監査法人による適正意見をもらうためにはどうすればいいか、2009年6月の時点で(評価日は期末ですが)問題となっている不備が重要な欠陥と評価(宣告?)されないためにはどうしたらいいか、といった議論がさかんに行われております。そこでは企業側として、かなり受身の体制をもって内部統制報告制度の向き合っているのが現状ではないでしょうか。せっかく株主から預かっている金銭を内部統制システムの構築のために投入しているわけですから、まさにこういった財務報告の信頼性が揺らぎかねない事態への対応能力に大きな差をつけられないような積極的な取り組みが求められるところではないでしょうか。不正会計処理を防止するために、いったん継続している取り引きを中止するなど、それこそ大きな企業であり、また多額の管理費用をねん出できる企業だからこそ可能な所業、ということも言えそうであります。しかしながら、リリースの再発防止策を精査するかぎり、そこに必要なのは現場においては業務プロセスを承認する現場社員の理解であり、また統制環境においては、全社的内部統制として「法令順守よりも利益拡大の姿勢」はあってはならないとする経営トップの姿勢であり、そこになんら多額の費用も負担も要しないと感じることができるのではないでしょうか。

今回は、たまたまセミナーの冒頭トピックスとして三井物産社の事例を取り上げたにすぎませんが、内部統制報告制度の効用を検証するにあたり、「これは好材料」と思料される事例は、公表されているものだけでも、この半年くらいで5,6件は存在します。(成功例、失敗例含めて)そういった事例を、自社での取組に活かすことも「内部統制燃え尽き症候群」にならないためには必要かもしれません。

| | コメント (8) | トラックバック (0)

2008年9月 4日 (木)

会計制度監視機構~公正なる会計慣行とは~第1回会合

「死刑判決」と聞いてネタにするのは非常に不謹慎かとは思いますが、「妻82人と3日以内に離婚しなければ死刑」という判決をナイジェリアの男性(84歳)が受けたそうであります。(朝日ニュースはこちら)妻は4人まで、とするイスラムの教えが司法の判断基準とされるのもスゴイですが、「コーランには5人以上の妻を持つ場合のペナルティが書いていない」なる抗弁を持ち出すところもルールベースの規制の間隙を突く日本の市場規制をみるようでスゴイです。私がもっとも心配するのは、本当に82人の女性との間で3日以内に離婚できるのだろうか・・・ということ。ハンコをもらうにも、そのうち何名かは所在不明ということもあるでしょうし、絶対に条件成就は困難ではないでしょうか。ちなみに私はたとえ4人であっても、「平等に接する」なる条件が付されるだけで、たぶん命を落とすと思います。なお、この男性は判決後、法廷を後にするとき、裁判長にこう言ったそうです。

「私はあなたとはちがう。」・・・・・・(最後の文章だけ作り話です)

さて、経済産業省に隣接している大同生命霞が関ビルにて、朝から会計制度監視機構の新たな研究会に参加してまいりました。先日の長銀事件最高裁判決をはじめ、これまで「会計基準」の解釈が問題となった裁判例などをもとに「公正なる会計慣行」の中身を検証し、改めて「公正なる会計慣行とは何か」を問い直すことで法と会計基準との調和(調和がむずかしいとすれば、よりよい併存状態?)を提言するのが主たる目的であります。メンバーは23名で、機構の委員の方に加えて企業会計審議会や企業会計基準委員会の委員の方々や、財界の方々、市場関係者の皆様、会計専門職の方々、(私を除き)著名な弁護士の皆様ということで、なぜ私がここに座っているのかはよくわかりません(^^;まァ、あんまり深く考えないで、せっかくの機会ですからじっくりと勉強させていただこうかと思っています。

本日の会合では、私も偉そうにこの研究会で議論いただきたいことを述べさせていただきましたが、おそらく今後この研究会で中心論点となりますのは(あくまでも私の予想ですが)①企業会計問題を司法はどのように裁くのが適正なのか、②金融商品取引法、会社法は、今後国際財務報告基準をどのように受け入れていくのか(これまでの「公正なる会計慣行」の基準をもって、はたして国際会計基準を受け入れていくことは可能なのか)、③プリンシプルベース、将来価値(見積もり、収益予想)へと進む会計基準の流れと法規範性、④その他、といったあたりかと思われます。私的にはどれも実に興味深く、関心の高い項目であります。取り扱われるべき論点は今後の法と会計の接点をどのように考えるか・・・・というものでありますが、この問題を真剣に検討するためには、まず法と会計の両方の立場から、戦後「会計の法規範性」をどのように考えてきたのか、といった歴史を、企業会計原則の変遷とともにきちんと押さえる必要がありそうです。また、国際会計基準と会計慣行の問題を考えるにあたっても、過去の英米系、大陸系の会計基準の浸透度に関する知識が必要だと認識いたしました。

長銀事件判決だけでなく、ライブドア事件判決なども視野に入れながら、企業社会に対して実益のある提言がなされればいいですね。なお、上記23名のメンバーには当然、法律、会計の学者の方もいらっしゃいまして、次回研究会では、(はじめてお目にかかる)弥永教授の「公正なる会計慣行」に関するご解説を拝聴する予定であります。(おそらく長銀最高裁判決に関する評釈が中心になるのではないかと。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年9月 2日 (火)

インサイダー取引のリスクマネジメント

福田総理が辞任表明ということで、消費者庁はどうなっちゃうんでしょうね?せっかく昨日のエントリーで消費者庁の情報集約能力は大いに期待できるような書き方をしましたので、なんとかこれまでの流れを今後も持続していただきたいと個人的には願っております。それともうひとつ実は法曹界にとって少しばかり話題になりそうな発表が9月初旬に予定されていたのですが、これもおそらく首相辞任劇で延期になってしまいそうです。

政治問題とはまったく関係ありませんが、1日の日経新聞朝刊の「法務インサイド」では、インサイダー摘発が相次いでいるために、企業の自社株買いも委縮している、といったお話が掲載されておりました。いわゆる「うっかりインサイダー」問題ですね。犯意がなくてもインサイダー取引が形式犯として処罰されるというものでありますが、「情報が偏在するなかで利益を獲得するのは不公平なので、利益をはく奪する制度」(課徴金の場合)というのであれば、とくに「うっかりインサイダー」の場合には倫理的に非難されるものではないはずです。企業にとって何が怖いかというと、「うっかりインサイダー」を悪意に満ちた犯罪行為のごとく社会に受け止められることによる社会的信用棄損ではないでしょうか。たしかに「うっかり」と言いましても違法行為スレスレ・・・ということではなくて、違法行為に該当すること自体を知らなかった、ということでしょうかから、上場企業の役員たる者が(たとえ悪意に満ちた行動ではなくても)軽率にインサイダー取引に該当する行動に至ったことは批難されるかもしれません。しかしこれは悪意に満ちた行動とは一線を画すものだと思いますし、そのあたりを社会から誤解されるリスク自体が本当に怖いところだと思います。

フランスではインサイダー取引を含む経済犯罪について厳罰化を促進する、ということが本日の日経ニュースで報じられておりますし、改正金融商品取引法の解説記事にもあるように、日本もおそらく市場の公正を害する行為については厳罰化(刑罰の加重だけでなく、対象行為の拡大を含めて)の方向に進むものと思われますので、企業としても真剣にインサイダー取引による法令違反リスクへの対応を検討しておくべき時期に来ているようです。なお、本日の日経新聞では全くとりあげられておりませんでしたが、インサイダー取引リスクが怖くて自社株買いが委縮してしまうのであれば、普通に信託方式による市場買付で取得すればいいのではないかと思いますが?(といいますか、すでに多くの企業がリスク回避の手段として信託方式による市場買付で自己株式を取得していますよね。株価操縦リスクからも解放されるでしょうし。)たしかに手数料を要しますが、「うっかりインサイダー」リスクによって(報道にありますように)業務提携に関する決定事実をいったん白紙撤回にするような取締役会決議を行うくらいなら、チャイニーズ・ウォールを敷いて自社株取引を行うほうがリスクマネジメントとしては適正ではないかと思うのですが、それでもなにか不都合があるのでしょうかね?(^^;

私からみると、(自社株買いリスクよりも)先日のサンエーインターナショナル社の元会長さんのように、リスクを回避した(野村證券さんからOKをもらった)にもかかわらず1000万円を超えるような課徴金処分を下されてしまうような問題のほうがよっぽど悩ましいリスクマネジメントだと思うのでありますが。軽率な人が「うっかり犯」で非難されるのならばまだ納得もできますが、法令遵守の意識を持ち、用心深い人ですら(形式的処罰犯罪であるがゆえに)処罰対象となる・・・というのは、本当に悩ましいですし、その萎縮的効果こそ問題とすべきではないでしょうか。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2008年9月 1日 (月)

うなぎ産地偽装と取引先監査(月曜から長文で失礼します)

財務報告に係る内部統制アンケートなどを拝見しておりますと、「重要な欠陥」とは何か?みたいなテーマが主流になっておりますが、最近の運用評価現場などを垣間見ているうちに、もっと具体的に「発生可能性」って、いったい誰が主導権を握って判断するのだろうか、とか、補完統制がある程度のリスク低減性があるんだったら、結局、全社的内部統制の統制活動にフィードバックしてくるんじゃないだろうか、など考え出したらきりがない制度であることに愕然としている今日この頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか。(挨拶ここまで)

(ここからが本題ですが)8月29日の日経夕刊では、再生紙偽装事件を契機に、リコー社の社内監査チームの方々が取引先製紙会社の工場監査を開始された、という記事が掲載されておりました。(ただしOEM供給元の取引先かと思われますので、CSR以前のリーガルリスクの回避が中心かと)記事によると、偽装発生の要所をきちんと押さえた監査のようで、その真剣さが伝わってきました。他社といえども、自社ブランドの信用を保持するために厳格な監査を行う、というのは「言うは易し、行うは難し」ですね。

さて、先週より頻繁に報道されておりますサンライズフード社のウナギ産地偽装疑惑でありますが、専門家の方のブログによりますと、もうすでに5,6年前から噂になっていたようで、やっと本丸まで調査が届いた、というものだそうであります。食品偽装に関するいろいろな事件がありましたが、今回のはスケールが大きいようであります。サンライズ社に対する行政調査や刑事立件に関する話題はひとまず置いといて、私自身が企業コンプライアンスの視点から関心を持ちますのは、このサンライズ社より大量のうなぎを仕入れてスーパーへ卸していらっしゃる東証二部の中央魚類社の対応についてであります。具体的には、中央魚類社はサンライズ社を「怪しい」と思わなかったのか、取引先調査をやってみようとは思わなかったのか、今後事後調査はやらないのか、製品回収はどこまでやるのか、といったあたりであります。これまでの対応とともに、今後の同社の対応にも注目しております。(なお、以下は私個人の雑駁な意見にすぎません。)

以前、中国ギョーザ事件発覚のときのエントリーにおきまして、商社の方より「商社の人間が輸入商品を個別に調査するなんて物理的に不可能です。もしそのような調査を要するのであれば多額の費用を消費者に転嫁しなければならないでしょう」と一蹴されてしまいましたが、もちろん今回も、一般論として考えますと大量の水産食品を仕入れている築地最大手の食品卸会社が、取扱商品のひとつにすぎないウナギの産地に関する調査(取引先監査)を行うことは到底困難なことなのかもしれません。また、実際に今回の報道に至るまで、サンライズ社の監査を行っていなかったことは、先週来、中央魚類社の適時開示情報が訂正(修正)されている内容からも明らかであります。ということになりますと、中央魚類社も今回の件は「いい迷惑」であり、基本的には「被害者的な立場にすぎない」ということになるのかもしれません。

しかし、今後の中央魚類社の対応を考えるにあたって、すこし検討を要する点がありそうです。まず8月30日の毎日新聞ニュースによりますと、中央魚類社は1998年からサンライズ社との間でうなぎの取引を開始していたところ、取引を継続していた2004年になって、「中央魚類社が出荷しているうなぎは中国産であり、偽装している」といった告発が東京都に出されていたようであります。このとき、中央魚類社は東京都に呼ばれ、都と対応策を検討したのでありますが、結局「産地証明書」のほかに、産地表示については間違いはありません、なにか問題がありましたらすべて私が負担いたします、といった「誓約書」をサンライズ社からとりつけることで解決したようであります。(なお、「産地証明」自体はサンライズ社が発行したものではなく、別の養鰻場経営会社が作成したものだったので、サンライズ社自身による誓約書を要求したのでしょうね。しかし逆に言えば、この誓約書を取り付けたことだけで一件落着となったようです。)このときに、なぜ実地調査をしなかったのだろうか・・・といった疑問も湧いてきますが、中央魚類社を弁護するつもりではございませんが、(中央魚類も東京都も)この程度の対応で終わったのは「おそらくイタズラの部類に属する申告にちがいない」といった感覚だったからではないでしょうか。

もうひとつ気になるのが、8月27日付け読売新聞ニュースによりますと、サンライズ社は2001年7月に、中国産や原産地不明のうなぎを「四万十川」産と表示して販売して、愛媛県からJAS法違反に基づく是正措置を受けていた、とありますが、こういった事実は、先の東京都との協議のなかで問題として浮上しなかったのでしょうか。もしくは、2001年といえば、すでに中央魚類社としてはサンライズ社と取引を継続していた時期ですから、愛媛県による行政措置を知る立場にはなかったのでしょうか。もし、東京都や中央魚類社が、こういったサンライズ社の「過去」を知りえたとするならば、先のように「嫌がらせの告発」とは推測されず、ある程度「サンライズ社は怪しい」といった心証を得られたのではないかと思います。もし、こういった事情から取引先における産地偽装のリスクを認識していたとすれば、それこそ取引先監査(調査)は行う必要があるでしょうし、調査に協力的でない場合には、しかるべき対応はとらざるをえないと考えますが、いかがでしょうか。

この点、8月27日の朝日新聞ニュースによりますと、中央魚類の担当役員の方がインタビューに対して「2005年と2007年に養殖池と加工場を現地で確認した。産地証明書を信じていた。偽装品とは疑わなかった」と述べておられます。しかし報道当初こそ、330万匹のうち2000匹程度の偽装品が混在していた、ということでしたので、この申し開きでも通ったでしょうが、現在の報道によりますと、そもそもエサが見当たらず、養殖場も使われていなかったのであり、ましてや加工場は「中国産」と書かれた箱が積まれていた、ということのようでありますので、もし報道内容が真実だとすれば、かなり窮地に立たされてしまっているんじゃないでしょうか。2004年の東京都との協議の一件(しかも誓約書をとりつけている)の後に現地に向かっていたのであれば、実際にうなぎがどのように養殖されているのか、現認せずに帰ってくることなどありえないですよね。(^^;;

ともかく、以前から疑惑を知っていた取引先の産地偽装の報道がなされた後におきましても、自社で調査を開始するといった対応すらとられていないのはなぜなんでしょうか。中央魚類社に対して、かなり好意的に事件の経緯を推測してみても、この一点だけは消費者に対する企業の姿勢が透けてみえるようで、どうも解せないところであります。そしてもうひとつ感じますのは、情報を集約することの重要性ですね。農水省、東京都、愛媛県などの情報が一元管理されていれば、もっと早期に行政も中央魚類社も対応することができたのではないかと思われます。(現在構想されている消費者庁では、こういった情報が一元的に管理されることになるのでしょうか。)

| | コメント (1) | トラックバック (0)

« 2008年8月 | トップページ | 2008年10月 »