アクセス社の「ガバナンス評価委員会」の役割とは?
先日の「全社的内部統制の重要な欠陥判断はむずかしい」のエントリーにつきましては、多数のコメントをいただき、本当にありがとうございました。また、丸山満彦先生には背中を押していただくようなエントリーも書いていただき恐縮です(笑)本日も、全社的内部統制にすこしばかり関連するようなエントリーであります。
粉飾決算(有価証券虚偽記載)および特別背任容疑で元代表者および前代表者が起訴されている大阪のシステム開発会社アクセス社でありますが、本日(9月25日)、社外調査委員会報告の最終答申書とともに、企業風土の改善を目的として「ガバナンス評価委員会」を新たに設置することを発表しております。(当初の委員は社外調査委員会の著名な先生方がそのまま横滑りで就任されるようであります)すでに法務・会計アドバイザーを擁した社内調査委員会が6月の時点で「ガバナンス評価委員会設置」の必要性を提言されておりましたが、不祥事を起こした企業の風土を改善するために取締役会における重要な意思決定に事実上の影響力を有する機関として、このような委員会を設置するというのは極めて珍しいケースではないでしょうか。買収防衛策の一環として有事に機能する社外独立委員会とは、かなり様相を異にするようであります。(現時点におけるアクセス社自体が「有事」にあたる、という見方もあるかもしれませんが・・・)
ちなみに、上記ガバナンス評価委員会の主たる役割は、①依然として34%の株式を保有し筆頭株主の地位にある元代表者の不当な影響力を排除する(取締役候補者の適否を評価し、意見を取締役会に述べる)②元代表者に対するアクセス社からの損害賠償請求訴訟の内容、提起時期等についての見解を示す、③ブラック・ナイト、グリーンメイラー等、株主共同の利益を害する、あるいは会社のガバナンスに悪影響を及ぼす者が株式を保有しようとする場合に、適切な対抗措置をとるように勧告をする、④ガバナンスに関する改善、実効的な内部統制の実施等について監督、監視する、というものでありまして、どれも非常に興味深い内容となっております。とりわけ、社外調査委員会はこのガバナンス評価委員会に対して
「再生アクセス社については早急に元代表者の影響力を排除する方策がとられる必要があることから、元代表者が保有する株式を第三者に譲渡させることを勧めたり、場合によっては提携先企業への第三者割当増資などの方策の検討も視野に入れる必要がある」
とされております。(最終答申書P6参照)
とても興味深いものではありますが、経営者の株式保有の面からの支配力が強く、他の取締役らが意見を述べることが困難なほどに経営にも影響力を持つ・・・というだけで、こういったガバナンス評価委員会がどこの企業でも「企業風土を改善するために」有効に機能するかどうかはわからないところだと思います。おそらくアクセス社の場合には、取締役の行動にきわめて透明性、公正性が要求される場面が今後予想されることから、こういった手法で切り抜ける必要が強いことによるものではないでしょうか。たとえば、場合によっては提携先企業への第三者割当増資などの方策も検討されるようでありますが、昨年の日本精密事件(さいたま地裁決定平成19年6月22日)や、本年6月23日のクオンツ事件(東京地裁決定)の裁判例の流れからしますと、株主の在り方を実質的にコントロールするための第三者割当につきましては、会社側にとってかなり実行しづらい状況になっております。また元代表者との株式譲渡に関する話を進めながら、一方で会社側より元代表者に対して損害賠償請求に関する提訴を検討するということでありますと、個別株主に対する「利益供与」の問題や、株主平等原則との抵触可能性など、いくつかの会社法上のかなりナーバスな問題点をクリアする必要が出てくると思われます。そういった法律上の問題点を厳格に判断しながら最終的な取締役会としての意思決定を行うためには、どうしても、こういった法務や会計に精通された社外委員が深く関与せざるをえない状況にあるのかもしれません。
ただ、こういった社外委員によるガバナンス評価委員会が、恒常的に長い期間存在する、というのもどうかなぁ・・・とも思いますね。むしろ本来的には社外取締役や監査役こそ、こういった透明性、公正性確保のために活躍すべきではないでしょうか。そもそも本当に企業風土を改善する必要があるのであれば、社外取締役を複数名導入したり、監査役(会)の地位を強化する方向で検討されるべきであり、真のガバナンスの変革のためには、本件ガバナンス評価委員会の皆様には、こういった恒常的な組織強化にもご尽力いただければ・・・と思う次第であります。
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