« 実践「現場発信のJ-SOX」~失敗を乗り越えた内部統制講座~ | トップページ | 全日空システム障害に思う「企業風土と内部統制」 »

2008年9月17日 (水)

「名ばかり監査役」に衝撃の一喝(荏原・社外監査役)

最近の日本経済新聞の記事のなかで、私が「さすがプロの記者は違うなぁ」と読み応えを感じましたのはアーバンコーポレーションとメリルリンチ、パリバの攻防を追った連載記事、そしてJR西日本尼崎事故の元経営陣の書類送検までを追った連載記事「企業の不作為」でありました。そして日経ビジネス誌における最新号(9月15日)の「敗軍の将、兵を語る」も、これまた(上記日経連載記事の衝撃に劣らず)スゴいですよ。荏原の「現役」社外監査役でいらっしゃる大森義夫氏、ついに登場であります。タイトルもズバリ

          「不正暴けず、逆にスパイ扱い」。

大森氏の件は当ブログにおきましても、すでに「社外監査役の乱」シリーズとして二度ほどご紹介いたしましたが、結局のところ計算書類の承認決議が得られた荏原社の株主総会を伝える新聞記事も比較的おとなしめの内容でしたので、「あれ?監査報告書ではずいぶんと過激なご意見だったのに、どうしちゃったんだろう?」と思っておりました。しかし、この「敗軍の将」シリーズで、大森監査役は思いのたけを語っておられます。

「今後も荏原が事実を明らかにすることがなければ、最終的には私は提訴も辞さない構えです。」

なお、私は新聞報道を読んで「あれだけ監査報告書で『コンプライアンス上の問題あり』と意見を述べられたのであれば、株主総会においても大森監査役自ら、株主に対して説明責任を尽くすべきではなかったか」と疑問を呈しましたが、この大森氏のお話によれば、きちんと総会の場において自ら「理由と背景について」説明された、とのことであります。(そうとは知らず、たいへん失礼をいたしました。m(__)m)そして、この「敗軍の将」シリーズにおきまして、おそらく荏原社の株主総会でも説明された(であろう)「経理帳簿に虚偽記載のおそれがある」とした意見理由及びその背景事情が赤裸々に語られております。(ちなみに、記事の公平性への配慮から、荏原広報室の反論インタビューについても囲み記事として掲載されております。しかし、荏原社の役職員の方々は、今週号の日経ビジネス、どんな思いで読んでおられるのでしょうか。)

ご興味のある方は、ぜひご自身でお読みいただくのがよろしいかと思いますが、このインタビュー記事におけるポイントはいくつかあると思います。ひとつめは

「これまでの4年間は、少しおかしいな・・・と思っても、会計監査人も承認しているし、他の4名の監査役も問題なしと言っているから、何も言わず黙って署名押印していました」

ということで、いきなりの「ご乱心」とは言い切れないところであります。いくら非常勤社外監査役といいましても、5年ほどの就任期間を経過すると、大きな上場企業でも「当該会社の人的な力学」が手に取るようにわかるはずであります。たとえ社外監査役に諸々の情報が直接的に入らなくても、周囲の環境の変化から、ただ事では済まない事情を察知することは十分可能であります。もし4年間沈黙されていたのに、今回黙っておれない状況になった、ということを経営陣側にとって有利に推測するためには、なにか別件の事情によって経営陣と大森監査役が対立することになった、という経緯が必要になってくるのではないでしょうか。もし、そういった事情もないということであれば、当該監査役が真摯な気持ちで監査役としての職責をまっとうしようとされた、との推測がこの「4年間の沈黙」の事実によって浮上するようにも思われます。

ふたつめは、本来経営者トップとの利害関係が一致するのが通常である顧問弁護士の方が、会社側にとって極めて不利な(不都合な?)事実と証拠を握っておられたようでありまして、この顧問弁護士の方のレポート内容と、会社側設立に係る社外評価委員会によるレポート内容とが食い違っている、とのことであります。あくまでも一般論ではありますが、顧問弁護士は、独立社外調査委員とは異なり、クライアントである顧問企業を守る立場にあるのが通常ですから、その顧問弁護士があえて顧問企業にとって極めて不利な内容のレポートを「公表」したことは、そのレポート内容の信ぴょう性が高いことを示していると推測するのが自然であります。したがいまして、監査役としては、この「信憑性が高いレポート」と、外部委員会のレポートとで、その内容に大きな食い違いが生じた場合には、どちらの事実が正しいものなのか、調査することはむしろ自然ではないかと思われます。この顧問弁護士の方の把握されている内容とその証拠に関する大森氏の証言が、かなり具体的でありまして、これがインタビュー記事の内容を鬼気迫る雰囲気にしております。(内容はここでは申し上げませんが)

そして三つめは、大森氏の独自調査に対して、経営陣が調査の続行を承諾をしなかった、という点であります。(ここは会社側は異なる見解です。会社側としては大森監査役の調査を妨害をしたことは一切ない、と反論されています)ここで問題は、(かりに大森監査役の言われるところが事実だとするならば)なぜ経営トップには監査役の調査を拒否する権限があるのだろうか?という点であります。これは(どちらに味方する、ということではなく)素直に疑問を感じます。会社法381条1項では「監査役は取締役の職務の執行を監査する」と規定されており、同条2項では「監査役は、いつでも会社の業務、および財産の状況を調査することができる」と規定されているのでありまして、同976条4号では「会社が正当な理由なく、これらの調査を妨げたときは、その取締役等に罰則の制裁が科せられる」ことになっております。つまり正当な理由がないかぎり(監査役による権限濫用にあたらない限り)、監査役の業務・財産調査権は何らの制限なく行使されるものであって、顧問弁護士との面談を妨害するような行為があったとすると、それは制裁の対象になってしまうかもしれません。(もちろん、当該企業の顧問弁護士と面談することが、はたして監査役の調査権限の範囲内にあたるかどうか、といった問題はありそうですが。)だからこそ、会社側としては、大森氏の調査をなんら妨害するようなことはなかった、あくまでも顧問弁護士自身から面談を断ってきたのだ・・・といった説明になるのでしょうね。(ただし、他にも取締役がどうして監査役からの事業説明への協力を拒絶できるのか、という問題もありそうです)

大森氏は今回の社外監査役の乱によるも、辞任することなくいまも監査役として執務しており、全国の監査役に対して「名ばかり監査役に甘んじてはいけない」とのメッセージを送り続けておられます。このたびのインタビュー記事においては、他の4名の監査役の方々はどのように思っておられるのか、といった点も気になるところではあります。今回の件につきましては、監査役の立場からみて賛否両論があると思いますが、いずれにしましても、先日ご紹介したニチロ社の元監査役の方の対応なども含め、ぜひとも監査役の方々にお読みいただき、いろんなご意見をうかがってみたいものであります。

9月 17, 2008 監査役の理想と現実 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/42500007

この記事へのトラックバック一覧です: 「名ばかり監査役」に衝撃の一喝(荏原・社外監査役):

コメント

山口先生
ちょっとお邪魔します。日経ビジネスの記事は、私も読みごたえ十分と思いましたが、さすがに先生、素早く取り上げておられ、敬服です。

個別事案について、ではなく、あくまで一般論という前提でちょっと問題提起をさせていただきます。

こういうとき、監査役と会計監査人の連携がうまく働かないものか、と思いますね。監査役が不正に関する問題を指摘している中で、財務監査に関して、会計監査人の側の注意義務にも当然影響があってしかるべきではないかな、と漠然と考えております。そしてその先に、動かぬ監査役・監査委員会があれば、金融庁へ、と193条の3が睨みを利かしているわけですから、「ゆるゆる」はもう立ち行かなくなっていくのかな、と思っております。

ところで、株主がどうしてああいう計算書類を承認したのか、理解できないという意見をある研究会で耳にしました。この方は合理的に思考される優秀な方なので、意見そのものには傾聴に値するのが常なのですが、株主必ずしも万能ならず、と思っておりますし、むしろ株主としては自らの責任を追及されるおそれがないような状態ですから、あえて総会で否決するようなインセンティブがあったのだろうか、と私などは斜めからみてしまいます。「善」を追及したり不正を暴くことと、個別の株主の私的な利益とは整合しないこともある、ということを示す例かな、と。また、事案によっては(あくまで一般論ですが)役員側で多数の意見があるとどうしても孤軍奮闘する側は弱く見えてしまうこともあるのはないかな、とも思います。もちろん知っていながら言論封じに回ることがあれば、役員の側の善管注意義務違反という問題になるわけですが、こういう場合の損害の立証が明確にできるようになっていないと、強弁する人間が幅を利かせてしまいます。そこら辺に実務法曹の知恵が生かせれば、少しは日本のコーポレートガバナンスも質的に向上するのかな、と考えたりもします。

前後してしまいますが、計算書類が否決されると配当がすぐにもらえなくなる、というような状況で、あえて株主は計算書類の不承認の議決権行使をするのだろうか、と考えてみることもあってよさそうです。そういう事態をも、起こりうる選択肢の一つとして想定しておく必要はあると思います。さもないと、法が、まさに画に描いた餅になってしまうのではないか、と。人間の欲や打算も踏まえて、法は、あくまで実学として機能すべきものと考えたいところです。

この業界に長いと、もしかすると想定する範囲が世間からズレてしまうのかもしれませんが、事実は小説よりなんとやら、とつくづく実感する今日この頃です。

久し振りなので、ちょっと長くなってしまい失礼しました。

投稿: 辰のお年ご | 2008年9月17日 (水) 02時38分

山口先生

日経ビジネスを購入し、確認いたしました。

書かれていることが本当だとして、不思議なことだらけです。
・何故、問題とされた総会なのに大森氏が発言した内容が、マスコミ
 で 詳細に出なかったのでしょうか。会社からの何らかの圧力?
 (広告掲載etc)
 それとも私が見落とした・・・?
・大森氏の発言は会社にとっては問題があるのですから、会社に対し
 事実でないなら名誉を傷つけたわけですから、何らかのアクション
 を 会社はとるべきではないでしょうか。
 これからとるのかも知れませんが、ちょっと怪しいですね。
・このような事実があるとしたら大問題ですので、大森氏も提訴を
 辞さないといっているのですから、なぜ妨害があった時点で提訴
 しないのでしょうか。
・問題の顧問弁護士は何故沈黙しているのでしょうか。法曹にかかわる
 人はそれなりの正義があると庶民は思ってしまうのですが・・・
 問題があっても、いわなくてもいい、または言えないのでしょうか。
・総会の株主の多くが会社関係者であることで、総会ではすんなり決議
 があったようですが、そういう風土であるので日本では本当の株主、
 経営者は育たないのですね。
 会社関係者以外の株主は問題にしないのは何故??
 こうしたことを考えると、上場をする資格がない企業が日本では多い
 のではないでしょうか。
・監査役についても、他の監査役について先生は触れられていますが、
 そのとおりですね。
 監査役についても、監査役協会に登録した人しか監査役になれず、
 基本的に企業で選任できないようにすると面白かもしれませんね。

以上素人のたわごとでした。

投稿: ご苦労さん | 2008年9月17日 (水) 15時38分

辰のお年ごさん、御苦労さん様、ご丁寧なコメント、ありがとうございます。お二人とも、早速「敗軍の将」読まれたのですね。辰のお年ごさんが指摘されている「株主の現実論」、この大森氏のインタビュー記事のなかでも表現されていますよね。(エントリーのなかでは紹介できませんでしたが)まァ、株主総会の出席株主というと、これが現実なのでしょうね。
あと、会計監査人の件については、あまり意識せずに書いておりましたが、なるほど、193条の3との関係では同感です。他の監査役との関係だけでなく、会計監査人との関係でもどうだったんでしょうか、そのあたりも言われてみれば気になるところです。

御苦労さん様のご意見ですが、こういった現実論を踏まえまして、監査役制度の改正に関する私論を持っておりますので、また別エントリーで書かせていただく予定です。おそらく一笑に付されると思いますが。。。

投稿: toshi | 2008年9月18日 (木) 01時49分

コメントを書く