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2008年9月10日 (水)

食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その2)

金融庁開示課の皆様方は、日本公認会計士協会における「内部統制監査セミナー」において会計士の方々にどのようなご講演をされたのでしょうか?いままでどおりの金融庁のご見解だったのか、それとも何か新たな指針(らしきもの)が提言されたのでしょうか?(興味津津・・・笑)

さて、7月11日の食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その1)の続編であります。(自ら会社責任者として、農水省による(JAS法違反)調査に3日間立ち会ったAさんのお話の続きであります。)食品偽装で大きく新聞報道された今、食品偽装問題について現在Aさんはどういった感想を抱いているのか、お聞きしました。Aさん曰く、

④自主公表について

会社への帰属意識が低下し、かつてはタブーだった「内部告発」に対する抵抗がなくなりつつある今、偽装はいつかバレルと考えるべきです。また、消費者からの通報も盛んです。(かつての消費者通報は、企業に対し賠償金目当てで行なわれるものでしたが。)また、上場企業の場合はもちろんですが、非上場の場合でも報道された場合の痛手は相当なものがあります(経験者ですから...)当社の場合は、会社が認識せずしかも担当者に悪意がなかったと当局から言われましたが、そんな事は一切報道されません。プレスは定型書式ですし報道後はかなりの痛手を被ります。

よって、これまでバレなかった企業は、単にラッキーだっただけであること。それと先に述べましたように調査が終わると今は必ず警察に通報されますので、自ら公表した方が軽くすみます。

「信義」とか「コンプライアンスの問題」とかは、これまで黙っていた企業には通用しませんが、バレる確率が非常に高いこと&バレたら必ず刑事事件になることを踏まえさっさと公表しないとあとで大変な事になる!のですが、多分依然として黙っている企業には通用しないでしょうね。

Aさんは警告を発しつつも、少しあきらめムードでありますが、最近の三笠フーズ社の事故米(汚染米)騒動につき、農水省は2度にわたる告発があったにもかかわらず、なかなか事故米目的外使用の事実をつかむことができなかったと報道されているようです。何十回と調査が行われたにもかかわらず、目的外使用の事実が発覚しなかった、ということはもはや完全にナメられていたのでは?たしかに最近の事件をみておりまして、食品偽装事件につきましては、告発があったとしても偽装発覚を免れるチャンスもあるように思いますし、「偽装は必ずバレる・・・」とは一概には言えないようでもあります。ということは、やはり商品の偽装は競争に打ち勝つために「やり得」であり、発覚した業者は単に「運が悪かった」といったことなのでしょうか?

1 立ち入り調査の「抜き打ち」化は奏功するか?

今朝の読売新聞ニュースによりますと、このたびの三笠フーズ社の件で、農水省の調査が何度も空振りに終わったことを反省して、今後の「抜き打ち」検査が検討されている、とのことであります。しかしながら、当ブログでAさんが証言されているように、Aさんの会社には、調査員が会社到着の10分前に電話をかけてきた、とのことでした。つまり、任意調査の方法として、会社到着10分前に調査への協力要請があった、というのは、ほとんど抜き打ち検査と言っても過言ではないと思いますし、これが任意調査の限界ではないでしょうか。農水省の調査に強制処分が検討されることはないと思いますので、これ以上の対応を検討されても、あまり実効性が高まるようには思えませんが、いかがなものでしょう。

2 偽装業者の「自主申告」のインセンティブを考える

以下の事実は、(事案を特定されないように若干修正したうえで記述することで)関係者の皆様にご迷惑をおかけしないよう十分に配慮をして語りますが、実は、このAさんの会社が農水省から調査を受けていたときに、別のB社についても、ある行政機関から調査を受けておりました。このB社こそ、すでに2年以上もの間、某行政機関の調査のターゲットになっており、担当職員も「ハラワタが煮えくり返るほど」にしっぽをつかませない業者でありました。そのB社がある日突然、某取締法違反事件によって行政処分を受けることになりました。なぜ、正式な行政処分を受けることになったかと言いますと、なんとB社は偽装の事実を自主申告してきたからであります。度重なる調査をかいくぐって商品偽装の事実を隠ぺいしてきたB社でありますが、何故「自主申告」してきたか、皆様想像つきますでしょうか?ひょっとして経営者のコンプライアンス意識の高揚によるものでしょうか?それとも関係官庁の調査に「もはや逃れられない」と観念してのことでしょうか?それとも、もしかして「行政と手打ちがあった?」

実は別の理由からであります。(これはAさんから聞いたものではなく、B社に近い関係者からの情報であります。あまりツッこんで詮索しないでくださいね。)つまり反社会的勢力からの裏取引の強要であります。 (これは私が最近相談を受けておりましたC社の場合もほぼ同様の展開をみせておりました。)私自身も内部通報の外部窓口をしておりますが、内部告発は弁護士事務所やマスコミ、行政機関や国民生活センターだけではなく、いわゆる「裏社会窓口」にも届くことがありますよね。つまり、最近はずいぶんと「偽装問題が金になる」といった情報が裏社会でも出回っているそうであります。おそらくB社やC社の場合にも、かなり長期間にわたって「あそこの商品は産地偽装や品質偽装している」といったうわさが流れておりましたので、そういったうわさを裏付ける証拠を反社会的勢力に握られてしまって、裏取引が要求される。そして、やむにやまれず自主申告に至る、というパターンになってしまうようであります。経営者が「不正競争防止法違反で警察に捕まるほうがまだまし」と考えて、自主申告すればまだいいとしましても、ここでも経営者が「裏取引」を選択したり、支店レベルで偽装が行われ、その隠ぺいを支店責任者が裏取引で処理していたとなりますと、当然のことながら(会社が反社会勢力と癒着するといった)「二次不祥事」に至るわけでして、企業の存続にかかわる問題に発展する事態となります。

おそらく現時点でも、商品の偽装を継続している企業もたくさんあると推測いたしますが、偽装問題に対する消費者の意識が高くなればなるほど、また裏社会での「偽装問題」の取引価値も上がっているはずであります。数年前とは比べモノにならないほど、偽装は「見つかったら運が悪かった」では済まない時代になってきたと思われます。ずいぶんと生臭い話になってしまいましたが、「これも商品偽装事件の現実」としてご理解いただけましたら幸いです。

(追記)「関係者に迷惑をかけないように記述する」というのはかなりしんどい作業です。いろいろと問い合わせを受けましたが、内部通報に関連るお話は一切取材をお受けすることはできませんので、ご了承ねがいます。<m(__)m>

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コメント

■農水省は内部統制を勉強せよ
DMORIです。
三笠フーズ社の事故米事件では、ニセ米をつかまされた業者に零細規模の焼酎製造業者も多く、こうした小さな会社では製品の回収を余儀なくされることによって、即・経営危機になりかねません。
改めて、三笠フーズ社の所業に憤りを感じます。

告発情報を受けた農水省の役人は、何度も三笠フーズ社へ立ち入り検査をしたのに、不正を見抜けなかったというバカな結果になっています。
本日の読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20080115-899579/news/20080909-OYT1T00882.htm
によりますと、同社では事故米を保管していた第3倉庫の在庫が、帳簿上の在庫と違うことを隠すために、農水省の立ち入り検査の情報が入ると、別の倉庫に事故米を移動させて、バレないようにしていたとの従業員の証言が報道されています。

しかし、この程度はSOX法が要求している内部統制監査の基本手法をとれば、簡単に分かることです。
つまり事故米の売却先である、工業用のり製造業者を実際に訪問して、三笠フーズ社の売却帳簿に計上されているとおりに、のり製造業者側にも入荷記録があるかを検査すれば、すぐに分かったはずです。

企業の不正会計で、債務超過を隠ぺいするありふれた手口として、存在しない顧客に売掛金を計上して、黒字会計を作ることがありますが、売掛先の業者が本当に存在するのか、または存在する売掛先でも買掛金の計上が本当にあるのかを調査すれば、簡単に判明することです。
SOX法では、そうした監査をすることによって、不正を見抜くことを要求しています。

農水省などの役人は、SOX法は上場企業のためのもので、自分らには関係ないと思っているのでしょうが、三笠フーズ社のような不正を見抜くためにも、J-SOX実施基準をよく勉強させてはどうでしょうか。

投稿: DMORI | 2008年9月10日 (水) 15時40分

こんばんは。偽装問題は数あれど、汚染米事件はまだまだ底がみえず、巻き込まれた酒造メーカーや販売店が気の毒でしかたありません。
今回の記事も興味深く読ませていただきました、行間も想像しつつ、大変勉強になります。
裏社会との接点というのはそんな場合にも生じうるのですね。今まで思い至りませんでした。

ちょっと論点がずれますが、メディアによる食品偽装事件の取り上げ方を見ていて、大変気になることが1点あります。
それは、食品偽装問題→農水省(行政)はなにをやってんだ! という論調です。
ちまたの消費期限改ざんや産地の偽りが、あまねく行政の網にかかるようでは、この国の自由は無いも同然です。また、行政にはその非効率ゆえに必要以上のコストがかかること、そしてそれが「国民負担」であることが、案外軽視されている。
やってはいけない行為は法律(原則刑法)で禁止し罰則を設ける。取り締まりは専門の警察・検察がやる。損害には民事法があるし、保険制度の市場やスキマを埋めるビジネス市場もある。これらを機能させて秩序が維持されるのが原則のはずです。行政の手が要るのは「例外」であって、まるで「原則」かのように「行政が...」と言うことには常に慎重であるべきと私は考えています。
行政の怠慢を声高に叫ぶことは、役人を指弾するようでいて、逆に役人の思う壺だということも忘れてなりません。正当な理由で仕事が増える、コストが増える、その反射として利権が増える。天下り先も増える。
「裏社会との接点」の話ではないですが民間(市場)というのは思いのほかクリエイティブで賢い結果を出すものです(白/黒ありますが)。
偽装が蔓延している→ならば・・・・・ といったように社会問題を逆手にとった健全なビジネスが生まれることも十分に考えられます。
行政先行の発想では、このような民間活力も最初から削いでしまう...
「効率的なサンプリング調査+公表」で十分じゃないかと思うております。

止まらなくなってきたんでこのへんで。

内部統制の手法を行政に、というDMORIさんのコメントにはハッとしました。ただ、「転売事例」をJ-SOXで防げたかどうかは若干疑問です。「のり業者帳簿」は隠蔽がずさんだったか、別の目的で作らざるを得なかった可能性もあります。米の仕入/販売に関する会計上の問題は発見できたとしても、転売行為が違法かどうかは「法令遵守」の問題であって、システマティックな意味での内部統制では原則発見できないのではないでしょうか。J-SOXでは個々の取引行為の実体法上の違法性まではカバーできませんよね?
しかしこの際、調査手法にとどまらず、本体省庁の業務執行にも内部統制の仕組みを応用すべきだと真剣に思います。

投稿: JFK | 2008年9月11日 (木) 02時34分

■農水省は内部統制を勉強せよ(2)
DMORIです。

三笠フーズ社の事故米は、佐賀県唐津市の仲介業者が帳簿上だけの取引を行って、さらに転売していたことが報道されています。

東京地検特捜部など犯罪捜査が専門の人たちは、モノやカネの流れの中にトンネル会社がないかをよく調べます。取引を仲介している会社がある場合には、不正が介在する可能性が大きいことを知っているのです。
金融庁の内部統制実施基準にも、経営者は不正に関するリスクを検討する際に、不正を犯す人間の動機、原因、背景等を踏まえて、適切にリスクを評価し、対応することが重要と述べています。

こうした内部統制の観点でも、今回の三笠フーズのように、帳簿上だけの仲介業者が存在している場合、担当官はさらに怪しいという疑いを強くして、コメの最終的な行き先をしっかり調べれば、不正な転売をしていることが分かったはずです。

JFKさんご指摘のように、ただ内部統制の基準どおりシステマチックにモニタリングするのでは、今回の不正を見抜くことは難しかったでしょう。不正を犯す人間はどのように企むか、という視点が分かって監査をする必要があります。したがって、内部統制をチェックする社内担当者は、業務のウラをよく知っている“海千山千”の年配者を当てるのが、内部統制のコツです。
私の会社でも、そのようなベテラン社員に入ってもらっています。

それから、今度は愛知県の業者2社も、事故米の不正転売をしていたことが報道されました。
この2社は、接着剤製造と肥料製造の企業だといいます。こういう業態の企業が転売する米が、食用のはずがないことは、買う側も明らかに分かっているはずです。
買う側にも、コンプライアンスの感覚がまったくないのでしょうか。

食の安全問題では、中国は信用できないなどと言いますが、日本の企業も恥ずかしい限りです。

投稿: DMORI | 2008年9月11日 (木) 12時43分

dmoriさん、JFKさん、ご意見ありがとうございました。何人かの方に「これは作り話ではないか?」との問い合わせをいただきましたが、実名ブログですので(関係者への配慮のために一部修正はありますが)事案の大筋においては事実です。もちろん反社会的勢力による裏取引強要も事実であります。

しかしこの汚染米事件の広がりは予想外じゃないでしょうか。こういった事例をみると、「偽装する人」と「騙される人」との間に、「偽装をやりやすい環境を作っている人」が介在していることがわかりますね。もし本気で商品偽装問題に取り組むのであれば、この「環境を作っている人」とはどういった人たちなのかを忌憚のない意見交換によって特定していく必要があると思います。(これは私も取材を受けた大手新聞社の方にも申し上げています)また、その商品を偽装しやすい環境を改善するのが、もっとも効果的(消費者の安全という面からも、また企業のリーガルリスクを低減するという面からも)だと認識しておりますが、いかがでしょうか。

偽装はなくならない、という出発点をはっきりさせておいたほうがいいと思うのですが。(けっして企業倫理の問題として論じることが間違いとは申しませんが)

投稿: toshi | 2008年9月13日 (土) 14時20分

連日あらたな事実が報道されるこの事件、結局末端の消費者まで薄く広く流通していたのですね。私もどこかで一粒くらいは食べたかもと思うと、当初客観的に見ていたこの事件に変な親近感?というか現実感をおぼえます。

ところで、直近の報道は「業者と農水省のなれあい」を叩いているようです。立会い検査が事前連絡のうえ行われていたとかを意味ありげに取り上げるものもありました。この事件に関してはNHKまでもが農水省の責任ばかり取り上げている(ように私には見えます)。これでは多くの人が問題の本質を取り違えてしまうと危惧します。
私に言わせれば、そんなことは問題の一面にすぎない。そもそも全国総行政犯罪企業状態の中で抜き打ち検査を乱発されたら企業はたまったもんではない(農水省は抜き打ち化すると回答しているらしいが...)。行政のみに依存しない法全体の仕組み見直しが課題であり、無責任な世論に引っ張られて安易に行政コスト増加に繋がる施策をとるべきではないと思う。

癒着、なれあいは確かに問題だが、それはそれ。少なくとも、事故米を流通に置く制度に必要性・合理性がないなら、これを作った者の責任は問われるべきである。責任者を適切に処分すればよい。
悪徳企業の行為は裁かれればよい。適切に裁かれないならば法制改良の問題。
農水省は、食品の安全を保つための最も効率的なチェック方法は何か、そしてそれを流通の仕組み(市場)に組み込むことを『考えてくれるだけでいい』。

一面的な報道に辟易とする気持ちから、先生の続編記事をまたずコメントしてしまいました。

投稿: JFK | 2008年9月19日 (金) 02時19分

JFKさん、コメントありがとうございました。このたびのご意見は、なかなか考えさせられるところがあります。このあたりは、農水トップの二人が辞任すれば、あまり過激な動きにはならないのでは?といった考え方もあるのかもしれません。たしかに、農水省による調査権限を強化する方向での偽装防止には無理がありそうな気もします。ただ、だからといって民間の自主努力(具体的には検査体制の構築でしょうか)にゆだねるというのも、大手はいいとしても中小の業者には到底困難であります。
そもそも「流通先を公表する」ことについても、人的被害が発生してから公表したとすれば「なぜもっと早く公表しなかったのか」といった非難が出るでしょうし、とても難しい問題を含んでいると思います。
このたびの汚染米事件は、消費者保護を最優先で考えるとしても、その具体的な再発防止策を検討することは非常に困難ですね。また続編を書きたいと思います。

投稿: toshi | 2008年9月20日 (土) 02時21分

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