« 食品偽装事件にみる企業コンプライアンスとは?(その2) | トップページ | スティールP、ノーリツ社に買収提案(速報版) »

2008年9月11日 (木)

土地区画整理事業における事業計画の「処分性」と最高裁大法廷判決

(11日午後 追記あり)

(本日はビジネス法務に関連する話題ではございません)いよいよ9月11日は新司法試験の合格発表の日ですね。私もロースクールの教員(もちろん非常勤ですが)の一人として、在籍している大学院の合格率が(ちょっとだけ)気になるところであります。昨年は京大が60%、神戸大が50%を超える合格率でしたが(注;「通りすがりの関西人」さんから誤りをご指摘いただきましたので修正しました)、今年はこの2校に肉薄できる法科大学院が台頭してくるのか、非常に楽しみであります。せめて阪大も同志社も40%を超える合格率に到達していただきたいです(←かなり弱気)

さて、司法試験に合格した人も、残念だった人も、法律家を目指すのであればぜひお読みいただきたいのが、本日(9月10日)の土地区画整理事業の事業計画に「処分性」を認めた最高裁大法廷判決であります。(すでに最高裁HPより判決全文がご覧になれます。そういえば横尾和子判事は今日で退任されるんですよね)昭和41年の最高裁判決を実に42年ぶりに変更するということで、おそらく11日の新聞各紙でもいろいろと解説記事が出ていると思いますが、解説記事を読んでもあまりおもしろくないですよ。おもしろいのは、この最高裁判決全文に、多数意見や意見、補足意見など、各裁判官それぞれの判断理由が記載されておりまして、この意見の違いが実におもしろいです。(なお、反対意見はありません)とりわけ、多数意見に対して涌井裁判官(裁判所出身)が「結論は同調するが、判断理由はちょっと違うのではないか」と異論を述べ、藤田裁判官(行政法の学者出身)が涌井意見にまた異論を述べて多数説を補強する。関連事件の先例との整合性を特に重視される泉裁判官や、本事件の解決とは直接関係ないけれども、本事件の社会に与える影響への配慮を怠らない近藤裁判官の意見など、実に多彩であり、またいずれも「美しい」判決です。最近の司法試験は行政法も必須科目と聞いておりますし、「行政計画と抗告訴訟」なる論点は、みなさまご承知かもしれませんが、ただ単に結論を暗記するのではなく、こういった最高裁判事さんの判断過程を学ぶことはリーガルマインドの涵養にはとても役に立つと思いますよ。

ちなみに前期の会社法ゼミにおいて、昭和46年の最高裁大法廷判決の事例(旧商法265条の利益相反取引の第三者効)を採りあげまして、少数意見まで含めてきっちりと熟読玩味して、少数意見を述べた裁判官のバランス感覚は「本当におかしいのか?どっかできちんとバランスを保っているのではないか?」など、ゼミ生と議論を交わした経験がありますが、あまり好評ではありませんでした(^^;;皆さんそんなにヒマではなかったみたいで・・・

4年前に行政事件訴訟法が改正されたこともありまして、いろいろと意見が分かれるところでありますが、法的拘束力のある行政計画への司法の介入という観点からみれば、たとえ「処分性」を認めたとしましても、実質審理のなかでどこまで行政の裁量を認めるか、事業計画決定までの行政手続(審議会方式など)にどこまで民意が反映されていると考えるか等につき、また別の論点がありますので、「どの裁判官がリベラルか?」といった予測は、この判決内容だけでは判断が難しいところだと思います。私自身は(行政法の先生でもいらっしゃる)藤田宙靖裁判官の意見に同調するものでありますが、「この人はめちゃくちゃ頭いいなァ」と感嘆したのは近藤裁判官のご意見でした。(やっぱり行政法はおもしろいです。最近は風俗営業法なんかも立派な体系書、解説書が出版されておりますし、行政法専門弁護士がますます待望されるところです。私はそこまでヤレる気力も知力も体力もありませんが・・・・・)

(11日午後追記)

日経では社会面で小さくとりあげられていただけですが、読売では法律実務家や学者さんの意見を含め、かなり大きく報道されていました。新聞の論調は「この判決で行政計画への司法救済の道が広がる可能性がある」とされています。たしかに、上記涌井裁判官の意見が通るのであればそのようにも考えられますが、藤田裁判官はじめ多数意見は、あくまでも「法律上の争訟性」「紛争解決における事件性」にあくまでもこだわった考え方(つまり伝統的な裁判所観)に立脚していますので、準立法的な性格をもつ「行政計画」に対して、今後も司法救済の道が広がるかどうか、という点については私は懐疑的な意見であります。今回の土地区画整理事業についても、計画決定(および公示)の法的効力よりも、それに付随する(土地区画整理事業特有の)「換地処分」に焦点をあてて、「計画が決定されれば、換地処分が行われる蓋然性が高い」ということを理由として「争訟性あり」としているのでありまして、法的拘束力を有する行政計画一般への安易な拡張解釈はちょっと疑問が残るところではないでしょうか。(とりわけ、事件性なく司法が関与できるのは、機関訴訟や民衆訴訟など、別途行政事件訴訟法は定めているわけですから、この事件性に関する要件はあいまいにはできないと思われます。結局、これからも「事件性」については代理人弁護士がどのように事件性を裁判官に説得的に主張できるか、にかかってくるのではないかと思います。また、行政事件訴訟法4条の「確認訴訟」が活用されることも検討されるべきではないかと思いますが。)さらに、行政計画への司法救済の道を開くことは、一面において、後で訴訟によって救済されるべきではない、といった意思表示も含むことになりそうですし、行政計画手続きへの住民関与のシステムを補強するほうが住民の方々にとっては望ましいことではないでしょうか。(以上、思いつくままに記述いたしました)

9月 11, 2008 行政系 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/42438567

この記事へのトラックバック一覧です: 土地区画整理事業における事業計画の「処分性」と最高裁大法廷判決:

コメント

めちゃめちゃ細かい話で恐縮ですが、神戸大学の去年(ロー2年目)の合格率は、50.55%で、ぶっちぎってはなかったように思います。一昨年は、おっしゃるとおり、京大と神大が抜けてました。

阪大は、もうちょっと頑張ってもらいたいです(同志社は、未修者合格率で京大や神大を上回っている点で評価できます)。

投稿: 通りすがりの関西人 | 2008年9月11日 (木) 10時19分

通りすがりの関西人さん、ご指摘ありがとうございました。さっそく修正しました。法科大学院の統合問題なども騒がれていますので、どうしても合格率は話題になりますよね。未修者合格率については存じ上げませんでした。

投稿: toshi | 2008年9月11日 (木) 10時52分

藤田裁判官の意見は素人の頭にも滲みるようにわかりやすかったです。
何度も読み返してしまいました。

近藤裁判官の「公定力」についての部分は理論的説明でここもよく
判りました。

涌井裁判官の「3」の「また」以下の部分はなるほどと思いました。

結局、自分としてどの説がいいのか判断がつきませんでした。

今年の、行政書士の試験をはじめ、判例が変わったことから試験問題
にはならないのでしょうね。

投稿: ご苦労さん | 2008年9月11日 (木) 14時18分

>ご苦労さん様

コメントありがとうございます。ホンネで言えば、私も土地区画整理事業に関する「立法事実」を詳しく承知しているわけではございませんので、どの説がもっともバランスがいいのかは判断できていない状態です。判決文を読んで、一番しっくりと頭に入るのが藤田裁判官の説明だった、という程度です。
本エントリーで法科大学院の先生からメールをいただきましたが、こういった判例をきちんとロースクールで教えることは大いに意義があるとのご意見を頂戴しましたんで、アップした甲斐がありました。(もちろん、解決方法の妥当性についてはまた著名な行政法の先生方の解説をお読みください)判例変更があると資格試験のヤマからははずれるのですか?暗記科目中心ということですと、そうかもしれませんね。でも、行政による準立法作用に司法がどう関与すべきか・・・という問題は、ぜひ法律に携わる方々にはご意見をうかがいたいですね。

投稿: toshi | 2008年9月13日 (土) 14時31分

行政書士試験は11月9日で今年の問題は既に出来上がっているかもしれないので、どの様な対応になるのか気になるところです。
問題も事例に対して、処分性があるかないか?といった程度なので判例が変更になると問われ方によっては、正解がなくなってしまったりします。
でも、行政書士試験に関しては処分性について問われたことは少ないですし、よくよくインターネットでニュースを検索してみると、2007年12月に大法廷で審理されることがニュースになっている様なので、出題する試験委員の先生方も今年に関して影響がないように考慮されているのではないかと思います。(個数問題で出題されていると悩ましいところですが。。。)

私自身は土地区画整理途上の保留地上のマンションを購入したのですが周辺開発も含めてなかりの大規模開発で入居後しばらくは換地処分がなされず、その間土地の登記簿がなく。融資してくれる金融機関が制約されて難儀しました。
工期が10年以上・土地の形状まで大幅変えてしまうものまで、土地区画整理事業で行なうこと自体が無理がある様な気がしました。

投稿: うめ | 2008年9月21日 (日) 02時33分

うめさん、はじめまして。(コメント、ありがとうございました)

私は行政書士試験の内容については全く存じ上げないのですが、「処分性」は司法試験科目の「行政法」では最も重要な論点のひとつですので、少し意外に感じました(弁護士と違って、行政書士さんは職責として、正しい行政手続きへの協力というものがあるんでしたっけ?基本的なところがわかっておらず、すいません・・・)
土地区画整理事業については、そういった事実上の制約が発生するんですね。ご教示ありがとうございました。

投稿: toshi | 2008年9月27日 (土) 11時43分

コメントを書く